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うじむし26 ヒーロー01

 目の前が激しい光に包まれて、意識がゆっくりと覚醒する。

 誰かに呼ばれたような気がして、赤井あかい 雄大ゆうだいは目を覚ました。


 周囲を見渡す。


 白を基調とした広い部屋。

 足元は肌触りがよくふかふかしたシーツのような物で覆われており、やはり白かった。

 自分達は巨大なベッドのようなものの上に倒れていたらしい。


 不思議な感覚だが、神聖さは感じない。

 どこか病院めいた無機質な印象だった。


 視界に映る光景、そのどれにも見覚えがない。


 ここは何処だ?

 自分はさっきまで何をしていた?

 服装が変わっている。

 自分がさっきまで着ていた服じゃない。

 何か、ローブのようなものだ。


 さっきまで……?

 頭がぼんやりして思い出せない。


 周りには雄大以外にも何人か居て、皆不安そうにキョロキョロと辺りを見回していた。

 彼らには見覚えがある。

 当然だ。

 皆、雄大の友達だった。


 そうだ、と彼は思い出す。


 高校最後の冬休み、自分達は何処か遠くへ旅行にでも行こうと計画し、取ったばかりの運転免許証をひけらかしてドライブにいったのだった。

 交代しながら一日中運転し、他県の有名な観光名所を巡っていたのだ。

 だが、カーブの多い山を下っている最中、激しい雷雨に襲われて……。


 襲われて……?

 そのあと自分達はどうなった?


 記憶がぼんやりして思い出せない。

 だが、僅かに感覚に残っている衝撃、悲鳴……。


 まさか、自分は……。


 力なく顔を上げると、皆同じような表情をしていた。

 恐らく雄大と同じ疑問を抱いたのだろう。

 だが、その姿が、少しおかしい。


 記憶にある友達の姿と今の姿が一ヶ所違う。

 髪だ。髪の毛が驚くほど鮮やかに、自然に染まっているのだ。


 雄大は確認するように友達の顔をぐるりと見回す。


 青、黄色、緑、金色、ピンク色まで……。

 一人だけ黒のままの奴がいたが、それも普通の黒ではなく、艶消しの深い深い黒だった。


「な、なぁ、どうなっているんだ……?」


 口を開いたのは、髪の毛が青く染まった、青山あおやま孝介こうすけだ。

 いつも冷静な彼が、落ち着かないように視線をさ迷わせている。


「分かるわけ無いよ……。僕たち、ドライブに行ったはずだよね?」


 答えたのは髪が黄色く染まった、黄瀬義人きせよしとだった。

 背が低く童顔な彼は、それをコンプレックスにしているが、コンプレックスに負けないほど元気だ。

 だが、流石に今は意気消沈しているように見える。


「ここは病院でしょうか……? それにしては、不思議な雰囲気ですけど……」


 こんな時でも動揺した様子を見せないのは緑川みどりかわ鈴音すずね

 腰までサラサラと伸びて綺麗だった彼女の黒髪は、今は緑色になってしまっていた。


「…………」


 終始無言なのは、唯一黒髪の黒岩くろいわ鉄雄てつおだ。

 彼は自分の疑問を自分だけで解決しようとする所がある。今もきっと一人黙考しているのだろう。


「事故って地元の病院か? 緑川の言う通り、それにしちゃあ、ちょっとおかしいよな」

「病院なら全員を一つのベッドに入れたりしないもんね」


 金髪の金谷かなや 春彦はるひこが言えば、同意、とピンクの髪の桃園ももぞの彩花あやかも頷いた。


「あぁ、それに気付いているよな?」


 雄大が聞けば、全員が頷く。


「「「何だ、この髪の毛?」」」


 ちなみに、彼は赤だった。



 雄大たちが理解できない自分達の状況に途方にくれていると、ぎぃ、とドアを軋ませて一人の男が部屋に入ってきた。


 一目で全員が気付いた。

 コイツは危ない奴だ、と。


 よれよれの白衣、しわとシミの浮いた顔、歯を剥き出しにしてニタニタ笑っているが、その歯は何本も欠けている。

 何より目がイッてしまっている。

 狂気、とでも言うのだろうか? 淀んで濁っているのに、爛々と光っているように力強い。


「ひゃっひゃっひゃっひゃっ! 実験は成功の様じゃの! 新たな目覚めはどうかな? 若人わこうどよ?」


 全員が怯み、嫌悪感をあらわにしていた。

 血の気の多い春彦など、あからさまに顔をしかめ、これ以上近づくなら暴力も辞さない様子だ。

 女性二人も怯えている。

 仕方がない、と雄大はベッドから降り、老人の前に立った。


「貴方はいったい誰です? その口振りなら、どうして俺達が此処にいるのか分かっているのですよね? 教えてもらえませんか、俺達に一体何が起こっているのか?」

「んん~……? 覚えておらんのか? お前達はな、死んどったのじゃよ」

「死ん…………ッ!?」


 さらりと告げられた言葉に、全員が絶句した。

 僅かながらも事故の記憶がある。

 雷雨に襲われ、崖から転落し……。


「で、ですが、今俺達は生きているじゃないですか!」

「あん? 生きとらんよ? だから行ったじゃろ、実験は成功じゃ、と」


 聞いとった? ととぼけた事を言いながら、老人は小指で耳をほじり始める。


「てめぇ、訳わかんねぇんだよッ! ちゃんと言えよコラァ!」

「待て! 相変わらず狂犬だな、君は!」

「…………落ち着け」


 春彦が我慢できずに飛び掛かるが、予期していた孝介と鉄雄が押さえ込む。

 春彦は悔しげに唸りながら、シーツに沈んでいた。


「私たちは既に死んでいるが、実験で仮初めに生きている……。そんな解釈でいいのかしら?」

「おぉ、そこの緑髪の別嬪は理解が早いのぉ。どうじゃ? 素晴らしいじゃろ? ひゃひゃひゃ!」

「仮初めに生きている、ということついて、詳しく教えて欲しいのですが……」


 再び狂った哄笑を響かせる老人に、既に疲れ始めている雄大が問いかける。


 死んだというなら、何故こうしているのか?

 この髪は何故染まっているのか?

 ここは何処か?

 貴方は誰なのか?


 ボケているのか狂気に捕らわれているのか、老人とは中々話が進まない。


「いい質問じゃッ! お前さん達もワシの研究に興味があるじゃろ? 自分達を復活させた研究じゃからの! 良かろう! 教えてしんぜよう!」


 と叫び、聞いたことがない単語を使い、意味不明の話をしたかと思うと、


「染めたんじゃないぞ? 染まったんじゃ! 勝手にな! まぁよくあることじゃろ? あん? 無いか? ひゃひゃひゃひゃ!」


 と笑い出す。


 雄大のペースに全く合わせるつもりのない勢いに、雄大の目がだんだんと死んだ魚のようになっていた。


「皆、駄目だ。この人の話は全く参考にならない。此処を出てマトモに話が出来る人を探そう」


 親友達はやつれた雄大の顔を見て、頷いた。


「おぉ? 何処に行くんじゃ? まだ話は終わっとらんぞ? お前が聞いたんじゃろがい」

「すみませんが、お爺さん、貴方の話は支離滅裂だ。俺達はもう少し話しやすい方を探します」

「あぁん? あれか、最近の若者はって奴か? 全く、仕方ないのぉ、詳しい説明は後にして、パパッと説明しちゃるわい。じゃから戻れ、今行ったところでその扉は開かんぞ?」

「……………………最初からそうしてくれよ…………」


 老人に振り回される雄大が更にやつれたような気がした。


 結局、鉄雄と春彦が扉を開けようと頑張ったが、鍵をされている様子もないのに扉はびくともしなかった。


 諦めてベッドに戻れば、どこから見つけてきたのか、黄瀬義人が皆にビスケットを配る。

 どうやら、この部屋の中を一通り見て回っていたらしい。

 ついでにティーポットなども見つけたらしいのだが、火を起こす方法が何もなく、断念したのだそうだ。


「今のお前らに食事は必要じゃないんじゃがの。まぁ良いわい。順を追って話そう。ワシも少し落ち着いたしのぉ」


 そうしてくれ、と切実な願いを込めて雄大は頷いた。


「まずな、お前らは王都の外れに倒れておった、それを警備隊が拾ったんじゃが……」

「すまない、ちょっと待って欲しい」

「いきなりなんじゃい! まだ何も喋っとらんじゃろがい!」

「いや、王都? 警備隊? ここは日本じゃないのか?」

「あぁ、まずはそこからかい。そうじゃよ、ここは日本じゃあないのぉ」

「じゃあ何処なんだ! 王都ってことは王政なんだよな? 外国で王政の国って言ったら……」

「落ち着け若人よ。冷静になって聞くんじゃよ?」


 老人は無精髭がちょぼちょぼと生えた顎を撫ですさり、ふぅ、と息を吐いた。


「まず言っておく。ワシは日本人じゃ。名前は蒔島まきしま けん。ドクターマキシマと呼ぶがよい」

「えぇ、分かりました。その蒔島さんがどうして――――」

「まぁ聞け。先ず聞け。黙って聞け。なんかもうメンドイからスパっと言うがの、ここ、地球じゃないんじゃよ」


 蒔島の言葉に、彼らは再び絶句するのだった。



ルビのミス修正しました。

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