うじむし20
私もそろそろ、本格的に狩りをしなければならないと思う。
『突然どうしたのですか?』
止めてくれるなシステムさん。
もう私が魔術大全を読みながら食っちゃ寝する時期は終わったのだ。
これからは激動の時代。
私自ら出向かねばなるまい。
『何を気にされているのか不明瞭ですが……』
魔法とか、スキルとか、試さなけりゃいけないし、ポイントだってやっぱり稼ぎたいし、灰色肉にも飽きたし、うん、そうだよ、やっぱり自分で動いていかないと!
『お腹についた肉は、成長の為です。太った訳ではありませんよ?』
グッハァッ!
システムさん の やさしさがいたい !
瑠璃 に 100ポイント の ダメージ! こうかは バツグン だ!
うぐぐ、おのれ、システムさん……。
私が目を逸らしつつ改善しようと画策していたのに、まさか正面切って突っ込んでくるとは……。
『いえ、ですから、成長の為の肉ですよ。貴女の心は大人に近いですが、体は紛れもなく幼虫なのですから』
むぅ……。
成長期に縦に伸びるから、今は横に付いていてもセーフだと、君はそう言いたいのかね?
『その通りでございます』
おぅ、その言葉のルビが見えるようだ。
だけど甘い、甘すぎるよシステムさん。練乳のように甘いよ。
縦にゆく 油断の結果が そのニキビ
瑠璃、心の俳句
『それは川柳では……』
でも今はそんな事はどうでもいいんだ。重要なことじゃない。
私が言いたいのは、動いていないとお肉が増える。成長の為だと思ってたら何か生える、そういうことなの。
だから私はここから動きたい。
もうね、飛び出していきたいんだ!
『なるほど、分かりました。つまり、暇なのですね?』
うん。
暇。
だってさぁ、もう二日もじっとしてるんだもん!
灰色肉から経験値が取れなくなって、新しい食事が必要だから、獲物を狩ろう。
ここまでは良かった筈なんだ!
しかし、いざ狩りをしようと思っても、私はウジムシなのよ。
ストレンジマゴットとやらに進化した今、サイズは一番最初の小指の爪の先みたいなサイズから、人差し指くらいの大きさにはなったけど、小さいことには変わりがないのよね。
ウジムシは通常、一つの餌場の上で子供時代から大人になるまでを過ごしているはずの生物なのです。
私みたいにエンジョイ&エキサイティングしている方が稀有でしょう。
獲物を発見するのにも追いかけるのにも適しておらず、罠を仕掛ける器官も持ってない。
しかも、移動することを想定している体じゃない為か、地面を這って動くのが超辛い。
ネズミさんから落ちたとき、私よく這い上がれたよなぁ……。
などと少し遠い目をしてみたり。
そんな私が獲物を狩るために出来ることと言えば、待ち伏せスナイパー。これしかないじゃない。
だから待ったよ。
ひたすた待ったよ。
二日間、ジーッと、何か通らないかなぁ、食べれるもの来ないかぁ、と待ったんだよ。
何も来ぬぇえええええええええッ!
食べ物はね、何故か腐らない灰色肉があるから良いんだ!
もはや味にも慣れたし、感触も我慢できる。無心で食べられるよ!
だけど、森の中でこんなにも他の生き物が通らないものなの?
ファンタジーに有りがちのゴブリンは!? スライムは!? ウルフ系やスパイダー系の魔物は何処に行ったの!? 森の中と言えばウルフ系だろうがッ!
システムさんに聞いても、森にどんなのが棲んでいるかまでは教えてくれないし、というか、知らないみたいだし。
『申し訳ありません。私も全ての情報の開示を許されている訳ではないのです』
うん、ごめん。システムさんは悪くないよ。
ちょっと私が焦って八つ当たり気味に言っちゃっただけなんだ。
本当にまさかここまで何も生き物の気配が無いなんて思わなかったよ。
この世界に来て、私が見た生き物は同種か肉食系昆虫だけだからね。
森の中だって言うのに気味が悪いほど静か。
鳥の鳴き声さえしないんだもんなぁ。
『それは、ここに限定神化の残骸があるからでしょうね』
へ? 何それ聞いてない。
この灰色肉には虫除け効果もあるの?
『この世にあり得べからず物で作られていますから、恐れて近付かないのでしょう』
……つまり、ここで獲物を待ち伏せするのは……。
『残骸がある以上、ほぼ無意味かと』
チックショーッ!!
早く言ってよシステムさん! いや、私が質問しないといけなかったのか!
何故システムさんに「ここで獲物を待ち伏せしようと思うんだけど、どう思う?」って聞かなかったんだ二日前の私!
バッキャローゥッ!
あー、もうやる気失った。
いいやもう、灰色肉食いきるまで食っちゃ寝してよ、それいいわ。
贅肉? HAHAHA! 面白いこと言うね、こちとら、まだまだ赤ん坊だよ? 成長の為の肉ですよ。
ケッ。