うじむし16 しでむし04
「あ"、あ、あ、あ"ぁ"ああああああああッ!!」
聞くに耐えない絶叫が響く。
まるで、魂の奥底から怒りを迸らせるかのような、感情そのものに力が込められた叫びだった。
まずい!!
直感的にそう感じ、ネズミからいち早く距離を取る。
離れても離れても、命が脅かされているという危機感が消えない。
そうだ、『穴掘り』だ!
俺は一心不乱に地面に向けて足を動かし、穴を掘った。
スキルの補正が働いているのか、穴はまるで豆腐を崩すように簡単に掘れていく。
それでも遅い、足りないと感じてしまう。
くそ、俺たちはいったい何に触れてしまったんだ?
まさか、あのウジムシがボスクラスのモンスターだっとでも言うのか?
そんな馬鹿な、理不尽だ、そんなの予想できるわけがない!
仲間たちの気配がない。
俺はネズミの後ろ側に飛び降りたけど、皆はどちらかと言えば前面にいたからな、俺の方向には誰も来なかったのか。
一人分しか穴を掘れないから、それで良かったけど。
「――――――」
女の声で、何か呟いたのが聞こえた。
何だ? 次は何が起こるんだ?
そう思った次の瞬間、全てが白く染まった。
俺は穴の中にいたから、そこから見上げていた景色しか分からない。
だが、そこから見えていたものは、真っ白に凍り付いた世界だった。
まさか、魔法か?
ここが異世界なら、あり得る。
だが、一瞬で辺りを凍りつかせる魔法なんて……、一匹のウジムシが使える魔法なのか?
おそるおそる穴から顔を出し、外の様子を窺う。
あまりの寒さに、それだけで体力が削られていく。
でも、俺は見なくてはいけなかった。探さなくてはいけなかった。この世界での俺の仲間を、家族を。
「あは、はは、はははあはあはははは!」
そこで見えたものは、灰色の人の形をした肉塊が、狂ったような笑い声をあげながら何かを踏み潰している所だった。
理解した。
理解してしまった。
あぁ、あれは、俺の家族だ。俺の仲間だ。
みんなみんな、死んだ。
氷付けにされて、踏み砕かれて。
弱肉強食。
自業自得。
そうだ、俺たちはただの昆虫で、決して強い存在なんかじゃなくて、いつか自分達より強いものに踏み潰されるか食われるかしか無かったのかもしれない。
たまたま、宝くじの一等に当たるような確率で、最悪の相手に挑んでしまったのかもしれない。
弱肉強食。
自業自得。
いつかは俺たちもこうやって殺される運命だったんだ。
抵抗できないウジムシたちを食い散らかしたのだから、次は俺たちでも、仕方がないのかもしれない。
でも、これはないだろう?
あんまりだろう?
ここまで一方的に、子供が虫の足を引き千切って遊ぶみたいに殺されるなんて、あんまりじゃないか。
理不尽に過ぎる。
もう少し、もう少しだけ抵抗できる余地があっても良かったじゃないか。
俺は、笑い声を上げながら仲間を踏み潰し続ける灰色の肉塊を睨み付ける。
奴の姿を瞼に、脳裏に焼き付ける。
見ていろ、理不尽の権化め、俺は帰ってくる。
力を付けて、進化をして、お前を殺すために帰ってくる。
俺は必ず強くなり、お前を笑いながら踏み潰してやる。
そしてその時、お前はこの日のことを思い出し、こ懺悔し、後悔するんだ。
気がついたら昆虫になっていた俺の人生。
どうすればいいのか分からなかったが、いま、目標が出来た。
復讐だ。