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うじむし134




 私はモニターに写るゴーバ=ディン族の様子を見ながら、満足ににやにやしていた。

 趣味が悪いと思われそうだけど、こうやって安全圏から実験めいてちょっかい出すのって面白いよね。弱い時期が長かった分、余計にね。

 今回の作戦は実に悪趣味。思い付いた奴の性格を疑うくらいイヤ~な内容になっています。

 発案は私じゃないかって? とんでもない、私は歴史の授業で習った作戦をそのまま再現してみただけよ。だから私は悪趣味じゃない筈。


『瑠璃様、CMの準備できました』

「オッケーシステムさん、じゃあ迷宮に流しましょうか」


 これを思い付いたのは、迷宮の壁っていいスペースじゃない? と気付いたから。

 いやぁ我ながらいい思い付きだったと自負しています。

 迷宮の長く続く壁ってさ、日本なら確実に宣伝用の広告が貼ってあったりCM用のテレビが埋め込まれたりしてると思うんだよね。壁が覆われていれば罠を隠すのにも役立つし。これからは壁の有効活用の時代なのさ!

 それで、折角いいスペースがあるんだから、システムさんの迷宮をモニターする機能をちょちょいと改編して、我が地下街のPRでもしようかって考えたのよ。

 CMが利用できるのは今回だけじゃない、後々も使えるしね。

 CMという用途以外にも、罠としてや攻撃としても活用できそう。狭い空間で同じ言葉を聞かせ続けるって、いい攻撃になると思うんだよねぇ。ずっと音が聞こえるって神経が休まらないし、罠の可動音や魔物の接近を悟らせない為の隠れ蓑にもなる。

 絶え間無く同じ感覚で流される音の中で、休めず眠れず気を緩めることも出来ない。加えて言うなら、狭く音が反響する迷宮内部という環境でそれが行われる。

 私なら耐えられずに発狂するね。


 しかしまぁ、迷宮CMチャンネルで流すのは地下街での暮らしについて。つまり、私の配下になったらどんな暮らしが送れるかってことを伝えることが目的なのだ。発狂させることが目的ではないのです。

 聞くことが負担にならないよう放映の感覚に気を遣ってゴーバ=ディン達の様子を伺いつつ聞かせていくことにしよう。

 発狂させるような使い方はまた今度だね。


 CMの内容は、イェク=ワチの畑から取れた新鮮な野菜を使った食堂のメニュー、ビノス=モックの職人が手掛ける工芸品。サスティ=ウーの呪印工房で作られる呪印のサンプルなどを交えつつ、散歩番組のように日常を紹介していくというもの。

 うふふ、楽しそうでしょう? 実は私もまだ完成品は見たことがない。なのでゴーバ=ディンの皆さんと一緒に初めて見ることになる。もうワックワクだね!


 ちなみに、CMは熱烈な希望によりシステムさんがほぼ一人で作り上げました。私が作った原案を綺麗に纏めてくれたらしいんだよね。

 さぁ、さっそく期待の地下街のCMを見てみましょう! 


『――――そう、この地を支配する白氏 瑠璃様こそツンドラコングに叡知と繁栄を約束し、新たな段階へと至る道を約束する偉大なる存在であり――――』


「…………」

『どうですか瑠璃様、これ以上無く宣伝出来ていると思うのですが』


 いや、うん、これもうCMというか、プロパガンダだよね。システムさんがやる気充分だった時点で少し嫌な予感はしたんだけど……。

 一応日常風景は入っているものの、内容が街の暮らしを紹介しているのか、新興宗教の布教なのか分からないもん。いやこれ布教通り越して洗脳の域に片足突っ込んでない?


「いやさ、最初は食べ物とか暮らしの紹介だけでいいって言ったと思ってたんだけど、これ八割方が私についてじゃない?」

『瑠璃様についてお話しすることを抜くなどあり得ません。必要なことは最低限詰めているのでご安心ください。また、リラックスして聞けるように音楽には少々凝っております、これにより瑠璃様のことを聞くだけで気持ちが落ち着き安心感を得られるように――――』

「いやいやいや、恐い恐い恐い」


 BGMというものは洗脳や暗示とは切っても切れない……まぁ、今回の実験……もとい作戦のコンセプトは士気を削ぐ、だから洗脳もありと言えば有りなのかしら?

 私としてはゴーバ=ディン族を必要以上に殺すことなく、加えて自分から仲間になるように仕向けたかったんだけどね。

 敵を味方にする時に必要なのは?

 戦いに意義を見出だせなくしたり、士気を下げたりしつつ、こちらが勝ち組だと思わせる。利があると思わせる。これが一番てっとり早くて効果が高いと思うんですよ。


 モニターに視線を戻す。

 呪印迷宮に侵入したゴーバ=ディンたちは、突然流れた迷宮CMに警戒していたようだったけど、流れている映像を見ている内にこれが実際の光景であると気付いたのだろう。顔を真っ赤にして激怒していた。

 そりゃまぁそうなるでしょうね。画面の向こうではイェク=ワチを筆頭に私の味方になったツンドラコング達がご馳走を腹一杯飲み食いして幸せそうに笑っているんだから。


 その中には、最初に迷宮に挑んで捕らえられたゴーバ=ディン達もいる。

 痩せ細っていた彼らに食事を与え、降伏すれば命は取らず街で受け入れようと伝えたところ、彼らは直ぐに頷いた。疲労と空腹が行くとこまで行って、もう何かを考える余裕も無かったみたいだった。ただとにかく今の苦しい現状をどうにかしたいということしか考えられなくなっていたのだ。

 一度降伏したゴーバ=ディン達はとても大人しく、反抗するどころか私に泣いて感謝する始末。

 まぁ、かなり厳しそうな状況だったもんね、助けられたらそりゃ嬉しいよね。


 ただ、それを見たゴーバ=ディンの現侵入組からすれば、あっさり自分達を裏切った奴等がいい思いしているように見えるわけだ。

 お腹を減らして寒さに震えながら必死こいて戦っている中、敵は映像の中でこちらを相手にもせず食べて飲んで騒いでいる。

 自分達がやっていることは相手に何の痛痒も与えていないと目の前に突きつけられているも同然。

 意味も効果もない行動をしているのだと自覚させられながら、いつまで士気を維持できるかね?

 その上、降伏するという安全な逃げ道がこれ見よがしに用意されている。降伏すれば何時でも自分はその宴に参加できるのだ。

 私は降伏したら受け入れると宣言しているし、映像には生かして捕らえた最初のゴーバ=ディン族の白日本猿達が幸せそうに飲み食いしているところも映っている。当然、後々来たゴーバ=ディン族の方もしっかり映す予定ですよ?

 もうこんな戦いやってられるか、とうんざりした後、こっちに寝返ってやれと考えてしまう事へのハードルはかなり低いと思うんだよね。


 降伏したゴーバ=ディン受け入れることについて、ビノス=モックやサスティ=ウーの面々はやっぱりあまりいい顔をしなかったけども、これからゴーバ=ディンには迷宮でかなり辛い思いをしてもらうことになるんだし、それで少しでも溜飲を下げてもらおう。

 受け入れてからどうするかは、この後システムさんと相談しなきゃね。


『指揮官クラスならば最後まで抵抗しそうですが、一般の戦士ならば多くを吸収できると思います』

「うんうん、もし降伏してくる人がいたら、周囲から袋叩きにされる前に迷宮の移動機能でこっちに移してあげてね」

『はい、心得ています』

「あと、降伏するって嘘をついて潜入してこようとする場合だけど……」

『ゴーバ=ディン族の中にそこまで頭が回る者がいるとは思えませんが、移動機能を使用する時点で、内部を移動する都合上、こちらの仲間という扱いになります。瑠璃様の眷族になるということですね。そうなれば表層心理程度でしたら私が読み取れますので、悪意があった場合はそのまま分解してしまいましょう』

「……ちょっと残酷な気もするけど、助かるチャンスを自分から捨てるんだもんね、しょうがないか。私も義父さん用の贈り物は確保しておきたいし……。うん、パーフェクトだシステムさん」

『感謝の極み』


 ふふふ、名付けて呪印迷宮『裏切りの洞窟』バージョン。信じる心があっても攻略させないつもりで作っているからね、心してかかってきなさい。


「あ、あと迷宮前のゴーバディンのキャンプにはギリギリ生存できるくらいの食料を置いておいてあげてくれる?」

『……流石にそれはやりすぎではないでしょうか?』


 私至上主義なシステムさんでも言い淀むくらい馬鹿みたいな発言だと我ながら思うけども、これもやってみたいことの一つなのよ。

 士気低下にも一役かってくれると思うしね。


「いやいや、私がゴーバ=ディン族を滅ぼすつもりで、この実験がただのお遊びなら食料提供はやりすぎだと思うけど、これは違うからね」

『確かに、今回はゴーバ=ディン族を殺すことが目的ではありません、ですが、反抗しているものにわざわざ塩を贈るような真似は……』

「実験は時間がかかるから、やってる内に餓死されても困るのよね。私は結果が見たい訳だから。それに、戦わなくても食料が手に入るってなったら、一般兵はやる気出すかな?」

『体力を回復し、より多くを奪うために攻め込んで来るのでは?』

「そしたら供給ストップ。平和的にいこうと思ったけどそちらの指揮官にはその意思は無いようなのですね残念です、的な文章も添えてね」

『瑠璃様はゴーバ=ディンの戦士が自発的に裏切りこちらに付くことを望んでいるのですね』

「うん、まぁ、そうだったんだけどさ……」

『そうだった、と言いますと?』

「今は少し、裏切りを誘発する策士っぽいのが楽しかったりして……」


 正直なところ、今さらゴーバ=ディン族が反抗しようが何の問題もないのだ。残念ながら戦う前から勝敗は分かっている。彼らでは迷宮の表層も突破できないだろう。最初の部隊が二個目の罠で全滅しているくらいだし。

 たまたま、無益な殺生をするよりも人材を増やしたいという私の意見と、反抗を利用して私の株を上げようとするシステムさんの意見の結果が一致したから、ゆっくりじっくり付き合うことになっているだけ。

 ついでに、思い付いてしまった実に平和的に降伏を促せる作戦で私のちょっとした知識欲を満たせれば楽しいかなってだけなのさぁ。


 やっぱり私って趣味悪いかな? システムさんに嫌われちゃうかしら? そんな瑠璃様は好ましくありません、とか言われたら悲しさで死ねてしまう。


『反抗しても殺されはしないと付け上がる切っ掛けになってしまうかもしれませんよ?』

「反抗の責任を負うのは一般兵じゃなくて指揮官だって相場が決まっているからね。彼らに責任を取ってもらって、私も甘いだけじゃないってことを知ってもらおう。それでも分からない奴がいたら、二度目は許さないだけだよ」

『戦士の中から、裏切ってやったんだ、と調子に乗るものが出るでしょう』

「自分の価値を見誤るような奴には優しくしない。周りに迷惑をかけるようなら相応の罰を与えるよ」

『それでもイェク=ワチ、ビノス=モック、サスティ=ウーは納得しないでしょう、ゴーバ=ディンは犠牲を払わなければなりません、三種族が納得する形で。瑠璃様が執行するという形で』

「やるよ。システムさんだけに任せないで、自分でちゃんと考えて、やる」

『出来ますか?』

「うん、私の街……国なんだもんね」

『お辛いと思いますが、必要なことです』

「ふふふ、大丈夫だよ、システムさんがいれば」



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