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うじむし132




 いやー……流石にやり過ぎたかな……。

 私はモニターに映った阿鼻叫喚の地獄絵図を前に、ちょっと引いていた。

 悲鳴を上げのたうち回る者。顔中を掻きむしり壁に頭を打ち付ける者。嘔吐物にまみれ床に倒れピクリとも動かない者。

 一緒にモニターを見ていたツンドラコング各氏族代表達も、流石にドン引きの顔をしていた。


 侵入者撃退用呪印トラップ第二段『瓦斯混炉ガスコンロ』が綺麗に決まったのだが……、これは酷い。

 これも仕組みは簡単な罠なんだけどね? 効き目はご覧の通り。あまりの臭さで侵入者を軒並みノックダウン、という罠だったんだけど……、『寒気扇』同様、威力が強すぎたみたい。


 地下街には呪印を用いた下水道があって、集まった排泄物は発酵させて肥料にする。我が地下街の食料事情はこの発酵肥料によって支えられているといっても過言ではない。

 しかし、発酵させる過程で看過できないのが、排泄物の臭いでありまして、地下に作った街ですので換気も大変でして、まぁ、その、処理が面倒なんで、システムさんとジルばぁちゃんに臭気とガスを吸引する呪印を開発して貰ったんですよ。

 で、ガスだけならまだ使い道はあるんだけど、臭気はどうしようもないのよね。

 呪印が限界を迎えては埋めて処理をして、というのも不発弾を埋めているようで怖いし、ならいっそトラップに転用しちゃえ、となったのが『瓦斯混炉』という罠なのです。

 溜まってたもんねぇ……臭気の呪印。一気に爆発させれば、そりゃああなるよ。


『密室でシュール○トレーミング缶を開けたようなものですね』


 へー、じゃあ罠の名前を『瓦斯混炉』から『シュールストレーミングボム』とかに変更しようか……って、おぉい、それ人が死ぬぞ!? 本気で息ができなくなるヤツじゃん! 迷宮も臭くて使用禁止になっちゃうよ!? 臭すぎて近付けないから白毛日本猿達の回収も出来ないし!


『私が管理している以上それはあり得ません。すぐに空気中の臭素を分解できます。また、『瓦斯混炉』使用時は通路を封鎖していますので、他の区域に臭気が漏れていく心配もありません』


 そ、そうだったのね。流石システムさん。さすシム。

 さらっと通路封鎖しているとか言ってるし。ゴーバ=ディンの連中は急いで逃げてたけど、範囲から出られることは無かったのね……。ご愁傷さまです。


 取り合えずドン引きしたままのツンドラコング各氏族代表には、状況を説明しておこう。

 いつまでも臭いままではないということをしっかり伝えておかないと、迷宮改修作業に付いてくれる人がいなくなってしまうからね。


「な、なるほど……、あれが瑠璃様の言う『臭き罠』なのでするな、恐ろしい、なんと恐ろしい罠でございまするか……」

「やはり敵対せずに正解でしたじゃい、本当に、心の底から自分の英断を誉めてやりたいですじゃい」

「……しかし、ダンジョンで臭いが分解できるのでしたら、最初から呪印は要らなかったのではないですかのぉ?」


 今ジルばぁちゃんが変なことを言ったな。だが呪印は必要なのだよ。分解する為には臭気を集める必要があるでしょ? まさかそのまま臭い垂れ流しのままには出来ないじゃない。

 結局呪印は必要、たまたま罠にも転用できるってだけの話なのさ。


『私が悪臭を除去できることはたった今知ったのでは?』


 ……結果がよければ全ていいのです、システムさん。辻褄は合ってるんだからセーフセーフ。

 それで、正気を失ってるか気絶してるかのゴーバ= ディン族達を回収したいんだけど、私は一人も担げないし、流石に物理的なことはシステムさんにも出来ないので、誰かに頼むしかないんだよね。


 誰か助けてくれないかなー、とツンドラコング達を見詰めると、付き合いの一番長いグッさんが察してくれたようだった。


「分かりましたぞ。イェク= ワチ族の手が空いている者を回しまする」

「おぉう、さすがグッさんだね、言わずとも分かってくれるとは」

「はっはっは、瑠璃様のお考えが読めるようになってまいりましたからな!」


 え、それはちょっと怖いわ。グッさんはエスパーコングなの? 氷・エスパータイプだったの? 何その強キャラ。


「ぐぬぬ、出遅れたか……ビノス=モックの筋肉を活躍させる機会を取られたじゃい」

「サスティ=ウー族は力仕事はあんまり向かんですからの、素直にイェク=ワチに任せますの」

「ふははは! お二方はまだまだ忠愛が足りぬようでするなぁ!」

「なんじゃい調子に乗りおって、露骨な点数稼ぎ汚いさすがグ=ドーリャンは汚いんじゃい!」

「儂の経験が活きただけでするな、負けたヘイユァン=ラオが可哀想なので、儂から芋を奢ってやりまするぞ。ふあはは!」


 ツンドラコング間の競争はさておき、システムさん、これで先見隊っぽい奴等は全滅したけど、残りの本隊はどうしてくると思う?


『後退するだけの物資も尽きていると思われますので、進撃しかないでしょう。恐らく、雀の涙ほどの食事をしたあとに全軍で突喚してくるかと』


 あちらはもう物資がないから、時間をかけて攻めることができないもんね。

 突撃してくるとなったら、迷宮の防衛で支えきれるかな?


『呪印トラップを全て試すには丁度いいでしょう。反抗的な態度であれば、それなりに削ってやれば良いのです』


 うーん、実はさ、ちょっと思い付いた作戦があるんだけど……。


『思い付いた作戦ですか? 瑠璃様が危険になら無いのであればお聞きします』


 システムさんはブレないなぁ。大丈夫、私は引きこもっているから。それどころか、引きこもったまま遊び倒そうと思っているし、ご馳走を食べようとも思ってるよ。我が世の春を謳歌する勢いでね。


『なるほど、瑠璃様の思い付いた作戦が理解できました。面白いですね、効果もあるでしょう』


 本当に? システムさんにそう言ってもらえると心強いわ。よし、そうと決まれば……。


「グッさん、悪いんだけどゴーバ=ディン族の回収はヘイユァン達に任せるわ」

「なん……ですと……」

「我が世の春が来たですじゃい! くぁかかか! イェク=ワチは用済みのようですじゃなぁ! 見せ筋は引っ込んでおるんですじゃい!」

「馬鹿な、儂らの腕力をお疑いでするか瑠璃様! 毎日の畑仕事で鍛えられたこの上腕二頭筋を――――」

「いや、別の仕事を頼みたいってだけだから。それと出来ればツンドラコング同士仲良くしてほしいんだけど……」

「ほっほっほ、グ=ドーリャンもヘイユァン=ラオもじゃれあいを楽しんでいるだけですのぉ、仲は良いのですの」


 爺さんゴリラと爺さんチンパンジーのじゃれあいなど誰が求めているというのか。腐っていてもノーサンキューだよ。


「ともかく、ちょっと宴を催したいから、料理と食材の相談したいの。ジルばぁちゃんも協力をお願いしてもいい?」

「勿論ですのぉ、瑠璃様」

「そういうことでございまするか。ならば食に長けるイェク=ワチの出番でするな」


 ヘイユァンが、逆に仲間はずれにされたみたいな雰囲気を出し始めた。だから拗ねる爺さんの需要など無いというに。

 そもそも人手は不足しているんだから、仕事はあるに決まっているのだ。


「ヘイユァンを筆頭に、ビノス=モックには会場設営及び装飾をやってもらうから、回収急いできてね。迷宮を飾り上げた腕をまた発揮することを期待してるよ」

「はは、骨身を惜しまずやらせてもらいますじゃい」


 うん、機嫌が治ったようで良かった。

 ……私はなんで配下であるはずの爺さんの機嫌を取ってるんだか。まぁでも、国民という括りで見たら、イェク=ワチだろうとサスティ=ウーだろうとビノス=モックだろうと、みんな国民。つまり私の庇護対象。拗ねる爺さんだろうと同じよね。


『このようなことで瑠璃様を煩わせること自体が不敬に当たると考えます』


 システムさんは私主義過ぎるのよ。もっとぞんざいな扱いでも構わないのよ? むしろぞんざいな扱いされるのも萌えるのよ? 中身にちゃんと愛があればね!


『望まれるのであれば前向きに検討致します』


 それは遠回しな拒否だね。システムさんの性格的には、ぞんざいなっていうのは難しそうかな? まぁ私の萌えに付き合わせてストレスをかけるのは本意ではないからね。


『ヘイユァン=ラオ達がゴーバ=ディン族を回収しました。まだ利用者がいない家屋に運び込むようです。……この地下街には犯罪者の収容施設がありませんでしたね。その内に作らせましょう』


 私の庇護を求める種族だけが集まったといっても、人が集まる以上は犯罪は起こってしまうものだし、しょうがないよね。

 今回みたいに迷宮内で生き倒れた人を拾うこともあるかもしれないし。

 きっと、殺した方が経験値になるんだと思うけど、一回で大量の経験値を得るよりも、何度も来ていただいて経験値を落としてくれる方が、長い目で見て得だと思うしね。

 うん、収容施設、必要ですわ。


『ゴーバ=ディンの本隊もじりじりと前進を始めています。二日もすれば迷宮前に辿り着くでしょう』


 システムさんは? 私の作戦にはモニターが必要不可欠だけど、改良とかしなくても大丈夫?


『問題ありません。このモニターと瑠璃様が呼んでいるスキルは『領域支配』の内の一つです。支配した地域ならば簡単に魔力を送受信できます』


 そういや魔力を送って遠くの相手の遠話の呪印を書き換える、なんてこともやってたね。だったら問題ないか。


『ただ、送ることができる魔力には規模と速度に制限が有りますので、支配した遠方の地域に『氷獄魔法』で空爆を加える、などというのは不可能です』


 いやそんなこと考えてないから。おっそろしいこと考えてるねシステムさんは。

 

『『天候変更(雪)』程度ならば実行できますので、瑠璃様に逆らった愚かな国を永遠の雪と氷に閉ざすということは可能ですよ』


 だからそんなこと考えてないっての! システムさんは私を魔王とかにしたいのかな!? ただでさえ寝起きしている場所が魔王城っぽいのに、これ以上魔王要素はいらないよ!

 例え出来たとしても、やる理由がないし、金髪おかっぱにも迷惑かかりそうじゃない。一応世話にはなったし、あの子に迷惑かけるのは、ちょっとね。

 魔王生活始めるなら、一言伝えてからじゃないと不義理になっちゃうよ。


『一言伝えればオーケーというハードルの低さに若干驚いております』


 まぁまぁ、そこはね、うじむしに転生することもあるんだし、人生なにが起こるか分からないから一応考えるだけはしてるってことで。



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