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うじむし118 ヒーロー26

本日9話連続投稿 こちら⑨話目になります。読む際はお気を付けください  9/9



 指揮官が倒れたのを見て、周囲で戦いを見守っていたゴブリン達はあっさりと引き上げていった。

 指揮官の死体を回収しようともしない。

 彼が戦いに負けたから、ゴブリン達の中では価値がないとされてしまったのだろう。


 無情にも思えるゴブリン達の様子に、僕は少しだけやるせない気持ちになった。

 僕が戦って勝った所で、ゴブリン達の価値観を変えられることはない。それは結局、ゴブリン達と同じくどちらが強いかという世界で比べてしまっているからだ。


 ゴブ吉とゴブ子はこれで安全になったけど、それは群に戻れるということじゃなくて、敗者の子供同士だから相手にされなくなったというだけだ。

 二人はこれからもゴブリンと人間に近付きすぎないようにしながら生きていかなくちゃいけないだろう。


 僕が戦って得た結果なんて、そんなものでしかないんだ。


「よぅ、やっぱりお前、強かったんだな」


 小屋から這い出してきたヴェッチにと肩を殴られた。

 彼女はニヤリと笑って僕を見る。


「何考えてんだ、そう肩を落としてると落ち込んでるみたいに見えるぞ?」

「落ち込んでないよ」


 バックルの水晶を外し、変身を解除した。

 水晶は砕けて消え、スーツは光になって風に舞う。


「ちょっと考え事」

「馬鹿の考え休むに似たりって言葉があるんだぞ? 折角勝ったお前が湿気た面してたら、ゴブ吉とゴブ子に失礼だろう」

「あ……、そうか、僕は、ゴブ子の親を……」

「だから、湿気た面するなっての!」


 再び肩にパンチ。

 スーツを来ていないから普通に痛い。


「お前は二人のゴブリンを救ったんだ、それは確かだろ? だったら自信を持てよ。お前が笑ってなけりゃ、親が死んで救われたゴブ子達が素直に喜べないんだよ」

「……うん、ごめん」


 僕の考えや気持ちがどうあれ、残されたものの為に笑ってなくちゃいけない。それが勝った者の責任なんだろう。

 何とか笑みを浮かべてヴェッチの背後を見ると、ゴブ吉とゴブ子が小屋の陰からこちらを見ていた。


「アリガトウゴザイマシタ コノ オ礼ハ イズレ マタ」

「コレデ 安心シテ 暮ラセマス 父ノ事ハ コレデ良カッタノデス 気ニ病マナイデ 下サイネ」


 二人はちょこんと頭を下げると、森の奥へと消えていった。

 気に病まないで、か。助けた相手に気を遣われてるとか、僕って本当に未熟だなぁ……。


「おーい、義人、ここにいるのかァ!?」


 僕が再び肩を落としてると、懐かしい声がした。

 あの声は春彦くんか。やっぱり僕を探してくれていたんだ。


「みんなー! ここだよ!」


 思わず僕も声を返す。


「さっき、こっちからよしとんの声が聞こえたよぉ」

「彩華さんが言うなら間違いありませんね。ゴブリンの気配も感じましたが……、無害そうです」

「……放っておけばいい。義人が優先だ」

「やれやれ、これに懲りたら個人プレーは無しにしてくれ」

「反省は後で良いじゃないか、義人! 迎えに来たぞ!」


 春彦くんの後に続いて、他のみんなの声も聞こえてくる。


「おぅ、お迎えが来たみたいだな」

「ヴェッチ、ありがとう」

「まぁ、ここ数日退屈しなかったよ。また薄いイモのスープでも飲みたくなったら顔だしな」

「うん、きっとまた来る」


 僕はヴェッチに深々と頭を下げて、皆の元へと駆け出した。

 ヴェッチには助けてもらっただけじゃなくて、たくさん大切なことを教えてもらった。

 僕が考えていたことや変身できるという秘密まで分かっていたんじゃないかってくらい、視野が狭くなっていた僕に必要な言葉をかけてくれた。


 不思議な女性だったな、なんだか、ヴェッチとはまた会う気がするよ。

 ……なんて、フラグめいたこと考えなくても、また僕から会いに行こうと思うけどね。


「みんな、心配かけてごめんね! 迎えに来てくれてありがとう! ただいま!」


 にこにこと嬉しそうな雄大くん。

 やわらかく笑う鈴音ちゃん。

 今にも説教を始めそうな孝介くん。

 悪態を吐きながらもニヤッと笑う春彦くん。

 テンション高く喜んでくれている彩華ちゃん。

 無表情だけどホッとした雰囲気の鉄男くん。


 みんなの顔を見て、僕も嬉しくなった。

 僕の仲間に向かって飛び込む。

 恥ずかしながら黄瀬義人、帰って参りました!




◆◆◆




「ふぃ~、やっと帰ったかい、あの小僧」


 ヴェッチが住んでいる小屋の床が開き、中からくたびれた白衣に身を包んだ老人が現れた。


「ドクターマキシマ、出てくるのはまだ早いんじゃない? 感知能力の高い子だっているんじゃないの?」


 小屋の主人であるヴェッチは驚きもせず、老人に椅子とお茶を勧めていた。


「ひゃひゃひゃ、あれだけ離れれば問題ないわい。ワシには通用せんしのぉ、ひゃひゃひゃ!」


 ドクターマキシマ。古い世代の転移者であり、義人達を改造した張本人である。

 義人達六人が『英雄学園』で問題を起こし、軟禁されたと聞いてすぐに行方を眩まし、誰も彼の居場所を知らない筈であった。


 そんな問題の人物を前に、ヴェッチの態度は昔からの知り合い接するような気安いものだった。


「こっちはいつバレるかと思って冷や冷やしてたっていうのに、気楽なジイさんだね」

「ハン! 安心せい、この稀代の天才、悪魔の才能、機械魔工学の産みの親にして狂気の鬼才であるドクターマキシマの設計にミスなんて無いわ」

「だと良いけど」


 ヴェッチは老人の妄言には慣れた、とでも言うように肩をすくめた。


「しかしヴェッチ、お前さん、あの小僧に随分優しかったのぉ? てっきりワシぁあの小僧を食っちまうかと思ったぞ?」

「まぁ、あんな迷ってる子供を襲うほど外道にはなれなくてね」

「ひゃひゃひゃ! よく言うわい! 今でも“銀”のを狙っちょるんじゃろ? えぇ?」

「貴方がそう言うってことは、銀はまだ生きているのか」

「そりゃあな、ワシはワシが作った子等は全員把握しておる。今はあの小僧達の赤・青・黄・緑・金・桃・黒。それと銀と、お前さんの紫じゃな」


 ドクターマキシマの言葉を聞いて、ヴェッチの瞳に剣呑な光が走った。

 ヴェッチの体から漏れだす紫光の魔力が狭い小屋を軋ませる。


「銀で終わりの筈だったよね?」

「天才にも極々希に計算違いというものがある。足り無い分を補充しただけじゃい。別に問題ないじゃろ? 銀と紫ならば楽勝じゃ」


 威圧されても飄々とした態度を崩さないマキシマに、ヴェッチは大きくため息を吐く。


「勝手ばかりだ、貴方は」

「天才とはそういうもんじゃ。メンテナンスも強化もしてやったんじゃ、匿う代金にしては破格じゃろ?」

「私は嫌だよ、あんな何にも分かってなさそうな子供と戦うなんて」

「それじゃあ、神様の所までは行けないのぉ」

「……クソジジィ」


 ヴェッチの悪態をドクターマキシマは笑って受け流す。


「誰も彼も何を犠牲にしても叶えたい願いがあるんじゃから、難儀じゃの。ワシは最後の一人が天上のお方の横っ面を殴るのを見られたらそれでええ」

「特等席で見せてやるよ」

「楽しみにしておるわい」



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