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うじむし104




 それじゃ送るよ、との金髪おかっぱの軽い言葉で、私は光に包まれた。


 ダンジョンに生まれ落ちて何ヶ月? 1ヶ月以上生活した? あんまり時間は経ってないよね?

 こっちの世界で大半を過ごした場所から移動するって、わくわくする反面ちょっと怖いね。

 今からいくのは最北端域とかいうめちゃくちゃ寒い所らしいし。


 実は私、寒いの嫌いです。

 この転移はダンジョンからの強制退去じゃなくて、

新婚旅行みたいなもんだと思おうとしていたので、内心、寒い所はちょっとねー。

 新婚旅行といえば南の国じゃないですか!

 あ、でも、北国でオーロラを見る新婚旅行もロマンチックかもしれない。


 個人的な気持ちでは寒い所には行きたくなかったけど、システムさんが今後のことを考えてくれて北がいいと言ってくれたんだから、私は北へいく。

 うふふ、私は尽くす女なの。


 段々と視界が晴れていく。

 何百キロ移動したか計算してないけど、相当な距離があったはず。それを殆ど一瞬で移動とか、金髪おかっぱのスペックはかなり高いな。


 さて、期待の私たちの新居予定地は……。


 ペンペン草一本も生えない広大な雪原でした。

 おおぅ……、これはへヴィだぜ……。

 風と雪で視界が悪いけども、遠くに見えるのが雪山ってヤツかな? あの後ろには海が広がっているらしいのよねぇ。海の幸は欲しい。


 しかし、やはり寒い。私の体に合う防寒具があったら着てきたのに……。

 流石の金髪おかっぱも、モンスター化したウジムシサイズの防寒具は持っていなかったのだ。


『瑠璃様、転移お疲れさまです。さっそく『領域支配』を行いますか?』


 うん、すぐにやろう。今すぐやろう。

 寒くて体が凍えそうだ……。『氷雪の支配者』とかいう称号があるけど、寒さに耐性が付いている訳じゃないらしい。解せぬ。


 『領域支配』を展開するのは私じゃなくてシステムさんにお願いします。

 感知系は私よりもシステムさんの方が優秀だから『領域支配』の範囲もシステムさんやった方が広がるだろう。


 システムさんが『領域支配』すると支配された場所はシステムさんの物になるのではないかと思うかもしれないが、正解です。システムさんの物になります。

 まぁ、私はシステムさんと結婚しているし? システムさんの物は私のもの。私の物はシステムさんのものなのさ。


『最北端域の範囲を大きく三つに区分。今私たちがいる平野を凍土、あちらに見える大きな山を雪山、その奥に広がる海を氷海とします』


 システムさんが気を利かせて『世界地理』で最北端域の地図を出してくれた。

 目の前に浮かぶホログラフィーチックな地図。これファンタジーじゃなくてSFだよね。雰囲気あるから良いけど。


 ふむふむ、三つの区域は順番的に南から凍土、雪山、氷海となっているのね。一番広いのは凍土。氷海も広いけど、生き物が棲める環境では無さそうだからノーカンで。支配できるようなら支配しちゃいましょう。

 雪山は例えるなら日本の心、富士山だね。富士山よりも縦に長いから、マッターホルンになるのだろうか? いや、でも山とえいば富士山だから富士山でいいのです。


『この三つの区域の内、現在私と瑠璃様で『領域支配』を仕掛けられる範囲は此方になります』


 ポヒッとパソコンで広告がポップアップするような音と共に、最北端域の全てが塗りつぶされた。


 全部じゃん……。凍土から氷海まで全部染まってるじゃん。

 これ塗りつぶす意味あった? 最初から全部って言えばいいじゃない。システムさんの冗談かしら? システムジョーク? HAHAHA!


『全て同時に行いますか?』


 そう聞くってことは、全部一緒にやっちゃうとデメリットがあるってことなのかな?


『魔力消費量と効率の問題ですね。全て同時に行えばその分、支配率の進行は遅くなります』


 うーん、じゃあまず一ヶ所集中でマイホームにして、その後ゆっくり支配域を広げる方向で。

 ちなみに、三つの区域の内、拠点としてお薦めの場所はある?


『お薦めは雪山ですね。凍土と氷海を同時に侵攻しやすい上、守るに易く攻めるに難い場所です』


 マイホームっていうか、城を建設する基準みたいになってる。

 いや、システムさんは此処を国にしたいみたいだから、城を造る基準で良いのか。

 温かみのあるお城がいいなぁ。

 システムにほぼ譲渡したみたいになってる『建築』だけど、お城の内装……、せめて内装は私がやろう。

 雪と氷の土地で城まで寒々しかったら嫌だもんね。


『雪山までの移動ですが、『氷獄魔法』にて雪車そりを作っていただき、滑走することで向かいましょう。移動時間は120時間を予定しています』


 ひゃくにじゅ……ってそれ5日じゃないですかヤダー!

 食事もままならない凍った土地で5日間飲まず食わずの上、魔法使いっぱなしで連続移動とか死にます。死んじゃいますよシステムさん!


『申し訳ありません、言葉が足りなかったようです。まず、夜間および早朝の移動は計算に入れておりません。また、休憩時間を一時間毎に30分入れております』


 え、それだとどうなるの? 夜間から早朝……時間的には夜10時から朝6時の8時間としましょう。

 それが5日分で40時間。一日フル稼働する時間は16時間になりますね。

 次に一時間毎に休憩30分だから、一日で仕事の時間は10時間、休憩は6時間となる。


 あの……、逆に休み過ぎじゃない?

 まさかこんなにも休憩時間が取られているとは。睡眠時間だって圧倒の8時間。人間でいるときより健康に気を遣っているみたい。


『狩り及び調理の準備、食事の時間、睡眠覚醒時から行動可能になるまでの時間なども考慮に入れておりますので、実際に移動する時間はもっと短くなりますね』


 うん、必要な時間だね。私は寝起きはいい方だけど、それでも起きて即移動はできないもんね。


『私は直接的に瑠璃様に干渉することが出来ません。本来ならば凍った土地を一人で移動させるなど危険であり不本意なのですが……。しかし、せざるを得ないのですから、ならばせめてお身体に配慮した移動をお薦めするのが私の仕事です』

 

 やだシステムさんイケメン。

 でも、もうちょっと扱い雑でも大丈夫よ? 大切にされるのは嬉しい。そりゃもう天にも舞い上がる心持ちだよ。だけど、それで二人のマイホーム作りが遠退くのは私も本意じゃないのよ。


 システムさんがいつも頑張ってくれるんだから、私もしっかりやんなきゃね!


 というわけでまずは雪車を作ろう。

 滑走するのは前に特撮モドキ共に襲われた時に体で学んだからね、バッチリさ。


 滑っていると案外寒い。

 最北端域は気温も凶悪に低いから更に寒い。もはや痛い。端から凍傷になって腐り落ちてくレベル。だから風防キャノピーは必須。向かい風で無駄に減速がかからないようにフォルムは流線型で。


 そして擦れる場所の消耗は激しい。

 氷でレールを作り、それに合わせるように雪車の足を噛ませる。デザインのイメージはスケート靴かな? 圧で氷を溶かし、表面張力で摩擦係数を……って、私にもよく分かっていない話しはいいか。

 とにかく、簡単に交換可能で滑るっぽい機能を付けた、それでいい。


 うん、なかなかいいんじゃないの? 未来の乗り物っぽい外見じゃないか。イメージは車輪の代わりにスケート靴のブレードみたいなのが付いた翼のない戦闘機? そんな感じ。


 『建築』や『氷雪の支配者』が仕事をしたみたいです。

 これは会心の作ですよ! 今なら雪まつりで受賞するクラスの雪像が作れる気がする!


 問題があるとすれば、全部が氷で作られているので中もそれなりに冷える上に、じっとしていれば氷との接触部が凍傷になる恐れがあるということ。

 牽引してくれる動物がおらず、動力もないので、動くには斜面を利用した落下エネルギーを使用せざるを得ず、上下運動の激しさに酔いやすいということ。

 防御力を優先した為に氷が分厚く、視界が悪いこと、の3つかな?


 切実に防寒具が欲しい。それが無理ならせめて敷物を! うぐぐ、なんで私は金髪おかっぱに布切れの一つくらいねだらなかったんだ!

 思い付きもしなかったんだけどね。

 あの時は花嫁の二文字に完全に舞い上がっていたからね、仕方ないね。

 最北端域で物理的に頭が冷えたので、少し冷静になれただけです。


 まぁ、だけど、休憩時間は沢山あるし、狩りをする予定もある。野性動物もいるようなので、うまいこと毛皮を剥いで敷物にさせてもらおう。

 凍傷の恐れはこれで解決。

 雪車酔いと視界の悪さは、今はどうしようもない。

 いずれ改良できると信じよう。


『凍土から雪山にかけては長毛の生き物も多いですから、毛皮に困ることはないでしょう』


 その長毛の生き物を安全に狩れればいいんだけどねぇ。


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