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うじむし101




 改めて進化先を確認。



→ 白蛆



 うん、当たり前だけど変わってないね。現実は無情である。

 進化を出し惜しんだ結果がこれだよ! ご覧の有り様だよ!


 くそぉ、くそぉ、こんなはずでは……。


 強くなりそうな進化を目指してサナギやハエルートを先送りにしてきたのに、まさか進化先が無くなるなんて、私、聞いてない!


 本当、どうしようこれ。私の体は一生ウジムシなの?

 え、本気で言ってる? ウジムシってハエの幼虫、つまり赤ちゃんなんだよ? それが最終形態ってどういうことよ? 種として終わってるじゃん。死ぬまで赤ちゃんでいなさいよってことなの?


 ハハハ、冗談キツいぜ神様さんよ。

 ちょっと進化の責任者出てこいや。神か? それともまさか単眼お義父さんなのか?

 相手が誰であろうと訴訟も辞さない。野郎ぶっ殺してやる!


 ……ふぅ、よし、前向きに考えよう。もしも最終進化がウジムシじゃなくてサナギだったら、私は一生身動き取れずに終わっていた可能性だってあったんっだ。ウジムシでマシだったじゃないか。


 ぐ、ぐぐ……、ダメだ、自分に言い聞かせても全然納得できない。

 だってまさか進化先から成虫ルートが消えているなんて思わないじゃない。


 えー、嫌だよー、このまま進化したくないよー、ウジムシエンドはマジ勘弁なのよー。

 せめて人化を行えるようなボーナススキルでも付かないですかねぇ?


 チラッ、チラッ。


 ねぇ、システムさん、ちょっと進化先かボーナスか、救済措置が欲しいんだけどなー?


『勿論、瑠璃様は今回最終進化を成されるのです。お祝いは用意してあります』


 それですよ! 私が求めていたのはそういう優しさですよ!

 システムさん、ありがとう! そしてありがとう!!

 もう何度でも惚れ直しちゃうん!


「それさ、贔屓なんじゃ……」

『いえ当然の対応です』

「あっはい、もうそれでいいです」


 システムさんが最終進化の御褒美という形で救済措置を考えてくれていたので、安心して進化できるね。

 しかし、白蛆ねぇ。やっぱり私の名前に掛けてるのかな? 違うとしても、嵌まり過ぎてる気がするんだよねぇ。

 だとすると私の為に用意されたルートだったりして?

 まぁ、見れば分かるか。システムさん、白蛆の説明を見せて下さいな。



→ 白蛆

 ハエの幼虫が魔物化し、成虫にならないまま進化を極めた姿。奇妙なる突然変異を重ね、強大にして唯一の存在へと昇華している。この姿で成体。別名:妖蛆


 魔王種ではないが、魔術に通じ高い知性を有し、限りなくそれに近いレベルにまで成長する。


 発見・接触に成功した人間はおらず、これらの情報は人が知り得ていないものである。



 お?

 おぉ!?


 ちょっとちょっと、白蛆かなり強いんじゃないですか?

 魔王に匹敵するとか書いてありますよ?

 誰だ! 勝手に失望して凹んでごねた挙げ句、システムさんに甘えた奴は!


「システム、これ贔屓いらないよ、放っといても勝手に魔王クラスにまで強くなるよ」


 おいおい金髪おかっぱさん、何を言いますか、貰えるものは貰います。

 況してやシステムさんの気持ちがこもったお祝い。貰わないという選択肢はないよ?


 フフフ、魔王クラスね、実に良い響きではないか。

 限りなくそれに近いレベルと書いてあるけど、別にそのレベルを超えてしまっても構わんのだろう?


 こうなれば開き直る。ベルゼブルなんて最初から目指してなかったんだ。私はウジムシを極めて最強になるのだ!


「あんまり強くしすぎるのはダメだからね。瑠璃ちゃんの為にならないよ?」

『瑠璃様ならばどのような力も使いこなして頂けます』

「……まぁ、最悪、僕がなんとかするけど。先達としてね」


 金髪おかっぱは何を心配してるんだ?

 システムさんがくれるチケットの心配? 最終進化を果たし、強すぎるスキルまで当たったら、私が自惚れてしまうんじゃないか、みたいな?


「大変簡単に言えばそうなるね、瑠璃ちゃん。普通に魔王種とか最終種に進化するんだったら良かったんだけど、白蛆の説明には強大にして唯一の存在とか書いてあるからね」


 とはいえ、ウジムシなんだよ? 腐った死体に湧くキモい虫をそこまで警戒するかい?

 自分がそこの範疇にはすでに収まっていないことは分かってるけど、でも基本はウジムシなのよ?


「どこの世界に氷魔法を操りダンジョンを自由に動き回るウジムシがいるのよ?」


 今まさに、貴女の目の前にいるの。


「いやそうなんだけどさ。はぁ、瑠璃ちゃんはイレギュラー過ぎるよ。僕の予想を超えすぎ」

『貴女も瑠璃様の魅力に気付きましたか』

「ごめん、そっちの世界は遠慮するから」


 私もシステムさんだけいればいい。他に何も欲しくないしね。

 私の愛はシステムさん専用でございますことよ?


『ありがとうございます、瑠璃様。白蛆に進化することへの御心配は晴れましたでしょうか?』


 うん、バッチリだね。心配が晴れるどころか、やる気がみなぎってきたよ!

 これで私はあと十年は戦える……!


「あ、そうだ、瑠璃ちゃんを進化中に放り出すことはないから安心してね? 僕も唯一の存在とやらへの進化を見届けたいし、終わってから送るよ」


 ありがとう、本名が可愛い金髪おかっぱ。あ、うそうそ、冗談だから手に魔方陣とか浮かべないで下さい。

 暴露された本名じゃなく、金髪おかっぱと呼んでいるんだから良かろうに。


『では瑠璃様、ゆっくりとお休み下さい。瑠璃様が進化中は私があなたを守ります』


 あ ふ ん。

 そんな良い声で貴女を守りますとか囁かれたら興奮しちゃって寝れないじゃないのよさ。

 進化を始めれば強制的に意識が落ちちゃうんだけどね!

 システムさんの言葉で気合い入りました! 白氏瑠璃、これより最終進化に入ります!




◆◆◆




「で、君はいつまで彼女と一緒にいるつもりだい?」

『…………』


 瑠璃が進化の為に眠りについた直後、ダンジョンマスターの金髪おかっぱ、メリフィリアがシステムに問いかけた。

 システムはすぐには答えない。

 答えたくないと態度で示すように沈黙を貫いていた。


「彼方側の御方から枷を外されたんだろ? だけど、今の君の雰囲気はそれだけじゃ説明が付かないんだよ」

『……既にお気付きの通りですよ。ですから私を動揺させようとしたのでしょう?』

「君の名前の件ね。あぁそうだよ、まぁ有るだろうなと思ってね」


 メリフィリアは嗜虐的に笑った。

 瑠璃にはいまいち攻められ気味だが、彼女はどちらかと言えばからかったり茶化したりと相手を苛める方が好きなのだった。


 学園長としての仕事で鬱屈している分、弱味を握ったシステムを苛めることがとても楽しいのだ。


「で、結局なんなんだよ、君の名前。言いたくないってことは仰々しく長い名前でも付けられた? まさか可愛い名前とか? 彼方側の御方から姓名を与えられることは生命を与えられることと同じ。君は今ほとんど一個の生物な訳だ。そんな君の名前は何だろうねぇ」

『聞きたいですか?』

「フフフ、隠そうったってダメ……え? お、教えてくれるの? 本当に?」


 瑠璃の進化が終わるまでとことん弄ってやろうと考えていたメリフィリアは、システムのあっさりとした反応に逆に驚いていた。

 瑠璃ラブのシステムのことだから、最初に自分の名を聞かせるのは瑠璃でなくてはならない、とか考えているだろうと思っていたのだ。


『えぇ、構いません。とてもじゃありませんが瑠璃様のお耳には入れられない、酷い名前ですよ』

「期待を煽るねぇ、聞いた僕が瑠璃ちゃんにこっそり教えるとか考えないの?」

『それすら出来ないですよ。いえ、したく無くなるでしょう』

「本当にぃ?」


 否が応にも興味を掻き立てられたメリフィリアは、システムに向かって身を乗り出した。

 だが、次にシステムが発した彼の名は、メリフィリアの予想とはまったく方向が違っていたのだった。


『私は“エヴァグ”という名を与えられました』

「…………は?」


 自分が聞き違えたのかと聞き返すメリフィリア。返すシステムの言葉は、違っていてくれと願うメリフィリアの思いとは裏腹に、寸分違わず同じ言葉が繰り返された。

 より悪い情報を伴って。


『私はエヴァグという名を与えられました。正確レグルスコアという仰々しいファミリーネームまで頂いています』

「なに、それ……、その名前の並びじゃあ、意味が……」

『はい、私は彼方側の御方によって新たな役割を作られています』


 彼方側の虹色の球体群は、この二人でとことん遊び尽くすつもりらしい。

 あの存在に悪意などない。あるのは好奇心と、経験値・カルマ値を収集するという本能のみ。


 これが球体群にとって、好奇心を満たし経験値を収集する最も効率の良い手段だと考えたのだろう。


 エヴァグとは、かつて存在した魔導師であり、高位の魔物に従う振りをしてその知識を奪い、後に裏切り殺した者である。

 レグルスコアは獅子の心臓とも意訳できる。獅子の心臓とはこの世界で、異界の神の座す場所へ通じると言われてる星の一つである。つまり、彼方側の存在へ通じていることを表しているのだろう。


 あの虹色の球体群は確かにシステムの枷を外した。だが、別の枷を嵌めたのだ。

 従った魔物を裏切り殺す異界の存在、という役割を押し付けて。


「……そんな名前では、呼ばれたくないね」


 瑠璃に言えるわけが無かった。


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