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2015年/短編まとめ

性悪と悪趣味

作者: 文崎 美生

「好きなタイプは性格の悪い人です」


好きなタイプを聞かれれば、私は笑顔でそう答えるようにしている。

ただ優しい人なんて求めていない。

好きになった人がタイプなんて、誰だってそうだ。


私が求めているのは性格の悪い人。

底意地の悪い人。

いい意味で相手を食ったような態度の出来る人が好き。

転がされるんじゃなくて、転がしてるんだよと笑える人が好きなのだ。


「あー、だから俺が好きってこと?」


お昼休み、いつも通り屋上で愛しの彼氏様とお昼ご飯を食べていると何故かそんな話になった。

だから答えたら、物凄く微妙な顔をされたけれど。

でも私は悪くないと思う。

だって聞いたのは彼氏様の方なんだから。


「まぁ、そんな性格含めて好きですよ。って話になるんじゃないかなぁ」


ふにふにと黄色い無抵抗の卵焼きを箸で突っついた。

性格も容姿も全て含めて愛せているのだから、問題はないと思う。

自他共に認められる折り紙付きの性格の悪さなのに、それすらも愛せちゃう私も凄い。

愛されている彼は幸せ者。

そういうことでいい気がする。


彼は性格が悪い。

それは付き合う前から知っていることで、自他共に認められる折り紙付きの悪さだ。

他人を良く見ていて相手を自分の手の平の上で転がすなんて、雑作もないこととか思うタイプ。

だから好き。


手の平の上で転がされる馬鹿よりも、転がしている性悪の方が断然いい。

馬鹿は好きじゃないから。

性悪は意外とモノの本質を見抜くのが早くて、ほんの少しだけガラスハート。

そしてそれを上手く繕っている。


全国の性悪さんがそうかと言われれば違うのかもしれないけれど、少なくとも私の目の前にいる彼氏様はそうなのだ。


突っついていた卵焼きを箸で持ち上げて、自分の口に入れようとしたところで、何故か彼が私の腕を掴んで卵焼きを掻っ攫う。

これはひどい。

私が卵焼き大好きだと知っての狼藉か。


「自分より賢い人じゃないと、好きになれないとかそういうつもりはないけど。悪友的な立場も心地いいってことかもしれないな」


もぐもぐ、と私の卵焼きを咀嚼しながら言う彼に、小さく眉を寄せた。

確かに恋人という関係よりも、私達の場合は悪友的な部分が強い気がする。


ラブラブイチャイチャ熱々、なんてこともなくお互いに適度な距離を保ちながらの健全なお付き合い。

今の学生は手が早いらしく、貞操観念が低い。

だからある意味私達のお付き合いは、傍から見たら不健全なのかもしれないけれど。


「優しさが凶器になるならば、底意地の悪さは絆創膏にでも包帯にでもなるってこと」


悪友的な立場も心地いい、という彼の言葉に少しだけ不満が胸の中に宿って、声のトーンを下げて言えば彼が色素の薄い茶色の瞳を丸めた。


彼のことは好きだ。

友情じゃなくて愛情。

likeじゃなくてloveだ。

そこを履き違えることも間違うこともない。

だからこそ悪友ではないんだと叫びたくなる。


彼は唇を尖らせた私を見て「ははっ!」と声を上げて笑い出す。

そういうところも性格悪いって言うんだよ。

彼の手の平の上で転がされる馬鹿は私。

それを知っていて逃げ出さないのも、対処しようとしないのも私。


噛み付くようにして私の唇に落とされた彼の唇。

私の食べられなかった、私の大好きな卵焼きの味がして、やっぱり彼は性格が悪いと思う。

でも好きな私も悪趣味だと思う。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう関係もいいですよね!
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