第八十話 融合魔法
――レオ、がんばって……!
アキは、祈るようにナコの手鏡を抱えながら、すぐ向かいに立って転移魔法の詠唱をはじめたレオを見守っていた。
月系魔法の発動を示すまばゆいほどの光に輪郭をふちどられた彼は、いつもながらに目を奪われてしまうくらいに綺麗で、美しい。
(……そういえば、はじめてレオに魔法を使ってもらったときも、すごく綺麗だなって思ったっけ……)
たしか、勇者の片腕専用の武器と防具を召喚してもらったときだったと思うんだけれど、あのときはじめてレオの魔法を見て――こんなにすごいことができる人がいるんだって、こんなに綺麗な男の人がこの世にいるんだって、思ったんだ。
いま目の前で魔法を詠唱している彼も、そのときと同じように美しくて、少し持ちあげられた形のいい唇は自信に満ちあふれていて――彼の転移魔法は絶対成功する、彼が魔法を失敗するなんてありえないことだって、アキはそう心の中で確信していた。
(だから私は、精いっぱい祈ろう。ナコのところに無事にたどり着けるように――!)
手鏡を口もとに寄せて、そう強く思いながら目をとじたそのとき、アキの肩に軽く手が乗せられた。
はっとして顔を上げると、なにかを探るように真剣な表情で周囲に目を向けていたエリアスが小声でささやいた。
「……アキ、気をつけて。なにか、妙な気配がするんだ。魔物のような、そうではないような……」
エリアス……?
不穏な言葉に、隣にいるヨハンを見やると、彼もまた警戒するそぶりでうなずいた。
『神官』職のヨハンは魔物の気配を敏感に察知することができるから、エリアスと同じように、なにか異質な空気を感じとっているのかもしれない。
ここからでは確認はできないけれど、魔法を詠唱しているレオ自身も、エリアスやヨハンと同じに妙な気配に気づいているのだろう。レオは、そんな素振りは微塵も見せていないけれど、もしかしたらそれは彼の演技なのかもしれない。
なにかが起きるかもしれない――その緊張に早鐘のようになる鼓動を感じながら、アキもまた警戒して身を強張らせる。
「――大地よ、遠くへ運んでおくれ」
レオの朗々とした声が、アキの緊張など吹き飛ばすように堂々と発せられる。
アキは手鏡をぎゅっと抱きしめた。
なにが起きても、これだけは絶対に手放さない――……!
「――未来が我々を招いている」
レオの呼び声に応えるように、鏡面から強い紫色の光があふれはじめる。
たしかこの呪文は、つぎの一節が結びの言葉だったはずだ。
アキは、レオが呪文を言い終えるのに合わせて手鏡をかざそうと、片手に持ちかえる。
そのしぐさをちらりと横目で確認したレオが、呪文の完成を間近にして、両手をさしのべるように広げて天を仰ぎ、結びの言葉を発しようとしたそのときだった。
「――う、うわぁあああああっ!」
突如、壁際でこちらを見守っていた男性教師のひとりが、かきむしるように頭を抱えながら、絶叫をあげてその場にうずくまったのだ。
な、なに―――!?
「アキ、さがって!」
立ちすくむアキを後ろに庇って、聖剣を抜き払ったエリアスが前に出る。
レオは魔法を中断させながらもいつでも再開できるように集中を保ちながら、息を呑んで男性教師のほうへ目を向けている。
状況を察したエレノアさんが、異常事態に凍りついたように動けなくなっていた学生たちに指示を飛ばして、我に返った学生たちはお互いに声をかけあいながら建物を脱出していく。
一転して騒然とする場内で、男性教師は依然として体を折って床にうずくまったまま、痛みに耐えるように苦しげなうめき声をあげている。
いったい、なにが起ころうとして――……。
アキが震える手を口もとに持っていったそのとき、男性教師が、痛みが限界に達したのか、耳をつんざくほどの絶叫とともに両手を広げて大きく体をのけぞらせた。
その瞬間――アキは、ぞっとするほどのおぞましい光景を目に入れて、ひ、と喉の奥を鳴らす。
なんと、男性教師の背中の皮膚を突き破って、こうもりに似た黒光りする巨大な羽が、扇を開くように彼の背に出現したのだ。
――な、な、なっ……!
まるで魔物そのものの羽の生えた異形の姿に、アキはよろめいて一歩後ろに下がる。
男性教師は上から糸につられてでもいるようにゆらめきながら立ちあがると、ずっと伏せたままだった面をこちらに向けた。
「ひっ……!」
その表情を見て、アキはふるえる手を握りしめたまま息を呑む。
男性教師の両目が真っ黒ににごり、瞳だけが血のように赤黒く光り輝いていたのだ。
爬虫類を思わせる鋭い瞳孔がこちらをにらみ、口もとはうっすらとほほ笑みを浮かべている。
「……融合魔法……」
だれもが言葉を失っている中、男性教師の異形を目にしたヨハンが確信を得た様子でぽつりとつぶやく。
融合魔法……?
「……なんなんだよ、それ。魔法の一種か、ヨハン……?」
レオも知り得ないことなのか、はりつめた顔で聞く彼に、ヨハンが答える。
「……ええ、融合魔法は禁止魔法に含まれるもののひとつです。もとは創世暦時代にレナード・ゲインズが研究開発をした魔法系統の一種なのですが、あの男性教師を見てわかるとおり、人間と――……そして魔物を融合させる術なのです」
え―――……。
ということは、彼は、あのこうもりのような羽を持つ魔物と体をひとつにさせられているということ―――?
「融、合って……異種族の身体を合体させることなんて可能なのかよ? 人体実験みたいなもんじゃねぇか……! レナードは、どうしてそんな……倫理的に許されねぇ危険な魔法を造りだしたんだ! なんのために!」
長く魔法というものを愛して学んできたレオにとっては、レナードの開発した融合魔法――レオにとっては人体実験のような魔法――は許せないものだったらしい。
怒りをにじませて声を荒げるレオに、ヨハンは短く首を左右に振る。
「落ちついてください。そのすべての質問にいま答えている時間はないので手短に説明しますと、異種族の体を合体させることは可能です。正確には、人間の魂と魔物の魂を融合魔法によって混ぜ合わせるのです。それによって、人間と魔物のハーフが……できます」
「ハーフって――……魔法で人や魔物の魂に干渉できるなんて、聞いたことがない」
それじゃあ魔法によって人や魔物の生死を左右できるってことじゃないか、と表情を強張らせるエリアスに、ヨハンがうなずいてみせる。
「そうですね……。ですがエリアス、貴方もまた女神が魔法によって人為的に魂を造りだして生まれてきたはずです。ですから、魔法によって魂に干渉することは可能なんです。融合魔法が、かぎりなく女神の魔法に近い天上のものであるのでしょうが……」
つまり、レナードは創世の女神に匹敵するような魔法使いだったということ――?
次々と知らされる事実に、みんながなにも言えずに黙り込んでいると、ヨハンが必要なことを最小限で伝えようと早口で続ける。
「それに、なにもみなさんは融合魔法を受けた人間をはじめて見るわけではありません。みなさんも知っているジェント・サトクリフが、まさに人間と魔物をかけ合わせた存在です。つまり、魔族とはもともと融合魔法によって造られた存在なのです」
「……――嘘だろう? じゃあ、魔族なんて種族はもとから存在したわけじゃなく、魔法で人工的に造られたってことかよ……」
呆然とつぶやくレオに、ヨハンが神妙な面持ちでうなずく。
じゃあ、サトクリフはもともと魔族ではなく普通の人間だったっていうこと……?
エリアスが思案するようにあごに手をあてる。
「……なるほど。魔族が融合魔法によって生み出されるのだとしたら、魔族が人間よりも長寿なのもわかる気がするよ。融合魔法によって、生命力の源である魂に力が加えられるわけだからね」
エリアスのいうとおり、サトクリフが魔族となって気の遠くなるような年月を生きてきたんだとすると、逆算すると、もしかしたら彼は――創世暦時代に生まれた人だったんじゃないだろうか。
そして、なんらかの事情があって、その時代を生きていたレナードに融合魔法をかけられて魔族となり、いまのいままで生きてきたとか―――?
そう考えれば、いつか彼が創世暦時代のことを知っているふうな口ぶりでいたのも納得できる……。
その融合魔法をかけられた男性教師――では彼も魔族なのだろうか――は、こちらに襲いかかってくるかと思いきや、全身が痛むのか体をかきむしるようにもがいている。
その様子を見て、ヨハンがつらそうに唇をかんだ。
「……ですが見てください。あの教師は、サトクリフと違って様子がおかしいでしょう――まるで魔物に呑みこまれているようではありませんか。つまり、融合魔法は非常に不完全な状態で完成しなかったのです。たまたま、いまいる魔族であるサトクリフたちが少数の成功例だっただけで……。融合魔法は、あのように体が拒絶反応を起こして、知能の低い魔獣と同じように見境なく人を襲うものになり果てるのです。だから――」
ヨハンはいよいよ白くなるほどに唇をかみしめて、顏を伏せる。
「だから、融合魔法は大変危険であるとして、開発者のレナードが創世暦時代にいっさいの使用を禁じて、禁止魔法に区分されるようになったんです。レナード自身も融合魔法を造りだしてしまったことを生涯悔いていたと聞きます。ですから、現代で目にするはずはないのに――」
――『神殿』が、秘密裏に研究を続けていたとしか考えられません……。
歯を食いしばるようにつぶやかれたヨハンの一言に、みんなが言葉を失う。
「……先刻エレノアさんからうかがったのですが、あの教師は、もとは『神殿』の神官であった者をつい最近『学府』の太陽系魔法史の新任講師として採用したのだそうです。そうだとすると、彼に『神殿』の息がかかっているのは疑いようのないことです」
……だから、融合魔法を裏で研究し続けていたのは『神殿』に間違いないのだ――とヨハンは言いたいのだろう。
けっしてヨハンが禁忌を犯しているわけではないのに、いずれ教皇様の実子として『神殿』のトップに立たなければならない彼にとっては、責任を感じることだったのかもしれない。
そんなヨハンの心境を察した聡いレオが、視線を伏せているヨハンの肩を軽くたたく。
「……まあ、おまえのせいじゃねぇんだから気にすんな。いつかおまえが『神殿』の教皇に就任したときに、融合魔法を研究していたやつらを正しく裁いて研究をやめさせてくれりゃあいい」
「そうだね。そのときは、微力ながら俺も力になるよ。『勇者』が味方についているとなれば、周りにとやかく言わせない迫力だけはあるだろうからね――」
軽く茶目っ気をふくんだように言ったあと、エリアスは男性教師に目を向ける。
「――それはともかく、『神殿』は、融合魔法を付与した彼を事前に『学府』にしのび込ませておいて、俺たちの転移魔法を妨害しようとしたってことだよね」
「おそらくは……」
うなずくヨハンに、レオがくやしげに前髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。
「ちくしょう、見誤ったな。俺は、てっきり『神殿』のやつらは転移魔法に妨害魔法を上掛けする――いわゆるコンタミネーションを使って俺の魔法を散開させてくんじゃねぇかと予想してたんだよ。だから、その対策は昨日ヨハンとしておいたんだが……あの教師を見てると、そんなまどろっこしいことじゃなく、物理的に俺たちに襲いかかってきそうだよな」
まるでレオのその言葉に応えるかのように、教師が痛みと苦しみから全身を震わせながらも、ゆっくりと顔を上げて赤黒い目でこちらを見すえた。
レオの転移魔法を妨害する――『神殿』から命令されたその使命を、なんとしてでも実行しようとしているのかもしれない。
すらりと、エリアスが腰の聖剣を抜き払う。
「――ヨハン、あの教師と魔物を分離させる方法は?」
眼前に剣をかまえたまま振り返らずに聞くエリアスに、ヨハンは力なく首をふる。
「残念ながら……。彼ごと、魔物を倒すしかありません。どのみちあの拒絶反応では――彼の生命力は、そう長くはもたないでしょう」
数時間もしないうちに命を失うはずです、とヨハンは静かにつけ加える。
「……わかった」
エリアスは、いまにも翼を広げて襲いかかってこようと、前かがみになった教師を牽制するように剣を一振りしてみせる。
「エリアス、あの人のこと……」
――私たちの手で、あの人の命を断つしか方法はないんだろうか……。
エリアスが一時的に教師の攻撃を止めている間に、レオが転移魔法を完成させるという手もあるけれど、そうするとあの魔人と化した教師をここに野放しにしたまま自分たちだけ魔王城に転移することになって、学府のみんなに大きな被害が出てしまうだろう。
それを防ぐためにも――……私たちが、あの人をここで食い止めるしかないのかもしれない。
人の命を奪うということに、どうしても気がとがめてしまうアキに、それを察したエリアスが少しふりむいて口もとをもちあげた。
「大丈夫だよ、アキ。彼の命を奪うようなことはしない。――彼も一緒に、魔王城に転移させよう」
「へ……?」
「――は、はあ?」
エリアスのとんでもない一言に、当の転移魔法を担当するレオが目を丸くする。
レオがなにか言い募るよりも早く、エリアスが名案といわんばかりにいつもの光を放つような笑顔を浮かべた。
「だって、魔王なら融合魔法を解くなんらかの方法を知っているかもしれないじゃないか。魔王ケルディスは魔族の王なんだから。このまま、なんの方法も模索しないで彼の命を奪うなんて……俺は、そんなあと味のわるいことはしたくはないんだ」
「そうかといっても、おまえな……」
あの暴れまわりそうな魔人と一緒に仲良く魔王城へ転移すんのかよ、とレオはしぶい顏をしながらも、正義感にあふれるエリアスの言葉がうれしかったみたいで、口もとはほほ笑んでいる。
そうだよね、エリアスなら、きっと彼を犠牲にするようなことはしない。
助けたいと思う人がいるなら、やってもいないうちからあきらめないで、全力でやってみなくちゃ、だよね!
エリアスは少しレオを振り返ると、腕を伸ばしてその肩を軽くたたいた。
「レオなら多少無茶だと思えることだってできるだろう? なにせきみは、勇者の――俺の魔法使いなんだからね。信じているよ」
「……だ、だからなあ、おまえはその、さりげない人たらしの癖をなんとかしろ! ――わかった、わかったよ! なんとかやってやるから、おまえらちゃんと援護しろよ!」
照れながらぶっきらぼうに言うレオが、転移魔法を再開させようと姿勢を正して、てのひらを天に向けて両手を広げる。
ヨハンが、壁際で一部始終を見守っていたエレノアをふり仰いだ。
「エレノアさん! 聞いていただいたとおり、僕たちはあの男性教師ごと魔王城に転移します! あとのことは頼みます!」
「わかったわ! ご武運を、勇者様、アキちゃん、ヨハンくん、レオちゃん―――!」
祈るように手を組み合わせて言うエレノアに、アキは力強くうなずいたあと、手鏡をいったんスーツの外ポケットにそっとしまいこむ。
代わりに胸ポケットのペンを取りだして弓と矢筒に変化させると、それをしっかりと男性教師に向かってかまえた。
前に立つエリアスが、聖剣をたずさえて飛びだしざまにこちらをふりかえる。
「アキ、援護を!」
「はい……!」
「――大地よ、遠くへ運んでおくれ」
レオの転移魔法の詠唱が再開される中、エリアスが男性教師に向かって地を蹴り、それに応えるように教師もまた魔物さながらの牙と爪を鋭利にきらめかせて、エリアスめがけて迫ってくる。
それと正面から激突したエリアスが、教師が力任せにふりおろした爪を聖剣で受け止めたと同時、矢を射るために教師の足もとに狙いを定めたアキに、かたわらのヨハンが声をかける。
「アキ、融合魔法による魔人の弱点は胸もとの核です! 人間と魔物の魂をつなぎとめているもの――あれを多少傷つけることができれば、彼の動きを止められるかもしれません」
「わかりました……! やってみます!」
こちらのやりとりを耳のかたすみで聞いていたのか、エリアスは承知したようにうなずくと、魔人の爪を受け止めたままの剣をぐっと強く握り直す。
そうして、体を大きく押しだして、剣で爪を押し戻した。
その反動で、大きく開く魔人の体―――
「――アキ、いまだ……!」
エリアスの鋭い声が、遠くに聞こえる。
アキはそれを頭のどこかで聞きながら、神経を研ぎ澄ませて、心が鎮まるほどに集中しながら、あらわになった魔人の胸もとの核に狙いを定めた。
――大丈夫、できる……!
私だって、勇者様の――エリアスの『勇者の片腕』なんだから―――……!
胸もとの核だけを視界の中にとらえて、アキが引き絞った弓弦から矢を放ったのを見計らって、エリアスが大きく横に飛び退く。
レオの転移魔法によって淡く光り輝く場内を、ひとつの箒星のようにアキの放った矢が魔人に向けて疾走していく。
「――未来が我々を招いている」
レオのよどみない詠唱が片耳に響いた。
当たれ、当たれ―――……っ!
アキの心からの祈りが届いたのか、月の女神の力を宿して銀に輝く矢は魔人の核を正確に貫き、こちらの意図を汲んでそれを破壊することなくヒビを入れた状態で矢が消滅する。
「ギャアアア――――!」
なんともおぞましい絶叫をあげながら、魔人が力を失って後ろざまに倒れこむ。
上手く、いった―――……!
あまりにもほっとしてしまって、体の力が抜けてその場にへたへたと座りこみそうになったアキを、かたわらで詠唱していたレオが腕を伸ばして引っ張りあげた。
そのまま、アキの腰に腕をまわしてぐっと自分の体に引き寄せる。
「おいアキ、しっかりしろ! もう少しだ! 俺につかまってろ!」
「う、うん……!」
アキは、抱き寄せられたまま間近にあるレオの真剣な横顔を見つめる。
転移魔法の余波が他へ行き渡らないように、ヨハンが外野のエレノアのいる部分に結界魔法を発動する。
気を失ってしまった教師を両腕に抱えて、エリアスがアキたちのところに駆け寄ろうと足を踏みだした。
レオは、そんなエリアスの動きを目で確認してから、最後の一節を唱えようと大きく息を吸いこんだ。
――いよいよ、いよいよだ……!
アキは弓と矢筒をペンの形状に戻して胸ポケットに差しこむと、ジャケットの外ポケットにしまいこんでいた手鏡を両手でしっかりと持って、願うように額の前に持ってくる。
ナコ、お願い、私たちをあなたのところに連れていって――……!
「――どこにいても、等しく時は流れるのだから――……!」
レオが呪文をつむぎ終えたその瞬間、アキが握りしめていたナコの手鏡から、あふれんばかりの光があたりを貫いた。
かたわらには、しっかりと抱き寄せてくれているレオと、魔人を抱えているエリアス、最後まで結界魔法を保とうと意識を杖に集中しているヨハンのたしかな気配がある。
「いってらっしゃい……! いってらっしゃいみんな……!」
強い光にうすれていく意識の中で、エレノアが必死ながらも明るく背中を押すように送りだしてくれる声が鮮明に聞こえた。
――いってきます、みんな――……!
かたく閉じたまぶたの裏で、魔王城の景色が――見えた、気がした――……。




