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第六十八話 出陣

 翌朝、旅装をすませたヨハンは、同じように支度を済ませた仲間たちとともに宿屋の一階に集まり、今後の行程について輪になって話し合いを行っていた。


 というのも、今日から以後は各自の役割分担に沿って別行動になるので、お互いの滞在先を把握しなければならなかったのだ。


 それぞれに重要な仕事を担った上でめいめいの目的地に旅立つことになるので、全員、使命感に燃えて気合い充分といった雰囲気だった。


「それじゃあ、もう一度確認なんですが――」


 勇者の秘書として一生懸命手帳にメモをとっていたアキが、ペンをあごに当てながら手を上げる。


「まず、エリアスとレオ、ヨハン、私の4人のチームが、ナコの手鏡を使って魔王城への転移魔法を唱えるために、レオの故郷である『教育先進国』へ向かうんですよね」


 アキがレオに視線を向けると、彼は、そのとおり、と言わんばかりに腰に片手を当ててうなずいた。


 魔王城というのは、自分たちの住む本土からは遠く離れた離島に存在している。そのため、魔王城へたどり着くためには、なかなか挑むことのない長距離を転移魔法で飛ばなければならないため、大変困難をきわめるのだ。


 というのも、転移魔法というのは、目的地への距離が遠ければ遠いほど難度を増す魔法なのである。


 そういった理由で、魔王城への転移魔法は、相当に精度を高めて試みないととんでもない座標に飛んでしまう危険をはらんでいるのだ。それこそ、誤って海の上に飛んでしまってそのまま真っ逆さま……ということもなくはないのである。


 そこで、少しでも成功確率を高めるための策として、レオの卒業した教育先進国の学府と呼ばれる魔法学校を頼り、学校の設備として用意されている転移魔法専用の部屋で行おうということになったのである。


 レオいわく、その部屋は魔力を高めるための魔法道具が数多く設置されており、また、学府には腕利きの魔法使いたちが教員として勤めているため、彼らの力を借りれば魔法の精度が格段に上がるだろうという算段なのだ。


 ならば、魔王城への転移魔法は学府で行うのが得策だろう――ということになり、エリアス率いる自分たち4人のチームは教育先進国に向かうことになったのである。


「それで、私たちは王国の王立図書館へ向かえばよいのだったな」


 サトクリフから託された『創世記』を片手に抱えたルイスが、隣に立つミーナと顔を見合わせてから言う。


 創世暦時代の古代語で書かれている『創世記』は、現代語に解読しないと読むことすらままならないため、古代語の知識に長けているルイスと、その大体の部分が理解できているミーナが彼の助手としてつき、王国の王立図書館にこもって解読作業に入ることになっていた。


 なにぶんエリアスの仲間内にしか公開できない内容のため、言論学者たちの力を借りて大人数で一気に翻訳をかけるわけにもいかないので、ルイスには不眠不休で頑張ってもらわなければいけないかもしれない。


(――それにしても……)


 ヨハンは、『創世記』の中身を指さしながら、ミーナと何事かを言い合っているルイスの様子を盗み見る。


 彼が一介の貴族出身であることは聞いているけれど、なぜ、よほど専門的に学ばないかぎり理解できない古代語の分野に、学者顔負けなくらい精通しているのだろう。


 吟遊詩人は、たったひとりでひとところに留まらずに世界中を旅してまわるとはいえ、その経験だけであんなにも知識が得られるものなんだろうか……。


(たぶん、ルイスもまた、ただの吟遊詩人じゃないのかもしれませんね……)


 きっと彼も、自分と同じように、後ろに秘めているものがあるのだと思う。


 おそらく、彼だってなにかの思惑があって勇者の旅に同行しているのだと思うから、本当はエリアスに実害が出る前に問いただすべきだと個人的には思うのだけれど――彼の雰囲気を見るに、どうしても悪人には思えないのだ。


 むしろ、彼の物事に動じない肝の据わり具合や、指先まで行き届いた上品な所作を見るに、自分たちが思っているよりも身分の高い人物なのでは……と思うところもある。


 そのあたりはおいおい突きつめたいところではあるけれど、ともかく、ルイスが仲間にいることは、エリアスにとって害になるというよりは有益になりそうな気がしているので、今のところは彼に対してなにかしようとは思わなかった。


 ちなみに、この場にいないサトクリフは、朝みんなが起きだす前に魔王城へと戻ったらしく、謝罪とお礼、それから魔王城で待つと書かれた簡単な置き手紙だけが残されていた。


 サトクリフにはさんざん振り回されたけれど、結果的には、自分たちの状況を大きく進めてくれたなあと思う。


 もう少し他にやり方があっただろう、とは思うけれど……。


「それじゃあ、みんな、いったんここでお別れね」


 なんだかしんみりした様子で、ミーナが目をうるませる。


 それにつられるようにさびしそうに視線を伏せるアキを見て、ミーナが耐えかねたように彼女に飛びついた。


「アキ、あたしがいなくても怪我とかしないように気をつけてね! エリアスにとんちんかんなことを言われても、レオに無茶なことを言われても、ヨハンに嫌味を言われてもめげちゃだめよ!」


「とんちんかん……」


 思わずぽつりとつぶやくエリアスに、レオがふきだし、ヨハンはなにも言わずに肩をすくめた。


 ――まったく、アキに嫌味なんて言った覚えはないのに、心外なんですが。


 エリアスが、ぱん、と一度軽く手を叩くと、彼に向き直った仲間たちを見渡した。


「それじゃあ、これからは各自別行動になるけれども、俺たちは変わらず同じ勇者パーティの仲間だ。だから、なにか困ったことがあったら、伝令魔法や手紙などの通信方法ですぐに誰かに連絡すること。みんなで力を貸しあっていこう」


 力強くほほ笑んで言うエリアスに、みんなもまた顔を輝かせてうなずいた。


 つい昨日まで、勇者としてひとりでなんでもかんでもやろうとしていたエリアスの言葉だっただけに、なんだか彼に頼られていると思えてうれしかった。


 エリアスを先頭に、みんなでそろって宿屋を出ると、抜けるほど晴れた青空が頭上に広がっていた。港町特有の燦然と輝く陽射しが目にしみるほどにまぶしい。


 空を横切るカモメたちが鳴き交わす声が、自分たちの門出を見送ってくれているかのようだった。


 太陽の光を一身に受けているかのように金色にふちどられたエリアスが、後方に並び立っている仲間たちを振り返った。


 そうして、勇者と呼ばれるにふさわしい、自信に満ちあふれた晴れやかな笑顔で言った。


「――それじゃあみんな、健闘を祈る」






「で、またこのおなじみのメンバーですか……」


 港町から原野へと出て、祭服の袖口を整えていたヨハンは、準備運動さながら機敏に屈伸をしているエリアスと、大きく伸びをしてくつろいでいるレオ、いまだに原野に慣れないのか緊張した面持ちでいるアキの、それぞれの様子を見渡して小さく息をはいた。


 ……なんなのだろうか、この懐かしい感じは。


 このメンバーで初めて原野に出た、この旅の当初のことを思いだすようだった。


 あれからずいぶんと時間が経ったように感じるのは、それぞれに満身創痍になるほどいろいろなことを乗り越えてきたからだろうか。


 原野の青空を見上げて深呼吸していたレオが、歯を見せた笑顔で振り返る。


「なんかこう、原点回帰って感じするよな、この面子」


「初期パーティだからねえ」


 聖剣の柄に手を乗せながら、エリアスが笑んでしみじみとうなずいている。


 冒険に出たばかりのあの頃と今とで違うことといえば、みんながあのときは知らなかったことを知り、それぞれに新しい課題を得ていることだろうか。


 自分もまた、あのときはエリアスの『監視役』だった自分とは違い、エリアスの真の仲間として旅立つのだ。なかなかに爽快というか、晴れやかな気分だった。


「それで、教育先進国ってここからどれくらいで着くんですか?」


 額に手をかざして原野の先を見すえるアキに、事情通のレオが答える。


「そうだな、人の足だと数週間はかかるだろうな」


「数、週間……?」


 ひ、とアキが顔を青ざめさせて、レオがアキをからかったことに気づいたヨハンは、彼をにらみつけながら口をはさんだ。


「レオ、人が悪いですよ。数週間というのは、レオの言葉どおり、人の足で歩いて行った場合のことです。ですが、僕たちはそんな非効率的なことをしている状況ではないので、レオの相棒の力を借ります」


「レオの相棒……、あ、ミルシープですね!」


 思いだしたように手を叩くアキに、ヨハンはうなずいてみせる。


 そう、原野を渡るならば召喚獣の背に乗るにかぎるのだ。本当は転移魔法で瞬時に移動するのが一番効率がいいのだが、これから魔王城までのそれを使わなければならないとなると、なるべく魔力は温存しておいたほうがいい。


 ミルシープの足なら数日もあればたどり着けるだろうから、自分たちのレベルならばさほど危険もないだろうと思う。


 レオは、離れてろ、とでも言うように手で示すと、毎度おなじみの小型の魔導書を取りだした。それを手のひらに乗せると、該当のページをぱらぱらとめくって止める。


 彼は目を閉じ、まっすぐに伸ばした指で召喚魔法の円陣を描き始めた。


「――呼び合う声が聴こえるか、応えておくれ、契約の友よ。空を渡り、迎えにきておくれ」


 に、と笑ってレオが両手を開くと、思わず拍子抜けするような軽快な音が鳴り、辺りに白煙が舞い上がった。


 風にのってそれがだんだんと薄らぐと、もこもことした小型の白い羊が地面に座り込み、黒いつぶらな瞳できょろきょろと周囲を見渡していた。


 そうして、ご主人であるレオの姿をみとめるなり、きゅう、とうれしそうな鳴き声をあげる。


 ――召喚獣って、かわいいなあ……。


 比較的、動物は怖くて苦手な自分だけれど、ああやって無垢に懐いてくれる生き物がいるというのはうらやましいと思う。


 太陽系魔法には召喚魔法がないから、なおさら憧れが強くなるのだ。


 そうして、これも毎度おなじみでミルシープに巨大化してもらい、ヨハンたちは勝手知ったる顏でその背に飛び乗った。


「おまえら、準備はいいか」


 先頭に乗っているレオが、同じようにミルシープの背につかまっているこちらを振り返る。大丈夫、とレオの声かけに応じるのすら、冒険当初のことを思いだして懐かしさを感じる。


 レオは、みんなの準備が整っているのを確認すると、前方に顔を戻して片手を原野の先へと向けた。


「――それじゃ、勇者ご一行様、出陣!」






いつも応援ありがとうございます!

本日、別所で「白と黒の聖女」という小説の新連載を始めました! 異世界召喚された主人公×王弟殿下の恋愛ファンタジーです。もしよろしければ、応援に見にきていただけたらうれしいです^^

作品は、

・タイトルの「白と黒の聖女」で検索

・作者ウェブサイト(http://yamazaki-tsukasa.tumblr.com/)からジャンプ

・作者ツイッター(http://twitter.com/yamazaki_tw)からジャンプ

で見られますので、どうぞみなさまぜひ遊びにいらしてください^^

「勇者様の秘書になりました」ともどもなにとぞよろしくお願いします。

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