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第五十四話 すべてを守るために

 アキが光の柱の中に飛び込んでからややあって、それが膨張するようにひときわ強い輝きを放ったと思った瞬間、その柱が残滓を散らしながらあたり一面に砕け散った。


 その光景を呆然と見つめることしかできなかったミーナは、光がすべて消失したあと、その場所にエリアスとアキが折り重なるように倒れているのを目に入れて、一気に意識が現実に引き戻される。


 ミーナはわき目もふらずにエリアスたちに駆け寄った。


「――エリアス、アキ! しっかりして!」


 うつ伏せに倒れているふたりのもとに膝をつき、彼らの頬に触れて状態を確かめる。


 ふたりとも固く目を閉じて気絶しているけれど、命に別状はなさそうだ。


 注意深くふたりの前髪をよけて額を見てみると、あのおかしな紋章はすっかり消えうせていた。エリアスもアキも、心なしか安心した表情を浮かべているように見える。


 この様子だと、きっとエリアスは自我を取り戻すことができたのだろう。


 そう思ってほっと息を吐いたのとほぼ同時、後方でどさどさと人の倒れる音が続いた。


「レオ様、クラレンス!」


「しっかりしろ!」


 ミーナが驚いて振り返ると、サトクリフとルイスが昏倒したレオたちを助けようと駆け出すところだった。ふたりが向かう先には、レオとヨハンが地面に倒れ伏したまま身じろぎひとつしないでいる。


(エリアスたちだけじゃない、レオもヨハンも限界だったんだわ……!)


 月の女神の力を顕現させるいにしえの魔法を、女神から与えられた武器――聖遺物を操って発動させたのだ。そんな神の御業のようなことをやってのけたのだから、自分などでは想像もつかないほどの大きな力を使ったに違いない。


 それに、レオもヨハンもここへ来るまでに相当数の魔物と戦っていて、さらにエリアスとの戦闘で多くの魔力を消費していたはずだ。


 その満身創痍の状態でさらに聖遺物を使ったのだから、きっと彼らは自分たちの身体をそっちのけで無理をしたのだろう。


 かがんでレオとヨハンの容体を診たルイスが顔をあげた。


「ミーナ、とりあえず皆を一か所に集めよう。なんとか無事にここを脱出しなければ……」


「わかったわ。はやくみんなを休ませないといけないものね……!」


 同意するミーナにうなずいてから、ルイスはヨハンの腕を自分の肩にまわして、彼を支えながら立ちあがった。


 サトクリフが、ルイスにならってレオの腕を肩にまわしながら言う。


「脱出か……。転移魔法を使うしかねェだろうなァ。けど、この人数じゃオレひとりで運びきるのは到底無理だ」


「え……、魔族のあんたでも無理なの?」


 魔族の魔力量なら転移魔法で大人数を移動させるなんてたやすいと思ったのだけど……。


 ミーナの問いかけに、サトクリフはレオを背負ったまま肩をすくめてみせる。


「あいにくな。魔王様ならまだしも、オレみたいな普通の魔族じゃ、一回に自分ともうひとりを運ぶだけで精いっぱいなんだ。何往復もするって方法もあるが、それをやると先にオレ様がへばっちまう」


 レオをエリアスたちの近くに横たえながら、サトクリフがぼやく。


 気を失ってしまっているエリアスたちは、みんな落ちついて呼吸をしているけれども顔色は心配になるほどに青白い。早めに休ませなければ体調が悪化する可能性もある。


 ミーナは、不安げにルイスとサトクリフを交互に見る。


「いま動けるのはあたしたち三人だけか……。なんとか無事にみんなで脱出するにはどうすればいいのかしら……」


 ぱっと思いつくのは、サトクリフに魔力回復薬をがんがん飲んでもらいながら転移魔法を連発してもらって、何度も往復してもらうことだ。


 ルイスと自分は自分たちの足でこの遺跡を脱出するとして、そうすればサトクリフはエリアスとアキ、レオとヨハンを順々に運び出せばいいことになるから、四往復で済むことになる。


 けれど、自分もルイスもヨハンに傷を全回復してもらったとはいえ、これまでの魔物やエリアスとの攻防で蓄積された疲労があって、本調子とはいえない。


 この状態で来た道を戻りきれるかというと、魔物との遭遇率にもよるがあまり自信があるとはいえなかった。


(でも、エリアスたちを無事に助けるのが最優先なんだから、ここは自分たちの踏ん張りどころよね……!)


 それを提案しようとミーナが口を開きかけたところで、ルイスが自分の中でなにかを決意した様子で言った。


「―――私がやろう」


「へ?」


 突然なにを言いだすのかとルイスを見ると、彼はその整った双眸を真剣に細めた。


「転移魔法だ。――サトクリフ、貴方と私のふたりがかりで転移魔法を唱えれば、この場にいる全員を一気に港町まで運べるか?」


「そりゃまあ、そうだが……。けど、おまえは吟遊詩人で、転移魔法を習得できるのは魔法使いだけだから分野が違うだろ。それをどうやって……」


「転移魔法ならば、実際に唱えたことこそないが理論は知っている。魔族が一緒ならば成功率も高いだろう。――それに」


 ルイスは、力を使い果たして気を失っているエリアスたちに視線を向けてから、もう一度ミーナたちに目線を戻した。


「彼らが力を尽くしてくれたおかげで、私たちはこうして助かったのだ。だから、私も彼らのために、己にできる精いっぱいのことをやりたいのだ」


 そこで言葉を切って、ルイスは勝ち気そうに唇を持ちあげた。


「それに、こういう場面で勇者を助けられてこそ、真に勇者一行の仲間といえるのではないか?」


 一瞬きょとんとしたサトクリフは、おもしろそうに声をたてて笑った。


「なるほど、違いねェ! いい覚悟だ! 気に入ったぜ!」


 お互いの拳をぶつけあって士気を高めているルイスとサトクリフを前に、ミーナはふたりにはわからないようにぎゅっと拳を握りしめた。


(あたしも……みんなの力になりたい)


 自分だって勇者パーティの一員だ。エリアスやアキ、レオやヨハンのためにできることはなんだってしたい。


 ミーナは自分の胸に手をあてて前に進みでる。


「ねえ、あたしにもなにかできることはないかしら? 魔法は無理だけど、それ以外のことならなんでも手伝えると思うわ」


 『盗賊』は多芸な者が多いから、比較的どんなことでも器用にこなすことができるのだ。


 そう願いでると、ルイスがやわらかくほほ笑んで、ミーナの頭にぽんと手を乗せた。


「ありがとう、ミーナ。それならば――」


 ルイスはローブの内ポケットから小さな布袋を取りだすと、その中からきらきらと光を散らす細い糸をつまみだした。


 綺麗に束ねられているそれを、ミーナの手のひらにそっと乗せる。


「その糸で、エリアスたちの人差し指を結んで全員をつないでくれないか。その糸には月系魔法の効果を共有する力がある。転移魔法の最中にエリアスたちがはぐれてしまわないように、その糸で全員をつなぎとめておきたいんだ」


 おそらくこの糸は魔法道具の一種なのだろう。


 転移魔法は対象を別の場所に一瞬で移動させる高度な魔法だ。それが発動している最中に万が一誰かがはぐれると、下手をしたらその人だけ全然別の場所に転移したりして大変な事態になってしまうのだ。だから、魔法道具の糸でつないで魔力によって彼らをつなぐことで、それを未然に防ごうというのだろう。


「わかったわ、任せて」


 ミーナはうなずくと、まずはエリアスの右手をとってその人差し指に糸をまわして、さらにその糸をアキの人差し指へ、次にレオへ、ヨハンへ、と彼らの人差し指がその糸でつながるように結んでいく。


 器用に手早くからめていって、最後に糸がほどけないかどうかを少し引っ張って確認してから、ミーナは結び終わった糸の端を持ってルイスに歩み寄った。


「できたわ、これでいいかしら?」


「ああ、ありがとう。ずいぶん速いな。やはり君はとても器用なのだな。では、最後にその糸を私の人差し指につないでもらえるか?」


 ルイスは自分の人差し指をミーナの前に差しだす。


「えっと――」


 彼の手に触れなければならない状況に、ミーナは自分でも意外なほどにどきどきと胸が高鳴ってしまう。


(いままでは、こんなにルイスのこと意識したことなかったのに……)


 確実に彼に惹かれつつある自分の気持ちを自覚して、ミーナはどうしようもなく恥ずかしくなって視線を伏せた。


 ためらっているミーナを不思議に思ったのか、ルイスが首をかしげる。


「どうした」


「へ? あ、ううん、なんでもないわ……!」


 ミーナは自分の気持ちを悟られないようにあわててルイスの手を両手でしっかりとって、その男性らしい大きな手と節ばった感触にさらに鼓動がはやくなってしまう。


(……彼は、この手であたしのことを守ってくれたのよね)


 遺跡での魔物の襲撃から庇ってくれたとき、落ち込んでいたときに頭に手を乗せてくれたとき、エリアスの斬撃から守ってくれたとき――いつだって彼は、自分のことをそばで見ていてくれたのだ。


 自分の中にある彼への想いがわかって、ミーナは胸もとに手を寄せて目を閉じる。


 ――あたし、ルイスのことが好きなんだわ。


 それはもう、否定しようもない事実で。


 そう自覚すれば気持ちは加速するばかりなのだけれど、彼は貴族の三男坊で、貧民街出身の自分がつりあうような相手ではなくて……。


 どんなに恋い焦がれても、手の届く人ではないのだ。


 こうしてエリアスをとおして出会わなければ、きっと自分は、貴族のきらびやかな世界で生きる彼を、スラム街の薄汚れた陰から遠巻きに見ることしか叶わなかったはずだ。


(身分不相応な恋、なのよね……)


 わかっている。


 だから、身を引かなければ。


 これ以上、彼のことを好きになってはいけない――。


「ミーナ?」


 よほどつらそうな顏でもしていたのか、ルイスが心配げにこちらをのぞき込む。


 ミーナはあわてて顔をあげると、からりと明るく笑ってみせた。


「あ、ごめんなさい、なんでもないの。それよりも、これでいいかしら?」


 ミーナはしゅるりとルイスの人差し指に糸をまわして、手早く結び終える。


 糸は、光の屑を散らしてできているような透明なものなのだけれど、たしかにルイスとエリアスたちを結びつける命綱になった。


 ルイスはミーナによって蝶結びにされた人差し指を見やって、満足げにうなずいた。


「これで安心だな。ありがとう、ミーナ。――さて、次は私の番だな」


(次はいよいよ、転移魔法の詠唱になるんだわ……)


 手練れの魔法使いでも数人がかりでないと唱えられず、あのレオですら魔法道具なしでは展開できない超難度の転移魔法を、本来専門外の吟遊詩人であるルイスが詠唱するのだ。


 みんなの命がかかっていることもあって、そのプレッシャーたるや、はかり知れない。


「……ルイス、大丈夫?」


 よくよく見たらルイスの手がわずかに震えていて、ミーナは思わず上目遣いに見る。


 なにがあっても飄々としている彼だけに、いまの彼の緊張感が伝わるようだった。


 ミーナは手を伸ばすと、震えている彼の手を両手で包み込む。少しでも自分の力が彼に伝わるように。


「大丈夫、あなたなら大丈夫よ。今までだって、あなたがいてくれたから乗りきれたことがたくさんあった。あなたはとても頼りになる人よ。だから今回も、絶対に上手くいく」


 めずらしくひるんだ表情を見せるルイスを見上げて、ミーナは自分ができうる精いっぱいの明るい笑顔を浮かべた。


「あたし、あなたのこと、信じているわ!」


 ルイスは一瞬胸を打たれたように瞳を揺らしたあと、ミーナの手を両手で強く握り返した。


「――ありがとう。君がいてくれれば、私はどんなことにも立ち向かっていけそうだ」


 目を閉じてそう告げて、ルイスは口の端を持ちあげて勝ち気に笑ってみせる。


「どうか、私のことを、見ていてくれ」


 ミーナがうなずくと、ルイスはほっとしたようにほほ笑んでから、エリアスたちから一定の距離をとって下がった。


 ルイスの真向いに、同じように一定距離をとってサトクリフが立つ。


「準備はいいか」


 サトクリフが声を投げかけて、ルイスが首を縦に振る。それを確認すると、サトクリフはすっと前方に右腕を伸ばした。ルイスもそれに倣い、右手を前へ持ちあげる。


(いよいよ詠唱だ……)


 ミーナがごくりと唾を飲み込んだそのとき、突然足もとが大きくよろけるほどの地震が起こった。下から突きあげるような震動がきたかと思うと、地鳴りはいっこうに止まることなく激しく地面を揺るがしていく。


「な、なに、どうしたの!」


 ミーナはとっさに身を低くして体勢を保ちながら、警戒するように周囲を見渡した。


 震動に耐えきれずに、天井からばらばらとがれきが雨のように降りそそいでくる。あたりの岩壁に亀裂が入って、倒壊したその岩の欠片が轟音をたてて地面に落下した。


 目の前にたえまなく降る砂つぶてが視界を奪うなか、ミーナはなんとかルイスやサトクリフの姿を探そうと目を凝らす。


「ミーナ、大丈夫か!」


 ルイスの張りあげた声に、ミーナははっとして額に腕をかざしながら顔を向けた。


「あたしは大丈夫よ! それよりもこれ、なにが起こってるの!」


「おそらく遺跡の倒壊が始まったのだ……! 地下で強い震動を起こしすぎたせいだろう。このままでは崩れるぞ!」


 切迫した青白い顔色のルイスに、ミーナは恐怖で体がひやりと凍りつく。


 この地震、ルイスの言葉どおり、地下で自分たちが激しく戦いすぎたことが原因なのだろう。


 これだけの古い遺跡だ、地下に湖のある地形でもあることだし、あれだけ剣や魔法で派手にやりあったら、ゆるんでいた地盤が耐えられなくてもしかたないのかもしれない。


 いまや地面も壁も戦闘の傷跡でどこもかしこも大きくえぐられていて、地底湖の水にいたってはレオの魔法によってすべてなくなっている。


 これだけ急激に環境を変えられては、この創世暦時代から建てられている古代遺跡が崩れてもなんら不思議ではないのだ。


 落下してくるがれきを器用に避けながら、サトクリフが言う。


「ルイスっ、くっちゃべってる暇はねェ! 急いで転移魔法を唱えるぞ! いけるか!」


「問題ない!」


 ルイスが短く言葉を返して、目を閉じたルイスとサトクリフの周囲に光の奔流が立ち昇る。ふたりの髪が舞いあがり、まとっているローブがひるがえる。


「――大地よ、遠くへ運んでおくれ」


 ルイスとサトクリフの緊張を押し殺した声音が、地響きの轟音の中でつむがれていく。


 途端、エリアスたちを中心に、彼らの足もとに地下の地面を埋め尽くすほどの大きな魔法陣が開かれた。それは紫色の光を放って場内を幻想的に染めあげていく。


 ミーナが魔法の成功を祈って手をかたくあわせていたそのとき、後方からぞわりと鳥肌の立つ気配がして、弾かれたように後方を振り向くと――地底の入り口近くのほうから、ぞっとするほどの数の影がゆらゆらと近づいてきていた。


 なに、あれ―――……?


「嘘っ……!」


 この揺れの中でもまったく動じずにじりじりとにじり寄ってくるそれは、しだいに姿かたちがあきらかになり、それが半魚人の大群であることがわかる。


 遺跡の倒壊が原因でさまよっていたのか、遺跡に生息していた魔物がいっきに押し寄せてきたのだ。


 ルイスとサトクリフもそれに気づいて、魔法の詠唱をいったん止めて息を呑みながら半魚人の群れを凝視している。


 魔物を掃討するべきか、それとも転移魔法の詠唱を優先するべきか答えを出せずにいるのだろう。


 ミーナはつばを飲み込み、気を落ちつけるように深く息を吐き出すと、後ろ腰に下げていた短剣を抜き払った。


 それを構えて、精いっぱい勇ましく見えるように目を輝かせてルイスたちを振り返る。


「――ここは、あたしが行くわ!」


「ミーナ!」


 ルイスの切なげな声がミーナの名を呼ぶ。


「ひとりであの数に挑むなど……無茶だ! 君になにかったら、私は――」


「平気よ!」


 ミーナは恐怖で震える腕を自分で抱いて抑え込みながら、満面で勝ち気に笑ってみせる。


「あたし、ルイスを信じるって言ったでしょう? だからあなたにも、あたしを信じてほしいの! あんなやつらに絶対に負けないんだから!」


 そう、絶対に負けない。


 負けるわけにはいかない。


 自分の肩に、仲間たちみんなの命がかかっているのだから。


(あたしだって、勇者一行の仲間なんだから……!)


 ミーナは爛々と輝く目で前方の魔物の群れを見すえる。


 エリアスたちのことも、ルイスたちのことも、大切な人たちを全員守ってみせる……!


「――わかった」


 感情をぐっとかみ締めたルイスの声が、とても小さなつぶやきだったのにも関わらずとても鮮明に聞こえた。


 彼が信頼してくれたことがうれしくて、ミーナがありがとうと答えてほほ笑むと、ルイスが懇願するように身を乗りだした。


「ならば、約束してくれ! 転移魔法の発動前に、必ず私が君の名を呼ぶ! そうしたら、なにがあっても私のところに戻ってくるんだ! かならずだ!」


 必死な願いに、ミーナは胸がいっぱいになるくらい熱くなって、じわりと浮かんだ涙で視界がゆがんでしまう。


 それを指で拭って、泣き笑いの顔でルイスにうなずいてみせた。


「わかったわ、約束する!」


 ルイスとうなずきあって、ミーナは迫るくる半魚人を迎え撃とうと体をそちらに向ける。


 絶対にルイスのところに戻る。


 それまで、絶対に持ちこたえてみせる。


 ――ルイスやエリアスたちに、指一本触れさせないんだから……!


「さあ、勝負よ!」


 鋭く目を開けて地を蹴ったミーナの背中で、ルイスたちの詠唱が再開される。


「――未来が我々を招いている」


 その詠唱の声に勇気をもらいながら、ミーナは、自分たちの敵の接近に気づいて銛をかまえる半魚人の群れに飛び込んだ。


 魚人たちのあいだを縫うように短剣を閃かせ、四方八方から飛んでくる矛先を防いで、半魚人の腕や胴体を切り落としていく。


(大丈夫、いまのあたしは無敵よ! だって、守りたい人たちがいるんだもの!)


 ずっとパーティを組まずにひとりで冒険者をやってきたけれど、それは、自由でもあり、どこか寂しくもあった。


 それが、エリアスとアキと出会って、ルイスに出会って、この人たちとずっと一緒にいたい、ずっと一緒に冒険したいと思えたのだ。


(……だから、失いたくないの)


 大事な人たちを、この手で守り抜くために――――!


「――どこにいても、等しく時は流れるのだから」


 ルイスとサトクリフが言いきった途端、足もとにあった魔法陣から一際まばゆい紫色の光が放たれた。転移魔法が発動したのだ。


「ミーナ、戻れ……!」


「ルイス!」


 ミーナは待ち望んでいたその声を聞いた瞬間に身を引き、半魚人の群れに背を向けて一目散に駆け戻る。――大好きな人の胸に、飛び込むために。


 転移魔法の発動を告げる光が視界を覆う中、ミーナは無我夢中で走って、絶対に失いはしないとでもいうように必死な表情で手を伸ばしているルイスに向かい、全力で地を蹴った。


 伸ばした両手をルイスにつかまれ、有無を言わせぬほどの力でぐいと引き寄せられて彼の胸の中に抱き込まれる。


 強く抱きしめられて、たしかなあたたかさに胸がいっぱいになったその瞬間――焼けつくほどの光がミーナたちの周囲を覆った。


 固く目を閉じているのに痛みすら感じるほどの強烈な光だった。


 それでも、不思議と怖いと思うことはなかった。


 ルイスがそこにいて、自分を守ってくれているのがわかったから。


 ミーナは必死に彼にしがみついて、自分のすべてを彼にゆだねる。


 祈ることしかできない自分は、ただひたすらに強く願った。


 ――どうか、みんなを助けて。


 誰ひとり欠けることなく、みんなで無事に帰ってこられるように――!


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