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第五十三話 想いの力

 アキは深呼吸をしてから大きく目を開けると、両手をそっと額にかざした。


 月の女神様の力を最大限に呼び出すためには、額の紋章に全神経を集中させる必要がある。


 それに、発現すればエリアスのように自我を失ってしまう可能性もあるため、女神様の力に押し負けないように自我を保つという意味でも集中しなければならないのだ。


 臨戦態勢に入ったアキたちに先手を打たんとばかりに、聖剣を片手にたずさえたエリアスが目にも留まらぬ速さで地を蹴った。


 ――戦闘開始だ……!


 前衛のミーナとルイス、サトクリフが、自分の得物を抜き払ってエリアスを取り囲むように三方向に散る。


 電光石火でこちらに迫るエリアスが、低く腰を落として抜き身で持った剣を後ろに引いた瞬間、サトクリフがすばやくエリアスの目の前に立ちふさがった。


 エリアスはサトクリフに向かって恐ろしいほどの速さで聖剣を振り下ろし、その動きを読んでいたサトクリフが、鋭く目を細めて落ちてくる斬撃を交差させた二刀で受け止める。


 ぎぃん、と、二人の鋼と鋼が激しくぶつかり合う音。


 それと同時に、ミーナが跳んでエリアスの後方から軽やかに斬りかかった。


 迫る彼女に瞬時に気づいたエリアスは、身をひるがえして躍るようにそれをかわす。


 けれど、それを見計らったように、サトクリフが召喚した狼たちがいっせいにエリアスへと飛びかかった。


 間髪入れず、そのあいだずっと詠唱を続けていたルイスが追い打ちで月系魔法を放ち、狼の相手に追われていたエリアスの足を影縫いのようにその場へと縫いとめる。


「――成功だ、ヨハン……!」


 動きを封じられたエリアスを前に、ルイスがこちらを振り返る。


 そっか、ルイスたちはずっとエリアスを拘束する勝機を狙っていたんだ……!


 古代魔法はただでさえ発動に時間のかかる大がかりなものだから、エリアスの動きを止めることができなければ、彼に魔法を命中させることすら難しいのだろう。


 ヨハンはルイスたちの成功に唇を持ちあげてうなずくと、アキとレオの顔を交互に見やってから、聖槍の先端部を斜め前につきだした。


「アキ、レオ、詠唱を始めます。僕が文言を唱えますので、それを復唱してください」


 いよいよだ……!


 月の女神様、どうか、エリアスを救うためのお力をお貸しください……!


「――天つ彼方の人を想い、幾重の哀しみをこの胸に刻む」


 ヨハンの落ちついた声音がすずやかに場内に響きはじめる。


 ヨハンの言った文言を一言一句間違えないように復唱すると、ふいに額から、ちりっと火花の散るような感覚がする。


 おそらく、月の女神様の紋章が浮かびあがったのだろう。


(天つ彼方の人を想い、か……)


 その詠唱の文言を聞いて思うのは、もしかしたらこの呪文は叶わない恋をうたったものなのではないかということだ。


 この世界の呪文は意味のこめられているものばかりだから、きっとこの古代呪文にもなんらかのメッセージが秘められているのだろう。


(……この呪文、月の女神様が誰かを想う気持ちを詠った詩なのかな……?)


 まるで根拠などないのだけれど、そうであるという気がしてならないのだ。もしかしたら、自分に宿る女神様の力がそう思わせているのかもしれない。


 アキのその予想に応えるように、じわじわと額が熱を持ちはじめて、それを皮切りに紋章は確実にその熱さを増していき、次第に焼けるように熱くなっていく。


 アキは、あまりの熱に痛みすら感じて表情をゆがめた。


 この遺跡の入り口ではじめて紋章が顕現したときと同じように、意識が朦朧としてくる。


 アキは歯を食いしばると、気をたしかに持とうとしっかりと両足を踏んばった。


 ここが正念場、こんなところで気を失うわけにはいかないのだ。


(月の女神様の力を使ってエリアスを止められるのは、私しかいないんだから……!)


 力強く目を開くアキの傍らで、彼女を励ますように、レオとヨハンの凛々しい詠唱の声音が響きわたる。


「――この世の果てがあるとすれば、その地でなら、貴方への想いも許されるでしょうか」


 呪文をつむいでいくごとに額の紋章が熱をもって、それとともになぜか胸が締めつけられるようにせつなくなってくる。


 もしかして、月の女神様その人の感情が、額の紋章を通じて流れてきているのだろうか。


 自分に宿っている彼女の力に、わずかかもしれないけれど、彼女の感情もまた宿っていたのかもしれない。


(この気持ち、なんだか……)


 訴えかけるように流れ込んでくる女神様の感情に、アキは同調して自分も悲しくなってくる。


 なんだかこの気持ちは、生まれた世界の違いからエリアスへ想いを告げられなかった、あのときの自分の気持ちに似ているような気がするのだ。


(もしかして、月の女神様も叶わない恋をしていたとか……?)


 相手が誰かはわからないけれど、その情熱と哀しみが、自分の中に眠っている女神様の力を呼び起こすのだろうか。


 そんな考えが頭をよぎる中、燃えさかるように、自分の身体の奥から女神の強大な力が湧き起こってくる。


 こんなものが自分の中にあったのかと思えるほど、体全体から恐ろしいほどの力がみなぎってくるのだ。


 それと比例して、いよいよ視界がかすんで意識が虚ろになってくる。


 ぼやけていく周囲の景色と、遠のいていく意識――。


 まるで、自分の身体を自分ではない誰かにゆだねるような感覚がして、アキはわれ知らずのうちに両目を閉じようとしていた。


 そのとき――。


「おいアキ、しっかりしろっ……!」


 隣のレオから鋭い声が投げかけられて、アキはびくりと肩を跳ねあげた。


(え、あ、あれっ!?)


 ――いま私、ぼんやりしてた――……!?


 ヨハンが緊張した面持ちでアキの右肩に手をのせる。


「アキ、気をたしかに持ってください! 自我を失っては危険です……!」


「ご、ごめんなさい……! 自分でも、よく、わからなくて……」


 自分でも無意識のうちにぼうっとしていた。


 レオとヨハンに声をかけられなかったら、いまごろあっさりと月の女神様の力に押し負けて自我を失っていたかもしれない。


(もしそんなことになったら……)


 きっと、いまのエリアスのように、自分の意思に反して大切な仲間を傷つけてしまうような事態に陥っていただろう。


 自分にはヨハンとレオがいてくれたから未然に防ぐことができたけれど、あのとき太陽の女神様の力を顕現させたエリアスには、誰一人助けてくれる人がいなかったのだ。


 あのとき、エリアスが自我を失わないように声をかけることができていたら――。


 自分の無力さに、アキは奥歯をかみ締める。


 ――だから、今度こそ私がエリアスを助けるんだ……!


 アキは、ぼうっとする意識を取り戻すために深く深く息を吐いてから、しゃんと前を見すえた。


「ヨハン、レオ、ごめんなさい! もう大丈夫です!」


 ほっとしてうなずいたヨハンとレオの額にも、うっすらと汗が浮かんでいる。よくよく見れば、ふたりとも心なしか青白い表情をしている。


 聖遺物を扱うということは、彼らほどのレベルがあっても大きな負担がかかるものなのだろう。


(力を尽くしてくれるヨハンとレオのためにも、私が女神様の力に負けるわけにはいかない……!)


「ふたりとも、次の文言が詠唱の結びの言葉になります。すべての力を込めてください」


 ヨハンが言って、三人は誰ともなくお互いに視線をあわせると、申し合わせたように同時に大きく息を吸い込んだ。


 エリアスへ自分たちの声が届くように、願いをこめて結びの言葉をつむぐ。


「――遠き地の果てで貴方を想う どうかこの願い……―――聞き届けたまえ!」


 三人の声があわさって詠唱を言いきったと同時、ヨハンとレオがそれぞれの聖遺物の切っ先をエリアスに向かって振りおろした。


 それを合図に、アキの額からひときわ強い銀の光が放たれて、あたり一面にさざなみのように光の波が広がっていく。


 その光は、戦いによって踏み荒らされた青い花を、崩された岩場を、ミーナやルイス、サトクリフを、そしてはっとした表情でアキを見つめるエリアスをわけ隔てなく照らし出してゆく。


「熱っ……!」


 アキは思わずよろめいて片手で額を押さえた。爆発的に発せられた光に呼応するように、額の熱が一気に発熱したのだ。


 頭がくらくらするほどの熱量。少しでも気を抜けば、この場で気を失って倒れそうだ。


(耐えろ、私……!)


 ここで月の女神様の力に負けては駄目だ。


 絶対に、絶対にエリアスを助けるんだから――……!


「エリアス、お願い……! 私たちのところに戻ってきて――――!」


 精いっぱいの思いを込めて、アキは両手をエリアスへと差し伸べる。


 自分とエリアスの絆が、彼の自我を取り戻す力になってくれるだろうと信じて。


 あのとき好きだと伝えあった言葉は、お互いを誰よりも大切に思う強い絆だったはずだから――……!


 そんなアキの思いが届いたのか、エリアスの虚ろな瞳が一瞬揺らいだと感じた瞬間――自分たちが唱えた古代魔法の成功を示すように、エリアスの足もとに銀色にふちどられた魔法陣が扇のように広がった。


 それは、いままで見たこともないほど複雑で不気味なくらい文字の描き込まれた、場内の地面を埋め尽くすほどの巨大な魔法陣だった。


 はっとして弾かれたように足もとを見おろすエリアスをわき目に、魔法の成功にいち早く気づいたサトクリフが大きく後ろへ飛び退く。


 そうして、エリアスを中心に対角線上にいるミーナとルイスに、鋭い声を投げかけた。


「――全員、引け!」


 ミーナとルイスがうなずいて、サトクリフに倣うように後ろ脚で地を蹴り後退する。


 魔法陣の中心には、ルイスの影縫いによって身動きのできないエリアスだけが残される。


 その瞬間を見計らっていたかのように、エリアスの足もとに広がる魔法陣から、轟音とともに青白い閃光が立ち昇った。


 稲妻のようなそれはエリアスの体を容赦なく取り込み、光の柱は床から天井に届くほど激しく燃えさかる。


(これが、月の女神様の力――……!?)


 まるで神の雷を思わせる圧倒的な力に、恐怖を覚えてアキは言葉を失う。


 こんな強すぎる力が、自分の中に眠っていたなんて――。


 怖い、そう思って奥歯がかたかたと鳴り始めたのと同時、光に取り込まれたエリアスが全身を震わせた。


「う……うあああああああっ!」


 途端、エリアスからいままで聞いたこともないような苦痛の叫び声が発せられる。


 激痛にあえぐ彼の絶叫に、アキは口もとに手を当てて恐怖に目を見開いた。


「エリアスッ……!」


 ――嘘っ……!


 光に閉じ込められた檻の中で、激しい痛みに耐えかねたエリアスが、がくりと膝をつく姿が見てとれる。


 まさか、月の女神様の力でエリアスの力を抑え込むということは、彼にとって激痛をともなうことだったのだろうか。


 自分の力は、彼を救うのではなく、彼を苦しめてしまうのだろうか――……!


「そんなっ……」


 目の前で繰り広げられる光景がどすんと胸に突き刺さるようで、アキの大きく見はったままの瞳から、われ知らずのうちにはらはらと涙がこぼれ落ちる。


 太陽の女神様の力に苦しめられているエリアスを解放して、きっと彼は楽になるはずだと思っていたのに――。


(まさか、逆に苦しめることになるなんて……!)


 アキの集中力がかき乱されて魔法が不安定になったのか、エリアスを取り囲む青白い光の柱が大きく揺らめく。


「アキ、集中しろ! 魔法が散開しちまうぞ……!」


 傍らで、まばゆいほどの光を放つ聖短剣を両手で必死に支えていたレオが、アキの動揺を感じとって視線は前方に向けたままで言う。


「わ、わかって――……」


 わかってる、と真っ青な顔で答えようとしたけれども、閃光のうちで身を裂かれるように叫び続けているエリアスを前にして、みなまで言うことができずにアキは息を呑んだ。


(どうしたら……どうしたらいいの……?)


 これ以上エリアスを傷つけたくない、彼を救いたい。


 そう思っていたはずなのに、こうしてつきつけられた非情な現実に胸が押しつぶされそうになる。


(今度は私がそばにいて、エリアスを幸せにするんだって誓ったはずなのに……!)


 ――私は、彼を幸せにするどころか、彼を傷つけてばかりじゃないか――……。


 自分の無力さがあまりにもつらくて、くやしくて、アキはその場にがくりと膝をつく。


 悔しかった。


 彼を守れない自分が。


 彼の足を引っ張ることしかできない弱い自分が。


「エリアス、ごめんなさいっ……」


 消え入るように言った途端、突然両脇からレオとヨハンが自分の腕を差し入れて、同時にぐいとアキの体を引きあげた。


 突然引っ張りあげられて、驚いてレオとヨハンの顔を交互に見ると、ヨハンがアキの顔をのぞき込んで力強く言う。


「アキ、貴方がエリアスを信じないでどうするんです。彼を助けられるのは貴方だけなんですよ」


「そういうこと! あいつはおまえじゃなきゃ駄目なんだから、あいつのことをちゃんと見守っててやれよ。おまえがくじけてどうするんだよ」


 レオはそう言ってアキを励ますように肩を叩くと、額の汗を片手でぐっと拭って、生き生きとした顔で前方のエリアスへと視線を向けた。


「早く俺たちのエリアスを取り戻そうぜ。あいつが中心にいてこその俺ら勇者パーティなんだからな」


 ――そうだ。


 レオもヨハンも、みんながエリアスの帰りを待ち望んでいるんだ。


 エリアスもきっと、自分たちの助けを待ってくれているはず。


 痛いけれど、苦しいけれど、その痛みに耐えながら。


 だから私たちも、全力で彼を取り戻さなくちゃ――……!


「――ヨハン、レオ、私、エリアスのところへ行きます」


 なんの前触れもなくいきなり宣言したアキに、ヨハンとレオが目を丸くする。


「……アキ? おまえ、なにを言って――」


 奮い立ったアキは、レオが怪訝そうに声をかけたのも気にかけずにおもむろに地を蹴ると、エリアスを蝕んでいる光の柱めがけて一目散に走りだす。


「なっ……! おいアキ! 待っ……」


 レオの制止の声を背中に聞きながら、目の前に差し迫る閃光を恐れることなくアキは駆けだしてゆく。


 光の柱から距離をとっていたサトクリフとミーナとルイスが、ぎょっとしてアキに目を向けた。


「アキ、危ないわ!」


 アキを止めようと足を踏み出しかけたミーナに、アキはエリアスに向かって走る足を止めずに答える。


「大丈夫! 私、直接エリアスを止めてみる……!」


 あの光の中にエリアスをひとりにしてはいけない。彼を孤独にしてはいけない。


 どうしてかわからないけれど、そんな気がしてならなかった。


(ずっとそばにいるって、約束したんだから――……!)


 閃光の柱に近づくにつれて、鳴り響き続けている耳をつんざくほどの轟音が、アキの周囲のすべての音を消し去ってゆく。


 月の女神様の力とは、なんと強大なのだろう。


 自分がこの力を持っているのだと思うと、自分が恐ろしく思えてくる。


 けれど、ここで足を止めるわけにはいかない。


 アキは目の前に迫る閃光の柱の前でいったん足を止めると、焦燥感に駆られる気持ちを落ちつけるように目を閉じ、一度深呼吸をする。


 そっと片腕を伸ばして、指先で光に触れてみる。とくに痛みはなさそうだ。


「エリアス、いま、行くからね……!」


 エリアスと自分にそう言い聞かせると、アキは一歩、また一歩と足を踏みだして、最後には光の渦に向かって勢いよく飛び込んだ。


 途端に視界全体が銀の光で埋め尽くされて、周りの景色が霞んでいく。


 思ったとおり、光の中に入ってもとくに痛みは感じなかった。おそらく、月の女神様と相反する力を持つエリアスにだけダメージがあるのかもしれない。


 真っ白な視界の先に、がくりと片膝をついたエリアスの姿があった。


 聖剣を地に突き刺して、ぎりぎり体が倒れるのを保っているようだ。


(――……エリアス!)


 アキは彼に向かって一心に駆けだす。


 自我を失っている彼に剣を向けられるのでは、という恐怖はなかった。


 いますぐ声をかけたくて、触れたくて、しかたなかった。


 アキは加速する思いのままに、思いきり足を踏み込むと彼の首もとにしがみついた。


「エリアスっ、大丈夫!?」


 顔をあげたエリアスが、危なげなくアキのことを抱きとめる。


 ひさしぶりに飛び込んだ彼の腕の中の懐かしいあたたかさに、思わず泣きたくなるような感情がこみあげてくる。


 エリアスのさらさらとした金の髪も、透けるように綺麗な緑色の瞳も変わっていない。


 けれど、やはりその瞳はどこか虚ろで、それを裏づけるように彼の額には太陽の女神様の紋章が爛々と輝いていた。


 エリアスは焦点のあわない目を必死にアキに向けて、かすれる声で言う。


「ア……キ……」


「エリアス、大丈夫!? 私がわかる!?」


 エリアスから体を離して、アキは彼の肩に手を添えて至近距離で問いかける。


 エリアスがかすかだけれどうなずいて、その直後に苦しそうにうめいて表情をゆがめる。


 まだ月の女神様の力が彼をむしばんでいるのだろう。


 ――どうしたら、彼を解放できるんだろう。


 魔法の発動には成功している。だからあとは、エリアスの力の顕現を抑え込む決定打が必要なのかもしれない。


(それなら……)


 アキは、胸もとでぐっと拳を握りしめる。


 エリアスに、自分たちのところに戻ってきてほしい。


 また、「好きだよ」て言って私に笑いかけてほしい。


 いつもみたいに仲間のみんなに囲まれて、幸せそうに笑っていてほしい――……!


 アキはその想いを伝えるように、痛みに耐えようと懸命に肩で息をしているエリアスの顏に手を伸ばすと、そっとその頬に両手を添えた。


「……エリアス」


 やさしく名前を呼びかけながら、アキはエリアスに顔を近づける。


 自分の想いがエリアスに伝わるように――自分の力がエリアスを救うことができるように、込められるだけの気持ちを込めて、アキはエリアスのかたちの良い唇に自分のそれを重ねる。


 そうして、彼の首に腕をまわして、彼の頭を自分に引き寄せた。


「――エリアス、大好き」


 彼の耳もとでそう伝えると、彼の瞳から、一筋の涙がこぼれてアキの頬をぬらす。


 彼はアキの背中に片手をまわして、彼女に体重を預けるようにしながら抱きしめ返した。


「……ありがとう、アキ」


 ――ありがとう――……。


挿絵(By みてみん)


 やさしいエリアスのささやきが聞こえたと思った瞬間、お互いの額の紋章が一際強い光を放って、重なりあうアキとエリアスをまばゆいほどに照らしだした。


 あまりにも強烈な光に、そばにいるはずのエリアスも、自分がどこにいるのかさえもわからなくなる。


 けれどなんだか、自分たちを包み込む銀の光がとてもあたたかいものに感じられて――。


 きっとエリアスも自分もこれで大丈夫――そう確信して、アキは光の奔流に溶け込むように、エリアスと抱きしめあったまま意識を手放した――……。


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