第百十六話 大切なあなたへ
「アーノルド、殿下――……?」
緊迫した雰囲気とは場違いなほど呆然と呟いたミーナの目線の先、美しい水色の髪をかき上げたアーノルド殿下が嫣然とほほ笑んだ。
「助けにはせ参じるのが遅れて申しわけなかった。道中、ちょっと面倒ごとに巻き込まれてしまってね。応戦していたら遅れてしまったんだ」
アーノルド殿下は、茶目っ気たっぷりに肩をすくめてみせる。
(応戦していた、ってことは、何者かに襲われたってこと……?)
もしかしたら、この暗殺者集団の仲間がアーノルド殿下を足止めしたのかもしれない。
(殿下を襲うとか、なんて恐れ多いのかしら……!)
一国の王族を狙うなんて、不敬罪もいいところだ。
死罪になってもおかしくないのに、そういった行動に出られるということは――。
(……とすると、やっぱりこの暗殺者たちは、他国の人間……?)
『王国』の領民が王族を狙うことは考えにくいから、やはりルイスの言うとおり、この暗殺者集団は『神殿』管轄下の人間なのかもしれない。
不意打ちをされたとはいえ、アーノルド殿下の余裕の表情を見るに、返り討ちにして全員ひっ捕らえたのだろう。
(それで少し手間取ってしまった、って殿下はおっしゃってるのよね)
ミーナは、すらりと背の高い、短髪のアーノルド殿下を不敬にならない程度に見る。
見れば見るほどに綺麗な顔立ちだ。それこそ突出して女神の恩恵を受けている勇者のエリアスの美貌には少し及ばないけれど、それでもエリアスと比べてあまり遜色がないと言えるほど、アーノルド殿下の容貌もちょっと異様なほど整っている。
王族も女神の恩恵を受ける一族だと聞いたことがあるから、その関係なのだろうか。
(……それを言ったら、ルイスの外見も一線を画して整ってるのよねえ……)
ルイスも、アーノルド殿下に似通った、神聖さを感じさせる美貌の持ち主なのだ。
彼は王族ではなく貴族だと言っていたけれど、貴族もまた女神の恩恵を多少なりとも受けるものなのだろうか……。
(そういえば、アーノルド殿下ってたしか長いお髪をしていらしたと思ったんだけれど、お切りになられたのかしら?)
アーノルド殿下はめったに人前に姿を現すことがなかったから、肖像画でそのお姿を想像することしかできなかったけれど、たしか水色の腰まである長い髪をひとつに結われていたはずだ。
それをばっさりと切られていたから、王立騎士団と一緒でなければ、アーノルド殿下その人だとわからなかったかもしれない。
(……それに、アーノルド殿下は病の床に伏してるってもっぱらの噂だったけれど……)
『王国』の領民ならば誰もが知っている、王国の第一王子は魔王の呪いにかかって人前に姿を見せることができない、という噂――。
事実、妹君であるカトリーナ姫のことは、国の催し物が開催されたときに遠目で何度かお姿を拝見したことがあったけれど、兄君であるアーノルド殿下のことは一度たりともお目にかかったことはなかった。
そのはずだけれど、目の前のアーノルド殿下は、どこも体調の悪いところなどない、いたって普通の健康な殿方に見えるのだ。
(あの噂は、本当にただの噂だったのかしら……?)
たとえば『王国』がなんらかの意図によって、アーノルド殿下が呪いにかかっているという嘘を国民の間に流して、彼の存在をひた隠しにしていたとか……?
(……そうだとしたら、何のために?)
王国の第一王子が健全であることを嘘をついてまで隠すことに、『王国』にメリットがあるとは思えない。むしろ、他国からつけ入られる隙を作ってしまうと思う。
そうだとしたら――。
(魔王の呪いが解けた、と考えるべきかしら……?)
もしかしたら、エリアスたちが魔王城に向かったことと関係があるのかもしれない。
あくまでも予想しかできないけれど、魔王や魔族が仲間になってくれたのなら、アーノルド殿下の呪いについてなにか力を貸してくれたのかもしれない。
そんなことを目まぐるしく考えているミーナをよそに、ルイスが血とあざにまみれた痛々しい顏でアーノルド殿下に笑ってみせた。
「まったく、遅いじゃないか、アーノルド。私の美しい顔がこんなにも傷だらけだ」
――へ?
ルイスのまさかの一言に、ミーナは緊迫した状況も忘れて思いきりのけ反ってしまう。
「ル、ルイス! 殿下に向かって、そんなっ……」
なんていう口の利き方なの、と口をあんぐり開けていれば、当のアーノルド殿下は気にしたふうもなく、申しわけなさそうにルイスに笑み返した。
「だから、悪かったと謝っているじゃないか。貴方こそ、このくらいの輩、一網打尽にできないようではまだまだ冒険者としての修練が足りないんじゃないの」
「それは、言ってくれるな」
アーノルド殿下とルイスはお互いを見やって、まるでいたずらが成功した子ども同士みたいに、にやっと唇を持ち上げる。
「え……」
ふ、ふたりともどういう関係なの……!?
まるで十年来の友人のようなやりとりに、ミーナはただただぽかんとしてしまう。
(ルイスってたしか貴族の三男坊なのよね? その関係で、小さいころからアーノルド殿下と知り合い、とか……?)
貴族ならば、王族の主催する王宮の会合などに呼ばれることもあるだろうから、そういった場で出会う機会でもあって、ふたりは顔見知りなのかもしれない。
(……だってふたりは、あたしの知らない世界を生きている人なんだもの……)
王侯貴族とは無縁の生活を送ってきた自分には、わからないのかもしれない。
ルイスとの身分の違いを実感して、ちく、と胸が痛む。
(……駄目よミーナ、今はそんなこと考えてる場合じゃない)
自分の思いを振り切るように首を振り、場内の状況に目を向けると、アーノルド殿下が一歩前に進み出て暗殺者のリーダーを前に腕を組む。
「さて――よくも僕の大切な友人を手ひどく痛めつけてくれたね。私たち王立騎士団が来たからには、もう逃げ場はない。おとなしく降伏してもらおう」
アーノルド殿下が、有無を言わせぬ強い口調で暗殺者のリーダーの男を見据える。
殿下の口ぶりからするに、きっとこの宿の周囲も騎士たちが包囲しているのだろう。
アーノルド殿下は、万全の準備をして自分たちを助けにきてくださったのかもしれない。
リーダーの男は悪あがきする素振りもなく、潔いほどに両手を挙げて降伏した。
「……まあ、アーノルド殿下の直々のお越しとあっては、ここで逃げ延びるのは不可能でしょうねぇ。どうせおれらなんて、雇い主のお偉方にしたら捨て駒同然なんでね、逃げも隠れもしませんので、どうぞどこへでも連れて行ってくださいよ」
さっさと手縄をかけてくれと言わんばかりに、暗殺者のリーダーが、挙げていた両手をひらひらと振る。
(あら、意外とあっさりしてるのね)
手練れの暗殺者だから抵抗を試みるかと思ったけれど、勝ち目の薄い戦況では無理に抗って犠牲者を出したりしないのかもしれない。
(そういう面では、この男は意外と仲間思いでリーダー向きなのかも……)
――って、感心してる場合じゃないけど!
無力化した暗殺者集団を前に、アーノルド殿下は騎士たちに命じて暗殺者たちの手を縄で縛り、さらに彼らの互いの胴を縛って逃げられないように捕縛する。
暗殺者たちもおとなしくしているので、一連の作業はあっという間に終わった。
アーノルド殿下が騎士たちに向けて指示を出す。
「――ただちに王宮の地下牢へ連行。万一抵抗した場合は、武器を用いて無力化せよ」
「御意」
暗殺者たちが騎士たちに連行されていく姿を見守っていると、アーノルド殿下のかたわらにいた『神官』職と思われる神職の男性が進み出て、ルイスのかたわらに膝をついた。
そうしてルイスが負っていた数々の傷を回復魔法で完璧に癒していく。
ヨハンの治癒魔法ほど即効性で精度の高いものではなさそうだけれど、彼の腕も相当なものだ。優秀な『神官』なのかもしれない。
治癒を受け終わって、傷が癒えたルイスは、ほっと一息ついてその場に座り込んだ。
「本当に助かった、アーノルド。正直、貴方がこうして助けに来てくれなければ、彼女も私も、そして亭主もどうなっていたことか……」
こちらを気遣うような視線を向けるルイスに、ミーナはいてもたってもいられずにルイスに駆け寄る。
ルイスはかたわらに膝をついたミーナの頭に、大きな手をぽんと乗せてほほ笑んだ。
(ルイス、本当に無事でよかった……)
自分がそう思ったように、ルイスもそう思っていてくれていたのかもしれない。
なんとなく以心伝心して寄り添うミーナたちを交互に見やって、アーノルド殿下が楽しげにほほ笑んだ。
「ああ、もしかして、やっと貴方にも気になる女性ができたんだね、ルドヴィ――」
「――っアーノルド、彼女はまだ私のことを知らないのだ」
言いかけたアーノルド殿下の言葉を、ルイスが少しあわててさえぎる。
(ルドヴィ――……?)
もしかして、それって――。
ミーナは息を呑んで、ルイスとアーノルド殿下を交互に見つめる。
それは、暗殺者たちに襲撃される前にルイスが言っていた、彼の本名なのだろうか。
驚いて目を丸くしているアーノルド殿下に、ルイスが言い添える。
「……すまない、アーノルド。少し、事情があってな。いまはルイスと呼んでもらえるとありがたい。私は『吟遊詩人』のルイス・ニールだ」
それでなにもかもを察したように、アーノルド殿下は優しく水色の目を細める。
「ああ、そういうことなのか。貴方にしては慎重に事を進めているんだね。それだけ彼女に本気ということか。――では、ルイス。それから貴方は……」
「『盗賊』のミーナと申します、アーノルド殿下」
さきほどルイスはあとで事情を話してくれると言っていた、だから、ここであれこれ彼のことを詮索するのは失礼なことだろう。
そう判断したミーナは、ルイスとアーノルドのさきほどのやりとりにはいっさい触れずに、右手を胸に当てて一礼する。
そんなミーナの姿勢に感心したのか、アーノルド殿下は好感を持った表情で頷いた。
「ルイスに、ミーナか。改めて言うけれど、ふたりとも、大きな怪我がなくてよかった。到着が遅れてしまって本当に申しわけなかったと思う。それから宿の亭主殿も、騒ぎを起こしてしまってすまなかったね。あとで王宮から謝礼を届けさせよう」
「も、もったいなきお言葉、ありがとうございます……!」
宿の亭主は、恐縮しきった様子で床に平伏している。
(アーノルド殿下のおっしゃるとおり、本当に、亭主さんに怪我なくてよかったわ)
この宿や亭主のことは、自分とルイスが招いてしまった危険に、完全に巻き込んでしまった形なのだ。
後日にでも自分もなにかお礼を持って亭主にご挨拶に来よう、とミーナは心の中で思う。
アーノルド殿下が、まとっていた青のマントをひるがえした。
「それでは、ルイス、ミーナ、貴方たちを賓客として城にお招きするよ。今回のことで、市中にいるのは危険だとわかったからね。外に馬車を待たせてあるから付いてきて」
「何から何まで世話になるな、アーノルド」
「貴方がそんな殊勝なことを言うなんて珍しいね。やっぱり旅に出ると性格が良い方向へ変わるのかな……」
「どういう意味だ」
やいのやいのと、やはりルイスとアーノルド殿下は楽しげに言い合っている。
(本当に仲が良いのね、あのふたり)
王子と貴族という立場なら、あんなふうに気心が知れた仲になるものなんだろうか。
――それにしたってもう少し敬意を払う気がするけれど……。
ミーナは首をかしげながらも、王侯貴族の世界ってそういうものなのかしら、と並んで立つふたりの背中を追いかけるのだった。
「――開門!」
王宮は遠目から見る機会はあったけれど、とても自分のような身分の者が立ち寄ることができる場所ではなかったから、ミーナは目の前で開かれていく木製の大きな城門を前に足がすくむ思いだった。
(王宮に入れるなんて、なんだか夢みたい……)
自分など場違いなんじゃないか、と馬車の中で小さくなっていると、となりの席に座るルイスがくすくすと楽しげに笑った。
「ミーナ、何を緊張しているんだ。いつも物怖じしない君らしくもない」
――う。
「よ、余計なお世話よ! ルイスはいつもどおり余裕しゃくしゃくみたいね。あんたは貴族だから、王宮に来たことくらい何度もあるってこと?」
「ふむ、まあ、何度か、という程度だがね。そのように構えなくても、ただのやたらと大きな住居だと思えば緊張などしないさ。私にとっては、君やエリアスたちと冒険したあの遺跡のクエストのほうがよほど広大なダンジョンで気が抜けなかったが」
「……ああ、あのときは本当に命がけだったものねえ」
いまのメンバーで初めて挑んだクエスト、あれからいろいろなことがありすぎて、なんだか遠い昔のことだったように感じる。
ルイスの言うとおり、あのときは遺跡のダンジョンまではなだらかとはいえ登山だったし、ダンジョンに着いてからも古代の遺跡内部の探索から始まり、はては地底湖まで存在して、いったいどれほどの広さがあったのか今となっては全貌はわからない。
(あのときは、エリアスやアキ、レオやヨハンも一緒にいてくれたのよね……)
みんな元気かしら、無事に魔王城に着いたかしら、とミーナは窓から見える王宮の中庭の景色をぼうっと眺める。
(あれからいろいろあって、いまはルイスと一緒にこうして王宮にいるのよね――)
自分もずいぶんと数奇な運命を辿ってきたものだ、としみじみと思う。
そうこうしているうちに馬車は王宮の入り口に到着して、国王陛下に一連のご報告にあがるというアーノルド殿下と分かれて、ルイスと自分はあれよあれよという間に侍従によって客間に案内された。
城内は白大理石とクリスタルで彩られた優美な造りで、いまは夜更けだというのに、ガラス細工のシャンデリアやフロアランプが煌々と輝いている。
スラム出身の自分にとって、ろうそくの明かりは贅沢の極みというイメージだったから、それを夜じゅうに惜しみなく使う王宮の贅沢さが、ミーナにとってはある種異世界のように感じられた。
「……なんだかまぶしくて、頭が痛くなりそう」
これまた豪華な布張りの長椅子に浅く腰かけて、ミーナはおもわずぼやく。
ルイスがおかしそうに笑った。
「王宮というのは、とかく煌びやかに飾り立てるものだからな。鏡もやたらと多いから、光が反射して余計にまぶしかろう。ただ、調度品は優しく品の良い物が多いと思わないか? 王や王妃のセンスが良いのだろうな」
ルイスの言葉どおり、いま案内してもらった客室は、白や水色を基調とした明るい配色でまとめられていて、草花を模した優美な曲線の内装でまとめられていた。
王宮といえば、ごてごてした金やら銀やらで重厚にまとめられた雰囲気を想像していたから、あえて華美を抑えた王宮の内装は、とても好感が持てる。
ルイスの言葉で多少ミーナの緊張が和らいだところで、彼が話題を変える。
「それにしても――あの暗殺者たちに追いつめられたときは、さすがの私も肝を冷やしたよ。自分が大怪我を負うぶんにはいいが、君に何かあったらどうしようかと……不安だった。あのとき、君はひとりで暗殺者たちに立ち向かう気だったろう?」
あのときの危機を思いだしたのか、ルイスが少し切なそうにミーナを見つめる。
きっと彼は、傷ついた彼に短剣が振り下ろされようとした瞬間、自分が覚悟を決めてその場に飛び出そうとしたときのことを言っているのだろう。
あんな状況だったのに、ルイスが自分を気遣ってくれていたことが嬉しくて、ミーナはちょっと頬を赤らめながらルイスから視線を逸らした。
「それは……あのときは、あんたのことを守れるのはあたししかいないと思ったから。あ、あたしね、これでもあんたのこと――……けっこう、大切に思っているのよ。あ、誤解しないでほしいんだけれど、な、仲間として大切って意味よ!? だ、だから、あんたのこと誰にも傷つけさせるわけにはいかないって、思ったのっ……」
――って、なんなのこれ告白してるみたいじゃないっ!
動揺を隠そうとして、あたふたと早口で言い訳してみたけれど、余計に不自然だったかもしれない。
ルイスは、そんな自分をじっと真剣に見つめていた。……射抜かれそうなくらいに。
いつものようにからかわれるかと思ったけれど、ルイスはどこか熱を帯びたような、真摯な瞳でミーナをまっすぐに見つめて言う。
「仲間として、というのは、本心で?」
「え……?」
なにを、言って――……?
目をまたたかせるミーナに、ルイスが言葉を重ねる。
「……聞かせて、ほしいのだ。私は、いままで君と一緒に多くの時間を過ごして、楽しいことも、困難なことも、共に立ち向かって――君の仲間思いで一生懸命な姿を、ずっとそばで見てきたのだ。それで、君のことを、とても素敵な女性だと思った。できればこの先も、ずっと私のそばに、いてほしいと」
「――……っ」
……あのルイスが、いつも飄々としていて顔色ひとつ変えない彼が、いまは少年のように真っ赤な顔でたどたどしく言葉を紡いでいる。
どこかちょっと拗ねたように伏せられている彼の横顔を目に入れて、ミーナは彼への秘めていた想いが、愛しい気持ちがいっきにあふれてくるようだった。
伝えても、いいのだろうか、自分の、気持ちを――……。
彼も、同じように自分のことを想ってくれている、と思っていいんだろうか――。
「あのっ……」
自分の言葉を待ってくれているであろう彼に、ミーナもらしくもなく言葉につまる。
どきどきと、心臓が痛いくらいに脈打つ。
身を乗り出したミーナに、ルイスもはっとして顔を向けた。
――いま、言うのよ、ミーナ! 勇気を出して!
ここで逃したら、きっと、もう一生この想いを伝える機会はないかもしれない。
身分の違う恋。きっと上手くはいかないかもしれない。それでも――。
(もう、自分のなかだけにしまっておくことはできないっ……)
ミーナは、勇気を振り絞るようにぐっと目を閉じて言う。
「あ、あの、ルイス、も、あたしのこと、ちょっとはいいなって想ってくれている……って思っても、いいの……?」
おそらく涙ぐんでいたかもしれない、意識などしていないのに、真っ赤な顔で上目遣いで問いかける。
否定されることが怖くて、どうにも遠回しな言い方になってしまった。
自分らしくもなくもじもじしてしまうと、ルイスはそんなミーナをどこか愛おしそうに見つめてから、からかうように笑った。
「ルイス、『も』?」
――あ。
自分が墓穴を掘ったことに気づいて、ミーナはわたわたと顔の前で手を振る。
「い、いや、ち、ちがっ、いや、違わなくてっ……!」
どうしよう、自分で何を言っているのかわからないっ。
あたふたしたまま、恥ずかしすぎて両手で顔を覆うミーナの向かい、ルイスが長椅子から立ち上がる音が聞こえてくる。
ミーナがびくりと顔を上げると、歩み寄ったルイスが、長椅子に浅く座るミーナの目の前にすっとひざまずいた。
「ルイス……?」
突然の彼の行動に驚いて、おもわず立ち上がろうとするミーナを制するように、彼がこちらの右手をそっとつかむ。
あたたくて大きな節ばった手に、彼の男らしさを感じて心臓が高鳴る。
ルイスは碧色の煌めくような瞳でミーナを真摯に見つめて――神聖な言葉を口にするかのように、静かな声で、言った。
「ミーナ、私は、貴方のことが好きだ。どうか、私の生涯のパートナーに、なってはもらえないだろうか――……?」




