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たけくらべ

作者: 佐木 呉羽

『たけくらべ』という童謡がある。

 チマキを食べながら、五月五日の背比べ。

 この歌を再現したくて、子供の日に背比べがしたいと言い出したのは僕だった。


 童謡のように柱ではないけれど、箪笥の角に兄と身長を比べた跡がある。

 天井近くにまで高さがある箪笥の側面に踵と背中と後頭部を当て、兄に身長が負けたくなくて、インチキだと言われないよう気を付けながら、足の裏が畳から離れない程度に伸びをした。

 頭のてっぺんに、車が描かれたシールを父に貼ってもらい、兄との身長差を記録する。

 車のおもちゃを手放さない僕が車のシール。飛行機の写真ばかり見ている兄が飛行機のシールだった。


 五歳の兄と始めた背比べは、もちろん飛行機のシールが上にくる。


「いつか、絶対に追い越すもん!」と宣戦布告をするけれど、兄は僕を鼻で笑っていた。


 できる訳がない。そんな日は来ない。


 必ず言い返されていた決まり文句。


 それなのに、飛行機の上に車が来た。


 年を重ねていくごとに、飛行機を置いて車がどんどん上にいく。


 空に鯉が泳ぐ国民の祝日。

 十個目の車のシールを自分で貼り、日に焼けて色が薄れた飛行機のシールを指の腹で撫でる。


「張り合いがないなぁ……」


 呟く僕に、答える声はない。


「ねぇ、身長って伸びないの?」


 話しかけながら、仏壇の中で笑みを浮かべる兄の写真に目を向けた。


 供えたチマキを一本摘まむ。

 仏壇の前で寝転び、チマキを目の前に掲げて天井を眺めた。


「今年でやめようか、背比べ」


 一人でする背比べは、チマキを取り合う喧嘩をしないくらいつまらない。


 溜め息を吐くと指先の力も抜けたのか、チマキが顔の上に落ちてきた。


「痛っ」


 小さなチマキでも、鼻の頭に落ちると痛い。

 自分の不注意が招いた事態だけれど、姿が見えない兄にチマキを落とされ、無邪気に笑いながら「ばーか」と言われている気がした。

仲間内のお題作品です。

今回のお題は『端午の節句』でした。

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