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ひさしぶりぃ

「…………何してるの?」

 訝しげなカラスに言われて、今自分が何をしているのかを考えた。

 ふむ。

 思えば難しい質問だ。

 貴様この人生で一体何をしているのか。と問われているのではないかと思っても、間違いではないだろう。

 人は何をし、何がために、何に焦がれて生きていくのか。

 十人十色の解があるし、ないのかもしれない。

 自分が何者なのか、何度も同じ意味を問うてみるのも人生の一部なのではないか。

 果たして俺は何者か。

 自問自答を繰り返し、未だに自分が何者なのかを解いあぐねている。

 煩悩を掻き立てる。

 あまりにも悩ましい。

 人によってはくだらない、百も承知で一見にしかずとも言える問いを飽きもせず思案に思考を重ねる毎日。

 俺は一体何者か。

 だが果たして自分が何者なのかを正確に解いた人間がいるだろうか。

 かのピカソでさえ、満足のいく絵を描いたのか。

 あのアインシュタインですら、完璧と豪語する理論を確立できたのか。

 生涯それ以外何もしなかったのであれば、もしかすると。

 いやはや。

 何にせよ。

 何をするにしても。

 苦労なし、煩悩なしでこの長い人生を歩む。

 その理由を、問を、解を、どうか人類が発達させてきた脳の役目だとも思いたい。

 せめて俺が火箸とゴミ袋を持って()()をするのに何か意味があればいいのだが。

 まぁまぁ無駄な独り言も程々にして。

 真面目に、カラスの問いかけに答えようと思えばあまりにも容易いわけではあるが。

 いや、見ればわかるだろう、というのか、正に百聞は一見にしかずとはこのこと。

 この姿を見て、俺が何をしているのか、わからないとは言わせない。

 だがしかし、そうだな。

 あえて俺が何をしているのか言うべきならば。

 本来、ただただゴミ拾いに明け暮れているだけのこの身分で世間様のために見栄を張って言うべきなら、俺はこう答えよう。

 全ては、ご近所様のより良い暮らしのために。


「慈善活動」


 カラスはさらに訝しげな顔をした。


 ***


「仕事の話をしに来た」

「見てわかんない?今仕事中なんだけど」

 そう、これもれっきとした仕事である。

 かねてより活動内容を模索していたうちのギルド(草)が、町内会にまで泣きついた結果。

 鐚一文もらえないゴミ拾いにありつけた、それはそれは大切なお仕事なのである。

 つまりそういうことです。

 ボランティアです。

 小さなことからコツコツと。

 塵も積もれば山となる。

 青巻紙赤巻紙黄巻巻。

 わかったかカラス。

 即ち俺は褒美を求めることもなく人々に求められた仕事をこなしているのだよ。

 税金で筋トレできる貴様ら国のお狗様に、こんな(わざ)をこなせようか。

 いやこなせるわけがない。

 跪けぃ!

 ドヤ顔してやんぜ、オラァっ!

「変な顔やめて」

「はい」

「今回は前線に出て欲しいということで」

 俺のささやかな望みは叶えられないようで。

 俺の質問は蹴飛ばして、カラスは自分の役目だけを果たそうと、今日来た目的を話し始めた。

 おいおい。

 それが慈善家に対する態度かね。

 ドヤァ。

「ていうか。()()の人間を戦力にしようってどういう魂胆?」

 だがしかし。

 せっかくいただいた冷たいジュースをもらって話を無下にするわけにもいかず、場所を裏通りから最近縁ができた噴水広場に変えて、カラスが持ってきたお仕事とやらの詳細を存分にしっかり聞き訊ねることにした。

 つまり、そうだ。

 戦争に駆り出されるわけだが。

「前線っていうけど、どこまで出るんだよ」

 だが何の問題もない。

 この世界、この時代で領土の交渉をする最もポピュラーな政策だ。

 それに何のための傭兵ギルド(草)だっていうのか。

 そして俺の経歴から言って、俺の役割がこんな平和ボケして終わるはずがない。

 脳の役目が知ったことか、兵士は黙って剣を奮えばいいのである。

「本国から離れたある拠点に魔王軍が押し寄せてきてる。手薄の陣地を狙って来たからか、手を回す頃にはそこ一帯を占拠されて、今はなけなしの戦力で前線を守ってるところ。ハトはその増援に補填される予定」

「誰かポカやったのか?」

「その陣地の責任者が交代する矢先だったから。もっとも、元から戦略的に重要度を低くされた場所だったから結局、ゴタゴタしてるところを狙われたってだけだけど」

 カラスは、淡白に自軍の不手際を含めた内情を話した。

 俺も大概だが、こいつも大した責任感、連帯感があるわけではないらしい。

 仲間の窮地にもこの程度の反応だが。

 そもそも感情の起伏がないやつだから、内心どう思っているのかは俺の知るところではない。

 話を続けて。

「最終的に上層部は、手が回らないから現地で集められるだけの傭兵を雇うことにした」

「それでこの街ですか」

 一人で一個師団並みの戦力を持ってるとか言われてる勇者がいなかったら、今頃この国なんて魔王軍に墜とされていたかもしれない。

 つまり純粋に、人員不足がネックになっていた。

 派遣とバイトで覇権保とうだなんて、ブラック国家とは正気の沙汰じゃない。

 この正社員、否、国防軍士官兵、異世界組唯一二つ名持ちのクリスティーナ少尉さんがお姉さんや俺のためにあっちへ行ったりこっちへ行ったりするくらいだから。

 才能ある人間の使い方が間違ってるんだよなぁ。

「お前が行けばかなりの戦力になるんじゃないか?」

「私は後始末メインの人員だから」

 サラッと物騒な肩書きが判明しやがった。

「ああ、そう。しかし、この街の近くで戦闘かよ。気がつかなかったけど」

 おそらく、戦火の及ばない程度には遠いのだろうが。

 トキや、ウィリーに言って避難させるべきかもしれない。

 被害がここまで辿り着くかわからないが、念のため。

「それは大丈夫。姉様がせっかくだからハトも入れようってことで抜擢しに来ただけだから。現場は遠いし、この街は魔王には全く興味のない街だから安全。安心して」

 …………あのねぇ。

「そういうことは最初に言ってくれると…………」

「地理くらいわかるかと思ってた」

「バカにしてる?」

 バカにしないでよ。

 いや、アカネとの旅でも、本国は極力避けてたし。

 道に迷いながらだったからあまり土地勘に恵まれなかった。

 いい旅路でしたね、完。

「装備は自前。移動日を省いても1日や2日で終わる仕事じゃないから、必要なものを多めに買って持って行って」

「経費落ちますか?」

「落ちません」

 この時代、傭兵があっちこっちで使い潰されている理由がこれだ。

 まだ保証があるだけにうちの故郷の方が派遣としてマシだったんじゃないだろうか。

 その分報酬は弾んでくれるが、長く続けるより盗賊にでも鞍替えした方が生活できる、くらいの扱いだ。

 だが食糧はそちらで用意してくれるそうなので、生憎俺はたらふく食べなくてもいい身分だが、その辺で大目に見てやろう。

「ハト」

「あん?」

「…………」

 …………を?

 なんだこいつ、急に…………。

「…………ハァ」

 お?

 カラスともあろう猛者がらしくもない深呼吸なんて。

 気のせいかもしれないが目も泳いでる気がするが。

 そう、気のせいであればいいのだが。

「あなたが今までどうしていたのかはわからないけれど、今回の案件は、本物の戦場だから。もし、行きたくないのなら。無理にとは言わない」

「…………おう」

 …………。

 俺が驚いたのは、カラスがそんな感情めいたことで他人に指図するわけがない、と思ったらからだ。

 この女はどれだけいっても、冷徹な、与えられた目的も冷静にこなす熟練の兵士————だったはずだが。

 俺や、()()()()()()()とは程遠い人格を持っていたはずだ。

 指図っていうか…………心配されてるっていうか。

「…………別に」

 そんなことで、どうして。

「…………ああ」

 …………なんだ。

 程遠いつもりだったんだが。

 そう、冷たい人間だとか思ってたわけだが。

「…………そう簡単に死なねーから」

「…………だといいけど」

 別に。

 こいつの本心がわかったわけじゃないが。

 感情がないなんて詭弁も甚だしい。

 俺は、もしかしてこいつは何かを耐えてきたんじゃないかと想像すべきだったのに。

 あるいは俺が鈍感なのか。

 はたまたこいつの表情筋が鉄壁のごとく固いだけなのか。

 …………。

「…………」

「…………」

 …………。

「忘れろよ」

「…………」

()()()()が選んだことじゃなかったにしても、多分、絶対に。足手まといになりたい奴らじゃなかったんだから」

 だから前を向けと。

 言ってくれる気がする。

 少なくとも()()はな。

 おいおい、案外感傷的ですねぇ。

「気にしてないと思ってた」

「心外だぞ」

 お互い様かよ。

 俺も俺で表情筋が固いらしい。

「もうそろそろ掃除していい?」

「その前に当日の話」

「あーはいはい」

 大事ですからね。

 そうですよね。

 お仕事の話はここからが本番ですからね。

「出立は明日」

「ゔぇ?」

「西口に馬車を用意してるから、3日かけて戦地に向かってほしい。途中の宿も確保済み」

「急すぎやしませんかねぇ…………」

「事は一刻を争う。耳を引っ張ってでも連れて来いって言われた」

「何、そのお姉ちゃんか幼馴染みたいな感じ?」

 血みどろの戦いに行くんですけどね。

 いいんですか?

 そんなご褒美いただいて。

「馬車の目的地が集合場所。たくさん傭兵が集まってるはずだから、集合があったら責任者の指示を聞いて」

「あいよ。それからなんだ。あとは向こうに行けばわかるのか」

「そう。あと、できれば何人か戦力を連れてってほしいし、あとは、出来るだけ相手側の指揮官と出会わないように」

「そんな強い敵いんのか?」

 むしろそんな強いのに対抗できる人間が()()()()にいるのか。

 勇者呼んでちゃっちゃと蹴散らして終わらせてほしい気もするが。

 当人忙しいし。

 仕方あるまい。

「強い敵————それはもちろん。だって」

 まぁまぁ。

 どうせ俺なんて戦地の端っこ行ってちょびちょび戦ってるし。

 戦況なんて俺にはまったくもって関係がない。

 どれだけ大きな戦火になろうとも連れてく戦力(なかま)が無事であれば万々歳。

 だが俺はその名前を聞いた途端に、根本からこの仕事を降りようかと考えそうになった。

 ぶっちゃけ、会いたくないほどのやつではないのだが、気まずっちゃあ気まずいわけであるし。

 いや、だが。

 ()()が俺を覚えていそうってことは、万に一つも、ありそうだな。

「だって相手の総司令官は何を隠そう、閃光の————」

 あーはいはい。

 次の瞬間、偶然、目敏く俺を見つけた生意気な街のガキ共の投げたボールがバチーン!と俺の顔面にクリーンヒットし。

 そして俺は、珍しく水いっぱいだった噴水の杯に、満足な受け身なんて取れずに背中からボチャンと沈んだ。

 ガキ共への憤怒、いつも通りのカラスの無表情、冷たい水の温度などを感じながら、水に顔が浸る寸前、目に刺さる太陽の閃光を見て。

 俺は帰ってダラダラゲームしながら1日を過ごしてみたいと久々に思ったのさ。

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