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ちょっとアホなことして前後の辻褄合ってません。
「なぁなぁなぁ、けっとーしてーなー」
「だぁっ!」
痛って。
「ゆーちゃんダメっ!」
「べーっ!」
「はらへったー」
「…………うっせーな」
という風に、ガキンチョに絡まれる今日この頃である。
一昨日だったか、突如現れたナサニエルくんというカラスにゾッコンの少年とのケンカを、何の間違いか大勢のチルドレンに観戦されていた折。
その後は即解散だったのだが、昨日から生意気なガキンチョの集団に絡まれる今日この頃である。
あるちびっ子とたまたま道端で会って、勝負のことを思い出して、どこかで拾ったらしいなんかいい感じの棒を振りかざし「けっとーだぁっ!!」と叩き込まれた。
めちゃくちゃビビったから避けられなかったし。
いくらなんでもスネに細いもんブッ込まれたらその場にしゃがみ込みます。
また味をしめた坊ちゃんが俺の頭をゴスゴス叩いてくるもんだから。
「痛い痛い…………」
と言ってたら、その内に「まいったかっ!」と聞いて来たので参ったと言ったら友達呼ばれて…………。
なんかもう、子供って怖いですね。
その時はトキさんに頼まれた買い出しの途中で、酒場に帰った時のトキさんの顔。
「この人攫い…………」
いや違いますよ。
むしろ襲われたの俺…………。
日が落ちるまで世話をする羽目になった。
常識人である俺が、その時とった判断はこの子らの家に順番に帰すという。
素晴らしいと思わない?
褒めてくれていいのよ?
お陰で一気に有名人だ。
急に現れた猫背で目つきの悪い男が、自分やご近所の子供を大勢連れている。
そんな危ない構図。
しかし親たちは昨日の今日で、子供が安心し切って、というかナメ切っている様子を見て俺を完全親戚扱いする始末。
挙句には。
「これ、お腹空いてたら朝ごはんに」
と所々でパンをくれた。
全部子供が持って行きましたけど。
否、ハトさんは優しいからあげたの。
ていうかお腹空きにくい体質だから。
女の子が一欠片くれたけど、やはりジャムやバターがないとキツイと思ってしまう俺の意地の悪さ。
まったく、しょうがないね。
まぁでも。
他人に親切にされたというこの美味しさは母の味に勝るとも劣ら…………。
…………俺は長らく母の味より、妹の味の方が馴染みがあるのだが。
妹の味ってなんか嫌らしい響きがあるけど深い意味はないからね。
兎にも角にも。
今日でさえこの幼稚園状態のまま昼を過ごさないといけないわけである。
「なぁなぁなぁけっとーしよーなハトぉ」
「ダァーッ!」
痛って。
「ハトー、あれみてーっ!」
「はらへったー」
子供って自由。
疲れを隠そうともしてない俺のことなんて御構い無しに自分の要求を発言しまくる。
ていうか歩きにくい。
「…………」
まぁ何を隠そう。
精神年齢的に似ているシエルと友達にでもなってくれればと思ったのだが。
せっかくガキどもをダシにシエルを連れ出したはいいが、シエルはまるで人見知りのように俺の背中から離れようとしなかった。
***
時刻が正午に達しようというところで、ガキンチョらとは昼食を理由に、大通りから帰宅してもらった。
また遊ぼう、という約束をして。
あまり何度も遊んでいたら俺があらぬ誤解を受けそうだが。
NEATかよてめぇ!って無邪気な指摘をされるのかもしれない。
それならまだいい。もう慣れたから。
ロリコンかよてめぇっ!も、まぁまだ許容の範囲内であろう。
事実だもん。
いや違うし?アカネが好きなだけだし?結婚(仮)したいだけだし?
だがショタコンかよてめぇっ!とか言われた日には俺死ぬかもしれない。
主に社会的な死を頂戴する羽目になるのだろうが、NEATもロリコンも社会的な地位で言えば大差ないことに気がつくと、俺の行く末は縛り首以外にないんじゃないかと不安になってしまうのだが、幸い我が首を含めた身体のあらゆる部分は頑丈だ。
じっくりと苦しみを味わいながら縄の感触を楽しむことができる。
素晴らしいね、人生とはこれいかに。
なんだよこれ。
無駄な足掻きも無駄かよ。
無駄無駄。
ガキンチョらに手を振られて見送られ、やっと姿が見えなくなったところで、つまり二人きりになったところで。
俺はシエルにこう切り出してみた。
「ちょっと歩くか」
「うんっ」
思えば、これといった外出も出来なかったこの頃。
やはり今日はガキンチョをいいダシに使わせてもらった感じなのだろう。
酷い大人がいるもんだ。
こうでもしないと親しい女の子一人口説けないんだから。
***
「おー」
まぁまぁ、ここからの景色は確かに悪くない。
この街で数ある展望台のひとつとしては、一目で伝わるコントラストとかとかに息を呑むのだろう。
赤土の瓦が辺り一面を覆っているのかと思えば、所々の大通りや裏道による途切れが面白おかしく点在し、奥には草原の緑が、そして更に奥では地平線を跨いで空の青が一線を画す。
よく見る、二次元ファンタジーにはありがちな光景だけれど。
故郷では飽きるほど検索し漁っていた憧れの景色が、ここではいつでも、どこでも見ることができる。
こんな風に長閑なものから、活気あるもの、歪なものと残酷なものですら。
まさかその全てをこの目に収めるどころか、この身に体感するなんて思いもしない。
ファンタジー作品で描かれている感動や不幸が、大袈裟に描かれていると思いはする。
そう、世界は常に優しく、残酷だ。
こんなしょうもない感情と向き合いたくないがために、俺は景色とは全然関係ない方に目を背けることにした。
シエルからこの不毛な感情を隠すために。
泣き虫だとは思われたくないもんで。
「ん」
シエルは、高台特有の風を受けて、より空気を感じ取るよう深呼吸をした。
俺はというと、同じようにまったりとしていると見せかけて、実はそうでもないのがここだけの話だ。
もちろん街を一望できる場所としてそれなりの高度にあるのだろう。
俺の膝がガクブル言っているのは気のせいではないのである。
ふふふ。
正直、体質のお陰で落ちても平気は平気なんだけれど、存外高所恐怖症だった俺が、経験によってそれを克服することはなかったということなのだ。
やせ我慢するとかいうレベルを超えて、アカネのいない高所は苦手だ…………。
まぁそうだな。
アカネさえいれば宇宙から落とされても平気かな。
いやむしろ、地面のないところをずっと落とされ続けてもアカネさえいれば大丈夫。
大丈夫さ。
だってアカネがいるもの。
なんだこれ。
アカネを信頼してんのか別の何かなのかわけわからんぞ。
コンプレックスってやつか。
バカな、ロリコンじゃあるまいし。
あいつ仙人だし。
妙な悪寒もし出したので一旦あいつのことを考えるのはやめよう。
…………まぁしかし。
こうしてシエルが喜んでくれるのなら。
やっぱりこうして連れてきても良かったのかもしれないな。
「オススメの場所ってやつ。またここ以上にいいとこ連れてってやるよ」
「ここ以上にいいところなんてあるの?」
「いくらでも」
「おー」
少女から感嘆の声が漏れる。
「ハトはなんでも知ってる」
「そうだな。なんでもは知らないけど」
好きなキャラクターの決めゼリフを引用して。
自称仙人とやらと年中旅行しまくってただけなんだが。
何度もアカネに乗って空を舞い、途方もなく、アカネの行く先々について行った。
常人では辿り着くことのできない超遠距離、秘境、極環境。
その全てを、たった一年間で踏破してしまった。
俺のチンケな価値観が、ズタズタにぶっ壊れるほどに。
そこにあるものが、あまりにも巨大で。
この景色の先で巻き起こっている戦火など、あまりにもちっぽけに思えるほどに。
…………。
怖い話がしたいわけじゃないんだし。
俺が関わることはないはずの問題だ。
あの男。
シンでさえ言っていたじゃないか。
少し言い分は変わってしまうが。
俺が脅威と感じたものから避け続けることで、シエルは安全が保たれるのだから。
誰にも。
もうこの子が寂しい思いをしないために。
「…………そろそろ飯食いに行くか、シエル」
「うん」
こんなネガティブ思考をしてしまうのは、腹が減ってる以外にない。
最近、面倒さにかまけて食事をしていなかった俺は、今の我が胃のグ〜ギュルギュルに耐えられる気兼ねは全くないのである。
その分おいしい料理をご馳走になるまでよ。
「何食う?」
「んー。オムライス?」
「たまには別の店で食いたいとかないか?」
「うん?うん」
だってさ。
オムライスって、結局うちで食うんじゃん?




