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前話少し改変しました。
しょーもないところで遅くなって申し訳ありません
m(_ _)m
捗りません。
「少し、いいですか?」
彼は別段、遠慮するわけでもなく。
敬語なのにぶっきらぼうに、多少は気を遣って、当たり前だが他人行儀に律儀に申し訳ないが、と声をかけてきたのである。
悪いけど見ての通り暇なのだが。
少年は少々使い込まれたマントで顔を深く覆っていた。
その姿に、つい最近見覚えがあるのは全くの気のせいじゃないのだろう。
何故なら、彼は俺やアマネさん、更にカラスと仕事を一緒にした仲なのだから。
あの時は見ることもなかったその整った顔立ちを、今はフードを取り払ってよく見せてくれる。
まさか二度も会うことになるとは思わなかったんだが。
しかもこんな早く。
「捜しました。ギルド、なんてものを始めようとしているんですね」
お世辞でも言いに来たわけでもないだろうに。
けど、このセリフに食いついたのはアマネさんだ。
アマネさんは彼を待ち望んでいたと言っても過言ではない、初めての『お客さん』或いは『新入り』としてしか思わなかった。
「もしかして加入希望っ?」
「いえ違います」
一瞬で撃沈されたのは可哀想かなと思ってしまったが。
そもそも興味はないが挨拶程度に気にかけておこう、としただけらしい。
いや、こないだの一件で顔見知りとはいえ、大した印象をお互いに残してたわけでもないだろうに。
まさか今日出来たてホヤホヤの集いに、せっかくだから地獄耳で駆け付けたなんてバカな関係であるはずがない。
それを踏まえればアマネさんの期待は的外れにもほどがある。
ちょっと期待したくなる気持ちもわからなくはないけどね…………。
じゃあ、ならば。
「じゃあ何の用だ」
焦れったい。
そんな気分が顔や声に出てしまったのは申し訳ない気はする。
「もちろんあなたに用があります、シマさん」
何故俺の名前を…………なんてな。
少し疑問の余地があったけれど、ピンとくればタネ明かしの必要もない。
多分、前回の仕事の名簿を盗み見して来たってところだろう。
でなけりゃこっちでよく使ってるはずのハトの方の名前を呼んでくるだろうし、苗字と名前の順番を勘違いしてなけりゃあ、ハバタキと苗字の方を呼んでくる方が初対面では正しい。
いつ、どのタイミングで?とはなるけど、よくわからん。
そして。
「用って何?」
「はい、単刀直入に言わせてもらうと」
ここまでで嫌な予感しかしない。
最近、仕事とはいえ面倒に巻き込まれることが多いのだから、こいつが例外であるとはとても思えないのである。
思えば…………思えばこの世界に来て面倒事のない日はなかったから別に珍しいイベントでもないな。
うん。
何気に苦労してる俺。
そろそろ凄く萌えるイベントに突入してもいいのではないだろうか?
具体的には、空から美少女とか湖から美少女とか地面から美少女とか。
地面からって何?
とはいえ、果たしてその面倒がどれほどのものであるかわからないわけだし、もちろん面倒事だと決まったわけでもないんだけどな。
俺はお姉さんの頼みでもなければ仕事を選り好みする性分だが。
厄介でなければ少しくらい手を貸すのも、吝かではない。
これでも人並みの倫理は持ち合わせてるつもりだ。
今陣取ってるこの場所を譲るくらいなら、考えてやらんこともない。
「あなたは白兵のカラスという人物をご存知ですね?」
「うん知らない」
「え?」
はい終了〜。
わかってたけどねーそうくるかーって感じだったな。
何故かアマネさんが驚いたようにこっちを見たけど、俺は白兵のカラスなんていう無愛想で声ちっちゃくてスタイル良くてアホみたいな戦い方で強すぎる女なんて知らないのである。
世間は広いのだから、まさか絶賛お金頂戴中の俺みたいなNEETくんが、そんな大成功出世街道まっしぐらの有名人とお知り合いなわけがないんですよ。
大体、そんな有名人と知り合いならこんなとこでこうして看板掲げてサークル活動に勤しんでなんていません。
なんだよその顔。
俺が何かおかしいことでも言いました?
ほらやっぱメンドくさい…………ことになっただけでしょ。
「あなたが白兵のカラスと親しい間柄であることはわかっています。というか、あの時、とても初対面で交わす会話ではないでしょうし」
グッポイントだワトスンくん。
グッポイント。
だが君は少し勘違いしている。
「べべ別に、親しい間柄とかじゃないからね。ただあれより前から仕事で付き合いあるだけなんだから」
「どうして動揺しているの、ハトさん」
「ハト…………白兵のカラスも、あなたのことをそう呼んでいましたね」
ちょっと。
変なところに興味持たれちゃったんですけど。
口を挟む時はプライバシーに気をつけるべきじゃないかと思います。
とにかく。
「俺の名前はどうでもいい気はするが。どのみちカラスとはそれほど付き合いがあるわけでもないし…………あいつに何の用なんだ?」
お節介かもしれないが、あいつがここにいない代わりに、一体何が目的なのか訊き出すべきなんじゃないかと思った。
次第によっちゃあ、殊更にこいつをあいつから遠ざけなければいけないんじゃないかと。
「では僕の頼みを聞いていただけませんか」
聞くだけならいいだろう。
聞くだけなら。
ん…………長い話にならなきゃいんだが。
「僕は魔王に滅ぼされたある国の出身なのですが」
「そうなのか。大変だろうけど、これからも頑張ってね。じゃ」
険しい旅になるだろうけど、応援してるよ思い出した時だけ。
洒落臭いのもほどほどに。
以上で延べつ幕無しに幕を引こうと腰を浮かせたのだが、これに待ったをかけたのはお馴染みのお人好しアマネさんだ。
こんちきしょーっ、袖から手を離せぇっ!
「いやいやハトさん…………急に話を終わらせようとしてどこ行くの…………」
「いやいやアマネさん…………これ絶対魔王絡みだって…………魔王退治手伝わされる案件だって…………魔王相手とかマジ勘弁…………だって魔王ばり強…………即乙…………やべーやべー」
「語彙がバラバラに…………」
「一言で言えば最強最悪」
「うん…………わかったから。そうは言っても、最後まで聞かないとそうとは限らないわよ?」
「フラグって知ってる?」
「まぁ、なんとなくは」
「ゲームとかアニメではこういうのはメンドくさいことが起きるって相場が決まってんの」
「あのね…………なんでもゲームとかアニメに例えるのはよくないと思うだけどなぁ…………」
いいじゃん別に。ゲームとかアニメとか面白いじゃんっ。
「話がお早いようですね。そう、僕はその魔王を倒さなくてはならない」
ほらぁやっぱりぃっ!
アマネさんがモタモタするから話進んじゃったしなぁっ!
いい加減に離せぇっ!
俺を解放して面倒に巻き込むなぁっ!
あぁ…………無理矢理解けば逃げれるけど、なんかそこまでできない…………。
俺の意気地なし…………。
少年の話は淡々と続くかと思いきや、段々と熱を帯び始めていた。
「僕は強くならなくてはならないんです…………あなたの言う通り魔王の力は想像を絶する…………たった一夜で一国を滅ぼしてしまうあの力には今はまだ遠く及ばない…………」
一夜で一国って。
ソシャゲのデイリーミッションじゃあるまいし。
レイドでもかなりヤバい相手だと思うけどね、魔王。
そして話は遂にクライマックスを迎えた。
「だからお願いします…………僕には師が必要なんですっ…………白兵のカラス…………僕は彼女に力を授けてもらうため…………教えを請わなくてはならないっ!」
迫真的な動機だな…………。
運命的で妄信的な動機でもある…………。
なんでカラスでないといけないんだこのガキンチョは。
「あなたにはその後迷惑はかけません。彼女の居場所さえ教えていただければそれでいいんです」
すでに若干迷惑だなって思っちゃうよ俺は?
いやいや、だからと言って、面倒事がカラスにいくからと言って、そんな頼みを引き受けてやるわけにはいかない。
あいつ忙しそうだし。
あいつに貸し的なもの作るの嫌だし。
何よりあいつに男子紹介するのは変な気がして嫌だ。
あれ?
何?
心配?
嫉妬?
違いますぅ。
「悪いけど、他を当たってくれ。あいつの居場所も知らないし」
どうせトキの宿で寝てるだろうけどね。
口が裂けても言うつもりはないが。
「わかったら他を当たれ」
「…………仕方ありません。あなたでなくとも、白兵のカラスに出会う方法はいくらでもあるでしょう」
「そうじゃない。カラスから手を引けって意味だ」
「ハトさん?」
ついつい厳しい口調になってしまったのは、何なんだろうな。
カラスを庇いたいとかじゃないんだけど。
「むしろ強くなる方法がいくらでもある。それこそ軍に入隊すれば強くなれる上にカラスにも近づけて一石二鳥。運が良ければ魔王退治も目前だ」
「…………いえ、それは」
それはただ、一つの選択肢しか見えていない。
焦って、最短しか見据えずに確実を欠く。
何を隠そう、今優勢なのは我らが国王軍側であるから、待っていればどうせ誰かが魔王を退治するところまで来ている。
待っていれば誰でも仇を取ってくれるところまで来ているのだから。
何故、よりにもよって自分の手でなんて選択をしてしまうんだろう。
名声を、私怨のため、気まぐれに。
自己満足に気づくべきなんじゃないのか…………。
「…………」
そんなことを考えている俺こそ、正しい選択をしていると自己満足に浸りたいだけなのかと思ってしまった。
だからそれ以上何も言うことはできなかったが。
少年は何も言わなくなった。
思うところはあるらしい。
そんなに表には出てないようだが反抗的な目だ。
それもいいだろう。
俺だって、誰かを説得できるほど、するほどの経験なんかしたわけじゃないしな。
俺が正しかったことは一度もないからな。
「話は終わったか?」
不意に聞こえるその声に全員がビックリしちゃったなんて。
部活でイザコザが起こったみたいな空気に割り込んできたそのテンションに、俺だけでなく二人も安堵したかもしれない。
しれないけど。
「よう。面白そうなことやってるみたいなんで見にきたんだが」
だ…………誰?
筋骨隆々。
それでいて小綺麗な服装に、やはり目を引くのは松葉杖。
だが老人ではない。
ハツラツとしたお兄さんが、俺たちが陣取っていた場所の裏からヌッと現れて、親しげに話しかけてきた、のである。
え、誰?
アマネさんを見ても、彼女も首を振るばかり。
少年を見ると一瞥するだけだが戸惑っているのが少しわかる。
え?ほんと誰?
「まぁ顔合わせただけとはいえ、そこまで挙動不審にされるとこっちとしてはショックというか」
んー待て待てタンマ。
そのドスの効いた美声は。
「ビリーか…………?」
「ウィリーな…………」
おうマジか。
髪があったからわかんなかった。
髪があるっ!?
***
「魔王退治はやめたよ。この足にされちまってな」
言ってウィリーは、見たところ問題のなさそうな足を叩いて、それがすでに役に立たないものであると告げた。
マジで、魔王退治旅超怖い。
聞けば最序盤でエライ目にあったらしい。
ゾッとするので詳しく聞くのはやめたい。
「旅に出た以上、どんなことが起きても耐えるつもりだったが、さすがにこうなると悔しいというか、辛いというかな。まぁ、辛気臭ぇことを言いに来たわけじゃあねぇんだ」
じゃあ何しに来たんだろう。
お仕事?
仕事?
もしかして仕事?
ちなみに何が興味あるのか、未だに少年がこの場に留まって、ジッと俺たちのやり取りを傍観していた。
他に何の用があるんだろう。
「仕事なら大歓迎」
アマネさん的に。
アマネさんもコクコクと首を縦に振った。
だがウィリーは首を横に振った。
「悪いな。仕事じゃなくてギルド加入希望だ」
帰れーいっ!
お金ないなら帰れーいっ!
いやメンバー募集中だから帰るなーいっ!
割と期待してたのか、アマネさんも一瞬肩を落とし、よく考えるとそれも待ちかねていたことであると、テンションの上がり下がりに若干のラグがあった。
「まぁそうガッカリするなよ。金を扱うことに変わりはないんだからな」
「というと?」
すかさずアマネさんが合いの手を入れる。
目がワクワクしてる。
一体どんな役を引き受けてくれるのか。
「実は戦闘が出来なくなってから銀行家に弟子入りしてな。満身創痍だった俺を助けてくれた恩人なんだが、その人から色々金の回し方を教えてもらって、今その佳境として、実践としてどっかの会計でもしようと思ってたんだ」
思ってたよりすごい事務的で本格的なことを名乗り出てきやがったぞ。
あれから時間が経ったのかと思えばそうでもなく、それだけ短時間で実践とは如何に。
数字に弱い俺としてはそんな才能に敬意を表さざるを得ない。
ぶっちゃけ何だろう、この敗北感。
アイアム劣等生。
俺が脳筋になってしまう…………見た目でいえばウィリーの方が脳筋なのに…………ウソやろ?
「それで白羽の矢が立ったのが、あたしたちというわけね」
ザッツライ、とばかりにウィリーはアマネさんを指差してそれに肯定した。
左様ですか。
少年がジッと俺たちの様子を見ている中、加入面談はスルスルと進んでいった。
「師匠も忙しくて放任主義でな。どうせならってことで」
ふと疑念が過った。
それって何。
俺ら実験台じゃない?
ハッ、マズいっ!
アマネさん、騙されるなっ!
「そういうことなのね。あたしたちでよければ力になるわ」
つい頭を抱えてしまった。
即答ですかい。
「そう嫌そうにするな、ハトさんよ。うちの師匠は銀行家仲間の間でもかなり腕の立つ人だからな」
「そんな方の師事があるなら、大丈夫よ、ハトさん」
根拠なくない…………?
ただでさえ、まだ仕事もないのにどこからそんな自信が湧き出るんだこの二人。
アマネさんは本当に根拠なさそうだが、この男、ウィリーは…………。
…………仕方ないのか?
「…………どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ」
「アマネよ。よろしくお願いします」
「ウィリーだ」
ハトさんです。
アマネさんすごーい自然に打ち解ける。
リア充疑惑が重なったな…………まぁよかろう。
オッケー。
まぁこれでメンバーの確保はできたとしよう。
俺たちではどうなるかわからなかった金の工面は当面このウィリーという銀行見習いが引き受けてくれることになった。
トキさんに任せるには流石に気が引けることだったので、まぁ安心したという気はするが。
さて。
「なぁ少年」
と、不意に。
ウィリーは何を思ったのか、立ち尽くしたままでいる少年に、お待たせとばかりに声をかけた。
もちろん、俺たちの仲間になったことで俺たちの問題は共有されたわけである。
それを解決してくれようとでも言うのか。
面倒が減るならディモールトよし。
「ここはどうだ。ひとつ依頼としてこのハトにそのカラスさんとやらを紹介してもらうというのは」
ぬぬ。
「ウィリーさん?」
こいつ、なんてトンデモナイこと提案するの?
俺の都合はっ?
さっき背後で聴いてなかったのっ?
「もちろんタダでとはいかない。それ相応の対価として、こちらの条件を満たしてくれればという話だ」
そーゆーこっちゃねーんだよっおいこらーっ!
俺がヤダって言ってるのっ!
おわかり?
わかってこの気持ちっ!
「条件、ですか」
「そうだ。これからお前たちにしてもらうことがある」
なんの魂胆があるのか知らないけどお前たちって俺たちのこと…………?
なんでなんすか…………なんで俺の気持ちをわかってくれないんすか…………深い意味はないけどなんか嫌なんですよ。
この男心がわかるやつはそうそういない…………。
カラスがドヤ顔で「男の子が自分を探しに来てくれた」っていうのを見せてくれた人にゃ。
鼻フックデストロイヤーも晴らさでおくべきか。
オイオイシュンサツダヨ。
「おいおい、やる気だな、ハトさんよ」
「え?いやこれは違うけど?」
「つまりこういうことだ。ハトと坊主が、文句なしの一本勝負で、お前さんが勝てばカラスさんとやらの居場所を教えてやる」
「…………」
「出血大サービス。代金はなし、いつでも何度でもチャレンジ可能だ。いかがかな?」
「…………」
あー…………なんか急におかしな展開へ持ってかれてる気がする。
何故そんな面倒なことを…………余計に面倒なことを。
決闘が条件って。
ん…………デジャヴ。
というかお前これ。
「僕が負けて、ハトさんが勝った場合はどうなるのでしょうか?」
「その場合はお前さんがこちら側へ来る」
「意味がわかりませんね」
「なーに、ただの余興さ。派手に暴れてもらうぜ、お二人さんよー」
ウィリーは前回俺に負けているし、今は足が不自由だから。
そういうことでいいのかしら。
「なぁウィリー」
「ん?」
「…………仕返しか?」
「はて、なんのとやら」
惚ける割には、ニコニコ楽しそうにするウィリーだった。
挿絵欲しい…………。




