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「またとない機会だ。待ち望んでいたと言ってもいい…………だがこんな急ぎの用事でなければ、是非手合わせ願いたいものだったぞ、白兵のカラス」
「あの…………ちょっと」
結構なファンだ。
本人は若干引き気味であるが。
今カラスが呼んだ応援は、いつ頃着くのかな。
この信号弾って魔王軍発見の合図だよな?
それまでどうしてればいいのかしら…………帰りたい。
「あれ誰…………?なんで私名指し?」
「お前、自分の有名さ知らないのか?」
「有名?声かけられることないから。こないだの人も勝手に私のこと知ってたみたいだけど」
こないだの人?
カラバオのことか。
あの人も見かけによらず情報通なところがあったわけだし、そんなミーハーな人の耳に入っているんだから、十分自覚があってもいいくらいなんだが。
「ところで、勝機はあるのか?」
「ハトが手伝ってくれれば多分」
なんで俺が…………さっきかなり痛めつけられたところなんだけど。
まだ動けるには動けるんだけど、あの隊長速すぎるんだもん…………。
それこそあの子くらい…………いや、昔のことはどうでもいい。
そう考えたら俺、役立たず?
やだ…………それだけは。
それからこいつ、一人で来たんじゃないだろうな。
「カラス、来たのはお前だけか?」
応援を今呼んだばかりなら、これから時間稼ぎをするべきだ。
おそらく俺とアマネさんという、およそ軍とは無関係の人間を捜しに来たのは、関係が少しでもあるカラスだけに違いない。
その他の軍人はなんて冷たい連中なんだろう、とは思うけど、俺だって来ないだろうから当然の扱いだと納得はしよう。
カラスが来てくれただけでもありがたい。
「一応もう一人いるけど…………」
「マジか。どこ?」
いるけど?
歯切れが悪いな。
そんな良い情報を何故そんな申し訳なさそうな顔で言うんだい?
「閃光…………目にも留まらぬ速さで戦場を駆ける大男。鎧が光を反射することがあってから名付けられた、魔王軍の重装武隊の隊長らしいですが」
へー、意外としっかりした由来があるんだな…………。
…………ん、もう一人、か。
物知りなもう一人だ。
「…………」
なんでそんな険しい顔してるんだいカラスよ。
スタリスタリと閃光の人の解説を呟きながらアマネさんの側を通り過ぎて歩み寄って来たのは、元々俺たちと同じ班にいた、マントのフードを目深に被ったままの、さっきの運び手だった。
声の低さを聞くに、声変わりし始めの男の子だったらしい。
んー…………あまりよくは見えないがその容姿。
むしろカラスさん歓喜では?
「少尉さん、遅れてしまいました。僕はどうすれば?」
「勝手に着いてきた」
適当か…………。
手伝いに来てくれたんだろう…………勝手に着いてきたとか、おざなりにしてやるんじゃないよ。
ていうか訊いてもないことを急に俺に言ってくるな。知らんわ。
「この子どうすればいいの、ハト?」
「お前、こんな状況で俺に指示出せってか」
特に見てこの惨状。
サッカーの試合を雨の中してきましたって感じだろ、これ?
普通、気使って話しかけてこないだろ。
シャワー貸してよ、先に。
バトンタッチで帰らせてくれよ。
安らぎをくれよっ。
「ふむ…………妙なことに力関係が思っていたのと逆だな。白兵のカラスともあろう者が、傭兵にいちいち指示を仰ぐなど。それに私も無視するとは…………」
ほら。
閃光の隊長さんがいつまで経っても話聞いてくれないからって駄々こね出したぞ。
自分でもって言っちゃったよ。
こっちの話静かに聞いてくれてたぞ。
「ちょっと待ってて」
「ん?え?ああ…………」
閃光の隊長さんは少しの間待っててもらうことにして。
そうだな…………まずは。
「とりあえず君は荷物とアマネさん持って帰ってくれ」
「…………わかった」
ふてくされんなガキんちょ。
ていうかカラスには敬語で俺はタメ語っ?
カラスは美人だけど、バカだから俺が代わりに指示出してやったんだろっ。
年頃だからってアピールしよってからにっ。
素直に指示聞いてくれてありがとうっ。
でもカラスには丁度いい年頃の少年はずなんだけどな。
この女やけにキョドッてるけど、ははーん、さてはウブってるんだな。
その二つの言葉にどの程度違いがあるのかわからないが、積極的な男子は苦手ってことだろう。
俺も積極的な女子は苦手だけど。
アマネさんとかアマネさんとかアカネさんとか。
あれ?
今違うペタん娘交じってなかった?
「ハトさん、私は別に…………」
「いいよ。十分やってくれたし」
「でも…………」
「あとは任せてくれ」
尚もこの場にいようとするアマネさんを遮って、実際彼女には引き下がってもらう外なかった。
渋々ながらも、彼女には少年に促されるまま荷物の側へ戻ってもらったけど、仕方のないことではあるのだが、戦闘に慄くメンツがいるとかえって邪魔になる。
すんなりわかってくれてよかったと同時に、その功労をもう少し労ってよかったかもとも思う。
人助けして、やってのけたんだから。
もうそれは後回しにするけど、ここからは、俺やカラスの領分だ。
お祝いは帰ってから考えればいい。
「待たせた…………なんで待っててくれたんだ、あんた?」
親切だ。
敵なのに。
「知れたこと。これでも騎士の端くれ、と言いたいところだが。白兵と貴様が目を光らせていてはどう動くべきか判断しかねてな」
「そっか」
警戒しすぎたわけだ。
俺もよくやる、よくやる。
結構、無駄な時間になったりするよね。
カラスは未だしも俺なんか…………。
「ところで、閃光って魔法とかそんな感じのか?」
少年に荷物とアマネさんを任せている間に、とりあえず閃光の隊長とその従者2名の足止めをと、彼らの気に入りそうな話題をふっかけてみることにした。
どうやら割と気に入ってくれそうだ。
「なんだ、わかってしまったか。その通り、私が最も得意とする魔術。このように————」
すると不意に、彼の両脇の鎧が瞬く間に消え去ったかと思うと、即座にカラスによってどちらも阻まれ、隊長の下に帰っていった。
その間、僅か1秒と2秒に達するかどうかだけど…………。
「————実は空洞があるものを操るのが得意なだけなのだ。だから鎧を軽くして、その他の応用を交ぜているだけなのだよ」
「へー」
危な…………。
ナイスカラス…………ていうかどう動いたらあんな重い鎧を2体同時に牽制できるの…………?
閃光の隊長さんより速くない?
何なの?
スタプラさんなの?
ザ・ワールドさんなの?
俺帰った方がいい?
「魔法は趣味で勉強していてね。ついでに中身だけでなく外も丸ごとゴーレムを作る練習もしているが、一筋縄ではいかないようだ。ここにいる二つの鎧も、今のところは外だけ取り繕った人形だ。私の部隊は主にこのような傀儡で構成されている。意思のある者もいるにはいるが」
道理で、お二人さんは話をしてくれないわけだ。
話をしなくても動かせるから、今のような不意打ちも容易いわけだと。
それの二倍速以上反応できるカラスさんにはもう逆らっちゃダメだと…………。
今日でのカラスの才能にビビり始めた俺でした。
「じゃあ、今この近くにいる魔王軍はゴーレムを除いてお前一人になるのか?」
「それはどうかな」
それはどうなんだろう。
まぁ、そうすんなり勢力を教えてくれるはずもないか。
意思のある者がどの程度のやつを指しているのか定かでもない。
その他の幹部連中がいてもらっても困ります。
「他に質問はないかね?」
それなりにないではない。
閃光さん随分のんびりしてるけど、まだ荷物を奪取しよと隙を伺っているからか。
あの鎧の、暗いアイガードの奥では、視線が見えないから目論見がバレない。
ゴーレムは指示なしで咄嗟に動けるほどの機動性。
せっかくカラスがいるのに、俺が足手まといになりそうで帰りたくなった。
さっきから帰りた過ぎる、俺。
「言っとくけど、俺ら差し置いて目的達成できると思うなよ?」
「そのようだな。白兵の見える場所で隙を得るにはもう少し無茶がいるようだ。かといって貴様のポテンシャルも計り知れない」
あれ?
意外と俺、高評価。
「話が長くなってしまったな。早く貴様らを出し抜かせていただこう」
そうですね。
話が長くなった。
もっとも、その軽い口をもっと活用して、今の山ん中の状況を教えて欲しかったけど、そこまで贅沢は言うまい。
でも一つだけ、例えば、お前らはどうして今ここにある荷車を、ピンポイントで狙って来ているのか。
とかとか。
「ハト、どれからすればいい?」
「後ろの二体からだろ。同時に頼む」
「え…………?」
え?
何だよ?頼んだよ?
「では私と傭兵の貴様が一騎打ちすることになると?人選を間違えてはいないか?」
「いや合ってる。俺二体同時とか無理だから。カラスなら余裕だ」
「無理無理無理…………」
「…………私一人を相手なら容易いというわけか。舐められたものだ」
そこまでは言ってないでしょうがぁ…………。
過大評価甚だしい。
俺はただ、消去法でどっちがマシか決めただけである。
どっちの責任が重いか、火を見るよりも一目瞭然だ。
俺の方が大きな失敗をしない。ニヤリ。
「よかろう。まずは傭兵、貴様を捻り潰す。その後、白兵とやり合える時間がないのは残念だが、その荷物を明け渡してもらう」
「わかった」
「わかった…………?何なんだこいつ、そんな返事するやつがあるか?やりにくい…………」
最後のは小声でよく聞き取れなかったけど、ともかくこれでマッチングは完了した。
さぁ勝負。
「ハトさん…………あの」
「…………」
この期に及んでまだ居残ろうとでもするアマネさんの度胸が恐ろしい。
すでに一種の脅迫概念でしかないんだろうが、なら尚更、無理矢理にでもこの場を離れてもらわないと。
戦場に居場所なんて作ってもらったら敵わないしな。
「早く行け」
俺が後ろの二人に合図を送ったのを皮切りに。
「そう簡単に行ってもらっては困る!」
閃光の隊長が真っ先に行動に出た。
まずカラスが相手をする鎧二体が同時に展開、アマネさんと少年に襲いかかった。
同じ轍を踏むつもりか?と反応もできないやつが思ってみたりするが、今度のはカラスでさえ反応することが難しいだろう。
一体が先ほどと同じようにただ突っ込んできただけかと思いきや、もう一体がすでに上空を飛んでいるじゃあないか。
いつの間に?
どんな脚したらそこまで…………違う。
さっき閃光手榴弾の後に鎧が降ってきたのも同じ理屈だったってことなのか。
まさか閃光の隊長が部下を高らかに投げ飛ばす暴挙に出るとは想像してなかった。
空洞のエキスパートならではの技だな。
突っ込んでくる方は牽制か…………どの道、あんなもの突っ込まれても落ちてこられても対処のしようがない。
これは出鼻を挫かれた…………そんなことを感じているのは俺の他にアマネさんや少年くんだけのようだが。
カラスにとって、むしろ空が独壇場であることを忘れてはいけない。
というか俺の物忘れも相当なものだけど。
カラスはまず突進してくる闘牛のような鎧ゴーレムを蹴りつけ、まさかたった一発で動きを止めて見せると、またまたいつの間にか上空のもう一体の懐に余裕で追いついてしまったのである。
鎧に撥ねられる時のエネルギーを利用したのか…………?
そして空中で自在に身をよじると、脚を鎧に投げ出し、スタリと重力を無視して装甲に着地したなと思った瞬間、踵落とし!
ビュンっ!と隕石のような恐ろしいものが眼前に降って落ちて来た…………。
常人なら骨が砕けて、その後一生歩けるかわからない無茶を、あいつはやってのけてしまった…………。
というか踏ん張りのつかないあの場所で、どうすれば鎧が地面にめり込むほどの威力を込められるだろう。
そして何故そうも上手く、カラスに留められ利用された真下のイノシシ兼ジャンプ台役鎧諸共、巻き添えを食らわせることができるのだろう…………。
重い金属同士が激しくぶつかる瞬間の音がやかましいのなんのって。
思わず目を背けて耳を塞いでしまったほどだが。
「…………わかってたけど、なんでそんな風に動けんだよ…………」
スタリと降りて来たカラスに不満が漏れるのも仕方ないと思ってほしい。
人間業じゃないもの。
それに対して、カラスの答えは。
「適当に」
「ふざけんな…………だったら俺は頭を使ってるからもっと効率よく動けるはずだ」
「それは違う。昔の人は言った。考えるな。感じろと」
「…………」
それ持ち出すのズルくないっ?
大好きなセリフなのにっ!
「頭を空っぽにすることがコツ」
「戦場で無茶言うな。ボーッとした途端やられるわ。みんな瞬間移動かってくらい速いんだからちょっと止まっただけでコテンパンだかんなっ」
「もしかしたらラグってるんだ」
「え…………じゃあ俺が見えているこの景色はみんなより2、3秒遅れてるってことか…………?」
「2、3秒って遅すぎる」
「やっぱ遅いの…………?」
「最早カタツムリ」
「うるさい…………この白塗り白餡バカラス」
「バカ以外バカにしてない」
「バカだからバカ以外思いつかないんだ」
「それはハトがバカだからって意味?私がバカだからって意味?」
「任せる」
「…………ハトがバカ」
「うっせぇっ」
いい加減にしないと閃光の隊長から飛び蹴りされそうだな。
バカのやり取りを見るような目だ。アイガードだけど。
でもチンタラしていてくれたお陰で、アマネさんたちはもちろん逃げ果せただろう。
もう曲がり角や峠によってすでに姿は見えない。
いつの間にって感じだが、強烈な轟音が鳴っていたから把握していなかった。
ついでに敵を二体ほど無力化できたし、幸先がよろしいようで。
これで2対1か。
「いや、まだ動く」
「あ?…………お…………」
カラスの言う通り、鎧の従者たちはギギギとぎこちないながらも、折り重なった身体を逃れて立ち上がって来ていた。
中身はないんだったな。
つまり痛みはなく、しっかりとロボットしているわけである。
「残念だったな。正直ヒヤリとしたが…………」
閃光の隊長はそう言った。
無敵か…………でも、恐らく手はある。
「空洞を操るって言ってたな。多分空洞でなくなれば動かなくなるんじゃないか?」
「…………その鎧は錬金術によって錬成された作り方が難しい金属でな。そう簡単に穴を開けてもらっては困る」
耐久力に自信があるらしい。
多分、自分の着てる鎧も。
でも穴を開けるっていうのは正解だったか。
「だって。頑張れバカラス」
「ちょっと待って。穴ってどれくらい開ければいいの、バカハト?」
「…………豪快にいけばいいんじゃないか?」
「この剣じゃ無理…………」
「これ貸してやるから」
「重いし弱そう」
「もう勝手になんとかしろ…………メンドくさい」
確かに安物だけどさ…………これでもよく選んで買った剣なんだぞ。
ワガママカラスが。
「私よりハトの方が力ある」
「力あるかどうかより、あいつらに追い付くのが一苦労なんだけど」
「大丈夫、そんなに速くはなかった」
「お前の尺度で判断しないで…………」
「ハトでもよく見ればあいつらカタツムリ」
「俺目悪いから」
「ハトってメガネ似合わなさそう」
「っせぇっ!」
お喋りができるのはいいけれど、こんな隙を敵方が放っといてくれるはずもなく。
2体同時に俺たちへ得物を振り下ろしてきたところを、俺たちはそれぞれの方法でかわすことにした。
カラスは身を翻して避け、俺はと言えば左腕で受け止めただけだ。
そのままギリギリと押し込んでくるのはやめていただきたい…………潰れそう。
でも————。
「ぐぬ…………?!」
鎧をバットに鎧を打つとどうなるのか。
正解は割と飛ぶだ。ゴロだったけど…………。
途端にその合間を縫うように駆け抜けようとした閃光の隊長さんを牽制することも偶然成功していたらしい。
泥水が飛び、人形の寸前でブレーキをかけた彼には惜しくも当たらず、飛び退かれてしまった。
マジで惜しいっ。
「クッ!…………目がいいな…………こうしてのんびりしている暇はないのだが」
褒められた。
目悪いんですけど。
まぐれだったのに。
ちょっと笑みが漏れてしまう…………おっと。言葉に惑わされるな…………気を抜くと地が出かねない。
嬉しくなると途端に弱くなる俺の性分は困ったものです。
「もう諦めて帰ったら?」
「確かにそちら側の援軍が来る前に逃げたいが…………」
帰ってくれたら今日の仕事は終わりなんだけどな…………。
崖と絶壁に挟まれたこの一本道では進むか退くかしかない。
俺たちがいる限り、この世に悪は栄えない、って続けたかったけど、この道に敵は通さない。
「白兵に劣りもしない貴様は、一体何者だ…………?」
「はぁ…………?」
劣ってるよ。
どう目を凝らしても、その速いのが見えてないし、力だって気を引き締めないと負ける。
けれどカラスはその全てを考慮して強い。
速くても見えてるし、力は利用して、自力で捩じ伏せる。
俺のように運任せで不意打ちしかできないやつと比べれば何よりも優れていると言えるのだ。
一人で、強い。
俺はそれを利用しないと。
「虎の威を借る狐ってやつ?お前が白兵のネームバリューに腰抜かしてる間に、楽に勝たせてもらおうってだけなんだから」
「…………なるほどな。誇りを捨てる。それが貴様の強さということか」
「そんな感じかもな。わかったら帰ってくれ。お前がここを抜ける勝算はない」
これは大口叩いてるわけじゃない。
そう言わないと俺が油断しそうなだけだ…………。
カラスに頼らせてもらうのはいいけど、当の俺がしっかりしないと突破口になりかねない。
全力で阻止させてもらわないと。
「ではあと一回攻めさせてもらおう。これで無理なら退くしかあるまい。貴様にも興味が湧いてきたところだが、終わりだ!」
消えた…………っ!?
いや…………あいつがどう動いてくるかなんて、言葉の端を聞けばわかることじゃないか。
ただ、俺と同じように、こいつも誇りとやらを捨てられて、騙されて横をすり抜けられてしまえばもう追いつけない。
…………我ながら、さっきはなんて偉いことを思ってしまったんだろう。
失敗しても、大きな責任は被らないか————強敵に出し抜かれたんだから、負けて当然。
負けても悔しくないかどうかって、もちろんイラッとくるに決まっている。
落ち着け。
閃光は、単に動きが速いだけだ。
よく見ればわかる。
確かに速ければ、その力で脇をすり抜けてしまえば勝ちではある。
けどそうしないのは…………そうできないのは、小回りが効かないってことなんじゃないのか?
つまり、突っ込むしかできない。
空洞のものを軽くする…………言われなきゃわからない能力だな、おい。
ということから、閃光の隊長がこれからすることは、自分の鎧を軽くする。
踏ん張って前へ飛び出す。
鎧の重さを戻す。
そのまま重いものが俺に突っ込んでくるから————。
「ガハッ?!」
タイミングを見計らって左から腹辺りをブン殴る。
閃光の隊長は運動エネルギーを前に残したまま後ろへ飛ばされ、戻される。
というのを。
殴り終わってから把握しました。
気づいたら隊長さんが腹抱えて悶えてるし…………何が上手くいったんだろう?
「なん…………だと…………?!」
「あー、うん。ごめん」
「何故謝る…………っ」
だって絶対避けて逃げると思ったから…………バカ正直突っ込んで来たのあんただけど…………思った以上にドンピシャだったから罪悪感が芽生えてきた…………。
ぶっちゃけ言って気持ちいいくらいでした。
むしろお礼言います。
ありがとう。
「じゃあ、もうそのまま帰れ。早くしないとこっちの応援が追いつくからな」
「…………まるで気遣ってくれているようだな」
「いや別に」
言った途端に彼がムッとした気がするのは気のせいか。
どちらにせよ、早く帰りたいだけなんだが…………。
「ハト」
「あ?ああ」
なんでカラス?
え?終わったの?
…………終わったっ?
「何っ?!」
閃光の隊長が驚くのも無理はない。
俺も振り返ってみると、カラスがスタリスタリしてくる向こう側に、胸にポッカリ穴が空いた鎧2体が転がっているから。
どうやってやったの…………?
「畳み掛ける」
「うえ?あ、はいっ」
カラスが急かすから俺も慌てて行かざるを得ないけど。
「ぐぬぅっ?!」
まずカラスが隊長の頭を狙って剣を閃かせた。
隊長は見事にそれに反応したところで、遅れて来た俺が防御が疎かになった腹を追撃する。
隊長が次に俺に気を取られた隙に、もう一度カラスが頭を狙う。
今からそんな動作しかしない。
上、下、上上、下、上上上…………。
変わったことといえばカラスが一切地に足を着けずにいるだけだ。
俗に、エネミーステップと言うのだが、これができる人類が、まさか身近にいようとは————痛いってのっ!
凄いことにしてるけど俺の背中も足場にしないでっ!
「クッ!右と左…………前と後ろならまだしも…………上と下からの挟み討ちとはな!」
隊長はそう愚痴を吐き捨てるが、それでも、遅れてでも反応してみせるのだからかなりの実力者だと見える。
少しずつ、俺とカラスの追撃に対する防御が間に合い始めたのがその証拠だ。
俺がさっき一発食らわすことができたのも実際マグレでしかなく、果たしてカラスがいなければどの程度、俺がこの男の相手をしていられたかわかったもんじゃない。
カラスでさえ、短期決戦でなければこの硬い鎧を攻略するのに手間をかけるだろう。
懐かしいな…………。
あまり多く組んだことはないけど、前はみんなで、こんな風に————。
「…………チッ!」
嫌なこと思い出してんじゃねぇよ…………。
もう帰ってこない。
あんな日は二度と。
カラスとの共闘も今回限りだ。
「気が散っているぞ!」
そうかな。
気が付かせてくれてありがとうだ。
隊長が、俺の僅かな隙を見逃さず鉄板を振りかぶってきた。
この鉄板も中身は空洞か?それでも重量自体はあるんだろうが。
さすがに、今度こそ俺が反応できるものじゃない。
いつでも俺は隙だらけだ。
けどそれは、カラスがいてくれたことで隙じゃなかった。
この女がいる時に限って、俺は傷を負ったことがない。
いつだって助けられてばかりだった。
いつまでも助けられてばかりだ。
借りがいくつになったのかわかったもんじゃない。
せっかくだから…………俺がトドメを刺せばチャラになんないだろうか?
「ぬぅっ?!」
バキッ!
右手を振りかぶってかなりの手応えを感じる。
だがこれは勝機ある音じゃない。
思い切り叩きつけたはいいけど、まさか買ったばかりの剣の方が折れるとは思わなかった…………。
最近、剣の使い方が雑になる。
代わりに左腕の出番が増える…………。
高かったのに…………腕も壊れるっての。
「はっ…………ははははっ!」
隊長が高笑い始めた。
反撃に来るか…………?なんて、それは絶対にできない。
断言できる。
何故なら閃光の隊長の身体は落ちていたから。
剣が折れたのはまったくのハプニングだったが、咄嗟に身をよじって左腕を彼の胴にブチ込めたのが幸いだった。
遂に、俺たちの猛攻によって崖まで追い詰められた閃光の隊長は足を滑らせ、そのまま空中に全身を投げ出されたのである。
腕を大きく開いて落下中に、ヤケクソ気味に笑っていたのだった。
いくら鎧を軽くすることができても、足がついていないと重力に逆らうことは難しいらしい。
彼は負けた。
俺の一撃で。
「傭兵!貴様のことを覚えておくぞ!またいずれ再開した時には!是非一対一の闘いを!それまでに我が名を覚えておけ!我が名は閃光“————”…………!」
…………段々声が届かなくなっていく。
最後の方、なんて言ってたか全然わかんない。
現実はこんなもんだろう。
あっさりと、バッサリ。
結局その鎧にヒビが入ったかさえわからなかったが…………やっと終わったってことで。
「落ちた?」
「落ちてったな」
「やば…………」
「落とすつもりなかったのかよ」
てっきり大ダメージを期待して崖に落とすつもりだったのかと思えば、そうでもないのかよ。
下でまだワーワー聞こえてるから、大ダメージなんてそんな期待外れもいいところだが。
「…………来た」
「何…………が?」
唐突に、ビュン、ビュン、と俺の脇をすり抜けていく奴らが数人。
何これ?
忍者?
いや、軍服着てるってことは。
軍?
「迎撃隊。あとはみんなに任せればいい」
すげぇ…………。
でもちょっと遅かったですね。
あともう少し待ってれば崖下まで追いかけに行かなくてもよかったのにね。
ごめんなさい。
「クリスティーナ少尉」
「大尉」
今度は大尉さんとやらがお出ましだ。
出発前にカラスティーナという言葉を初めて言った人だ。
ちゃんと上下関係してるんだな。うん。
カラスの成長を見て若干の感動を覚えた。
あの人見知りが敬礼まで。
「彼は?」
「ハッ。魔王軍重武装部隊隊長『閃光』を、共に迎撃してくれた傭兵であります」
「なんと…………怪我はないかね?」
この通り。
ボロボロっすよね。
なんか心配されてる風で、ちょっと、嬉しい…………。
あれ?今大尉、怪訝な顔しなかった?
俺が声出さなかったから?
「…………そうか。ご苦労様だったと言わせてくれ。できれば一体どういう経緯で『閃光』が現れたのか教えてくれないか?」
大尉は、これ以上さっきの迎撃部隊について行かなくてもいいらしい。
俺の話を聞きたいとか、かなりの物好きになるけど。
「あいつらは…………カラスと…………少尉と逸れた時に偶然会った…………です」
全然呂律が回らない。
恥ずかしいっ!
「…………ふむ」
推考する大尉。
引っかかるところがあるんだろう。主に俺の語彙力が。
わざわざ理解しようとしてくれているのか…………申し訳ない。
「妙だな…………」
「内通者でもいるんすかね?」
不意に、頼まれてもないのに俺の考えを言ってしまったのはマズかったか…………。
「…………君はこの作戦をどこまで知っているんだ?」
取られたらヤバイ荷物があるってことだけですが。
怪しまれた…………やましいこと何もないのに。
「答えてくれたまえ」
「大尉。彼は少将の推薦でこの任務を」
カラスのこの鶴の一声で、急に大尉の顔色が変わった。
ん?
少将?
お姉さん?
マジヤバクネ…………?
「んっ?そうかっ。なら、多少の信用はできるだろうっ。ゴホンッ、ん、実は、君の言う通り。先程、信号を追っている時に出会った運び手たちからも、魔王軍の出現を聞いてね」
アマネさんたちか。
じゃあ後は無事保護されてることだろう。
俺もこの話が終わったら連れてってもらえばいいだけだしな。
「その彼らが運んでいた荷物が、君だから言ってもいいのかもしれないが、アタリだったんだよ」
…………はぁ〜っ。
このくじ運ってアマネさんのでいいんだよな?
いいと思う。
お姉さんの話では、俺たちはハズレを運ぶ手筈だったんだが。
けれど予定を変更せざるを得なくなった俺とアマネさんが偶然拾った荷物がまさかの、アタリね。
つまり、元々その荷物を運ぶ役だったやつか、もしくはこの荷物に検討を着けていたやつらが、何らかの方法で『閃光』を呼び出した可能性が高いと。
傭兵にそれを運ばせるはずはないよな。
だったら後者の方か、最悪軍部の方に裏切り者がいる可能性が高いってわけだ。
「…………少尉、もう名簿が集合地点に届いている頃だ。あの荷物を最初に運んでいた者を特定し、集合地点にいないか確かめ、いればそのまま逮捕しろ」
「了解しました」
バッ、バッ!
敬礼って割とカッコいい。
残念ながら、俺がこの場のノリに乗って敬礼しちゃうとかなり痛い目で見られかねないからな。
腕がウズウズする衝動を抑えて、心の中で、それと小さくチョイっとして、我慢するとしよう。
「大尉は?」
「あそこに行く」
大尉が指を指した方向に、さっきカラスが打ち上げたのとは違う色の信号が打ち上がっていた。
何?
倒した?捕まえた?
「どうやら取り逃がしたようだな。一応向かっておく。道中気をつけてな、少尉、君も」
「ハッ」
大尉もお気をつけて。
あ、今のは敬礼してもよかったかも。
行っちゃった、てか大尉おっさんなのにすげぇ身のこなしだっ。
ベテランすげぇっ!
「…………行こう、ハト」
「ああ。ていうか、お前仕事詰めだな」
「普通」
「それで普通とか、俺過労で死ぬ」
画して、突然のイベントハプニングは一旦幕を閉じ、もうすぐ帰れるわけだ。
カラスは…………今度トキの店に来たら何か奢ってやろう。
疲れた。
閃光ね…………。
「あいつって、2年前からいたっけ?」
「さぁ。少なくとも、ハトがいなくなってから台頭し始めたのは確か。あの空洞を操作する魔法は何度か観測されていて、複数人が使っていることが知られてる」
「へー」
「つまり、ゴーレムを操作する能力者は複数人いる」
あー。
そいつらが今、山全体に潜んでるってことに。
「考えとしては妥当。閃光が見つかったことで、今集合地点では早めの撤収を余儀なくされてるはず。他のメンツが来る前に逃げようってこと」
なるほどな。
「帰る時に出くわしたくないもんだな」
「ここから集合場所は結構距離あるけど、逃げれば問題ないから」
「逃げる元気あると思う?」
「じゃあ戦う?」
「戦わない」
「諦める?」
「逃げる」
「ハトって結局どうしたいの…………」
そうだな…………。
本音を言えば寝たいです。
戦闘ってどう書けばいいのっ?!




