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集合場所、護衛、とか。てっきり荷物と運び手が一人で待ってるところを迎えに行く想像をしていた。
その場所には多くの戦闘のプロフェッショナルらしい人らがひしめき合っていた。
これだけの人数がいるということは、荷物を手分けして送るとか言っていたから総量がそれなりにあったということだろう。
彼らはどういったコネでここにいるのか。
お姉さんが俺に直接依頼して来たように、彼らも別の軍人らから腕っ節と口の固さを信頼されてここにいるに違いない。
岩のようなお兄さんに混じって、中には鍛え抜かれた肢体がチラ見えするお姉さんもいるが、何だろう。
そんな人の上腕とアマネさんの肩幅とどっちが太いんだろう。
アマネさん細いよな。
比較的露出度の平均が高そうなお姉さんたちに、不思議とエロさというものは感じなかった。
本当に何故だろう。アマネにも同じだ。
あまりジロジロ見るのはよくないな。
ダイエットが必要ないアマネさんや俺のスリムさへの羨望の眼差しなのか、はたまた招かざる客に対して調子に乗ったらどうなるかわかるよね?とガンを飛ばしきているのか。
お兄さんお姉さんからの視線が逆に痛い痛い痛い…………。
でもね。脱いだら凄いんですよ、俺の腹筋。ちゃんと割れてるしね。俺だって、身体の自慢は一端にできるんだぜ。キラーン。
アマネさんは…………脚が綺麗。
俺とアマネさんマジで細い。
帰りたい。
なんか盗賊っぽい小柄な人たちもチラホラいるのが精神的救いだな。
服装はバラバラだけれど、数十人ほどが何故か白いマントみたいなのを着ている。
それを着たチームから荷車を運び始めているのを見るに、なるほどね。
「ハトとあなたはあの人たちのところへ行って」
「はいよ」
「了解したわ」
カラスがそう言って指差す先には大きなガタイの上に、厳つい軍指定の制服を着込んだお兄さんたちが何度もみんなに呼びかけをしていた。
なんだか特に意味もなく尊敬してしまう、そんな景色がある。
「傭兵はここにきて名簿に名前を記入していってくれ!」
健気に、素直に何度も同じセリフを言い続けている。
それだけのための機械なんじゃないかと思うほど言い続けている。
喉が渇いているかもしれない。
座らずにいたなら膝が痛くなっているだろう。
けれど彼らはそんなこと御構い無しにこの場所に来た連中に声を投げかける。
仕事のために。
結果を遂行するために。
成果による対価、報酬のために。
どれだけつまらない仕事だろうと、いずれは価値ある時間へと昇華されていくのだろうか。
仕事というものがどんなものであるか、改めて示してくれる真面目な人たち。
憧れる。
でもわざわざ点呼なんて取る必要あるのだろうか?
どうせというか、今日一日だけ顔を合わせる人間をいちいち数える意味があるのか、よくわからない。
いるんだから別にいいじゃん。なんて思ってしまうのがズボラな俺の見解だった。
だが何かしら必要なルーチンであることは間違いないのだろう。
よく考えてみようか。
例えばこの場合、荷物を誰が運ぶのかを記録しておかないといけないと。
何故だろう。
あとでカラスに訊いてみる。
うん、オッケー把握した。
うーん。しかも字を書くのか。
最近は名前を文字に起こす機会がついぞない。
字を書くということがそもそも久しぶり過ぎる。
日本語を思い出すことすら二年もの間、ご無沙汰だというのに…………今回も母国語を書く機会はなさそうだが。
意外にも。今日は俺にとってかなり印象が映える日になっただろう。
「待っている傭兵は順番に並んでくれ!」
俺はカラスに向こうへ行けと言われたまま考え事をして突っ立っていた。
なんだかな。
これだけの集会をまさか魔王軍がマークしていないはずがないだろうけど、ここにいる全員が戦闘のプロなんだからまさか急に攻めてくるはずもない。
しばらくはゆっくりと準備を整えることができるのかもしれない。
というわけで。
俺は先の無用な感傷に浸っていたのと同時に、カッコいい偽名を必至に考えていた。
何故なら、‘ハト’なんてマイナーな名前をまさか覚えている奴なんていないだろうが、万が一でもそんな奴がいないように念には念を入れておこうと思ったのだ。
知り合いはカラス以外生きてないはずだが。
ぶっちゃけどうせならハトよりカッコいい名前がいい。
当のカラスは俺を置いてどこかへ行こうとしている。
俺が身動きしないのを不審に思ってまだここにはいたが、用事があるのかそろそろこの場を後にしようとしている。
「じゃあ私は偉い人に挨拶だけしてくる」
行くのかい。
行っちゃうのかい。
あのお兄さんたちの列に一人で行けって…………?
待ってよ…………まだ俺が誰なのか考えてる途中だからさ。
俺は…………一体…………誰?
名前を考えるということがこんなにも重いものだったとは…………っ!
「じゃ」
「待っ…………ちょっ、な、なぁ。俺、名前さ…………」
「本名でいいんじゃない?」
俺の脳裏に閃光がピチューンと走った。
お前は天才か!
確かに、ハトはただの通り名だからわざわざそっちを書く必要なんてあるわけがない!
そこに気づくなんてっ!
「そもそもハトって何て名前だっけ?」
「本名ね。了解。名簿書いたらどこで待っとけばいい?」
「どっかその辺。ねぇ、ハトの本名って————」
ありがたい。ではそろそろ列に並ぶとするか。
しかし終わったらどっかで待っとけって、適当なやつだな…………。
どうせ名簿を待ってる人はそれなりにいるから、カラスと俺らがどっちが先に用事を終えるかってとこだろう。
すでに列に加入していたアマネさんの後ろに並ぶのはどうも気恥ずかしかったので、俺は数あるもう一つの列に並ぶことにした。
ここ最近で一番スッキリしたな。本名でいいんだ。そういえば俺、本名あったわ。
…………俺の本名って語呂悪いな。やっぱ別のを————。
「どうして離れて並ぶのよ…………」
うわびっくりした…………っ!?
あれっ?今パッと思い浮かんだいい感じの名前が消えた…………嘘だろおいっ!
「…………向こうに並んでたんじゃないのか」
「だって…………」
いつの間にかアマネさんに背後を取られていたらしい。
その隠密性たるや、まさかその手に齧りを覚えている様。
全身の毛が逆立っちゃったぜ。
ていうか消えてった名前返して…………。
「はぁ…………忍者の弟子もしてたのかよ…………」
「なんでわかったの…………っ?」
…………え?
「いや、冗談なんだけど」
「いや、冗談って。弟子じゃないんだけど、忍者の里で一週間訓練に参加させてもらったことがあるのよ」
「この世界って忍者いるんだ…………」
驚くべきところがいくつかある。
えらいこっちゃ。
しかし一体どういう経緯でそんな体験ができるんだろう…………?
「あの町にくるずっと前だけどね。基本だけ教えてもらったわ」
あの町とはトキの店がある町かな。
「基本だけって、それを一週間で…………普通そんな短期間で覚えれるようなことでもない気がするんだが…………」
俺でさえ剣の振り方を覚えるのに何ヶ月もかかったというのに。
カラスでさえ人に面と向かって話せるようになるのに一年じゃ足りないと言っていた。
このアマネさんとやら。
恐ろしく多彩だ。
「でも本当に基本よ。歩く時、足を下げる時は爪先から落としてゆっくり踵をつけるの」
「なるほどな」
「こうよ」
「うんうん。なるほ…………ど?」
足元見ると木の葉落ちてんだけど…………全然音鳴ってないんだけど…………さっきはそれを向こうから一瞬でこなしたってことですかい?
わけがわからん。
アマネさんの新たな特技に衝撃を受けている間に、並んでいた列はやっと俺の記名順に到達した。
どうやって…………爪先から下げて踵をゆっくり、カサッ。
…………無理ゲー。
名簿を持っている制服のお兄さんは怪訝な顔をしていた。
この作業に嫌気でも差してるのか。それとも俺がモタモタしてるのに苛立っているのか。
どっちもっぽいですね。
渡された紙を見るとそこには、名前の欄以外にも年齢、性別、使用武器、備考の欄までもが一人分に用意されていた。
結構、詳しく書かなきゃいけないのかよ。
更に名簿役の人とは別に、こちらをチラチラ見ながら何やら別の紙に書き書きしている人がいる。
怖い。
ええっと。
ハバタキ シマ。
22歳。
男。
片手剣っと。
それだけ書くと、名簿役がさっさと行けとばかりに次の人、アマネさんを呼んだ。
いくら薄汚い傭兵相手とはいえ、最後お礼を言うのが礼儀でしょうが。そんなんだから一般市民にも受けが悪いんですよーだ。
別にいいけど…………俺も同じ軍服着てた頃は野次飛ばされたことあるし。
あとは向こうが勝手に俺を記録していてくれるはずだ。
個人情報の開示か。
ヤダな…………なんかヒッソリと過ごしたい俺の思惑とは逆方向に事が進んでる…………。
お姉さんやカラスと再会して一週間と経たずにこれとは、幸先が思い遣られる…………。
「終わった?」
トボトボとしていると、カラスの方からこちらを見つけて近寄ってきた。
こいつは何て呑気な顔をしてるんだろう。
「終わった…………そういえば俺らはどの荷物を運ぶんだ?」
「あれ」
俺の問いにカラスが指を指して答えた方を見ると、確かに運び手らしい小柄な人が佇む隣に、木箱が数個積まれた手押しの荷車が用意されていた。
同じように荷物で溢れた荷車が至る所に駐車してあるが、俺たちが護衛するのはカラスが指差したあれらしい。
運び手は白色の深いフード付きのマントなのかカッパなのを被ってジッとしている。
俺たちより早く来て、ずっと待ち惚けを食らっているらしい。
「これ着て」
「あん?」
不意にカラスが差し出した手に、何やら人一人を覆えそうな白い布が握られていた。
もう片手の脇には同じような布の束が。
「ん。それって本当に着なきゃいけないやつ?」
「被って」
「…………」
「早く」
すると、ガバッとカラスが布を広げて俺に被せてきよってからに。
身長は俺の方が高い分、接近接触吐息良い香り…………。
ちょ…………前が見えない…………なんか柔らかいものも押し付けられてる気がするんですけど…………鳩尾の辺りに。
まて…………まさかこいつ…………そんなまさかっ!
前が見えんっ?!
「…………逆だった」
「…………自分で直すから」
慌ててカラスを引き離し、ウネウネと格好の悪い状態を元に戻すため取り繕った。
正しく着ると、やっぱりフード付きのカッパのようなマントのような、この仕事ではそんな風なものを着ないといけないらしい。
着せられると前が見えなかったのは、フードの背面が顔面に張り付いてきたからだ。
こいつ…………もっと親切に着せてもらってもいいのに。
ところで、着せられる時に当たった柔らかいものは一体…………っ?
「お待たせー」
「ん。これ」
名簿の記入が終わったアマネさんも合流すると、カラスから素直にマントを受け取ってそれを被った。
もしかして、横から見ると割とわかりやすいけども、カラスさんって着痩せするタイプですか…………?
「なんか目がヤラシイ…………」
「急に何だよ」
危うく俺がカラスにあらぬ気持ちを抱いていると勘違いされそうになったぜ。
ふぃ〜…………はははは。
なんかアマネさんを見ると落ち着くな。
「このマント、何かしら?」
「さぁ」
カラスもマントを被ると一度俺とアマネさんをマジマジと見て、そしたら特に言うこともないのか、瞬きだけをして準備が整ったらしいことを示した。
仮の制服の代わりなのか?
「じゃあこれからの順序だけど————」
カラスが荷車に向かって歩み始め、俺とアマネさんも同調してついて行こうとしたその矢先である。
「クリスティーナ少尉」
「はい」
大変失礼ながら吹き出しそうになった。
誰だそんな可愛らしい名前をした少尉は?と思い。
金髪碧眼ポニーテールの凛とした佇まいのお姉さん想像して周りを見渡そうとしたのに、返事は俺のすぐ側からされていたからだ。
金髪でなくとも白髪碧眼癖っ毛ストレートの捻くれた女の子ならずっと俺たちの側にいるのだが、どう考えてもクリスティーナ少尉と呼ばれて返事をしたのが彼女しかいない。
カラスティーナ、否、クリスティーナ少尉は呼び出しを受けて立ち止まると、その髭の軍人さんの方へ前身を向け、側に一歩近寄った。
マジかよカラスティーナ。
「準備は整ったか。よし、少尉はこのルートを通ってくれ。人数も申し分ないから、多少急いでもらっても構わん。目的地には受け取りの旅団が配備されているから、着いたらあとは彼らに任せるといい」
「了解しました」
「では、健闘を祈る」
言って髭の軍人さんはカラスティ…………カラスに敬礼をし、クリス…………カラスティーナもそれに応えたのを見ると俺たちを一瞥だけして次のグループへ指示を出しに行った。
アマネさんは感心した顔をしていたが、カラスと俺はちょっとだけ気まずい気分になっている。
俺は堪らずその原因を口にした。
「…………クリスティーナ」
「姉様がね、私が士官に昇進した時にカラスは通り名であり不吉の鳥だからって名前を考えてくれたの。カラス…………クリス…………クリスティーナって」
まんまじゃねーか。
「似合ってるわよ。お姉さんもいいセンスしてるわ」
多分カラスは初めて、そう言ってくれるアマネさんに感謝しただろう。
俺もアマネさんがいてくれて本当によかったと思っている。
だって次の意地悪い冗談は二人きりだと言いにくいじゃないか。
「俺も別にいい感じだと思うぞ。カラスティーナ…………」
また、俺はこの時初めてカラスのマジの睨みがどんなものかを知った。
心臓が止まるかと思いました。
***
手持ち無沙汰でずっと待っていてくれた運び手をようやく誘い、やがてルートに沿った地形を使って荷運びの仕事が開始された。
側から見ると重そうな荷物なのだが、運び手は小柄な割に、案外軽々とそれを引いてくれていたので余計な心配はいらなさそうだ。
坂道はもちろん手伝ったけど。
うっかり手を滑らせて紙をバラまいてしまう可能性も、この人数なら心配ない。
やはりチョロい仕事だったんだなと、開始早々に俺は思ってしまう俺だった。
フラグみたいな。
けれど大したフラグなんかあるわけないだろう。
今のところ襲ってくる敵らしきものは、行きしに邪魔された魔物風情ぐらいのものなんだから。
およそ本日三匹目のサルに引導を渡してあげた後、納刀しながら他の猿も片付いたことを確認して荷車の側へ戻った。
もう何回目かの襲撃だ。ちょっと多いような。
しかしカラスがいるこのチームでは、最早俺やアマネさんが手を出すことも億劫とされている。
相手が悪いというべきか。
一番弱そうな相手から狙う定石こそが至難の技と言える。
つまるところ、カラスの脇を抜けてもアマネさんが、その先には俺がいるのだから運び手に危険が及ぶことは、まずない。
全員がマントとフードで身動きと視界が限定されていてもこの通りだ。
ふと、あっさり蹂躙されていったサルたちを不憫に思い、心の中で手を合わせてみる。
特に、可哀想と思うほどでもない。
「ふぅ…………やっぱり気分が良いものじゃないのよね…………」
直前に魔物の息の根を止めておいてアマネさんがそんなことを言う。
確かに何度も断末魔をあげられていれば、むしろ無心に彼らを狩ることができる俺やカラスは異常なのかもしれない。
どころか、たとえ存在するだけでも危険な魔物ですらその命の数を数えてしまうらしいアマネさんにとって、今回の仕事はある意味厳しそうだ。
「…………大丈夫よ。魔物は人に害が及ぶから、できるだけ倒しておかないと」
俺のが何を考えていたのかを悟って、気を引き締めた面持ちでアマネさんはそう言った。
覚悟は相応にあると。
まぁ。
命を絶つことに抵抗がある気持ちはわからないでもないんだよな。
未だに慣れない。いや、慣れてたまるかってんだ。
「なぁカラス。もう随分進んだんじゃないか?」
「あと半分かな」
これだけ進んでまだ半分か。
さすがに天然の公園だけあって地元の自然公園とは比べものにならない広さがある。
公園といっても、ハイキングに来たら真っ先に魔物に襲われる肝試しスポットだけど。
こんなところ通ってまで守りたい資料とやらとは、段々と気になってくるものがあるな。
そろそろ山の主の出会わないとも限らないんだけど、まさか俺たちがそのクジを引いてしまう可能性は低いだろうけど、暇だなぁ、と思えてきたこの頃だ。
他の連中はどうしているだろう?
心配してるわけじゃないけど、少しくらいは気になることもあるんじゃないだろうか。
彼らこそ、この荷運びに対してどう思っているのかがとても気になってしまう。
何度も同じような仕事を経験していそうな傭兵の先輩たちは、この荷物の中身を見ても動じたりしないもんだろうか。
俺が動じるわけは何一つないが。
「おっと…………」
不意に、カラスがある一点を見つめて動きを止めた。
こいつが先行していたから足を止めれば俺たちも止まらざるを得ない。
それにカラスは視力がいいから、果たして何を見ようとしているのか俺にわかるのかと思えば、幸いというかそれはしっかりとわかった。
ここからだとチョロチョロと動く人影が辛うじて見える。
カラスはそれにいち早く気づき、首を傾げているようだ。
「…………ん?」
同じ荷車を引いた二人組の男が俺たちと逆方向へ向かって進んでいた。
マントを着てないということは、商人かな。
なんだか賑やかな様子だけはよく見える。
楽しそうだなぁ。
こちとら魔物相手に快進撃を続けていく女の子二人に着いて行くだけだもんなぁ。
「あの人たちも仕事かしら」
アマネさんが関心の言葉を言ったその刹那。
気づくとカラスが、長い髪の轍と軌跡だけ残して姿を消していた。
いつもながら突然、何て速さで動くんだろう。
そして彼女が真っ先に向かった場所といえば、先程からずっと気になっているあの二人組の運び手たちのところだ。
なんか、不手際か?
あっという間に向こうに着いたカラス。
すると途端に、荷物を引いていた男たちが慌てて始めて、荷車を必死に反転させて逃げの姿勢を取ったのである。
「ちょっ…………」
何かを言い切る前に、アマネさんも枝葉を掻き分けてカラスと男の場所に駆け出した。
俺と運び手くんは置いてけぼりですか。
別にいいけど。
***
しばらくしてカラスとアマネさんが別の道から俺たちとの合流を果たした。
何故かさっきの奴らが引いていただろう荷車まで持って…………。
「カラス…………さっきのは?」
「違反者を捕縛した」
うえ〜。
まさかとは思ってたけど本当に盗るやつらがいたなんてなぁ。
ていうかアマネさんよく合流して戻ってこれたな。
さすが忍者の端くれ。
「それでその荷物は…………?」
「…………」
「おい」
「大事なものだから」
ゔぇぇ…………。
「こういうのも見越してあの人数の傭兵かよ」
カラスはコクリと頷いた。
面倒が落ちてくる仕様か。
「てっきり私は、別のお仕事をしてる行商人かと」
アマネさんの言う通り、俺もそう思った。
しかし考えてみよう。
こんな危険地帯を通る商人なんていないし、いても作戦中に無関係な人間を紛れ込ませるヘマをするほど軍もズボラじゃない。
「マントも着てなかったからおかしいとは思ったけどね」
「マントを脱いだら逮捕する」
「…………お?」
「ん?」
「初耳なんだけど」
マントを脱いだら逮捕?犯罪者?
意味がわからない。ていうか無理くり過ぎるだろ。
「ハトもマント脱いだら逮捕しちゃうぞ」
「ふざけんのはいいから訳を話せ」
でないとぶん殴っちゃうぞ。
「つまりこういうことよね。マントは仕事をしている証明であると。脱いじゃいけない規則が予め伝えられていてそれを守っていれば協力者であり、そうでなければ違反者だと」
アマネさんが気づいたその事実に、カラスは頷きを返した
つまりそういうことらしい。
このマントにそんな意図が。
「なるほどな。でもこんな真っ白な服着てたら魔物に襲われやすいし、ジメジメして気持ち悪いんだけど」
「多分色も関係してるのよ」
「色ね」
アマネさんはマントについて次々と閃いたことを話し続けた。
まるで探偵さんだ。何にでもなれるな、この人。
「そう。白いから、遠くに行っても目立つでしょ?もしルートを外れた人がいたら目につく。何かあった合図にもなるはずよ」
カラスがまた頷いたということは、そういうことらしい。
なるほど、なんとなく効率良さげな作戦だ。
「逆にマントを脱いで姿をくらますということはそういうことよね」
「ん」
意図を察して少しでも犯行の発覚を遅れさせようとでも?
違反者も一生懸命だ。それなのにカラスに捕まっちゃって。このパーティに見つかったのが運の尽きだったな。
しかも道理で、なんか行きしよりも襲われる回数が多いわけだし。
「ハト。これ積み直すの手伝って」
「へいへい」
メンドくさい。
なんでそんな風に他人の大事なものでお金儲けしようとしちゃうんだろう。
まず魔王軍にこれが高値で売れるのかって話だけど、こうやって後に尻拭いする俺たちみたいな人が出てくるから、もう少し後先考えて行動してほしいよな。
まったく。
どうせなら最初からやらないか、最後まで完遂してほしかった。
もう二度と、道を踏み外す輩が現れませんように。
「白兵のカラス…………本物か」
不意に、初めて耳にする声色が聞こえて、少し戸惑ってしまう。
それ以降は何事もなかったかのように、表情をフードの奥に隠したまま荷物の整頓を手伝ってくれる無口で気の利く彼の声が意外とイケメンだったことに驚きだ。
…………わかっちゃいたけど男の子かよ。
カラスもモテモテだな。




