29
指パッチンが真夜中の空を真昼間のごとく明るく照らしたあと、ここら一帯は、たった一瞬で焼け野原になりつつあった。
ぐっちゃぐっちゃである。
真っ黒焦げである。
むちゃくちゃしよるな。
正直焦ったが、あの男がシエルを巻き込まないよう、なんらかの方法で爆炎から保護し、そしていつに間にか連れて去って行ったことで、あの子が無事なことでとりあえずホッと胸を撫で下ろすのだが。
…………いやマズイな。
何人生き残っただろうか。
少なくともカラスは無事だろうけど…………。
カラス以外どうだかわからない。
わからないが、今どうするかなんて決まりきっていることだろう。
あのクソ野郎をブン殴ってシエルを奪還する。
これしかない。
咄嗟に焦げた瓦礫を駆け下りて、奴はどこかと辺りを見渡した。
あの身なりなら人一人おぶって走るなんて無理だ。
どこかに馬車でもあるんだろうが…………。
「ああ、そういえば」
シエルが連れされた時、実行犯はしっかり馬車を用意していた。
その場所は俺たちが小屋に侵入する前に確認済み。
つまり。
あいつは小屋裏の丘の向こうに行ったはずだ。
こんな全力疾走するのもいつぶりか忘れたが、そういえばさっきもかなり必死に走ったんだったと無駄なことを考えている間に、もちろん速攻で目当てのシエルと男を捕捉し、華麗に飛び蹴りを、シエルに当たらないようこう見えても冷静に繰り出した。
「!?」
「チッ!」
惜しくも外れたが、男の注意を惹くことができたし、避けてくれたお陰で馬車とこいつの間に割り込めたので結果オーライと言えるだろう。
周りの草がファサッと浮いたのが、我ながらカッコいい登場をしてしまったぜ、とまた無駄なことを考えてしまったりするのだが。
「驚きました。先ほども素手で私の炎を受け止め、さらにはあの業火も無事だったところを見ると、やはり一筋縄でいく人物ではないようですね」
「生憎だったな。火はむしろ見飽きてるんでね」
こんないい切り返しはぶっちゃけ言ってみたかっただけなんだが、まともに敵意を向けられて放たれるのは初めてだったぞ。
火、怖い。
「魔法か」
「魔術ですね。私のはただ魔力に働きかけているだけであって、法力による奇跡を起こしているわけではありません」
難しいこと言ってるのか。
まぁ、細かいことはどうでもいいが。
「返してくれるか。シエルを」
「無理な相談です。むしろ、返せとは、失礼ですが甚だしい」
あん、こら?
「彼女、彼らは本来、あなたのような一個人に保護されるような存在ではない。謂わば彼らは————」
————神なる存在なのだから。
せやな。
知らんけど。
「だからどうした。なんでもいいからその子を置いていけ」
「やれやれ。これだから信仰のない人の気は知れない」
「そもそも霊獣信仰は異端だろ」
「これもまた驚きました。しかし異端とは心外ですが。彼らがこの世とは異なるモノであると知っていながら、なぜ少女に固執するのですか。これは老婆心になりますが、やはりあなたのような一個人が関われる事ではないと思うのですが」
話が長くなりそうだ。
理由なんて————色々思いつくが。
少なくとも。
「約束だからな」
いつか世界中を見せると言った約束だからな。
「ていうか、神様だかなんだか、本当にどうでもいいんだが」
お前は知ってるか。
たまたま食った人間を不味いと吐き出し、気まぐれで旅に付き合ってくれるお人好しの神通力持ちの白龍さまを。
「神様ってのはろくなもんじゃねぇ」
「話し合いは無駄なようだ」
と言うと、男はまた腕を伸ばし、パーの状態でしばらく動きを止めた。
するとみるみるうちに明るくなる手の平が、その刹那、おそらく人間を容易く丸焼きにできるだろう自信を持って火の玉を放った。
避けるには十分だが、これが少し失敗したかもしれないという。
避けたはいいが、そのあと火の玉をモロに食らった馬車が数秒と経たずに火ダルマとなり、なんと男は在ろう事か逃走経路である馬車を馬ごと燃やし尽くしたのである。
何が起こったのかもわからないまま、馬は断末魔の叫び声をあげて倒れた。
これはエグい。
動物愛護団体に訴えるぞ。
「受け止めるかと思いましたが」
「お前はアホなのか」
「下らない言葉遣いですね」
言葉遣い如何より自分で逃げ道無くす奴がアホ以外なんだっていうんだろう。
「大した問題ではありません。あなたから逃げ切る方法はいくつかあります。その中でも最も確実な方法。それがあなたを燃やし尽くすことなのです」
「俺以外が追ってくるって思わないのか」
「あなた以外の誰が神を取り戻そうなどと妄執するのですか」
「なるほどなぁ」
ていうかお前それ。
かなり鋭角狙ったブーメラン投げてない?
「消えなさい」
「あぶな!」
手を仰ぐ男の手から薄く広い、だが火力は凄まじい炎上網が放たれる。
炎上網が俺に足にたどり着く前に飛び跳ねて避けるしかなかった。
右へ左へ。
その度に男は火を放ち、野焼きを促す。
一切の草が生えていない地面にもかかわらず、火は衰えを知らないどころか、むしろさらに火力を上げ、俺を捉えようと燃え広がった。
魔術と言ったが。
「不思議に思うでしょうね。この場所に有機物がないにもかかわらず温度を上げる炎。これが神秘の力。魔力による魔術の行使です」
おかしい。
俺の知る魔力といえば、大抵MPという概念があって、MPを消費し続ければ魔術および魔法は使えなくなる仕様のはずだ。
だがこいつは何かを代償にしている割には未だに延焼しまくっている。
「諦めなさい。命はもちろんいただくつもりですが、もうこれ以上逃げ回っても拉致があかないでしょう」
「生憎だな…………人より頑固者なもんで」
「死になさい」
いい加減イライラしてるらしい。
確かにもう逃げ場もない。
炎が両肩に迫るほど来てるから、あとはあいつの火球を正面から受けて灰になるしかないのだろう。
普通の人間でいえばだが。
同じ手が何度も通用するはずがないと、お互いに言えるのだが、今回その通説が俺に味方したことで、一応窮地に陥ることはなかった。
一瞬左腕を伸ばせば、真正面の火を受け止めることができる。
さっきやった通り。
「クッ…………また」
右も左も逃げ場がない。
俺と奴は正面で対峙しているし、あいつは正面からの攻撃しかできなかった。
つまり防御さえできれば俺に分があったのである。
仙人からもらった丈夫な手甲だ。
霊験あらたかな仕掛けももちろん施してもらっている気配はないが…………。
少なくとも腕を振るえば力づくで火を消せるほどの暴風を起こす腕力があったので、それっぽいことをして一旦俺の動ける範囲を広げておく。
これもやつにはビックリらしく、眉間にシワを寄せて俺を睨んだ。
***改稿中
おそらくは、あれが自分や人質に配慮し、かつ俺への炎上網を張れるギリギリのラインなんだろう。
かなり広い範囲であることを見ると、男自身はそれほど器用というわけでもないらしい。
正直あの安全地帯まで行きたいが、しかし隣まで行った途端に無茶をしない奴だとも限らない。
シエル
どうしてぽっと出のこんな狂信者に俺が手をこまねいていなければならないのか、甚だ業腹だ。
というかこんな状況でなければこんなやつとこんな面倒な因縁なんて芽生えなかっただろうな。
どうしてこうなった。
カラスは何してるんだよ…………もうあいつら逃げちゃったし。
「よもやこんなゴロツキの街の近くで魔法への対応を知っている者がいるとは思いませんでした」
「いや別に。むしろ、お前くらいのやつがどこにでもいる気がするな」
またいい皮肉を思いついてしまった。
これは言わない手はないということで言ってみたが。
「減らず口を。ではこれならどうでしょう」
何でしょう。
皮肉に皮肉を返すと逆上した方が返って何をするかわからないわけだが、今に限って、俺もあいつもまだ冷静でいる。
だが冷静なはずの男の手が神々と熱と光を放っていくのは、無駄な洒落が利いているようにも感じてしまうのは俺がただふざけてるだけなのか。
人を丸焼きにしようとする方がよほどふざけていると思いませんか。
「“ウヌデキム アド テ”」
たった一瞬のうちに、俺がさっきいた場所がさらなる火力を上げて爆ぜ散った。
「たく…………」
それは避けられるものだったから俺が無事なのだが、その威力は多少の戦慄を覚えた方がよさそうなものだったことを改めて知っておかないといけない。
ピンポイントショットならあの程度までか。
生身の人間相手なら半身を灰にできても不思議じゃない火力は文字通り朝飯前なのかよ。
少し、気を引き締め直して、撹乱にまた精を出すとしよう。
人質を取られた状態で戦ったことは一人じゃ一度もないからな…………。
カラスが早くここへ来てくれることを祈って、隙を見せないこの男の足止めを、あわよくば微かな隙を突ければいいのだが。
***
幸い、辛うじてだがその標準がほんの少しだけ逸れたかと思うと、俺の少し後ろの岩が跡形もなく吹き飛んでいった。
運が良かったわけじゃないんだろう。
いや、あちらさんの気まぐれで外してくれたのなら、むしろ運が良かったまではある。
いや機嫌が良かったんだ。
「わかったでしょう。君がどれほど腕に覚えがあり、私と対峙して対等に渡り合えると思えたことは大間違いです。現に、先ほど私が放った魔法を見て君の足が止まったのは、君が私に怖気付いた証拠だ」
全然見当外れだぜ、と言いたいところだったが、正直さっきのは外してくれないと危なかったのだけは事実だった。
先ほどの魔法で足が止まっちゃったのは、カラスがいつまで経っても来ないからって余所見した時に直前のが掠っちゃったからだよ。
実際怖かったよ。
怖かったけどなんだ。ちょっと癪に触るから言い返したい。
お前だって、可愛い女の子二人も人質にしてるから俺がわざわざ間合いを与えてやっていることに気づくべきなんだよ。
これを口が裂けても言えない自分の肝の小ささは何と比べればいいんだ。
「共に来る気がないのでしたら、そのまま大人しくしていなさい。私には時間がないのです」
そうはいかない。
俺はカラスが今にも追いつくのではと期待しているのかもしれないが、恐らくそれは男の危惧でもあるはずだ。
のんびりしていたいつもりはないだろう。
カラスがいれば二人で撹乱して即座にケリが着く。
だが俺がこうして手をこまねいているのも、俺には回避するしか能がない役立たずが故なのだから。
全く不甲斐ない。
もし囚われた彼女らに罵られてお仕置きでもされようものなら、そのオチがある未来の方が、どれほどいいものか。
ていうかカラス、本当に来ないな…………もしかして嘘なしの喘息だったのか————?
そうだったらごめんね。とりあえず頑張ってみるよ。
俺の決意は尻目に、再び女子二人を軽々と担いで帰り支度を始めた男の隙を、俺は逃すことはなかった。
一瞬で詰められる距離ではないにせよ、もう俺が恐怖で動けもしないだろうと踏んだらしいあいつは俺の方を振り返りもしない。
舐められたもんだ。
一言の断りもなく勝手にこの場の幕を降ろして帰ろうとでも?
そうはいかん。
その大きな隙。
すかさずガラ空きの背中に、得意の抜き足によって秒で詰め寄り、意識をいただく————!
「やれやれ…………」
そんなフラグは、物語の中だけだと思っていた俺は結局返り討ちにあった。
直前に何をされたのか思い出すのに時間がかかったが、どうせピンポイントショットで丸焦げにされて寝転がらされただけなんだろう。
やってらんないな…………もう少しカッコよくやれるつもりだったのに。
生きてるのは奇跡か。
バケモノだったことに感謝すべきか。
どちらにせよ、男が立ち去ってしまう前に起き上がらないとな。
「どっこいしょ」
「…………あれを受けてまだ立ちますか…………今のは普通なら身体も散っているはずだったのですが…………」
見直した?
カラバオといい、みんなの俺への第一印象は何故こうも低く見做されるんだろう…………解せぬ。
「頑丈だからな。嫌になるくらい」
「しぶとさも一級だ。意外に驚かされますよ、あなたに」
「それについては俺の悪い癖だが…………呆れられようが知ったこっちゃねぇ…………」
久々に激痛が身体の芯を走った。
だから魔法使いを相手にしたくないんだよ…………まったく。
これはまずい状況に陥ってしまったんじゃないか。
しかしこいつは…………魔力量も半端じゃない。
スタミナ切れを期待していた俺の予想に反して、何度でも、俺がスタミナを削ってしまって裏目に出た。
どうする。
「仕方ありません。無駄な殺生は理に反するのですが、邪魔をするのなら」
どうしよう。
たった一発で避ける体力を持ってかれた。
だからこれをやり過ごすには、彼の気まぐれにもう一度頼るしか手はない。
マジですか。冗談にして。
だって丸腰の人間相手にもっと慈悲の心は及ばないのか。
くそ。何か身を隠す場所は…………ないか。ところどころに岩はあったけど、さっき回避に使いまくったお陰で石ころに成り果てている。
俺の要領の悪ささえがここの来て裏目に…………。
男はアマネさんだけを今一度地に下ろすと、自由になった手を差し伸べ、俺に向けた。
果たして、最期の言葉を訊ねてくれるつもりもないのか。
「よく保ったものです。だが長かっただけだ。君の実力は、その程度だったということですよ」
人の自信をことごとく折ってくれるなこの人。
だが確かにそうだ。
俺はタイマンに自信があるとしても、それは相手が同レベルかその誤差範囲に限られるし、一人でも敵が増えれば判断能力は格段に落ちる。
人質なんて取られれば尚更、自分が何をすれば最善なのかさえわからない。
なるほど、つまり、これは俺の実力がその程度だったというだけなんだ。
俺が時間稼ぎにしか徹せられないのが悪い、否、時間稼ぎにも徹せられなかった。
だがどうだろう。
それが————味方を待つことが最悪の手だと誰に断じることができる?
現に男はカラスの援軍を警戒して集中力を削がれて一発では俺を仕留められなかったし、人間を二人も抱えながらでは動くこともままならなかった。
有利だったのは間合いのみ。
互いに有利不利を交わし合い、そして結果的に俺が一つの判断ミスをしでかしてしまったというだけでこの状況なんですよバカヤロー。
結局俺のせいか。
よく考えれば、アカネを交えての戦闘はほとんどあのロリの手柄で終わってたことを思い出した。
旅で一年かけても進歩しなかったらしい、俺。
まぁでも、しかしだ。
走馬灯がそこまで馬鹿な反省に限られるということは、実は万事休すというわけでもなかったためだったりする。
俺にばっか気を向けてると、危ないよ‘その女’の蹴りは。
「“ウヌム アド ウォ————”」
「うおらぁっ!」
「がはぁっ?!」
元々防御力なんてカケラもない腰巻を大きくはだけ、大腿内側も恥ずかしげもなく大きくさらけ出して見せるフリル付きピンクTバッ——マジか——その主は、男の背後から頸椎を目掛けて美しいしなやかな白い御御足を放つ。
何故か俺の頸椎もヒリヒリするのは気のせいなのだろうか。
あれは何だ。
ゴリラ?
飛行機?
いや違う。
アマネさんだ。
そう。
すんでのところで、流石にいつまでも寝てはいないアマネさんが気を取り戻すという嬉しい誤算が巻き起こったのである。
特に、俺がせめて一矢報おうと突撃し、こいつが迷惑に思って彼女を自由にしたことは全くのミステイクだったのだ。
俺の判断は正しかったのだ。
要領が悪いとか誰が言ったんだ。
ついでにアマネさんは強い蹴りで男からシエルでさえ手放されることを見計らい、サクッとその身を受け止めて全てを取り返してみせたのである。
ここに疾風怒涛の女性勇者が降臨なされたことは言わずと知れよう。
「たくっ…………どうしてこんなことになってんのよ…………」
そして彼女が言い放った言葉は手厳しい。
俺が訊きたいよ、そんなことは。
むしろ、あんたがいつまで寝てたんだ。
気がついてたのならどの隙を見て反撃しようと思ってたんだこの人は。
お陰で俺は————。
「ボロボロじゃないっ…………嘘…………大丈夫?」
「大丈夫」
めっちゃ痛い。
俺のこと慮ってくれるのに心の中で愚痴ってごめんねっ…………。
アマネさんはシエルを俺の隣に預け、あの男と改めて対峙した。
それにしてもアマネさん…………かなり際どい下着を身につけて御出でですね。
「あなた…………その服はどっかの宗教の人ね…………どうしてあなたのような人が私やこの人たちに関わっていたりするのかしら?」
それは俺も訊きたかった。
男はしばらく黙って、恨みのこもった目で俺たちを見据えてきた。
この人もかなり負けず嫌いそうだな。
「さすがに分が悪いですね。今日のところは退くことにします」
「待ちなさい。あなたの目的と黒幕がいるのなら全て教えて行くことね」
捕まえた方が早いけどね。
魔法使い相手に拘束がどの程度通用するのか知らないけど。
それから、女はともかく俺一人なら楽勝ってか、ちくしょーめ。
「私は彼女を保護することが使命です。しかしあなた方と交戦して時間を浪費できるほど暇でもない。明日のミサも執り行わなくては」
「ミサ…………そんな悠長なことを考えていられる事態なはずないじゃない…………あなたは自分がしていることをわかってるのっ?犯罪に手を染めているんでしょっ?」
明日…………一日かけて帰れる場所か。
逐一自分の予定を教えてくれるけど、実はこの人、いい人なんじゃないかと思えてきた。
「神はこう仰っています、とか、帰るんなら最後に何か言い残すことでもあればどうぞ」
「ちょっと…………茶化さないでくれる?」
こちとらもう目的は達成された。サヨナラ逆転ホームランさ。
さっきまでの男の強気をここで言い返しておかないと気が済まなかったのである。
「神の言葉を借りろとは恐れ多い」
だが男は俺の言葉を、愚か者めが、とでも言うように拒絶のセリフを吐いた。
酷い。
けれどそのセリフは、同時に彼が理想の宗教家であると俺に思わせるに至った。
神が、自分らの及ぶ存在ではないと弁えているらしい。
例え小娘の皮を被っていようとも、だ。
そういえば————。
「そういえば、お前はどうやってシエルに霊獣が憑いてることを知ったんだ?」
あ…………霊獣の件はアマネさんは知らなかったはずだった…………。
「霊獣っ?!」
しまった…………。
「いずれ…………必ず。我々の主を」
無視ですか。
そう言って、男は振り返り帰路に着いた。
俺というお焦げさんに向けてくれる目も耳もないと。
ちくしょーめ。
「ちょ…………待ちなさい!」
「あんたが待て」
俺は男を追おうとしたアマネさんの手首を掴んで止めた。
どう考えても、分が悪いのはお互い様としか思えない。
「離して…………私はあいつを…………」
「あいつの火力は相当だ。素人の人間に太刀打ちできる相手じゃない」
俺もあと一発保つかわからない上に、最早身体が言うことを聞かない。
これ以上被害を出すことはもう割に合わないのだ。
「…………」
しっかりと理解できたのか、アマネさんはそれ以上何も言わず、抵抗せずに俯いて追跡を諦めた。
男は歩いていたが、その姿勢は空に吊られているんじゃないかと言うほど正しい。
小綺麗だし、言葉遣いも丁寧だし、妙な趣味でも持っていなければ、好青年として大いにモテそうだな。
ならばそうだな。次会った時は絶対、必ず————。
「————必ず取り戻してみせる…………我が主を」
————必ずぶっ飛ばすリア充予備軍め。




