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改稿中だけど新章突入。

 就職難。

 決して俺の力不足であるとは思いたくない。

 学歴が介在しないこの世の中において、むしろ俺の経歴は真っ白のまま、綺麗な状態のまま信頼してもらえるはずではないのか。

 だなんて…………愚痴が出るほどに酷い面接の戦績だった。

 お金のことを考えずに済む生涯を送ってみたい。

 どちらかというと財布の心配よりも、まずは人間関係の心配をすべき俺だった。

 コミュ障もここまで極めりゃあ、一目で「あ、こいつはいらないな」と思わせることも可能らしい。

 それによって、今まで俺自身が人間不信に陥らなかったには、重度のイジメっ子体質の持ち主であるアカネさんの力添えのお陰だろう。

 さすがはアカネさん。アカネさんとしか喋ってなくて結局アカネさん以外の人物と喋ることができないという有様。

 白龍様(しロリゅうさま)々である。

 どうしてくれんだって、どうしたって近いうちにコミュ障治さないとこの先、生活することができなくなってしまうことは明白だ。

 この世を超越した存在。人智など当に凌駕し、世界に飽きたとんでもない女の子は、今何をしているのやら。


***


「…………きろ、呑んだくれ」

「のんでません…………いや、呑んだけど、よってない」

「どっちでもいい、このモブ兄貴が」

「…………酷い言い草だな」

 場所はいつもの酒場。

 我が愚妹トキさんが切り盛りする、割と繁盛してる馴染みの店で、俺はここ最近、毎日同じテーブルで惰眠を貪っている。

 そんな折にこの愚妹は、いつかは離れ離れになりながらも感動の再会を果たした兄が、できる限り側にいてやろうというのに何がそう不満なのだろう。

 不満がなければどうかとも思うけど。

 我ながら不甲斐ないこと極まりない。

「さすがに我慢の限界。もういい加減出てってくれないかな」

 トキは傷心の俺を虐げようとしている。

 そんな眼差しで睨まれると、俺からは正直、嫌味な目で睨み返してしまうのがオチだ。

 ジトー。

「せめて宿くらい取れ」

「そんなこと言うなら部屋を一つくらい貸してくれてもいいじゃんか」

 つい言い返してしまった。

 ものすごい当たりがキツかった。

「もう2ヶ月もこのままなんだけど…………もうヤバいからね…………」

 じいちゃんに似た細いトキの眼孔が、更に細くなった。

 こんな俺でも、努力はしてるつもりなのに。

 ただ、この2年だの何してたか訊かれると、どうしても口を噤んでしまって。

 それがネガティブな効果を発揮してしまっているらしい。

 それ以外にも全体的に陰鬱な印象とか、何か始めるには年を行き過ぎてるとかいう理由があるらしい。

 こんなことなら、学生時代に資格とか色々取っとけばよかったなぁ、なんて。

 ファンタジー世界で通用する資格ってなんだろう…………簿記とか?

 あぁ…………数字ダメだ…………。

 だが、これでも俺は遂に()()()

 立場的にはトキよりも偉いのである。

 被雇用者は今あくせくと働いてボロ儲けしているところだから、俺は待つだけで金が入ってくるという遂に幻の業界を開拓したのだった。

「シエルさんにも変なこと教えて…………」

「あれは俺が教えたんじゃなくて、シエルが勝手にハマっちゃっただけだからな」

 そんな愚痴を余所に、当人がいるテーブルでは大歓声があがった。

 あの辺りは賭けチェスが流行っている。

 酒と香水と色々臭うおっさんらが、暇つぶしと僅かな資金繰りを兼ねて行う如何わしい集まりの中に、一人だけ花のように可憐な可愛い子が交ざっていた。

 というかそれで()()()()()なんですかシエルさん。

「またお嬢ちゃんの勝ちかぁっ!もう賭けるもんねぇよっ!」

「ダッセェなぁっ!」

「俺もかーちゃんに怒られるっ!」

「どーんっ!」

 我が社の稼ぎ頭、及び出世候補というか最早凄腕ギャンブラーのシエルさんはことごとくを凌駕してフリーター共から容赦なく有り金を巻き上げていた。

 あれからずいぶん、一層笑うようになったな。


 俺はここ最近悪いことは一切していないのだが。

「シエル〜、チェスはその辺にして飯食おっか〜」

「はーい」

「誰が払うの…………?」

「後生だ…………」

「巻き上げた金で?」

「はい…………」

 さて、今日の稼ぎは如何程かね。ぐへへへへ。

「シエルさん、このアホ兄貴の言う事なんて聞いちゃダメだかんね」

「ん」

 席を移動したばかりのシエルに、トキはお馴染みと化した説教を繰り出した。

 シエルはまだ人見知りなので、トキに反論はおろか大したお喋りもできない。

 タジタジである。

 なので、あまりシエルが怖がらない内に目当ての注文をさせてあげることにした。

「シエル何食うんだ?好きなの頼んでいいぞ」

 お金はあるはず。

 多分。

「ハンバーグっ」

「…………はい、少々お待ちください」

 トキは渋々引き下がり、俺たちの注文した品を作りに厨房へ入っていった。

 わかってる。

 でももう、こうでもしないと明日を生きていけないんだよ。

 誰か仕事ちょうだい…………。

「ハト?」

「なんだね」

「ハト、さいきん暇だね?」

 がふっ。

 このところシエルの言葉が容赦ない。

 そろそろ状況を飲み込んで、俺のダメっぷりを知り始めてしまってるんじゃないだろうか。

 まだ知らないで…………。

「ハト?」

「なんだね?」

「旅行って、あとどのくらいかかるかな?」

「…………どのくらいかなぁ」

 旅行ね。

 危うく話をはぐらかそうかとも思った。

 そもそも俺から誘ったんだから。

 俺がこうしているもどかしさを感じているのも、短期間で費用を稼ごうと画策していることも原因の一つなんだから。

 うやむやにしてしまおうかとすら思っていたのに。

「…………その内、できるだけ近い内に」

 言いながら、俺はシエルの髪に手を添えて、できるだけ優しく撫でてやった。

 シエルはくすぐったそうな笑顔をして、俺の言葉に首肯する。

 これは、一回してやったらシエルが気に入ってしまった挨拶みたいなものだ。

 俺はかなり後ろめたさを感じているが…………あまり、不安がらせたくはない。

「悪いな、もう少し待ってくれ」

「うん、わたしも頑張るからっ」

 この子、俺の胃袋掴むの上手い。

 ストレス的な意味で。自業自得とはいえ。

 

***


「お待たせ」

「おーっ」

 やがてトキさんお手製の料理が、その両手それぞれに乗せられて運ばれてきた。

 ホクホクと湯気が立ち上っているのが見える。

 片方はシエルの注文通りのハンバーグ定食のようだが…………なんか、もう片っぽだけ様子がおかしくない?

「お待ちどうさま。はいシエルさん」

「ありがとうっ」

「はい、ゲス兄」

「わーい…………」

 何これゲス妹?

「…………キノコ盛り合わせ」

 ガッデム。

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