そして少女は初めて空を見る————改稿中
窓から落ちた時に壊した本棚から、みすぼらしい手帳が多く散在してしまった。
50枚ほど紙が綴じられた手帳のようなもの。
なんだこれ、と思って読んでみると、それには、なんとも微笑ましい文章が乱雑に綴られていたわけであるが。
ほぼほぼ姫が没収してしまったものである。
その中で、唯一俺の陰に隠れて姫の手を逃れたものをくすねた、もとい拝借したまま、俺の手にこれはある。
何でも帳って感じか。
日記、メモ、自作のお伽話的なものまでビッシリと書き満たされている。
“◯◯◯日目。晴。今日はお人形がほつれちゃった。直さなきゃ”的な。
パッと開いて露わにするとあどけない文章で、もう空白を無駄にしない勢いで様々な文章に埋め尽くされているらしい。
日にちは曖昧だ。
100ページ中、23日目の上に165日目そのまた隣に648日目の文章が短く記されていたりする。
この一冊ですら何度も使い回していたのか。
これに果たして、この塔を脱するヒントが書かれているだろうか。
他の手帳にはどんなことが書かれているのか、それはこれが読み終わった後に読む気があるかで考えるとして、ではでは。
ペラ。
ペラ。
ペラ。
全体の三分の一に及ぶところまでは、暇つぶしも兼ねていたのか、いずれはハッピーエンドで締めくくられるのかもしれないメルヘンチックな物語がしたためられていた。
さながら、自分をモデルにしたような可愛い話を。
王子様の視点まで描かれているのも、なんとも愛嬌を誘う姫の年相応の面がここにあったのだろう。
しかし、王子様と囚われの姫が無事出会えたかどうかは定かじゃない。
バッサリと打ち切られた物語が終わり、その先はラクガキの上にさらに強い筆跡で、霊獣を克服しようとする意気込みや怖さが切実に吐露されている。
一度200日ほどの出来事を数行で書き終わり、また更に最近のことらしいところまでが適当に書き加えられていた。
今の所全部読み解くのは難しい。
俺にとってこちらの言葉は話せるとはいえ、文字はまだ許容範囲外だから、なのだが。
ひらがなカタカナのようなところまでは読めるが、漢字にあたる文字を読めない分には、姫の胸中が今やどうあるのかがわからない。
不甲斐ないと思うつもりはないけど。
しかしある一文から目を離せないまま、俺は姫をこの塔から、可能であっても出していいものかが悩ましい。
————だれのせい?
こればかりが読めてしまう。
多くの文節からこのあまりいい響きでないものから先に見つけてしまうなんて、俺のネガティヴポテンシャルはもう、そこはかとなく嘆かわしいもんだ。
しかし、姫はどうやら自己嫌悪を通り越して曲解を得ようとする手前、あるいはもう手遅れの状態にあるのだろう。
イかれた精神状態に陥る寸前。
けれど、今のところは理性を保っていられると。
そして、俺はある場合に陥った際の判断をシンから何も聞いていないことに気づいちゃったのである。
どうしよう。
姫が外に出た瞬間ヒャッホーウとか言いながら世界を滅ぼしに行ったら。
黒幕にされるとかなり面倒というか、下手をすればアカネにあらぬ誤解をされた後にお仕置きが下る可能性もある。
アカネさんああ見えて郷土愛に満ちた方だから、絶対容赦してくれないに決まってる。
面白くない展開だ。
そうはさせん。
とはいえ、それもこれも出れればの話だ。
俺は再びその文に目を通した。
十中八九、姫のせいではないことは確かだろうけども、かといって姫が今後どうする気なのか、危ない思考を放っておくとこの塔ですらいつまで持つかわからない。
ここは綺麗な回答を姫に差し上げてわだかまりの解消、兼、この心意気を気に入ってもらうという作戦はどうだろう?
グッドな作戦だ。
OKバッチリ。ではまず。
誰のせいか。
十中八九、誰かのせいだろう。
誰のせい?誰のかな…………?
神様…………は、遠回しに霊獣をディスってるっぽくてバツ。
姫自身を責めるのは以ての外。
俺…………は悪いことしてなくない?却下で。
シンはなぁ。そうだ。
ここはシンに一肌脱いでもらうというのはどうだろう?
あのお人好しが、全責任を負って首を差し出してくれるんじゃないだろうか。
悪くない。
おぉナイスアイデアじゃないか?
あとはシンが、最悪首を落とされないだけのそこはかとないフォローの言葉でも添えて、うーむ。
いや、ナイスアイデアって言葉をこんなアホらしい作戦に使うべきではないとはわかってるんだけど。
アホなことを考えている間に、時間切れだ。
ちなみに、ここは昨日訪れたばかりの泉である。
不自然過ぎたか。
井戸の奥まで移動して闇の中、姫に内緒でこんなものに目を通そうとするなんてことは卑しいかもしれない。
暗い中、文章を読み解くってかなり難しいことに挑んだわけだけども。
盗み見るつもりはなかった。
でも、もう少しヒントをくれたっていいじゃないか。
だって出られないんだもの…………。
手帳はパタリと閉じ、背後で立ち尽くしていた姫と対峙する。
仕方なく。
どっからどう見てもご立腹な様子の姫が本当にいることを確認したところで、次に俺はどうしたらいいでしょう?
「…………」
いつの間に…………まだ夜のはずだが、また随分と夜更かししちゃって。
姫の姿はここで振り返って初めて確認したが、音は良く響く。
ぺたりぺたりと足音が近づいてくる今までの時間に凄まじいペースでページをめくり、塔に関してのヒントが書かれていないか探したけれど、読めない部分が多くて、とてもじゃないが奇跡を呼ぶことはままならなかったのである。
「何してるの?」
一度俺が上に戻った際に、一瞬だけ発せられた時と同じような、敵意剥き出しの鋭い目つきと声を発した姫は、背筋を曲げて俺の処遇を問うた。
ハッタリでも、おふざけでもして無事に乗り切ろうという気も気兼ねも才能もない俺としては、些か分が悪い状況だな。
光のない闇の中でさえも真っ直ぐ俺を見通してくる姫は、その胸中で何を思うのか。
想像に難くない。
「…………どうせ」
この手記に殴り書きされた文章を読み解いていけば、彼女の願いですら予想するに難しくはないだろう。
文字を読めればの話だが。
ついに切実を込められて発せられた姫の言葉には、俺には受け止め難い悲痛を感じるまでに至る。
直視するのも嫌になる、懺悔のようなもの。
「どうせ私は出ちゃダメなの。入ってきちゃダメだよ…………みんな傷つけちゃうから…………」
…………。
ゔへぇ…………。
こんな時になんだけど、よしてくれと思うのも本音なのだが。
人から悩み事を打ち明けられても、育ちの悪い俺が素晴らしい格言で彼女を救うことなんてできはしない。
特に俺がこの子以上の悲劇やなんだと経験したわけもないし、あったとしてもそれを自慢げに説教すればそれがどうしたと思うのが人のエゴだ。
俺だって人の不幸自慢はウンザリする。
むしろ黙って、彼女自身が持つわだかまりを一刻も早く吐き出してしまう方がよほど効率がいいとさえ思うのだが。
面倒だけど。
俺ごときが聞き役だなんて不服かもしれないが。
しかし猫の手も借りたいとか、猫耳も借りたいとかウサ耳も借りたいとか思って俺を抜擢してくれるのなら、多少は聞こえの悪い耳も貸してあげるさ。
なんと言われても、俺が彼女の真意を理解できるはずはないが。
「どうして今更入ってくるの…………帰ってよ…………」
それを言ってしまうのか。
帰れないの…………俺のせいじゃないけどごめんね。
多くの、かつ自虐的な悪態を吐いた姫にはどうやら外への希望なんて持つ理由もないらしい。
これで言質は確実に取ったな。
出そうとする方がお節介というわけだ。是非もない。そっとしておこう。
なら俺がどうやってここを出るかが、最後に最大の問題として立ち上がってくる。
姫の要望を受け入れる方が簡単だ。それに例え彼女を連れ出すことができても、結局は利用される存在でしかない。
何せ彼女の役目といえば、俺やシンを向こうへ帰してもらう手助けをしてもらうだけなのだから。
その後の采配がどんなもんかは俺が知る必要もない。
俺は別段ホームシックに陥ったわけではないし。
それに依頼主がシンだけあってドタキャンも辞さない。
だから俺が姫を無理やり出す理由がない。
シン自身でさえ、人助けに意義を見出すのであれば姫のためにこの塔へ来たことをなかったことにすべきなのだ。
よって、この仕事はおじゃんということで手を打とう。
姫の機嫌がこれ以上悪くならない内に。
さて。
どうやって出ようかな。
だが姫は尚も、招かれざる客に無茶振りを強いる。
「放っておいてくれないなら、またみんながあなたを許さないかも」
姫はそう言うとだらりと首から肩にかけての力をダラリと抜いた。
もう仕方ない、とか言うように。
切り札でも披露してくれるのか。
もしかしてそれってマズイ状況か?
辺りに音は少なく。
辛うじて天井に溜まった水滴が岩や水面に落ちる音や、鼓動のような音が聞こえるだけの静かな刹那。
こんな俺にも、こんなフラグ的展開が訪れちゃうのか。
女の子と戦闘フラグとか。
なるほど、おいおい、やめてちょうだい。
まず俺が女の子との喧嘩に勝てる見込みがない上にみんなって言いましたね。
みんなって霊獣のことですよね。
霊獣相手って更に分が悪い。
概念的な存在が果たしてどうやって戦うつもりなのか、少し興味はあるけどごめんなさい。
痛いことしなくていいからこの仕事受けたのにあんまりじゃないですか…………。
どうしよう…………まだ謝っても許してくれるのか?
俺のしたことなんて不法侵入ぐらいのものだが、せめてシンがこの場にいれば俺の罪が軽くなるのに。
むしろシンが黒幕であると言っても過言ではない。
…………ん?黒幕?
シンは向こうへ帰ると言っていた。
向こうへ帰る方法を誰かから聞いたと言っていたな。
そうだ。シンも誰かにけしかけられてここまで出向いたと言っていたような気もするし、なら一番悪いのは俺やシンですらなく、あくまで成果だけを期待して恐らくは踏ん反り返って待っているそのクライアントではなかろうか?そうであればここで俺が女の子に葬られるのは些か以上に腑に落ちないし、かと言ってそそのかされたとはいえ俺も多少の罰を受けるべきではあるが、しかし俺だけが結局不幸になるっておかしくない?
というか、彼女にとってストレス発散になるのか知らないが、そういうつもりが仮にあるのだとしたら、嬲るには俺一人だけで足りるの?
足りないと思うけど。
じゃあ、だ。
取引ができるんじゃないだろうか。
「逃げて…………」
「安心しろ。元々、もう出て行くつもりだったから」
「…………へ?」
「俺は安全だ。だから手伝ってくれないか?出るのを」
力で敵わないなら利用してしまえばいい。
「安全…………」
突然空気を読まないことを言った俺に対して、今にも飛びかかって来そうだった剣幕の姫は呆気にとたれたらしく、キョトンと小首を傾げた。
「…………え?」
…………うん、そうなるのか。むしろそうなってくれるだけ冷静でいてくれてよかった。
そして姫は少しだけ俺の言葉の意味を熟考し、か細い声でこう告げてくれた。
「…………え?いい…………けど」
いいのかい。
…………え、いいの?
いいのかこのサクッと展開…………?
「じゃあ…………上に上がるの?」
「ああ、りょーかい」
「りょーかい?」
ハテナが止まらないらしい姫は、俺の言動に対してさっぱりだとしながらも回れ右をし帰り道を先に歩き出した。
その毒気を抜かれたようなチョコチョコした背中がとても愛らしい。
***
「で、だ姫様。俺はここを出たい。姫はここを出たくない。OK?」
「お…………おーけぃ?」
なんかすんなり話せるようになったけど、ここは甘んじて利用させてもらおう。
上に帰る時は、なるほどなという感じだった。
どこかにしまっていたらしい縄はしごを垂らして、昇り降りを容易にしてたらしい。
律儀にも、それを垂らしたままにしておかないのは、彼女の几帳面な性格の表れだろう。
「利害は一致してるんだ。つまり出方さえ教えてくれればいい」
「出方…………かぁ」
出れればいい。
そしてシンに説得して無理だったと真実を伝え、もしかするとあいつのことだから自ら中に入って任務を遂行しようとでもするだろう。
その隙はシンの目が俺から離れる。
そう。
俺はそして家に帰る。家ないけどね。
誰かの傷つく顔も見えない最高の作戦じゃないか。
まずはその手始めとして姫に俺の意向をそこはかとなく感じてもらい、次にまた人が入ってくるかもしれないけどそいつは俺より安心してくれて構わないからとさりげなく伝えることを進める。
逃げの姿勢?
言葉に気をつけたまえ。戦略的撤退だ。
そして姫は俺にこう告げた。
「出るっていっても…………どうやって出るんだろ…………?」
おやおや?
出始めに詰んだか?
どうやって出るんだい?
姫も知らないの…………?
「例えば、こう…………なんで出ちゃダメな状態なのかわからないか?」
「出ちゃダメなの?」
話が通じないか。OK、俺はこの程度では怒らんよ。
ていうか俺の言葉に不備があったのかとソワソワし始めましたが。
「出れないのか…………?」
「えっと…………あれっ?ドアどこだっけ…………?」
「今の今まで、どっから入ってどっから出るのか知らなかったのかよ」
ギョッとした姫の仕草にグッときたところで、つまり姫はだいぶ長い間から出ることを意識から外していたらしい。
完璧に忘れていたとは。
それにさっきから出の文字が多いぞ。
俺たちの語彙力。
「ほら。俺が入ってきたのはこの辺からだよ」
「へー」
急に軽い口調になりやがったな…………そしてやっぱ俺が入ってきた瞬間を見てなかったのか。
遊びに夢中だったし。
ねぇ知ってる?
この子本当は天才児らしいんですよ。逆に納得ですよね。
「ねぇ」
「ぬ?」
おっと失敬。
ぬ、って。
ついに変な声で返事をしてしまったが、度肝の据わった姫には俺ごときの不躾など取るに足らないらしい。
「私は出なくていいの?」
「仕事ではそうだったけどな。でも必要なくなった」
「どうして…………?」
「出たくないんだろ?」
「…………うん」
「姫って多少は魔法とか得意とか聞いて、多分その辺で力貸してくれないかなーって感じで出て欲しかっただけだ。別に他の誰かでも事足りると思って、手を引いた」
俺もいい加減、もうこの子には気を遣わなくていいかと思った途端にこの調子。
お互いあまり気にしないところを見ると案外気が合っている証拠かもしれない。
「お前はここで大人しくできる」
と突然。
「シエル」
姫は特に脈絡もないことを口にしだした。
「はい…………?」
「シエル」
「…………うん」
俺が聞き返すと繰り返される。
何…………?ハッ!
扉を開ける魔法の言葉を思い出したんだなっ!
それを唱えれば出れるのかっ!
バルスの逆みたいにっ!
「シエル?」
「うん。お前じゃないの。おじさんは…………」
「ハト。ハトって呼んで」
シエルさん、ハトお兄さんはおじさんって呼ばれる筋合いはないっ!
俺がお前って呼んじゃう筋合いもなかったですねっ!
扉を開ける魔法の言葉って何のことだよ…………ただの自己紹介じゃん。
恥ずかしい。
こんな些細な聞き間違いを何度もしてきて何度も怒られたが、まったく治る気配がないな。
俺はこの先、立派な大人になれるのだろうか。
「…………なんか顔赤くなって」
「なってない。とにかく出る方法だ」
正直言って、名前なんて別に必要じゃない。
どうせ今だけの関係だ。
どうせもう、会うこともない。
この程度の関係で終わるように、しっかりと手筈を整えていくつもりなのだから。
「うーん…………この塔硬いから壊せないし…………」
急に物騒なこと言いましたけどこの子。
壊したら生き埋めになる恐れがある。
壊れないみたいだけど、生き埋めで死ぬほどヤワではないにせよ、壊れないないのか。じゃあどうやって出よう。
「んー…………」
すごい真剣に考えてくれるなぁ。
これは俺もジッとしているわけにはいかないんだろう。
色々質問して行くことにした。
「親父さんからとか、なんか聞いてなかったか?」
まずった…………か?
彼女が親父さんや母親とは、もう再会することはできない。
それを連想させることを言ってしまうなんて…………。
…………大して気にしてないのか、それともよく聞こえていなかったのか、幸い姫が物思いに耽ることはなかったけど。
一瞬寂しげな顔はしたみたいだけど、注意しよう。
姫が王様や王妃が亡くなっていることを知っているかは定かじゃないんだけどな。
まだ伝えてない。
「なにか…………かぁ。いつか出してくれるって言ってた」
…………なるほどね。
それが今なんだけど。
けれど王様の意向じゃない。
だからなのか、姫は引きこもりを決意し、こうして俺まで閉じ込められてしまう感じになっちゃったわけだが。
なんで俺もなんだよぅ。
「…………ねぇねぇ」
「はいよ」
またお訊ね事かね。
いいとも。
このお兄さんの耳が可愛い子の可愛い声を拾おうではないか。
さぁ何が訊きたいんだい?
もっとその声を聴かせておくれっ。
ちなみにお兄さんは彼女とかいませんっ。
「外って今はどんな感じなの?」
「…………」
…………。
「綺麗なところとか、ある?」
…………。
そんなこと訊いて、どうしたいって言うんだ…………。
いや、別に教えてやったところで、教えなかったとしても彼女にとってどうということもない。
教えてやるくらいなら別に大したことじゃないんだ。
「綺麗なところは綺麗だぞ。空は青いし海は青いし森も葵いし」
「青ばっかりだね…………」
「そうだな」
「もっとある?」
「もっとって…………」
「外に出れば見れるよね」
「…………そりゃまぁな」
むしろ、出なければ見ることはできない。
姫にとっては、望むべくもないことのはずだが。
出たくないはずだが…………。
まるで————。
「でも外は危ない。今は戦争の時代だからな。安全な場所なんてもう、今いるこの塔の中ぐらいじゃないか?」
この塔の耐久度がどれくらいかはさておき、たとえ崩れ去ったとしても、それは恐らく一瞬の恐怖である。
瞬く間に、意識も全てレンガに押しつぶされてしまえば終わりだ。
より親切のまま姫と、世間を、これ以上の危険から遠ざけるにはこの塔が必要不可欠だ。
俺には可哀想だからと、楽しいからと外の理想を押し付ける真似はできない。
責任があれほど重いものだと知らなければどうだったかわからないけれど、現在、俺は絶対にこの子を守り切れる自信がない。
だから————まるで心変わりし始めたように、外に興味なんて持たないでほしい。
二度とあんな思いはごめんだからな。
「外は危険だ。だから出る必要はない。俺だけ出る方法さえ教えてくれたらそれでいいから」
何度も言うけど、そういうことだ。
それ以上も以下もない。
「…………むー」
「…………あの」
「むー」
この子…………なんて可愛い顔でふてくされるのかしら。
そんな顔されたら、どんなワガママも聞いてあげたくなっちゃうよ。
「ハトさんは…………安全なんでしょ?」
「…………んん?」
「ハトさんなら大丈夫」
「は…………?」
へ?
おお?
んんんん?
なんで俺が…………。
急にどうした?
さっきまで、というかこの塔に入った時から警戒しておきながら。
「ハトさんなら私を守ってくれる」
何…………そのキュンとくるセリフは?
ていうか、偉いところで言質を取られていたな…………。
俺は安全だ、と…………。
そう来るとは思わなんだ。
さすがはあいつの言葉だ。
いつまで経っても、俺が助けられてばかりだな。
「私出るよ。ハトさんを信用するよ」
「それは…………」
困る。
しかし、これを断るのは、バカのやることだ。
「私を守ってね」
そもそも彼女を出すためにここへ来たのだから。




