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05

 陽の傾きと共に時計の針も進み、空が夕闇に染まりだす。

 緋色の夕陽が真っ白な部屋に差込み、同じ色に染めてゆく。

 その部屋はかなりの広さがあるが、物は奇妙な程少ない。

 壁の一面にセットされた大型モニターと、その向かいに離して置かれたデスク。

 そして、そのデスクの上に腰掛けた一人の男。それ以外には何も無い部屋だった。

 男は自分の正面のモニターを観続けている。

 モニターには地図や写真、そして何かのデータ群、また地図、写真と、様々な画面が表示され、また別の画面に切り替わっていく。

 そのモニターを見ている男の様子は、まるで暇つぶしのテレビ映画でも観ているかのようだった。

 妙に若々しい印象の、眼鏡を掛けた男だった。歳は三十頃に思えるが、印象次第ではもっと若くも見える。

 灰色のスーツを着ているが背広はデスクに放り、上はワイシャツにネクタイと、外見はまるでただのビジネスマンのようだ。

 モニターがメニュー画面になり、表示が全て終了したことを知らせると、部屋の明かりが点いた。

 一仕事を終えた、という感じで男は大きく伸びをして、後にある椅子に手をつこうとして、そこに椅子がないことに気がついた。

 「………あれ?」

 「行儀が悪いですよ。鴻野(こうの)管理官」

 椅子はデスクから離れて壁際にあり、その椅子には女が座っていた。

 鴻野と呼ばれた男と似た仕立てのスーツを着て、デスクの下に背中から落ちた鴻野を冷たく見下ろしていた。

 「来ていたなら声かけてよ、シーナちゃん。びっくりしたよ」

 「仕事の邪魔をしてはいけないと思いましたので」

 シーナは淡々と答え、床に転がったままの鴻野に歩み寄り、手に持ったタブレットコンピュータのコードをデスクに接続した。

 「ポリス各庁からの定時報告と、臨時の報告が三件あります。今日中に目を通しておいてください」

 「うーんちょっと忙しいんだよねえ。明日でいいです?」

 「今日中にお願いします」

 タブレットのタッチパネルを操作しながら、強い態度でシーナが繰り返す。

 「それから…特別報告が一件。こちらは至急確認をお願いします」

 シーナが言うと、鴻野は仰向けのまま手を伸ばしてタブレットを受け取った。

 「第三研究所回収物解析班……『スターダスト』の件だね」

 新たにモニターに映し出されたのは、都市の地図と四人の人間の顔写真。顔写真の横には、それぞれのパーソナルデータが並べられていた。

 写真とデータの内、三人は志柚と阿依、そしてルウ。そして残る一人は、壮年の戦士。

 「アダム・A・ガーゴイル……確かな情報なんだね?」

 「はい。二時間前に衛星から確認された、敵と思しき集団の規模とも一致します」

 「亡霊中隊か。読みは…概ね合っていたな」

 鴻野がデスクのコンソールを操作すると、モニター上で地図が別の地図の画像と重なり、数個のポインターが表示される。

 「接敵予測地点に…交戦予測地点…そして現在予測地点か。ふむ」

 じっとモニターに集中して何事か考えをめぐらせている。

 「彼が、連絡をつけていた相手は特定できたのか?」

 「はい。やはりポリス内部の人間でした。特定には時間がかかりましたが」

 シーナが再び画面を切り替え、通信記録らしいデータがモニターに写る。ずらりと並んだ人名の中からポイントされた一人のパーソナルデータが表示される。

 「うん。即応部隊に連絡は」

 「既に済んでいます。十分前に第四隊が起動、現在出動準備中です」

 「良し。それじゃあ……」

 背広を取ると鴻野はそのまま扉へと歩き、

 「今日は上がるとしようか。お疲れ様シーナちゃ…」

 部屋を出ようとしたところで、背広の端をシーナに引っ張られて止められた。

 「鴻野管理官。まだ肝心の仕事が残っています」

 「どうしてもやんなきゃだめかなあ。気が進まないんだけど」

 「だめです」シーナが毅然として言う。

 「そもそもこの案件は管理官ご自身が進行を一任されたものであり、最後の要を放り出して人に任せるなどということをされては画竜点睛を欠くどころか、部下への示しも付かず、更には…」

 「はいはいはい解った解った、やりますってばもう…」

 子供のように拗ねてみせる鴻野を無視し、シーナは先に廊下へ出る。その後に鴻野が続く。

 「ヘリの準備は済んでいます。上へ」

 「どうせそんなことだと思ったよ。準備の良い部下が居て幸せだよ、僕は」

 「お世辞は要りません。すぐに発ちますよ」

 エレベーターを待ちながら鴻野は、廊下の窓の景色へ目をやる。

 真っ白なビルの周りは、真っ白な建物の並ぶ清浄なる世界。居場所を失った人々が集まり作った、都市であり一つの国。

 そしてその外は、灰色の廃墟と黒い焼け跡が、墓標が並ぶ死の世界。闇が覆う『彼ら』の戦場。

 「また、あそこに行かなきゃならないのか」

 「気が進みませんか?」

 鴻野はシーナの方を向いて

 「まさか」

 暗い笑みを見せた。

 

 五分後。『ポリス』中央庁ビル屋上ヘリポートから一機のヘリが発ち、五機編隊の兵員輸送ヘリがそれに続いて飛び発った。

 廃墟の中心。ルウ達の戦場へ向かって。


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