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磨師   作者: 麦巻橙
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五回転目 唄

「考えること~、同じだな…」

狸赤が煙草の煙を燻らせながら背後から

現れた。それに気付いていたため

動じる事なく、振り返らず男は話した。

妙に間延びしたやる気なさを感じる

話し方が印象的だ。


トーナ・ラダ・ハネリウス

九蛇使い。(九堕とも言う)


同じ五歌仙の一人だ。


ボサボサの癖毛に真っ黒のスーツ

真っ赤なワイシャツ、ラメ入りの黒い

ネクタイという悪趣味な格好をした

目付きの鋭い長身の男で、狸赤より

頭ひとつ分高かった。


手にはウィスキーのボトルを持っていた。癖の様にそれを口にしていた。




狸赤はブラスターと呼ばれる砂の使い手

であるがトーナは九蛇と呼ばれる

祓い専門の特殊な蛇を使う。

いつも懐に忍ばせているらしい。


それとは別にダッパラティという

猿も彼の九堕であり、相棒みたいに

いつも一緒にいた。


動物は人間より感が鋭いという。

そのため、こうして九堕として育てる

祓い屋も少なくない。


しかしながらトーナほどの実力を開花させる祓い屋はそうは居ない。


扱いも動物ゆえ、難しいのも事実だ。


この二人、何処にいるかというと

天上院静の夫、鉈彦の父である緑英の

寺にきていたのだった。


今は使われてなく、天上院静の持ち物と

なっている。


天上院静は緑英亡き後、この寺を使う事をせず、自分の寺を別に建てたのだ。


同じ霊能力者として夫に劣等感の塊だった静は緑英より大きく、そして派手な

寺を建てて、その力を示したのだった。


しかし、緑英の信者を取らない

スタイルとは真逆で、沢山の信者と

お布施を集めるやり方をしたが、

緑英ほどの信頼や名声は得られず、

結局は信者は離れていき

フリーのインチキ霊能力者になっていった。



「トーナ…何か得られたんか?」

土足で上がりこんでしかも煙草をくわえたままの狸赤が言う。


「収穫あったら~、ここにいないっしょ?」トーナがニヤリと笑うと

狸赤は肩をすぼめて見せた。


「しかし、八百顎朱には困ったもんだぜ。何処フラフラしてんだか…」

そう言うと狸赤は玄関に逆もどりして

この場を去ろうとした。



「狸赤さんね~あんまり必要ないかな~」そう言ってウィスキーを一口。


狸赤は足を止め、振り返りながら

煙草の煙を吐いた。


「これ、見つけたのよね~」

トーナは汚いボロボロのノートを狸赤に

差し出した。


狸赤は苛立ち気味にノートをひったくると「てんめぇ~あんじゃねーか!!」


そして、そのノートで頭をポンと叩いた。

ノートは緑英の書いたものだった。



【八百顎朱なるもの、我、天上院一族が封印し魔物なり。】


【その特徴、坊主の格好で近付き、八百ある足を堕魂として人に憑依させる。】


【3日ほどで憑かれた人間は死に

魂は八百顎朱に喰われる。】


【これは、ただ、生きるために繰り返し行う。】


【八百顎朱の憑依術には

特別な呪術の儀式が必要なため

簡単に現代人には憑依が難しい。

人の望む欲望とひきかえとし、儀式となる。】


【本来の姿は異形の怪物であり、

坊主姿は奪い取った肉体である。主に霊力の高い依り代を好む。肉体が朽ちる前に次の依り代を求める。】


ノートから目を上げるとトーナの顔を見ながら狸赤は言った。

「まあ、確かに俺らガーベージの知ってる情報ばかりだな。」


トーナは「叩かれ損じゃない~だから言ったでしょ~」

と少し、困った様な顔をした。


「まあ、あんまりrisky な事いいなさんな。」そう言ってニャリと狸赤は笑った。



「時に、疑問におもったんだけど~

あのあれ、それ、うーん。八百さんは

食事をする目的だけなのに人に化けたりするんだろうね~?」


トーナはウィスキーの瓶を逆さまにして

すっかり空になってしまったハズの中味を惜しんでいた。舌をベロりとだして

何度も振りながら、またく気のない質問を狸赤にした。


狸赤はこれに苛立ち、

「馬鹿か!てめェは?ああん?

まず!そのセコイの止めろや!

考えりゃわかんだろ?

八百ッチが化け物の姿のまんまで

ウロウロしたら、祓い屋の「恰好の餌食」だろが!ヤツだって生きんのに必死なんだろよ?」


と狸赤が言い終った次の瞬間、右手の平を上に向けた。

手の中でくるくると小さな竜巻の様なものが出来る。


「収穫ってのはよ~!こういう事だろよぉ!!」

と叫び、さきほどの手の中の

竜巻は野球のボールほどの球体となった!狸赤はそれを部屋の突き当たりに

ある扉に向かって投げつけた!!


「エメリーショット!!」


球体が扉を破壊し、音をたてて

崩れた!


すると、崩れて弾ける扉の残骸の向こうから人が悲鳴をあげて倒れてきた!


「ぎゃああああぁッ!」


どっしりと重そうな人影が倒れこむ…


その人は天上院静だった。


頭の上にトーナの九堕であるダッパラティがしがみついていた。


ダッパラティはクルリと頭から降りると

トーナの肩まで一瞬でかけ上がった。


「収穫っての~は、こういう事だよね~。」


トーナは勝ち誇った様な笑顔で狸赤に言う。


狸赤は半ば苛立ちながら

「サルに先越されるたぁな…」

と新たに煙草を出して火をつけた。



「なにすんのさ!!あんた達!殺す気かい!」


天上院はそう叫ぶと立ち上がって

瓦礫のひとつを狸赤に投げつけた。


瓦礫は狸赤から大きくそれて壁に当たる。それに無反応に煙草を吸い続けていた。


「garbage collector academyだろ?

わかってるよ!とっとと帰ってゴミ掃除でもしてろ!その方が世の中のためさ! 」

天上院が悪態をつくが、二人とも

それに言葉を返す事はなかった。


「あんたのせいで、八百顎朱が大変な事態を招いているんだ。わかるかい?」


狸赤はそう言うと緑英のノートを投げつけた。「封印のやり方は書いてない。」


天上院はそれを聞くと落胆した様に

項垂れた…


「あの人(緑英)は八百顎朱に喰われたんだよ。私はヤツと契約した。力と引き換えに自分の夫を捧げたんだよ…」









「静!!どういう事だ!あの化け物を甦らせるなんて!」


緑英は静を力一杯殴った手を震わせていた。



「あんにはわからないのさ!!

力無い者の惨めさをね!私はあんたを超えてやりたかったのさ!!」

そう叫ぶと静は緑英を睨みつけた。



「これから、あの化け物を封印、いや

滅する!この話しの続きはまた帰ってからだ。それ相応の責任はとってもらうぞ!」


緑英は力強く扉を閉め部屋を出ていった。

「これは鉈彦のためでもあるのさ!」そう背中に叫んだが、その声は

緑英には届かなかった…


独り言の様に静は呟き続けた…


「あの子は力がない、だから私が

莫大な財を築いて守らなけりゃ…

一生遊んで暮らせるくらいの金が必要なのさ…

私が居なくなったら誰が守るのさ…」








「だが、八百顎朱はお前なんかの約束なんか守らなかった。皮肉な事に鉈彦が餌食になるとはな…」


狸赤は溜め息をつきながら言った。



「しかしね~、長い年月、霊力を注ぎ守ってきたのは凄いね~それは関心するよ~」

トーナが柔らかな口調でそう言うと

天上院はフンッ!と言って腕を組んで

その場に座り込んだ。




「まあ、なんにしろ八百の野郎は封印できねぇならブチのめすまで!」


「酒天に連絡して鉈彦坊っちゃんの所へ迎わせろ!」


「トーナはこのババアをガーベージに連れて行け。鏡焔の方は楽珠に行かせる…」


と狸赤は言い終わらないうちに

携帯が鳴ったらしく耳にあてる。


「BBか!グッドタイミングだな。

なに!?」


電話の相手は狸赤やトーナと同じ五歌仙の一人からだった。





さて、場面は変わり、時間は少しだけ戻りまして鏡焔一行の話し…




電車を降りて20分ほど歩くと柳沼の

県立民俗学博物館がある。


「少し肌寒いですね。」


鏡焔が作務衣の衿元をぎゅっと握って

言った。


「確かに、こっちの方は流石に少し気温が低いわね~」と律子も同意した。


恭一が二人より先に小走りに進み出し

クルリと振り返り笑顔を見せて言う。

「早くおいでよー!」



律子が軽く溜め息をつき、肩をあげて

「ガキねぇ~」と言って笑った。


鏡焔も優しく微笑みながら

「恭一君。転びますよ~!」と返した。



道はのどかな雰囲気で、見渡す限り田畑が続く。民家がポツリポツリとあるだけで、他に店などはない。


途中、4、5人くらいの子供達が遊んでいた。なにやら唄を歌っている。




あのせこのせ~

あのせこのせとななつとせ

名のある武士でもはがたたぬ


あのせこのせ~

あのせこのせとやっつとせ

八百のお供えいたしましょ



鏡焔の足が止まる。


そして、子供達のいる方へ近づいていった。


子供達は男の子三人と女の子一人の

四人組で、年齢もバラバラのようだ。


その中の一人、一番背の高い

坊主頭の少年に話しかけた。



「こんにちは。ちょっと、よろしいですか?」



気付かず先に行ってしまった律子達が

振り返る。「先生ー!なにしてんの~!早く~!」


律子が叫んでいる。


鏡焔は片手をあげて、待ってて欲しいと

いうジェスチャーをした。


律子は不機嫌そうに呟いた…

「マジでぇ~なにやっての~も~っ…」


恭一は鏡焔の方へ戻っていった。

「どうしたの~?」




鏡焔は子供達に自分は寺の住職で

民俗学博物館の柳沼の知り合いで

あると説明した。

そして、さきほどの唄を教えて欲しいと

話した。


坊主頭の少年は面倒くさ気にこたえた。

それは少し警戒をする気持ちもあるためだった。


「俺、ぜんぶはしんね(知らね)…

じっちゃんが教えてくれた…」



「そうですか…じゃあ、知ってるだけでも教えてくださいます?」


鏡焔はニッコリと微笑む。



一瞬たじろいだ様子をみせ、下を向いてしまった。


すぐ後ろにいた他の子供が少年の袖を

引っ張り、「いこうぜ!てっちゃん!

怪しい人だべした~」と言い鏡焔を睨んだ。


恭一がいつの間にか、鏡焔の横に立っていた。「渡さんは怪しくなんかないよ。お願いだから教えてくれないかな?」


「柳沼さんと知り合いなんてウソだあ~ほのぐれのごと自分で調べたらいいべした!」


そう叫ぶと坊主頭の少年が走り去った。

その後に皆が続いて走っていった。


「ふぅ~嫌われたものですね…」


困った様な顔をして鏡焔は笑った。



挿絵(By みてみん)


トーナ・ラダ・ハネリウス

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