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磨師   作者: 麦巻橙
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四回転目 依り代

「久し振りじゃないかぁ?ええっ?」


巻き舌口調の低いドスのきいた声だが

何処となく軽薄な印象を受ける話し方。


ガッチリとした筋肉質の男が鏡焔の前に

立っていた。


長身でブロンドの髪をリーゼントにして

口には煙草をくわえている。


「あはは…お久し振りです…

狸赤りせきさん…」


明らかにたじろぐ様子の鏡焔。


狸赤という男は口から煙を吐きながら

訝しげな表情を浮かべながら

首を傾けて片方の眉毛をひょこりと

あげる。


「相変わらず、むさ苦しい頭してるなあ~!鏡焔ァ!!」



「あはは…どうも。」

鏡焔は買い物に行こうと歩いていると

バッタリと狸赤と鉢合わせた。


「お元気そうでなにより。ではまた。」


鏡焔は狸赤を避けて歩き始める。


狸赤は首だけ素早く後ろを向くと

「まてぇッ!この野郎!!随分とriskyじゃねぇか!」


困ったように眉尻を下げて鏡焔は立ち止まり溜め息をひとつつき、言う。


「まだ何か?」


その言葉に狸赤は少し口調を荒げた。


「あったりまえだろが!用があっから

ワザワザ、めんどくせえのに会いに来たんだろが!」


鏡焔は言う。

「本当はこれから買い物だったんですよ。仕方ない…立ち話もなんですし。」


そして鏡焔は近くの喫茶店に狸赤を

つれていった。





「いきなりだがよ。本題を聞けや?ああ?」


狸赤は口に煙草をくわえると火をつけ

ひとつだけ吸い込み、目を煙たそうに

細めながら吐き出した。


鏡焔はテーブルの紅茶を一口すすると

頷いてそれを促した。


狸赤はくわえ煙草まま、背もたれに

そりかえった姿勢になり

そのまま話し始めた。


「気付いてると思うがgarbage collector academy が動いている。俺もその任務を任されて来たんだがな。」


鏡焔は眉をひそめて

「八百顎朱ですよね…」と少し自信無さげに言った。


狸赤はくわえた煙草を灰皿に置いて

自慢のヘアスタイルを撫で上げた。


「八百顎朱の事、わかってりゃいいんだ。鏡焔…ガーベージじゃねえんだし

関わらない方がいい。あんまりにもriskyだぜ。」


(ガーベージ…garbage collector academyの略。この場合は狸赤がこの呼び方をする。)



鏡焔は紅茶をまた一口飲むと


「八華五歌仙が動いてるんでしたら

忘れて平和に生活させて頂きます♪」と

笑顔をみせた。






garbage collector academy

ガーベージ コレクター アカデミーとは


会長マーリン サルバドルを筆頭に

世界中の選りすぐりの祓い屋を集めた

団体組織である。


中でも狸赤は八華五歌仙と呼ばれる

トップの実力者五人に選ばれた人物である。


鏡焔も誘われたが、これを断った。

理由は「garbage collector なんて名前が嫌いです。堕魂だって元は人の魂なんですから、その言い方は。なんだか考えが私とは違い過ぎますよ。」と言ったらしい…



以前、チラリと話しに出たので

少しばかり、脱線しますが…


鏡焔渡は霊力は殆んどと

言っていいほどない。


鏡焔一族はこのような場合に

霊力の備わるアイテムを用意している。


鉈彦のように悩む事もなくなるわけだ。


前回の話しの眼鏡もそうで「磨眼鏡」と

呼ばれる鏡焔の愛用眼鏡である。


使いやすく現代風に作りかえている。

先祖達の血液や骨や髪を合成した研磨材でレンズを磨き霊力を宿らせている。


その他にピアスも霊の声を聞くために

作られ、腕につけている数珠玉は

霊に直接触れる事が出来る。

大袈裟に言うとこれをつけていれば

素手で殴れるのである。


着用している作務衣も先祖の髪などを

糸に織り混ぜて編んであり、服が

古くなれば切って束ねて羽布にリサイクルする事もあるのだ。



祓い屋によって様々なスタイルや方法があり、今回登場した狸赤にしても自分流の形があるのだ。


因みに狸赤はブラスターと呼ばれる

砂使いの祓い屋だ。



さてまた、追々にアイテムは紹介するとしてお話に戻ります。



「しかしながら、なぜ私など気にかけて下さるのです?」

鏡焔はそう言って紅茶に口をつけた。



狸赤はキツい目付きをすると

「八百顎朱の狙いは最終的には霊力の強い依り代が必要となるからだ。」


そしてまた煙草に火をつけた。


鏡焔は訝しげに眉をひそめると

「依り代っていいましても、私は霊力は弱いですよ。アイテムなしじゃ…」


途中まで言いかけると狸赤がそれを

制した。


「なくたっていいんだよ。お前の自慢のアイテムごと奪うんなら。鏡焔のアイテムの霊力の高さは半端じゃねぇ。」


「それを装備して使いこなしてるんだ

お前さんの肉体の器も捨てたもんじゃねぇさ。案外その才に自分で気付いてないのかもな。」


口から煙を吐くとまた続けざまに話した。


「天上院の一件でヤツに目をつけられてるんだよ。俺らはお前がヤツに取り込まれたら、それこそ命がけよ。」



ニャリと鏡焔は笑い


「天上院さんの一件、ご存知なんですね。garbage collector academy には全て筒抜けですね?悪趣味ですよ。監視するなんて。」


「今回はマジですまんな…

事が事だけに、しかたねぇのよ。八百顎朱を追っかけたら、お前さんにビンゴってなわけだ。」


狸赤はそう言ってまた煙草を吸い込んだ。


「今更ですが、八百顎朱は封印されてたはずですよね。まあ、現に自由に歩きまわってますけど…」


鏡焔はそう言って紅茶を飲み干した。

カチャリと音がしてカップがソーサーに

置かれた。


狸赤が呆れ顔で溜め息まじりに言う。


「誰か何処ぞの馬鹿が力欲しさに封印をときやがったってのは知ってるよな。」


何も言わず鏡焔は

「お代、私が払っておきますね♪」

と鏡焔は票を持って立ち上がった。


狸赤が鏡焔の背中に向かって言う。


「気を付けろ!ヤツはお前さんを狙っているかな!」










鏡焔は電車に揺られていた。


窓の外の景色を眺めていると

八百顎朱の事や今の現状がテレビの中の

出来事のようだ。

静かにこうして揺れに身をまかせて


目を閉じると眠気すら感じる。



……………。


向かい合わせた座席に……


「渡さん!!ほらウシだよ!ウシ!!」


「きゃーっ!これ美味しい!」



なんで恭一と律子が…。



鏡焔は狸赤に言われて、大人しくしては

いなかった。

祓い屋である以上、そして少なからず、関わっているからには、直線対峙しなくとも納得できるように動きたかった。




しかしながら、なんたる偶然やら…


鏡焔はわけあって、東北にある民俗学博物館に足を運ぼうとしているわけだが、

そこの館長の柳沼さんとは古くからの

知り合いだった。


こうして何度となく会っていたのが、

柳沼さんは恭一の母の姉の結婚相手の弟にあたる。


鏡焔が民俗学博物館に行くと知ると

おおはしゃぎでついて行くという流れに。


本当は危険な事には巻き込みたくは

なかったのが鏡焔の本音だ。


一緒に居て、下手すれば

あの八百顎朱が現れるかも知れない。


そんな不安も、この二人を見ていると

なんだか薄らいでしまう…


恭一もあれ以来、少しずつだが

明るく前向きになってきているし

律子も以前のように夜遊びをしなくなり

姉弟関係も良い方向に進んでいるみたいだ。


ひとつ悔やまれるのが、自分の未熟さ

ゆえの失敗…


償いきれない想いがそこにあった。




しかし、そんな気持ちを打ち消すかの

様に、二人は元気で鏡焔の心を暖かく優しくしてくれるのであった…


「ぎゃーッ!!」

律子の食べていた駅弁についていた

小袋の醤油を切り損じて辺りにぶちまいた!!


「うわっ!」思わず声をあげる鏡焔…


鏡焔の膝に醤油のシミがひろがる…


「ああッ!先生!ごめんなさい!!」

律子はおしぼりを取りだそうとするが

うまくいかない…イライラの矛先は

恭一にぶつけられた。


「あんたがぶつかってくるから、こうなるんでしょ!」と律子は叫ぶと恭一の頭を叩いた。


「いてッ!何すんだよ~!」


恭一も負けじと律子の頭を小突いた。




「こらこら、二人とも止めなさい。」


こうして、先の思いやられる三人の旅が

始まろうとしていた…










挿絵(By みてみん)

狸赤





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