表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
磨師   作者: 麦巻橙
2/63

二回転目 鬼退治にいきませう♪

何故だろうか…


母、姉すら信用出来ず一人でいた少年。


心にさえも蓋を閉めた。


初めて、偶然に出会った

鏡焔渡に意図も簡単に全てを話した。


これが恭一の最後の賭けなのか…




「まずは少しだけでも睡眠をとりましょう。ベストコンディションじゃないと闘えませんよ。」


鏡焔はそう言うとニッコリと微笑んだ。




鏡焔の家ともいえる磨羽鏡寺

(まばきょうじ)に恭一を案内した。


外観は酷いもので荒れはてていた。

今にも幽霊でも出るのではないかと思われるほどだ。


恭一は少し躊躇したのが態度に出たのか

鏡焔は声を出して笑い「気味悪いですよね♪」と言うとおどけて見せた。


寒気がした様に両手で自分を抱くように、二の腕あたりを掴んでブルっと

震える仕草をして。


恭一の不安や緊張は解れ、自然にプッと

吹き出した。




中に入り、本堂に案内されたが意外にも

外観からは想像出来ないくらい傷みはなく、むしろ新しく見え、綺麗だった。


キョロキョロと見回す恭一に鏡焔は

クスッと1つ笑い

「驚きました?内装くらいは自分で出来るじゃないですか。だからコツコツとね…」


「いや、すみません…そんなつもりじゃ…」恭一は失礼を詫びたつもりだったが、鏡焔は気にしてないようだった。


そして鼻歌まじりに笑顔で

部屋から出て行った。


「久し振りのお客様でなんだか嬉しいですね~」

と一言残して。




程無くして鏡焔が戻ると、恭一はその場に横になり寝てしまっていた。


「よほど、疲れたのでしょうね。」


そう言って優しく微笑むと、そっと

タオルケットをかけて部屋を出た。







恭一が目覚めたのは昼をとうに過ぎた

時だった。そこに鏡焔の姿はなかった。


恭一は起き上がると急な不安に襲われた。祖母の姿が一番に頭によぎる。



すると襖が勢い良くスラッと開き

鏡焔が現れた。

「少しは休めました?さて、行きましょうか?鬼退治に♪」



恭一の顔が輝いたかのような笑顔になる

若干の興奮を抑えた様に小鼻がプクリと

ふくれた。






すでに家には天上院が蜘蛛の巣の様に

儀式めいた道具類を張り巡らせていた。


面倒くさがる彼女も最終仕上げに

取りかかるのには手を抜かなかった。


母と律子は別々の部屋に待機させていた。


親子だ、顔を合わせて儀式中になにか

妨げになったり、些細な事がきっかけで

折角の下拵えが駄目になっては

どうにもならない。


「先生!そろそろ…」

いつもは一人の天上院だか

この日はアシスタントに自分の弟子を連れていた。痩せた神経質そうな

顔をした、長身の30歳代位の男だった。



母が部屋から呼ばれた。

死装束らしからぬ、白い着物を着せられていた。顔からはすでに疲労からか

生気が感じられず、不自然なくらい

無表情だった。


「さて、儀式を行う!!」

天上院がお経のような何やら怪しい

呪文を唱え始めた…





「到着♪」鏡焔と恭一は玄関の扉の前に

立っていた。いささか息が乱れ、緊張した恭一とは裏腹に鏡焔は薄ら笑みを

浮かべていた。


恭一がドアノブに手をかけて引くと

ガツンと音がして、ドアは開かなかった。すぐにカギをポケットから取り出すと、少し躊躇したのか、鏡焔の顔を

見つめた。


鏡焔はそれに優しく頷くと

恭一の顔から怯えた表情が消えた。


カギを開け、ドアを勢いをつけて

開いた!!


恐怖心を払うかのように。


ガゴッ!!


大きな音をたて、またしてもドアは

開かなかった…



ドアにはロックが掛けられていた。


帰宅する、或いは外から誰かしら

来訪する可能性は恭一の他には

考えられないが、天上院は万が一の

可能性、鏡焔がこうして表れたりする事を想定して、カギをかけたのだった。


これだけの音を鳴らしたのにも

かかわらず、中から玄関に向かって

現れる姿はなかった。


鏡焔はため息をひとつつくと

腰の辺りから細い箸ほどの金属棒を出し

それを僅かに開いたドアの隙間に差し込んだ。


そして、まるで水飴でも絡め

とるかのように手首をクルリと回した。


するとドアロックは無抵抗に開いた。


先に恭一が入るのは自宅といえ

天上院の巣の中だ。


鏡焔がひとつ頷くと中に入った。


キエェーッ!


声にならぬ叫びと共に、あの痩せた

天上院の助手が鏡焔めがけて

鉄の錫杖を降り下ろしてきた!


予測していたかのように

ドアロックを解錠した箸ほどの鉄棒で

それを受け、押し戻し、払いのけ

その鉄棒で錫杖を持つ手を叩いた!

一瞬の事だった、その動きは

まさに神業である。



天上院の助手は錫杖を下に落とした。

けたたましく、金属の音が響いた。



「何事ですか?」


玄関から続く廊下の突き当たり左側の

部屋から天上院が現れた。


訝しげにこちらを見ながら

「失礼ですが、どちら様です?」


天上院の気迫に圧されたのか

鏡焔の後ろに恭一が少し隠れた。


「あなたこそ、どちら様です?

弱みにつけこみ、人を騙し、食い物にし、家族の絆もボロボロに貪る、私には餓鬼にしか見えませんがね?天上院さん!」


天上院の唇がワナワナと小刻みに震えた。


助手の男が錫杖を拾おうと手を

伸ばした瞬間、鏡焔が錫杖の先端を

踏みつけた。助手は鏡焔を睨んで

飛びかかりそうな素振りで間合いを詰め

ながら、にじり寄ると天上院に片手を

あげ、その行動を制された。


天上院は一辺して穏やかな表情を

浮かべると鏡焔達を招き入れた。



恭一は真っ先に祖母の部屋に走った。


鏡焔が恭一の母の儀式を行っていた

部屋に入るとほぼ同時に

騒ぎを聞いてか、律子が二階から

降りてきた。



天上院はさすがに焦ったのか

律子を見るなり大声で怒鳴りつけた。


「部屋に居れと言ったろうが!戯け!!」


律子はビクンと肩を跳ねるように

すくめて、すぐに天上院と鏡焔の顔を

交互に見る。


「この際、よいではないですか?

皆さんお揃いでお話ししたら。それとも、何か不都合でも?」

鏡焔はまるで悪戯っ子のように

おどけて言った。



「一々、腹の立つ輩だね!何が言いたいのさ!あんたそれに、何者だい?」

天上院はそう話す傍らで自分の荷物を

そそくさに鞄に詰め、逃げる準備をしていた。


恭一の母が天上院の腕にすがりながら

「待って下さい先生!儀式をして下さい!今日、やっと楽になれると思ったのに!行かないで下さい!」


天上院は恭一の母の手を振りほどき、

突き飛ばすと部屋を出ようとした!


その時、律子が天上院の前に立ちはだかった。

「先生!待って下さい!私達を助けて!!」




天上院は「こんな何処の馬の骨ともわからない輩を連れてきちゃ台無しだよ!

儀式を他人に見られたら、もう御仕舞いなのさ!あたしゃ、帰るよ!」


律子の横を強引に抜けようと無理に

押し退けて部屋を出ようとした。


その時、そそくさに詰め込んだ鞄は

パンパンになっていて、

しっかり閉まらなかったためか律子に引っ掛かるような形になり

中身が下に散らばってしまった。


天上院は急いでそれらを拾い集めた。


そしてその中には父のあの手帳があった

天上院がそれに気付き拾う前に

鏡焔がそれを拾いあげた。


「かえせ!それは私の大切な手帳だ!」

天上院が鏡焔の持つ手帳に手を伸ばし

奪い取ろうとしたが、鏡焔はほんの少し

手を後ろに引いて天上院を交わした。



「この手帳、本当にあなたのですか?」

鏡焔は天上院を睨み付ける。


天上院は怯む事なく鏡焔に向かう!

「無礼な!紛れもなく私のだ!およこしよ!!」

なにせ、これがバレたら全ての悪事が

露見するのだ。必死にならずにいられなかった…


鏡焔は持ち手を変えて、やり過ごすと

祖母の部屋にいる恭一を呼んだ。


恭一が部屋に現れると同時に

恭一の母が叫んだ。


「いい加減にして!もう、誰も邪魔しないでよ!私がどんなにこの日を!しかも、あなた誰なんです!警察を呼びますよ!」



すると恭一は鏡焔の前に立ち叫んだ。


「母さん!!この人はインチキなんだよ!僕達を騙してるんだ!この手帳だって、父さんのなんだ!」


そして恭一は今までの天上院の行いや

言葉を話し始めた。


自然と涙が頬をつたっていた。


天上院が身を乗り出すように何かを

しようとし、恭一に手を伸ばした!


次の瞬間、律子が天上院の手を掴んだ!


律子は鋭く怒りに満ちた目を天上院に

向けていた。


「鉈彦!!」明らかに狼狽えながら

震え声で天上院がそう叫ぶと傍らに

ヘタリこんでいた先程の助手が立ちあがる。


鏡焔は警戒し、背中の鉄棒を握る。



すると、鉈彦と呼ばれた助手が動いた

その目に闘争心がない事が見てわかった。

鏡焔は手をおろした…。




鉈彦は溜め息をつくと

「もう、やめましょうよ先生。いや、母さん…」



一同が鉈彦の方を向いた。


「母さんは、昔、本当に霊能力があったんだ…信者も沢山いたけど、無欲で優しかった。」



誰に話すわけでもなく鉈彦が話し始めた。



天上院は「お止め…」と小さく一言いう

と俯いたまま黙ってしまった。






挿絵(By みてみん)

恭一


挿絵(By みてみん)

律子


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ