表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/24

08話_盗賊退治

 「盗賊退治・・・ですか。まだこの辺にいたのですね。」


 アルが呆れたような呟きを漏らす。カイエルとプラムさんが訪ねてきて、盗賊退治の協力を求めてきたのだ。カイエルは1人でもさっさと行こうとしているらしく、さっきから落ち着かない。


 「ええ。まだカイエル様以外の情報がないのですが、まず間違いないかと。」


 勉強の為にカイエルが地図を見ていると、ある地点を指さしてここに悪党がいると言い出したらしい。もちろんカイエルはそのまま城を飛び出して退治しに行こうとしたらしいのだが、プラムさんがそれを何とか押し留めた。アルがいるこの辺で盗賊なんてやろうなんて奴は余程の馬鹿か強力な連中だろうということだ。

 前者ならば何も問題はないが、後者ならばカイエルをそのまま突っ込ませるわけにはいかない。過去に結構怪我をしているらしい。アイアンボアの時が一番重症だったらしいが。


 当のカイエルは棚の上に並べられたエリクサーを弄っている。何故そんなとこにあるかというと、緊急時用と、軽いインテリアの意味もある。色合いは単調だが。


 「普段ならば兵を連れて行くところなのですが、なにせカイエル様が頻りに早く行かなければならないと仰るので、足の遅くなるようなことはなるべく回避したかったので頼らせてもらいました。」


 カイエルは無自覚に察知のスキルを使用しているらしいので、理由をうまく説明できない、というよりも何が起こっているかなんて自分でもよくわかっていないのだろう。


 「そういうことならば私はかまいません。ヨウ様、どうしますか? 今回は完全に対人戦闘です。ここで待っていてくれてもかまいませんよ。」


 今回の戦いに参加するということは、人殺しは完全に避けられないだろう。アルには元いた世界のことをポツポツと話しているので、人殺しを忌避しているのではと心配してくれているのだ。確かに戸惑いはあるが、だからと言って身近な人に任せっきりにしてのうのうと過ごす程神経太いつもりもない。


 「いや、俺も行くよ。いつかは経験することだろうし、皆に任せっきりにしていちゃあ重要な時に動けなくなっちゃいそうだしね。」


 「そうですか。しかし決して無理はしないで下さいね。ダメになりそうでしたら私が変わりますから。」


 心配そうに言うアル。俺としてはアルに人殺しを任せるという方が嫌なのだが。アルだけではなくカイエルもプラムさんにもそんなことはしてほしくない。ただそれは、俺の理想論でありわがままである事ははっきりしている。現実には通用しない甘い考えだ。ならばせめて俺もその場に立たなければと思う。


 「うむ、話は決まったようだな。では急ごう。すぐ行こう。」


 カイエルが急かしてくる。察知などというスキルを持った人がこうも急かしてくるのだから確実に何かあるのだろう。嫌な予告に緊張しつつ俺達は現場に向かった。






 盗賊の拠点は王都を出てしばらく行った所にある隘路の途中で山の中に分け入った所にあった。途中まではアルのテレポートで行ったので、正確な場所は後で教えてもらったのだが。王都からザウムという街へ続く、隘路といっても開けていてあまり悪事には適さないような場所である。

 盗賊は山の中腹に空いた洞窟を根城にしているらしく、入り口には2人の男が見張りとして立っているが、どうにもダレている。あまり練度は高くなさそうだ。


 「こうして見ると連中、ゴブリンと同レベルだな。」


 「ぶふっ!!」


 俺が見たまんまの感想を言うとプラムさんが吹き出した。盗賊連中にしてもゴブリンと同じに思われちゃあ心外だろうが、やっていることは同じかよりひどいものだろう。


 「ご・・・ゴブリンはよかったですね。それで、どう行きましょう? 見たところそれほど強いわけでも無さそうですし罠もありそうにないので唯のバカ連中だと思いますが、カイエル様の察知を軽視するわけにはいきません。」


 「うむ、それではこうしよう。余が突っ込み、お主らが後からついて来る。完璧ではないか、フハ・・・」


 ゴンッ!!


 プラムさんがカイエルの頭を殴って黙らせた。この人、時々毒吐くなと思ってたけど容赦ねぇな。それを見てアルが口を開く。


 「とりあえず見張りを倒しましょう。そして静かに侵入して少しずつ倒していけばいいでしょう。私が先頭を行きますのでヨウ様は殿をお願いします。ヨウ様の方が確実に身の守りは固いですからね。」


 ステータス的にはそうだな、妥当な線だろう。プラムさんにはカイエルが暴走しないよう抑えててもらわなければならないな。


 「わかった。何だか任せちゃうようで悪いけどそれが一番だろうな。プラムさんもそれでいいですよね?」


 頷くプラムさん。カイエルはよくわかっていない様子だけど、行けば勝手について来るだろう。


 「それでは・・・行きます。」


 アルが言った瞬間、見張りの2人の胸に穴が開いた。血を吹き出しながら倒れる見張り2人。攻撃する時の音も倒れる音も無いのはさすがアルといったところか。


 「すごいですね。リリーティア様の戦う姿は初めて見ましたが、風の魔法にしても練度が高すぎます。」


 カイエルの口を塞ぎながら驚嘆するプラムさん。本人は素直に感嘆しているのだろうが、側でカイエルが口を塞がれてモゴモゴ言ってるのであまり緊張感がない。


 「それでは先程行った通りの順番で行きましょう。カイエルさんも、静かにして下さいね。」


 アルが言った途端カイエルが静かになる。なんだか本能的に逆らってはいけないと感じているかのようだ。


 俺達は洞窟へと進む。途中で死んだ見張りを目にしたが、その表情は正に何が起こったのかわからないといった感じだった。思えば初めて死人を見た。こっちに来てからは動物や魔物の死体は見ているが、人となると戦った事すら無い。こっちにいる人は皆良い人で、数年前だったら人権の存在すら怪しいなんて状況とはとても思えなかった。

 しかし、山の中にいる悪人と聞いて盗賊なんて存在が簡単に連想されてしまうような世の中ということに、今改めて実感した。おそらく平和なのは王都の周辺だけで、離れたところにいけばこういった連中が珍しいものではないのだろう。それ故に、盗賊を生きて捕らえるなんて発想が出てこない。捕らえるよりも殺すほうが手間がかからないから。人間同士での命のやり取りはどこでも起こりえる世界なのだろう。


 洞窟の中に入ると少し気温が下がった。通路は、俺達が横に広がったとしても十分動ける程に広い。天井もそこそこ高く、こんなにも人が掘り進むわけもないので天然の洞窟を利用しているのだろうと思う。

 俺達は足音を殺して進む。まあ、実際にはアルが魔法で音を消しているのだが。

 前方、右側の壁に盗賊が寄りかかっている。それを確認した瞬間にはアルの攻撃が終わっている。崩れ去る盗賊を見ながら、改めてアルの強さを感じる。とても頼もしい。しかし、どこか悲しそうな背中は気のせいだろうか。

 倒れた盗賊の側に行くと、横穴が開いているのがわかった。ここの見張りでもしていたのだろうか。


 「この横穴、入って調べたほうがいいか?」


 アルに聞く。俺の索敵では何も反応がないが、アルなら確実に何か感じ取っているだろう。


 「そうですね。まだバレてはいないようですし、横穴もさほど深くないので大丈夫でしょう。ただ、何人かいますので注意して下さい。」


 俺達は横穴に入っていく。道は多少下り坂で、今までの道よりは狭いがそれでも十分動ける。風の通りが悪くなるからか、道は湿っていて壁には苔が蔓延っている。地面にあまり生えていないのは、踏んづけられているせいだろうか。

 そう言えばこの洞窟にはコウモリの類がいないな。まあ、この世界にいるとは限らないが。


 俺は後方を気にしつつ前に進む。盗賊の死体はそのままなので、あまり長くかかるとバレる可能性が高い。バレてもどうということはないと思うが、相手が何をしてくるかわからない以上警戒するに越したことはない。カイエルが察知したこともあるし、なんてことを思っていると、


 「むむ、こっちだ。こっちに何かあるぞ。」


 カイエルが何かに反応した。どうやらこっちの道で合っていたらしい。

 こっちの道はアルの言った通りあまり長くなく、俺の索敵にも人の気配が引っかかるようになった。8、いや9人か。引っかかりはしたが、大半は気配が小さい。これは・・・子供か?


 2人の盗賊が立っているのが見え、直ぐに崩れる。倒れた盗賊の側には子供が座っていて、その様子を呆然としながら見ていた。その中にいる茶髪の子には見覚えが・・・。


 「ディアナちゃん!?」


 アルが駆け寄る。そうだ、帽子を被っていないからぱっと見わからなかったけど確かに旅行に行ったはずのディアナちゃんがそこにいた。


 「リリーティア・・・さま?」


 ディアナちゃんが力なく反応する。アルは目線の高さを合わせて肩に手を添える。


 「大丈夫? どこも怪我してない!?」


 「はい、だいじょうぶ、です。」


 その言葉にアルは息をつくが、直ぐに気づいた様子である。そう、ここにはいない人達は一体どこにいるのだろう。


 「ディアナちゃん、・・・その、お父さんとお母さんは?」


 アルがそう言うと、ディアナちゃんはアルの目を見たまま涙を流し、首を振った。つまりは、そういうことなのだろう。それにつられるように周りの子供も泣き始める。皆同じような目に遭っているのだろうか。

 その様子を見て、アルは沈痛な表情をしながらディアナちゃんを抱きしめている。


 「リリーティア嬢、そしてプラムよ、ここの事は任せて良いか? 余はヨウヘイと共に残党を狩りに行く。」


 突如カイエルの声がかかる。口調からして目が覚めているようだ。


 「何時までもこうしているわけにもいくまいが、動けるようになるまでしばし時間がかかるであろう。その間に余とヨウヘイが敵を殲滅しておこう。」


 「カイエル様・・・わかりました。後はよろしくお願いします。」


 「うむ、任された。ヨウヘイ、行くぞ。」


 「あ、ああ。」


 カイエルについていくその前に、俺はディアナちゃんの側に行った。アイテムボックスからエアホークの毛皮を取り出し、ディアナちゃんがいつも被っていたような帽子を創って被せる。突然の感触に、ディアナちゃんがこっちを向いた。


 「安心しろ、こんなとこ直ぐに出してやるからな。」


 俺はそう言うと、他にも耳の切れた獣人の子に帽子を創ってやった後カイエルとこの場を去る。




 「それにしても・・・何でこんなことに・・・。」


 道中、言ってもどうしようもないと思いつつ、口に出してしまう。


 「すまぬな。これは我ら統治する側の怠慢である。如何様に罵られようとも仕方のない事だと思っておる。」


 それにカイエルが反応した。カイエルなりに思うことがあるようだが、何も謝ることはないだろう。


 「いや、そんなつもりで言ったんじゃあないよ。それにカイエルは・・・」


 王位継承権がない。普段がバカだから剥奪されたと聞いている。


 「王位継承権とかそのようなものは関係ない。余は進言する事ができる立場にある。兵も動かせる。何より察知のスキルがあるのだ。この事を見抜けなかったのは余の未熟であり、統治の不完全さを表しておる。」


 腰に刺したロングソードの柄をギュッと握り、カイエルは続ける。


 「言い訳するようだが、ここの者はよほど狡猾であったのだろう。おそらく目撃者を全て殺しておる。目撃者さえいなければ、ここに盗賊がいるなどという情報も入るはずがないからだ。襲う者達に関しても身軽な者を選んでいたのであろうな。商人等がいなくなれば何かあったかと直ぐにわかるが、旅行者の安否を気にするものはほとんどおらぬ。」


 たしかに、見知らぬ人がいなくなっても気にするような人はあまりいない。どこの世界でも同じ事だろう。気にしないことを気にするなどということは出来ない。


 「余は情けない・・・。いかに力があろうと、目の前の悪を倒すだけで精一杯で次に繋がらぬ。多くの国民を助けたいと思っても、大半は余の手からこぼれ落ちてしまう。普段の余は突発的に暴れているだけで、多くの者を助けることなど出来はしないのだ。」


 カイエルがこんなに悩んでるなんて驚きだが、普段の性格から見てみればある意味当然なのかも知れない。カイエルは正義感が強い。良くも悪くも、ヒーローに憧れる子供がそのまま大きくなった感じだ。そしてその姿はある意味、人々に希望をもたらしていると思う。


 「カイエル、お前はそんなこと言うけど、十分立派にやっていると思うよ。少なくとも悪人に対する抑止力にはなっている。カイエルを慕う人も沢山いるじゃあないか。」


 「ヨウヘイ・・・すまぬな、気を使わせてしまったか。しかしこのままではダメなのだ。平和を維持していくためには我らはもっと進歩しなければならぬ。でなければ、この仮初の平和など直ぐに瓦解してしまうであろう。」


 「仮初の平和って・・・それってどういう」


 「むっ、いたぞ。」


 前方に盗賊が現れた。少々気になることもあるが、今は目の前のことに集中することにしよう。向こうもこちらに気づいたようだ。


 「なんだ、貴様ら!」


 「シッ!」


 盗賊が喋った途端カイエルが駆け出して、ロングソードを振りぬくと盗賊を真っ二つにしてしまった。しかも片手でだ。あのロングソードは何ら特別なものには見えないので、それだけカイエルの技量がすごいということなのだろう。

 カイエルは返り血を浴びないように後ずさると、こちらを向いた。


 「ヨウヘイは人を殺したことがないのであろう。余が先行するゆえ、補助を頼みたい。人殺しなど、なるべくしないに越したことはないのだ。」


 「いや、大丈夫だよ。そんなことを言って何時までも逃げるわけにもいかない、そうだろう?」


 カイエルはそうかと言って頷くと、先に進みだす。俺も置いてかれないように横に並ぶ。人を殺すことに対する感覚は人それぞれだと思うけど、少なくともカイエルは積極的に行いたいとは思っていない。ならば尚更のこと、俺が出て行かなければならないのだ。


 さらに進んでいくと3人の盗賊がいた。今はまだ少ないが、この先一体どれだけいるのだろうか。


 「お・・・王子だ!!」


 その内の一人が叫んだ。奥の方がにわかに騒がしくなる。


 「バレたか、いくぞヨウヘイ!!」


 カイエルが先陣を切って駆け出し、俺も後に続く。カイエルはこれみよがしに上段に構えてながら近づいて攻撃する。受ける盗賊も剣を抜き頭の上に構えて防ごうとするが、その剣ごと体を縦に断ち切られる。

 俺はそれを見て固まっている盗賊に右手に創り出した刀で胴を横薙ぎに断ち切る。灰となって散る刀を横目に、逃げ出そうと後ずさる残りの盗賊に対して左手に創り出した銃の照準を合わせる。


 ガオンッ!!


 洞窟内に空気の破裂する轟音が響き、逃げ出そうとした盗賊の胸をぶち抜く。銃が崩れ去り、奥の喧騒だけが残る。


 「ふむ、すごい力であるな。」


 「カイエル、いきなりゴメンな。耳は大丈夫か?」


 考えてみればカイエルにこれを見せたのは初めてだ。いきなりの轟音に耳を痛めてもおかしくはない。


 「余はこの程度ではなんともならん。遠慮無く使うが良いぞ。それよりもお主の方は・・・いや、今は殲滅することに集中しよう。」


 俺達が更に奥に進むと喧騒が近づいてくるのがわかる。それが俺の索敵でもわかるくらい近づくと、5人程が横一列に並んでいるのがわかった。


 「カイエル、そこを曲がった先で待ち構えてる。おそらく一斉に矢を仕掛けるつもりだ。」


 「ふむ、まあ問題なかろう。」


 そう言ってカイエルは足元の石を曲がり角に投げ込む。カツン、と音がすると矢が石壁に辺りに乾いた音が連続して響き渡る。俺はそれを確認してから素早く通路を進み、慌てている盗賊どもを視界に捕らえる。


 ガガガガガッ!!!


 銃を連射して連中の頭を見事粉砕する。銃単体では連射はできないが、創るスピードが異様に早いので連射もどきなら造作もなく行える。


 「案外容赦がないな。」


 「カイエルもわかるだろ? これでも結構怒ってるからね。後でどう思うかなんてあんまり考えてないよ。」


 「それが良いのかもしれぬ。ただ、後々葛藤するようなことがあれば、己の行いに目を逸らさずに対してくれ。恐怖や罪悪感から目を背けている間、人は立ち直ることが出来ないのでな。」


 「・・・わかった。肝に銘じておくよ。」


 目の覚めたカイエルは何もかも見透かしたように物事を捉えている。俺も今は人を殺すことに戸惑ってはいないが、その戸惑っていないという心境に戸惑ってはいる。ここを出た時に、俺は一体どんなことを考えるのだろうか。

 しかしどのようなことを思うにせよ、カイエルの言うとおり自分の行いには目をそらす様なことはしてはいけないのは確かだ。自分の行動の責任は自分にあるのだから。





 一番奥までたどり着いたようだ。これ以上奥はなく、ただ大人数が集まれそうな部屋があるだけだ。あれから数人と盗賊と遭遇したが、簡単に倒してそれっきりであった。どうもカイエルが予測したように狡猾な連中には見えなかった。


 「カイエル、これで本当に最後かな?」


 「違うであろうな。人数的にも実力的にも今まで隠れてきた連中とは思えん。おそらく別働隊・・・本隊になるのであろうが、そういった連中がいるはずだ。」


 「そっか・・・。じゃあ今日はここまでになるのかな。何時までもここにいるわけには行かないし、次来る時にはもうどっか行っちゃってるだろうし。」


 「うむ、実に不本意だがな。いつまでもお主らの力を借りてはいられない以上仕方のないことか。」


 アルが協力すれば待ち伏せることも、帰って直ぐに戻ってくることも出来るだろうが、俺もカイエルもそこまで頼むつもりはない。ここに来た時の光景を見ていたとはいえ、積極的に人殺しをさせようなどと思うはずもない。カイエルも俺と同じように、アルの背中を見て何か思ったのだろうか。


 「それじゃあさ、せめて遺品になりそうなものを探そう。何かしら子供達に渡せるものがあるかもしれないし。」


 「そうであるな、それが今我らに出来る事か。」


 俺達は各部屋を色々と探したが、結局それらしいものは見つからなかった。あるのは現金ばかりで何かしら特別なものは見つからなかった。カイエルは王都に闇商人がいるかもしれないと言っていたが、自分ではどうしょうもないと言い、持っていたメモに遺品のことも含めて書き留めた。後でこれをプラムさんが見て、カイエルの考えに沿うように動くのだとか。


 「それでは先程の所に戻るか。子供らもいい加減落ち着いていよう。」


 カイエルはどこか寂しそうにそう言うのだった。




 「ご無事でしたか。」


 戻るなり、アルが言った。実力的には何の問題もないと思ったからこそ素直に送り出してくれたのだろうが、やはり心配はかけてしまっていたらしい。


 「ああ、大丈夫だよ。それで、直ぐにここを出るのか?」


 「それなんですが、洞窟の入口を囲んでいる連中がいるようです。本来なら無視してもいいのですが、今回ばかりは向かってきた虫を叩こうかと。」


 ああ、アルも怒ってるな。無理もない。仲良くなったばかりの友達がこんな目に遭っているのだから。


 「しばらくここを守っていてくだされば、直ぐにでも殲滅してきますが。」


 確かにアルなら相手が100人いても瞬殺だろう。しかしアルにしがみつくディアナちゃんを見て思う。しばらくの間だろうとアルの代わりが出来るのだろうかと。

 この考えは単なる逃げなのだろうとは思う。しかし今ディアナちゃんにはすがりつく人が必要だろうし、他の子にしてもそうだ。皆アルとプラムさんから離れようとしない。今この状況を変えても大丈夫かどうかは、俺にはわからない。だから変えない、という消極的な考えを伝えることにする。


 「俺達が行こう。もともとそうするつもりだったし、俺もカイエルもまだ鬱憤を晴らしきっていないからね。」


 「うむ、そのとおりだ。ここは我らに任せてしばし待つが良いぞ。」


 カイエルも俺に同調してくれる。聡いカイエルのことだ、きっと俺の考えも読んでいるのだろう。


 「わかりました。その・・・ヨウ様、あまり無理はしないで下さいね。」


 「わかってる。まあ、俺の身は安全だ。アルもわかってるだろう?」


 俺に普通の人間の攻撃が通ることなんて、余程油断していない限りありえない。カオスドラゴンの守護というのはそれほど強力なものだと、魔物を退治していくうちに実感していた。なにせ全方位の攻撃をやすやすと避けられる程回避に関する感覚が研ぎ澄まされているし、ちょっとくらいじゃあ傷つかない体になっている。


 「そうですね・・・。お気をつけて。」


 俺達は、今度は洞窟の外へと向けて歩き出した。




 「カイエル・・・、俺は臆病者かな?」


 道中、俺はカイエルに聞いた。俺がこっちに来たのははっきり言ってディアナちゃんや他の子を慰める自信が無かったからだ。それ故に、アルに任せればそれこそ一瞬で済む問題をこうして長引かせる結果になったのだ。


 「難しい問題であるな。確かにリリーティア嬢に任せればより確実に、より迅速に事を終える結果となったであろう。しかし、ヨウヘイの言い分もわからんでもない。子供らに対してどう接すれば良いのかわからなかったのであろう? それは余も同じだ。」


 そう言うとカイエルは苦笑した。カイエルも、あの状況では判断に困ったのだろうか。それとも俺に気を使っているのだろうか。


 「まあ、人にはそれぞれ接し方がある。どうすれば良いか、何が正しいかなどと考えてもままならぬことよ。なれば、落ち着いている現状を維持しようというのは1つの正解でもある。しかし、ヨウヘイがこちらへ来たのはまた違う想いゆえではなかろうか?」


 「違う想い、か。確かに、俺はアルに人殺しをさせたくない。アルが先頭を進んでいる時、すごく頼もしかったけどとても悲しそうだった。きっと顔色も変えてなかっただろうけど、俺はあんなアルの姿は見たくない。」


 「うむ、それは余も同じだ。しかしだ、リリーティア嬢もまたヨウヘイに人殺しをさせたくないと思っておるはずだ。それでもなおヨウヘイを送り出したのは、ヨウヘイのその想いの強さを感じ取ったからであろう。ふふ、以心伝心とはちょっと違うが通じあっておる。羨ましいな。」


 「な、何言ってんだよ。そういうカイエルとプラムさんだって、なかなかいいコンビだと思うけどな。」


 「なに、プラムは余の考えを汲み取ってはいるが、余はプラムの考えが未だわからぬ。お主らとはまた違う関係だな。まあ、このような余を支えてくれているプラムには感謝しきれぬが。」


 あくまで主従、ということかな。傍から見た評価と本人達から見た評価はけっこう食い違う所があるようだ。しかしどちらにせよ2人の関係は見ていて微笑ましい。今後2人がどうなっていくのかわからないが、ずっと仲良くいて欲しい。


 「まあ余とプラムのことはさておき、お主はリリーティア嬢の意をしっかり認識しておいてほしい。そしてリリーティア嬢も断腸の思いあったであろうことは知っておいて欲しい。ヨウヘイは皆から愛される気質なのだから、相手の想いを履き違えたといってお主が悲しむところや、また逆に人を悲しませるところなど見たくはないのだ。そしてそんな愛されるお主だからこそ、自らの選んだ道を自信を持って貫き通して欲しい。それはきっと皆を幸せにする道であると、余は信じておるぞ。友からの言葉だ、厳粛に受け止めるが良い。」


 「ちょっ、ちょっと、なんかいきなりすごい重いものを担がされてるんだけど、どうしてそうなるのかな!?」


 「ハッハッハッ、気にするでない!! ヨウヘイは、ヨウヘイの信じた道を行けば良いのだ。」


 なんか釈然としないなぁ。でも、まあ、お陰で気分は幾分か晴れたような気もする。状況が悪くなっていないのなら正しかったのだと思ってあまり深く考えないようにしよう。




 「・・・いるね。入り口の両脇、直ぐのところに1人ずつ隠れてる。他は、遠くてちょっとわからないな。」


 入り口についてから索敵してみると、アルに言われた通り誰かがいた。と言っても盗賊以外にありえないのだが。待ち伏せている理由は簡単だ。見張りの死体を発見したのだろう。別に隠してもいなかったしな。


 「出た所を不意打ちで倒すつもりなのであろう。両脇だけとは思えんな。ある程度離れた所から狙っている者もおるはずだ。上は大丈夫か?」


 「大丈夫、さすがにそこまではいないみたいだ。ここは俺が行って、攻撃を出させてから両脇の盗賊を倒して撹乱するから、その後援護を頼む。」


 さすがに不意打ちが1回で終わるとは思えない。カイエルが狡猾と言った連中である、念を入れておくべきだろう。


 「本当にいけるのか? いや、疑っているわけではないのだが。」


 「大丈夫。それじゃあ行ってくるよ。」


 そうして俺は洞窟を出ていく。若干のんびりとした足取りで洞窟を出て少し行くと、後ろから襲い掛かってくる気配をはっきりと感じた。それと同時に前方、左右から複数の矢が飛んでくる。矢は俺を直撃するコースと少し外れたコースがあり、多少感づかれても平気なように細工してあるのが伺える。

 なるほど、洞窟の中にいた連中とは違うな。カイエルは凄いな。あの状況でこれだけのことを読めるのだから。


 俺は左後方に振り向くと同時に、襲いかかってきた盗賊に向かって姿勢を低くして飛び出す。全ての矢を避ける位置に達した時、左手に刀を創り出して右から左へ振るう。刀が散り、相手の胴が離れて落ちゆく。刀を振った力に乗ってもう一方に振り向くと、今度は右手に銃を創り出して発砲。相手の頭が吹っ飛び血が舞い散る。

 今度は後方、洞窟を出て左手側に駆け出す。追撃がないのは戸惑っているからだろうか。見たこともない武器で味方が吹っ飛んだのだから仕方のないことだとは思う。

 矢を射ってきた連中が索敵範囲に入ると同時に、走りながら発砲。気配が消え、命中したのだとわかる。5秒程で隠れていた5人を全て撃ちぬいた後振り向くと、カイエルが反対側に駆け出していた。飛んでくる矢を避け、あるいは剣で弾いて相手との距離を詰める。これなら大丈夫だと、俺は洞窟の前方にいるであろう連中を殺すべく走りだした。




 辺りには血の匂いが充満している。山の中であまり風が通らないせいか匂いがこもりやすいのだろう。戦いは、あまりのもあっけなく終わった。そもそもカイエルと並んで走れる俺が飛び道具を持ちながら攻撃しまくっていたのだから、特に強いわけでもない人間相手に時間がかかるなどありえない。

 辺りに散らばる肉片を見て思う。こいつらはどうして盗賊なんてやっていたのだろうか。考えてみれば、生まれた時から盗賊なんてありえないことだ。きっとどこかで道を踏み外して・・・


 「ヨウヘイ」


 不意に声を掛けられる。


 「呆けておらんで戻るぞ。後始末は考えずとも良い。獣が掃除してくれるであろうからな。」


 「ああ・・・そうだな。」


 俺は頷く。そうだった、まずは皆のところに戻らなければならない。戦いが終わったと思って安心していたのかもしれないな。


 「一応警戒は怠るでないぞ。未だどこから見られているかわかったものではないのだからな。まあ、仮にそうだったとしても襲ってくるほど無謀ではないはずだが。」


 「わかった。気をつけるよ。」


 気をつけていれば、今の俺なら怪我をする事もあるまい。俺達は周囲に気を配りながら洞窟の中へと再び入っていった。





 洞窟に入ってからも何もなかったので俺達は王都の前にテレポートで移動した。10人程を一変に運んで疲れた様子もないアルはやはり凄いと思う。

 保護された子どもたちは、皆一旦国直轄の孤児院に入れられるそうだ。その後に親類などがいれば引き取ってもらい、いなければ里親を探すことになるらしい。

 それならばと、アルはディアナちゃんを引き取ろうとしたが本人が拒否した。これ以上の面倒は掛けられないのだそうだ。俺達は特にそんなことは思ってないのだが、本人がそう言うならば仕方がないということで諦めた。こんな状況になってもしっかりしているディアナちゃんは強い子なのだろうと思う。


 「とりあえず今日あったことを報告したいので2人ともついてきてくれますか?」


 プラムさんに言われ、これから衛兵の詰所に行く事になる。アルとプラムさんは途中までしか洞窟を進んでいないし、盗賊とメインで戦ったのは俺とカイエルだ。カイエルは何時眠るかわからないので、俺が行かなければ仕方がないだろう。


 「わかりました。あまり長くならないことを期待しますよ。」


 「いえ、私達はもう帰ります。後のことはよろしくお願いしますね。」


 俺が肯定すると同時にアルが否定した。

 さすがにプラムさんが戸惑っていると、カイエルが取り次ぐ。


 「うむ、ここは我らに任せてゆくがよい。なに、心配せずとも余が暴れまくったと言ってしまえば大概の事は片がつく。どうしてもと言われたら現場に行かせればよかろう。」


 「そう・・・ですね。何も最後まで付き合っていただく必要はありませんでしたか。失礼いたしました。」


 「いえ、ありがとうございます。では失礼しますね。」


 そう言ってアルは俺の手を取る。




 手を取られたその直ぐ後には家の前にいた。


 「アル、別に付き合ってもよかったんじゃないか?」


 アルに手を引かれつつ聞く。何か考えでもあるのだろうか。


 「いえ、私達はあくまでも盗賊退治の協力者というだけです。取り調べで長々と拘束されるような約束はしていないので構わないと思ったのです。」


 何か釈然としないが、明確に否定する言葉も出てこない。あの後付き合うことは単なる親切心以外の何物でもないのだという理屈はわからないでもないが。


 家に入り、アルがお茶を入れてくれた。微かにミントのような香りのするお茶は飲んでいて何だか落ち着いた。体はあまり汚れていないので、まあこのままのんびりしていても構わないだろう。

 今日は疲れた。初めて人を殺した。血の匂いはたまらなく不快だったが、それ以上に何か虚しい感じがした。悲しい感じがした。魔物を殺すのと違うのは、死体の姿を自分と重ねることが出来る事だ。自分もこうなってしまうかもしれない、自分も殺されてしまうかもしれない。そしてその状況を作り出したのは紛れも無い自分なのだ。


 「ヨウ様、顔色悪いですよ。」


 アルが顔を覗いてくる。その表情は、一体何を考えているのかよくわからない。


 「大丈夫だよ。今日は疲れたからね、だからかな。」


 そう、大丈夫だ。何も気にすることはない。ここには俺を害する存在はないのだ。やさしいアルがいるだけだ。

 アルが手を取る。それでようやく、自分の手が震えていることに気がついた。心配をかけてしまっているかな。でも大丈夫、理性は落ち着いている。俺が今何かに怯えていたとしても、お化けを怖がる必要がないように気にしなければいいだけの話だ。


 「辛いことがあるなら、ちゃんと言って下さいね。」


 「うん、わかってるよ。でも大丈夫だから。」


 お茶をもう一口飲む。手が若干震えているが、お茶が溢れる程ではない。少し寒いだけ、そう思えばなんともない。

 今日はもう体を洗って休もうか。いや、まだ早いような気がする。何せまだ日は落ちていないのだ。考えてみれば夕飯の時間までも結構ある。それまで休ませてもらおうか。いや、休まなくても大丈夫だ。なぜ休もうかと考えたのだろうか。今休むべきなのだろうか。いや、大丈夫だ。休まなくても大丈夫だ。休みたくない。だから、大丈夫だ。俺は今、ここでお茶を飲んでいるだけなのだ。別に休むも何もないではないか。俺は別に・・・


 ふと、体が暖かくなるのを感じた。見ると、アルに抱きしめられている。


 「アル、どうしたんだ?」


 アルが何も言わずにこんなことをするなんて珍しい。今までは何かしら前置きのようなものがあったはずだが。

 アルが俺を抱きしめる力を若干強める。


 「・・・・・・・・・私ね、いつもヨウちゃんの背中を見てきたんだ。いつも優しくて、落ち着いていて、笑顔を向けてくれて、いつの間にかヨウちゃんにずっと付いて行きたいって、思ってたんだ。」


 「ア、アル・・・一体何を?」


 「ずっと見てたんだよ。変に思うかもしれないけど。躓いても直ぐに起き上がって、泣いてもその分強くなって、あきらめずに頑張るヨウちゃんを、ずっと見てきたんだよ。だから、わかるんだ。今のヨウちゃんはすごく悲しんでいて、すごく怯えていて、それで泣いているんだって。」


 アル?は俺を抱きしめる力を更に強める。


 「ヨウちゃんはずっと1人で立ち上がってきたけど、私はそれが寂しくもあったんだ。もっと私を頼って欲しかった。私だって、力になりたかったの。だから今度は、今度こそは力になりたい。だから・・・1人で泣かないで?」


 「ゆう・・・り・・・?」


 「ふふ、やっと気づいた?」


 俺の幼馴染の侑梨。俺の初恋の人で、俺が頑張っていたのも近くにいる侑梨に情けない所を見せたくない一心だった。


 「侑梨・・・なんで、なんでだ? だって、俺がこっちに来る前には確かに向こうにいたじゃあないか。それじゃあ俺はタイムトリップでもしたっていうのか?」


 「ううん、違うよ。そこら辺の話は今は出来ないの。いつか・・・いつか出来ると思うから、それまで待ってて?」


 俺がここに来た事について、侑梨は俺よりも知っているのだろうか。知りたくはあるが、ここで追求しても侑梨を困らせるだけかもしれない。


 「わかったよ。いつか、話してくれるのを待つことにする。」


 「ありがとう、ヨウちゃん。それと、少しは落ち着いた?」


 「あ、ああ・・・。」


 今までウジウジしていたのが嘘のようだ。いきなり別のことを考えなければいけなくなったからだろうか。

 改めて今日のことを思い返してみると、今までより冷静に考えることが出来た。侑梨を抱きしめながらになってしまうが。

 そして大事なことを忘れているのに気がついた。カイエルが言っていた事である。自分の行いに目を背けるな、と。目を背けている間は立ち直ることが出来ないと。

 俺は覚悟を決めて自分の行った行為と、自分の気持ちに真正面から向かい合ってみる。今まで目を背けていただけで、本当はこうなる前からわかっていたんだ。


 「侑梨、俺は自分が怖かったんだと思う。いきなりどこかわからない所に連れてこられて、色んな力を与えられて、しかもその力が、簡単に人を殺せるような力で。しかも、実際に人を殺してしまって。」


 侑梨はただ黙って聞いてくれている。


 「怖かったんだ・・・自分の体がおかしくなったんじゃあないかって、この力のせいで何かとんでもないことになるんじゃあないかって。それに・・・この世界に・・・・・・来たの、も、元の世界に、見捨てられたんじゃあ・・・・・・ないか、って・・・。」


 侑梨を更に強く抱きしめる。もう言葉を出すのも辛い。ただ嗚咽をあげながら縋りつくことしか出来ない。そんな自分が情けない。でも、もう止めることが出来ない。


 「ヨウちゃん、つらい思いをさせちゃったね。ごめんね、私がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかった。でも、これだけはわかって? ヨウちゃんのその力は、ヨウちゃんが愛されていたから与えられたものなの。それにヨウちゃんは見捨てられたんじゃあないの。この世界に来ることが、ヨウちゃんのためだったの。はっきり言えなくてごめんなさい。でもね、いつかわかる日が来るから。その時まで私が手を引くから、私が導くから、今はそれだけわかってくれればいいから、だから、今は辛いこと全部吐き出して泣いちゃっていいよ。私は、ずっとここにいるから。」


 侑梨が後半辛そうに言っていたのも置いておいて俺は泣いてしまった。迷子の子供が不安でしょうがないように、泣いてしまった。それでも侑梨の体が暖かくて、そばにいるのがはっきりとわかって、自分はこの先どうなるのかとか、これからも辛かったり悲しかったりするのかとか、そういった不安は安らぎとともに消えていった。





 どれほど経ったか、すっかり日もくれて落ち着きを取り戻した俺は恥ずかしさのあまりうつむいてしまっていた。ああ、恥ずかしい。侑梨の前で、いや侑梨に縋り付きながら大泣きしてしまった。

 気まずい。向こうはそう思ってないかもしれないが、こちらとしては非常に気まずい。そして侑梨はなおも俺の目の前にいるのだ。


 「侑梨・・・えっと、その、さ。」


 うつむいたまま声をかけてはみたものの、今更何を言えばいいのだろうか。忘れてくれとも気にしないでくれとも言えない。どんな顔をしていいのかもわからない。


 「ヨウちゃん、私ね、」


 俺が何も言えないでいると、侑梨方から話しかけてきた。


 「さっきも言ったように、ヨウちゃんに言ってないことがあるの。今はどうしても言えなくて、私も言う心構えが出来てなくて、でもいつか話さなきゃいけないことなの。」


 そういえばそんなこと言っていたな。だいたい、何で侑梨がこんな格好でこの世界にいるのかわからない。


 「その時まで侑梨のままでいたら、ヨウちゃんに接する態度がおかしくなっちゃうかもしれないの。だから、その時までは、アルのままでいさせてください。」


 何か余程言いづらいことでもあるのだろうか。一体どのようなことなのかはわからないが、俺は侑梨を、いや、アルを信じてるから、だから、俺は顔を上げて言った。


 「いいよ。好きにしたらいい。その時が来るまで、アルの覚悟が決まるまで、俺も側にいるから。」


 アルが何を隠しているにせよ、今の俺には大して関係がない。俺はこれからもアルのそばにいるというだけなのだから。アルが悩んでいるなら、今度は俺が支えよう。


 「ありがとうございます。ヨウ様!」


 アルはとびきりの笑顔を向けてくれた。








 翌朝、


 「ヨウ様、起きて下さい!」


 という声とともに、返事をする間もなくキスされた。初めの頃からどんどん感覚が短くなっていくな。そのうち何も言わずにしてくるのようになるではないだろうか。


 「おはよ、アル。」


 「はい、おはようございます!」


 アルが笑顔で答える。


 「アルは・・・変わらないな。」


 「もちろんです。私はいつもの通り、ヨウ様のアルですよ?」


 まあ、ちょっとテンションが高い気もするがいつもどおりだな。いつもどおりがこんなにありがたいものだとは思ってもいなかった。この世界は、そんな当たり前のことを気づかせてくれた。


 「さて、朝ごはんにしましょうか。用意はできてますよ。」


 部屋の外へ向けて歩き出すあるを見ながら、そんなあたりまえも少しだけ、ほんの少しだけなら変えてもいいんじゃあないか、なんて思った。


 「アル。」


 アルを呼び止める。アルが何かと振り返ると同時に、初めて、俺からキスをした。


これで半分ほど終わったかな

文章を書くのってホント難しいですね

見返して見るととてもスッカスカな感じがする

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ