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07話_災厄の蛇

ユニークが500超えてました

沢山の人に見ていただきありがとうございます。

 「皆の者、これが最初で、最後の戦いだ!!」


 街門の前に立つネウレス将軍の声が響き渡る。

 その眼前には世界中から集った約50万もの騎士、兵士、傭兵、魔導師等が集い覚悟を決めた表情で佇んでいる。


 「この戦いに、後退は許されぬ!! 我らが身に安息などありはしない!!」


 ネウレス将軍が見据えるのは、南方に存在するまだ見えぬ災厄。そして目の前の物音1つ立てずに佇む戦士たち。例え薬で、魔法で戦意を高揚させていようとも、ここに佇む戦士たちをネウレス将軍は誇りに思う。


 「しかし未来は確かに、我らのあずかり知らぬ所に存在する!!」


 ネウレス将軍が剣を掲げる。それは世界で最高の魔法剣。幾百の悪魔を切り倒し、幾千の竜を屠ってきた伝説を持つ唯1つの輝き。

 ネウレス将軍はその切先を南方に向ける。


 「破滅の未来を、我らが潰しに行くのだ!!」




 というわけで俺達は人形劇を見に来ている。この話は過去に本当にあったらしく、実際には50万の戦士が集まったらしいが今舞台に展開されている親指サイズの人形はそれに遠く及ばない。

 しかし、それでも確実に1000体は超えている。それらが一斉に動き出す様はなんとも迫力のあるものだ。さらにそれを動かしているのがたった1人だけだというから驚きである。


 俺の隣にはアルがいて、その隣にはこの街に来た時に行った食堂の娘、ディアナちゃんがいる。アルが彼女のことを気に入ったらしい。その隣にはプラムさん、カイエルが続く。俺達の存在を察知してやってきたらしい。2人には割りと自由な時間が与えられているらしいので、というよりかカイエルが時間など気にせず飛び出してしまうのでいつでも外出出来るらしい。


 今展開されている劇は災厄の蛇と呼ばれる物語。何の理由かは知られていないが、ある日突然ジグラタルと呼ばれる大蛇が暴れだして人を襲いだした。

 当時3億程いたとされる人は、ジグラタルが暴れだしてから僅か半年足らずで1000万程まで減ってしまう。ジグラタルの行くところ、村は潰され、街は破壊され、国は滅びる。人は為す術なく蹂躙されていった。

 なんとか逃げ延びた人達が集まったのがここ、キシリア王国。しかしそれでも滅ぼされるのは時間の問題ということで、人類の戦力を全て出し切った戦いが始まったのだ。


 今舞台はとある盆地に移る。そこには長さ10m程の輝くような白蛇がいた。人が親指サイズだからこれだけでも相当大きい蛇だが、実際にはこんな比ではない位大きいらしい。一体どれほどかを知る人はいないのだとか。


 作戦の最高指揮官であるネウレス将軍が展開する部隊は、50に分けられてジグラタルを完全に包囲していた。1部隊がジグラタルを環状に包囲しているので、各部隊を色分けしたら木の年輪のような絵が得られるであろう。その包囲網の最前面にいる、200名程の魔導師が魔力を練り始める。彼らがこの作戦の要であり、唯一の対抗手段である。




 「第1部隊、突撃!!!」


 ネウレス将軍の声が響くと、ジグラタルの全方位から一斉に1万程の戦士が突撃をかける。包囲網は広いが、魔法によって声を飛ばしているらしくタイムラグ無しに指示を行き渡らせることが出来るのだ。

 戦士たちは世界中から集めた魔法の武器をその手に持ち、魔力増幅のアイテムで力をたぎらせ、それぞれ突撃していく。決死の覚悟で向かっていく戦士たちがジグラタルに肉薄したその時にはもう、その全ての命が絶たれていた。


 ジグラタルに近づいたものは例外なく潰され、飲まれ、すり潰されていた。あまりにも圧倒的な力と速度によって振るわれる暴虐に、戦士たちは攻撃などする間もなく鎧ごと、武器ごとその肉体が粉々になる。反撃と言ってもせいぜいが武器をぶつける程度しか出来ていない。

 魔法で攻撃している者でさえ、次々と倒れていく。諸説あるが、ジグラタルは魔法の軌跡を辿って魔力をぶつけることにより、いわゆる魔法のカウンター攻撃を行うことにより魔導師達を屠っていったとされている。その圧倒的な魔力をぶつけられた魔導師たちは、次々と体の内側から爆ぜていく。




 いくらジグラタルに武器をぶつけようと、魔法を食らわそうと、ジグラタルには傷ひとつ付かない。真っ白な鱗は輝きを帯びたままだ。無論、予想していたことではあるが、ネウレス将軍は戦慄せざるを得ない。そして部隊の散っていく予想外の早さに焦っていた。万の部隊が、よもや1分も持たない等とは予測できる事ではない。ジグラタルは何か特別な魔法を使っているわけでも、広範囲を対象にした破壊を行なっているわけでもないのだ。ただその身で人を潰し、魔導師にカウンターを食らわせているだけ。

 だからと言って攻撃を緩めて時間稼ぎ、などということは出来ない。この包囲を突破された時点で人類の滅亡は必然となるのである。


 「第43部隊、突撃!!」


 ネウレス将軍の声が響く。自分の声でもう、何十万もの人間が死んだ、と心の中で呟く。誰かがやらねばならぬ事だとわかってはいる。誰がやっても同じ事だと、わかってはいる。しかしその引き金を引くために選ばれた屈指の精神力はもはや擦り切れていた。

 人のために人を殺すなど、自分に如何様な権利があって、そのような大それたことをしているのかと考えてしまう。

 包囲網の中には暴れるジグラタルと、それを取り巻くように赤い霧が立ち込めている。これは死んだ部下達の血で作り上げられた霧である。飛び散って混ざった肉片の証である。この悪夢を、なおも作り出さねばならぬのか。


 「第48部隊、突撃!」


 魔導師達の準備はまだ整わないのだろうか。眼前に広がる虐殺を目にして思う。一時的なものとはいえ部下となった者達。皆よくぞ命を捨ててくれた、と密かに感謝する。勇敢な部下を失っていく光景に、赤い霧が濃くなっていく光景に、ネウレス将軍はとうとう涙を流した。

 出来る事ならば、我が身だけで済ませたいと何度思ったことか。このような悪夢を見なくて住むのならば、喜んで我が身を差し出そう。しかし、自分にはそんな力が無いことくらいわかりきっている。今切り込んでいったとしても、他の者と同じく一瞬にしてひき肉になることはわかりきっている。しかし、悔しかった。もどかしかった。もし自分に力があったならばとか、もしジグラタルが暴れなかったならばとか考えてもしょうがないことを考えてしまう。


 「第50部隊、突撃!!!」


 ようやっと自分の番が回ってきた、とネウレス将軍は考える。これでようやっと、部下を殺す命令を終えることが出来るのだ。例えそれが全滅という形で実現されたものだとしても、である。ジグラタルにせめて一太刀でも浴びせよう、という奮起の中に安堵の感情が混ざっていても誰も何も言えないだろう。

 ネウレス将軍がジグラタルへ向かって走る。赤い霧に怯むことなく、全力で走る。ジグラタルの、血を浴びてもなお真っ白な体を見据え、剣を抜こうとしたその時、パチリ、と空間が弾けるような音が響いた。

 間に合ったか? ネウレス将軍は一瞬考える。人類の存亡を左右する結界が今、発動した。



 決して魔法が栄えていたわけではないキシリア王国。むしろ剣技、槍術、格闘術等の武力に重きを置いていた王国の何処かに隠れていた1冊の本。そこに書かれていたある結界の秘術に人々は僅かな希望を見出した。

 12柱の一角である死の王が全ての生命を滅ぼそうとした時に、同じく12柱の筆頭である魔王がその身を拘束したのに使ったとされる結界。なぜその様な物があったのかはわからないが、人類でも何とか扱えるその永続結界に最後の望みが託された。


 ネウレス将軍は結界の発動を確認して思わずニヤリと笑う。自分の役目は大体終わった。後は結界が安定するまで少しでも時間を稼ぐことに専念しなければならない。

 ネウレス将軍は剣を抜き、血の霧の一部となった。



 ジグラタルを取り囲むように、薄い黄色の結界が張り巡らされる。この後魔力を流し込んで結界を安定させなければならないのだが、ジグラタル相手にそのような暇があるだろうか。

 第50部隊が突撃した後、突撃部隊を早々に壊滅させたジグラタルが、発動したばかりの結界に突っ込んでくる。


 ギャアアアアアァァァァァァァァンンンン!!!!!!!


 けたたましい音が鳴り響き、ジグラタルの突進が止まる。いくらジグラタルの力であろうが、魔王の叡智はビクともしない。しかしそれを行使しているのは人。魔力を流している者もまた人なのだ。流し込んだ魔力が、ジグラタルの突進を受け激しく逆流する。逆流した魔力によって全身を、神経を、脳をズタズタに破壊された魔導師が全身から血を吹き出しながら崩れ去る。

 ジグラタルは向きを変え、再び魔導師を殺し始める。その隙に控えていた魔導師が死んだ魔導師の代わりに魔力を流し込む。ジグラタルのいない隙に、と考えるのは無駄だ。ジグラタル移動速度は人の反応できる程度のものではないのだから。




 ジグラタルが何度も結界に突っ込み、何人もの人が死ぬ。もう、周りには誰も立っていない。それでもなお、自分は魔力を流し続けなければならない。ここで自分が諦めてしまってはそれこそ全てが無駄になる。散っていった50万の仲間、無駄にはしたくない。ネウレス将軍の涙、かすれゆく声、蔑ろにしてはならぬ。

 結界の向こう側に見えるジグラタルがこちらを向いた時、その圧倒的な迫力の前に死を覚悟した。しかし突如結界が金色に輝き始めたのである。



 結界が完成した。ジグラタルを封じることに成功したのだ。ジグラタルが何度も破壊を試みるが、音の1つも立てることが出来ずにいる。魔導師は呆然とし、へたり込んだ。自分はなんという存在と戦っていたのだろう。目の前で暴れている巨大な存在を目にし、改めて恐怖を抱いた。

 周りは皆死んでいる。まともな死体など1つもない。この蛇によって一体どれ程の者が死んだのか、創造するだけで身震いがして立ち上がれなくなる。


 結局生き残ったのは2名という、正に紙一重の勝利に喜びの声など出るはずもなかった。







 なかなか面白かったな。あんな蛇が実在するなんて考えたくもないけど。

 この話は悲劇として語られることが多いらしい。英雄譚と見る向きもあるらしいけど、誰も彼もが英雄と見るべき人達だから話としての構成が難しいらしい。

 ふと隣にいる少女を見ると、涙を流しながら焼き鳥を食い散らかしている。・・・まあ、見方は人それぞれということか。




 「本当に実際あんなことがあったのか?」


 劇場を出てから、俺は聞いてみる。過去にあったという被害が大きすぎて実感が湧いていないのだ。


 「ええ、本当ですよ。」


 と解説するのはプラムさん。


 「実際に被害にあった場所はほとんど痕跡が残らないほど潰されているんですけどね。ただ、長命な種族は覚えていますし、ジグラタルは今も実際に封印されているんです。」


 「え、そうなの!?」


 「ここから南へ3日程言った所ですね。今は深い森となっていてジグラタル自体は見えませんが、周りは常に厳戒態勢が敷かれています。ジグラタルの被害が落ち着きだしてから300年の間ずっとです。」


 近いな!? そんな近くにそんなとんでもないものがいるなんて思ってもみなかったよ!?


 「アル、知ってたか?」


 「ええ、もちろんですよ。今回の人形劇を見た後のほうがわかりやすいと思ったので黙っていましたが。」


 まあ、そりゃあいきなりそんな存在が近くにいる、なんて言われても信じられなかっただろうが。


 「ちなみに生き残りのうち1人は混乱している国政に尽力し、もう1人は秩序を守るための措置としてギルドを設立しました。誰もが治安を守っている、という意識をつけて混乱を復興中の混乱を回避しようとしたのですね。ですからギルドの看板には戒めの為に結界の中のジグラタルが描かれたと言われています。」


 あの看板にはそんな意味が込められていたのか。


 「しかしそれを知らないということは、ヨウヘイさんはギルドに登録して間もないのですか?」


 プラムさんが聞いてきた。そう言えばこの前はその話していなかったな。


 「ええ、今日で1週間程になりますね。」


 思えばこの短い間で色々な魔物と戦ったな。ナイトウルフに始まってくっさいゴブリン、うざったいエアホーク、逃げ足の早いホーリーラビッド等々、こっちのが確実に強いのに苦戦ばっかりしていたな。


 「あそこでは強さが測れるのですよね。ヨウヘイさんのクラスはいくつなのですか?」


 「Sです。一応ね。」


 守護付きでですけどね。


 「それは凄いですね! カイエル様も私も強さにはそこそこ自身があるのですが、測れるのはギルド員だけなんですよね。私達は登録することが出来ませんので残念です。」


 立場上の問題というやつだろうか。確かに王族が登録しているとなったら、その国には余程余裕が無いように見られてしまうのかも知れない。


 「ならヨウ様が見ればいいんじゃないですか?」


 そういえばそんなこと出来たな。ゴブリンの一件以来、魔物のことはアルに聞いていたからすっかり忘れていた。

 プラムさんにスキャンのことを話すと、すごい興味を持ったように目を輝かせた。


 「それは凄いですね。じゃあまずはカイエル様のことを見てもらっていいですか?」


 プラムさんは、ホットドッグを食べながらディアナちゃんと話をしているカイエルの方に向く。ちなみに2人の会話は、カイエルが突拍子もないことを言ってディアナちゃんが戸惑うといった感じだ。

 「フハハハハハ! 遠慮無く食うが良いぞディアナ、我が友よ!!」「え・・・えと、その、友だなんて恐れ多いです。」「余を恐れるなんぞ100年早いわ!! フハハハハハハ!」なんて話してる。まあ、2人とも楽しそうではある。

 楽しそうなら多少会話が噛み合ってなくても構わないか。俺は気にせずカイエルのステータスを見てみることにする。


*----------------------------

  カイエル=トゥルア=キシリア

  種族:人間

  属性:無

  強さ:Aランク


  HP :512

  MP :21

  ATK:613

  DEF:152

  MGK:18

  SPL:215


  キシリア王家の3男。現在王位継承権は無いが、その正義感から多くの民に慕われている。察知のスキルを駆使して悪を見つけては討伐する。


 *----------------------------



 強いなカイエル。ランクでは俺のほうが上でもまともに戦ったら勝てないかもな。


 「プラムさん、カイエルはAランクですね。体力と攻撃力がやけに高いですが、魔法系はさっぱりといった感じです。」


 「そうですか、力の傾向は思ってた通りですね。脳筋です。目が覚めた時に変化があるかも興味ありますが。」


 たしかに興味がある。目が覚めたとたんMGK辺りが急上昇したりしないだろうか。


 「それでは私もお願いします。」


 「わかりました。」


*----------------------------

  プラム=プラム=プラム

  種族:獣人

  属性:水

  強さ:Aランク


  HP :222

  MP :222

  ATK:222

  DEF:222

  MGK:222

  SPL:222


  謎の猫耳メイド。


 *----------------------------


 「・・・プラムさん、アンタなにもんですか?」


 「ふふっ、謎の猫耳メイドです。」


 先日のアルの態度が少しわかった気がする。スキャンの結果は、言わなくてもいいんだろうな。




 ディアナちゃんはカイエルから開放されてアルと話している。


 「リリーティア様、明日から家族とザウムに旅行に行く事になったんですよ!」


 「ザウムと言うことは温泉ね。そっかー、道中気をつけてね。なんなら私が送っていってもいいよ?」


 「ううん、お父さんがもう護衛の人雇ったみたいなの。」


 旅行、か。アルの話じゃあ数年前までは考えられなかった事なんだろうな。


 「獣人が旅行に出かけられるというのもリリーティア様の尽力あってのことですね。」


 「ふむ、温泉か。プラムよ、温泉とはどのような食べ物であったか?」


 「カイエル様、温泉は食べ物ではありませんよ。特別なお風呂と思って下さい。」


 「風呂か!! たしかこの国にもあったな。余も毎日入っておるぞ!!」


 「カイエル様が水浴びしている泉とは違います。」


 カイエルはボケた爺さんみたいだな。

 しかし確かに国は、ここ数年で平和になったとは思えないほど平和な国だ。あそこにも女の子が一人で焼き鳥の屋台の前にいる。その銀色の髪とやたらとでかいマントを羽織った女の子は、よくみたら劇場で隣にいた女の子だ。


 「おっちゃん、塩100本買うから半額にしなさいな。」「はっはっはっ、冗談言っちゃあいけねえぜ、嬢ちゃん。」「あら、私はいつでも本気よ・・・?」「ひいいいぃぃぃっ、なっなんて威圧感だ!?」「さあ、どうするの? 塩100本にタレ100本、献上する気になったかしら?」「なんかひどくなってるし!?」「どうした、なにがあった!?」「あぁっ、衛兵さん! 実はカクカクシカジカでして・・・」「なにっ、怪しい奴だ。ちょっと詰所まで来てもらおう!」「ふっ、アンタたちなんかに捕まるこの私じゃあないわ。」「あっ、待てっ!」「あははははっ、捕まえてごらんなさい!!」


 ・・・うん、平和だ、ということにしておこう。





 3人と別れた俺達はギルドに入る。


 「おうっ! 来たな!!」


 入口付近で、受付にいるマゲルさんに声を掛けられる。毎度のことだからいい加減慣れた。俺達が受付に行くと1枚の紙が差し出された。


 「今日は是非ともこいつをやってほしいんだが。他に頼めそうなのもいねえしな。」


 差し出された紙を見る。そこに書いてあるのはメガバチ退治?


 「こいつはそんなに出てくることもないんだがな、一度出てきたら厄介でなぁ。そこらの人間じゃあ対応できないほどすばしっこくて針が強力な上に飛んでるだろ? 今はまだ規模が小さいようだが早めに潰しときたいんだ。頼めるか?」


 「どうする、アル。いけるかな?」


 「なんの問題もありませんよ。ただのハチ退治です。」


 それって結構難易度高いような気がするんだがな・・・。




 ハチはとある民家の一角にいた。このハチは民家の屋根なんかにぶら下がるように巣を作ることがあるらしい。それだけならば普通のハチとなんも変わらないのだが、このメガバチというのはとにかくでかい。どれ位でかいかというと、カラス位大きい。当然巣も大きく、始めはぶら下がっていたのだろうが今では地面に這うような形で広がっている。

 周辺住民は当然避難しており、この脅威がなくなるのを今か今かと待ち望んでいるらしい。こんなのが身近にあったらそりゃあたまったもんじゃあない。


 俺は巣の周辺を飛び交っているメガバチを雷弾で落としている。奴らは首を切っても体だけ動いて襲ってくる、なんていう恐ろしい生命力があるらしいので一気に焼くに限る。しかし普通に火を使っては周りが危ないので電気を使っているわけだ。俺の届きそうにない所はアルが撃ち落としている・・・というか粉砕している。

 それにしてもよく落ちる。なんだかゲームでもやっている感覚だな、匂いがなければ。血の匂いは慣れてきたつもりだったけど、虫の焼ける匂いはまた違うね。本能が忌避するという程ではないけれど、薬品の嫌な匂いという感じで食欲が一気になくなってくる。


 周りのメガバチをひと通り撃ち落とした後、巣の中から他のメガバチの倍くらい大きいハチが出てきた。おそらくあれが女王蜂なんだろう。あれさえ撃ち落とせばもう終わったも同然だな。


 「ヨウ様、あれは凍らせちゃって下さい。」


 と、アルが言ってくる。何のためかはわからんが、ひょっとしたら売れるのかもしれん。俺は氷弾で撃ち落とした。




 メガバチを一掃した俺達は女王蜂を回収し、巣を破壊してハチの子を大きな袋に詰めている。アルが言うにはこれも売れるらしいが、生きたままでなくてはいけないらしいので俺のアイテムボックスは使えない。

 しかしこいつも気色悪い。成虫と同じくカラス程もあるハチの子が元気にウニョウニョ蠢いているのだ。そいつを掴んで袋に入れるのは非常に嫌悪感をもたらす。


 「アル、こんなの何に使うんだ?」


 「食べるらしいですよ。まったく、一体何を考えているんでしょうかね。」


 まったくだな。俺達はハチの子と、ついでにサナギも回収してギルドに戻る。袋が大きすぎて引きずりながらになった。





 「おう、戻ったか!! ご苦労だったな!!」


 俺達はマゲルさんに女王蜂とハチの子、サナギを渡す。


 「こりゃあ大量だな! よくもまあこんなになるまでほっといたもんだ。」


 今回の件は最近になるまでほっとかれていたらしい。マゲルさん曰く、最近の連中は危機感に欠けるんだとか。


 「マゲルさん、こんな連中誰が食うんだ?」


 たしかにゲテモノ食いというのは存在するが、こんなに需要があるとも思えない。この世界に来てから積極的に虫を食べる奴は見たことないしな。


 「おう、知らねぇか! 女王蜂は体の色んな成分が薬になるんだとよ! ハチの子とサナギは、滋養強壮ってやつだな。これさえ食えば夜の遊びも捗るってもんよ!!」


 ガッハッハ、とマゲルさんが笑う。そういうことか、それならば需要があっても何ら不思議な話ではないな。


 「ヨウ様、ハチの子食べたくありませんか?」


 「食わねぇよ!?」


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