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06話_バカ王子

~~side カイエル


 「フハハハハハハ、こんな所におったか!!!」


 目の前には巨大なイノシシがいる。それはもう巨大だ。余よりも大きい。さっきプラムに名前を聞いたような気がするが・・・はて、何だったかな。


 「アイアンボアです、カイエル様。」


 おお、そうであった! アイアン・・・何だったか。


 「アイアンボアです。」


 おおそうだ、アイアンボアだ! うむ、余の心を読んだかのような助言、見事である。

 全身の体毛が鈍色に輝いており、とても重そうである。そのようなものを身に着けて余に立ち向かおうとは、余程自らの強さに自信があると見える。


 「ブモオオオオオオオオオォォォォォ!!!!!」


 わけのわからん事を叫びつつ突っ込んでくるイノシシ。あまり早くもないそれを余は華麗に避けてみせる。フハハハハ、そのような鈍重な突進など余に当たるはずもなかろうに!

 余の後ろを突っ走っていたイノシシは振り返るとまた突っ込んできた。フハハハハ、その手は読みきっておるわ!! 余はまたしても華麗に避けるとその胴体に剣を叩きつける!!


 ギャリイィィン!!


 なんと、剣を叩きつけたような手応えではないか! 胴は浅く切れたものの、こんなものは大した傷ではない。

 フフハハハハ! よかろう、その態度は余への挑戦と受けよう!


 「カイエル様、慎重にお願いします。この魔物はいくらカイエル様でも一筋縄ではいきません。」


 「わかっておる。一気にケリをつければ良いのであろう?」


 「ちっともわかってません!! いいですか、今は悠長に話している時間はないんですよ?」


 そんなことを行っている間にも、プラムはナイフを投げてイノシシの傷を増やしていく。うむ、見事だ。どのようにすればナイフであの硬い毛皮を突破できるのであろうか。

 これは余も負けてはおれんな。


 「フハハハハ、任せろプラム! 時間ならば余が作ってやろうではないか!!」


 再び突進してきたイノシシに対し、余は腰を落とし剣を付く準備をする。毛皮が邪魔ならば鼻先を狙えば良いのだ。うむ、余にしては良い考えだ!!


 「カイエル様!!?」


 プラムの激励の言葉が聞こえる。フフフ、これは頑張らなくてはいかんな。


 「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」


 余の渾身の突きはイノシシの鼻先に見事に吸い込まれていき・・・


 パキンッ


 剣が折れた。


 ドゴァッ!!!


 「グッハァァァァァァ!!」


 クフフフフフ、余を吹っ飛ばすとは大したものだ。おまけに体の中で何かがバキバキ言っておるわ。余は大木に打ち付けられた後、木を引きずりながらズルズルと地面に落ちた。


~~side out




 「ブモオオオオオオオオオォォォォォ!!!!!」


 「んなっ、何だ!?」


 突然の咆哮で目を覚ます。魔物でも襲撃してきたのだろうか。しかしこの家はアルが結界を張っているとか言ってたから大丈夫なはずだな。よし、まずは落ち着こう。

 窓の外を見ると、いつもと変わらぬ景色が広がっている。一体どこから聞こえてきたのだろうか。

 アルに聞けばわかるだろうか、と思い振り向くとアルは既にそこにいた。アルは俺が創った学生服を着ている。いや、俺が創ったってのはどうも気に食わん。神様が勝手に創った、としておこう。


 「ヨウ様、目、覚めちゃいました?」


 アルが何やら絶望したように聞いてくる。その雰囲気に俺は少々戸惑った。


 「え、お、おう。見ての通りだ。それよりさ、今のは一体どこから聞こえてきたんだ?」


 俺が聞いてもアルは何やら上の空だ。そしてそのまま口を開く。


 「私とヨウ様のラブイチャタイムが・・・・・・」


 そういうことかい! 確かにアルが一番積極的なのは俺の寝起きだったが、そんな認識になっていたとは知らなかった。


 「ふ・・・ふふふ、どうやら害獣駆除に行かないといけないようですねぇ・・・。ついでに結界には防音を追加しておかないといけませんねぇ・・・。」


 「あ、アル? 俺も行くよ。どんな奴か見てみたいしね。」


 「ヨウ様も怒っていらっしゃるのですね? いいでしょう、不躾な輩を粉微塵にしてやりましょう。」


 「まずは落ち着け。」




 俺はアルをなだめながら森の中を進む。1分程度進んだところで何か巨大なイノシシがいるのが見えた。こんな近くにいたんだな。

 そのイノシシは体高5m程だろうか、鈍色をしているが所々赤く染まっている。おそらくあれは血だろうか、だとすれば誰かが戦っていることになる。

 イノシシは狙いを定めるように姿勢を低くすると一気に突っ込む。周りの木をなぎ倒しながらの突進は実に力強い印象を与える。

 あんなのすごいのと戦っている人が無事とは到底思えないな。さっさと助けに行かなくては!


 「ヨウ様、今夜はぼたん鍋で決定ですね。」


 「食えんのか、あれ?」


 なんか一気に気勢が削がれるセリフである。アルにかかればあれも単なる獲物ということか。

 アルがイノシシに向かって右手を差し出すと、その間にある木も巻き込んでイノシシの首を落とした。おそらく風の魔法なんだろうが、何をしたのかさっぱりわからない。


 ともかく俺とアルはイノシシの死体に近づいていくと、誰かが目の前に現れた・・・猫耳メイドだと!?


 「リリーティア様!?」


 向こうはアルのことを知っているようだ。有名人らしいからな。


 「ああ、プラムさんでしたか。お久しぶりです。」


 アルも向こうのことを知っているようだ。プラムさんというのか。


 「プラムさん、あなたがここにいるということは、カイエルさんも一緒で?」


 「え、ああはい、そうです。カイエル様、カイエル様!! ご無事ですか!?」


 プラムさんが見た方に目を向けると、1つの影がのそりと立ち上がる。


 「ふ、フハハ・・・ゴフッ、見ての・・・通り、無事、であるぞ、ガハッ、うむ、リリーティア・・・ゲフッ嬢か・・・・・・礼をゴハァッ言うぞ・・・。」


 ちっとも無事ではなさそうである。血を吐きながらヨロヨロとした足取りでこちらに近づいてくる彼、カイエルさんだったか、は金髪のイケメンだがまるでゾンビのように見える。

 そんなカイエルさんにプラムさんは近寄って肩を貸す。


 「ちっとも無事ではありません! 強がらなくていいから大人しくして下さい!!」


 プラムさんが強い口調で言う。その剣幕に押されようとカイエルさんはどこ吹く風といった感じだ。


 「フハハゲフゥッ、心配に及ぶでない、プラムよ・・・ガハッ・・・余は・・・まだまだ・・・」


 なんか知らないけどプラムさんも大変そうだな。俺はエリクサーを創り、カイエルさんに差し出す。


 「えと、カイエルさん? これ飲んでみて下さい、傷が治りますから。」


 言ってみて何だか怪しいことをしているな、と思った。俺が直接差し出すよりアルに渡してもらった方が良かったんじゃあないだろうか。

 そう思ったとおりプラムさんはキョトンとした顔をしたが、カイエルさんは戸惑うことなく受取る。


 「うむ、かたじけ・・・ないグフッ。」


 そう言うと一気にエリクサーを飲み干す。


 「カイエル様!?」


 プラムさんが思わず声を上げる。それはそうだろう、自分だったらまず間違いなく疑うところだ。俺も驚いた。

 まあ、傷は治るから問題無いだろう。


 「お、おおお!? これは・・・」


 カイエルさんが驚きの声を上げる。プラムさんは心配そうにその様子を伺っている。


 「うむ、完全に治ったようだ。すごいなこれは、礼を言うぞ。名をなんと申すか?」


 「えと、俺はヨウヘイ=クガと言います。」


 どことなくさっきと雰囲気が変わっているのは気のせいだろうか。


 「そうか、余はカイエル=トゥルア=キシリア。キシリア王家の三男坊であるぞ。」


 「王家・・・ってことは、王子様ですか?」


 「世間ではそう呼ぶが、余に王位継承権はないのでカイエルと呼ぶがいい。ついでに敬語など要らぬ。ヨウヘイは余を助けてくれたのだからな。」


 そう言って手を差し出してくる。その手を握るとしっかりと、しかしあまり力を入れずに握り返してくる。なんだか大物っぽい人だ。


 「カイエル様、目が覚めましたか?」


 プラムさんがそんなことを言ってくる。一体何のことだろうか。


 「おお、プラム。すまないな、世話をかけた。そしてリリーティア嬢、改めて礼を言わせてもらう。」


 「かまいませんよ。家の側で暴れていた害獣を駆除しただけですからね。」


 なおも不機嫌そうなアル。アルの不機嫌は周りを必要以上に怯えさせるから控えて欲しいものだ。


 「まあ、こんなとこで話すのもなんですし家にきませんか? ヨウ様も状況を把握しといた方がいいと思いますので。」


 そんなわけで俺達は家に戻ることにした。




 今俺はカイエルさん、プラムさんと対面で座っている。アルは隣に座っているが、いつもの通り必要以上にくっつき過ぎだと思う。


 「ヨウ様、改めて紹介しますね。こちらはキシリア王家のバカ王子とメイドです。私がお城に出入りしている時によく見かけました。」


 「ハッハッハ、相変わらずの言い様だな。まあ、まったくもってその通りではあるのだが。」


 アルのひどい言い草に笑って応じるカイエル。


 「アル、それは言いすぎじゃあないかな。見たところ頭悪いどころか結構良さそうだけど。」


 「かまいませんよ、ヨウ様。これくらいじゃあ怒りませんから。それと、バカなのは本当です。」


 「カイエル様は幼い頃は本当に聡明な方だったのですが・・・」


 とプラムさんが続ける。


 「ある日頭を打ってしまわれたのが原因だと言われていますが、とても物覚えが悪くなってしまったのです。あまりに頭が悪くなってしまったため、王位継承権も外されてしまいました。しかし時々、感情の機微が原因のようですが聡明な頭になる時があるのです。私達はその状態を目が覚めた状態と言っています。」


 なるほど、さっき目が覚めたかどうか聞いたのはその事か。


 「目が覚めた状態になると、反対の眠っている状態の時の事も覚えているので、話すならなるべく目が覚めた状態の時をおすすめします。」


 カイエルの状態はわかった。なんだかカイエルもプラムさんも大変そうだ。俺も自分の状況を嘆いてはいられないな。頑張らないと。


 「ちなみにカイエル様が眠るようになってから、察知のスキルを取得したと言われています。」


 「察知って、何か周りのことでもわかるの?」


 「そのようなものですね。今日ここに来たのも壁崩しと呼ばれる、あのアイアンボアの存在を察知したからです。ただ、私達にあまり詳しく話せないというのが厄介ですね、頭が悪いので。何かを察知しては突然城を飛び出しては暴漢を殴ったり人攫いを蹴り飛ばしたり魔物をふっ飛ばしたりしているので国民には人気がありますが、まともについて来れる人も私くらいしかいません。カイエル様は馬より早く走りますからね。」


 馬より早くってのはすごいが、自分も人のことを言える状況じゃあ無いな。試してはないけど。


 「まあ、そんなカイエル様ですが、立場上友達が少ないのでこれからよろしくしてやって下さい。そちらも異世界から来て大変でしょうが。」


 「ええ、それはかまわな・・・プラムさん、なんで俺が異世界から来たと?」


 「ほほう、ヨウヘイは異世界から来たというのか。実に興味深いな。」


 カイエルさんもわかってなかったようだ。


 「フフ、見る人が見ればわかるのですよ。」


 そう言ってプラムさんは微笑む。あれだな、プラムさんは謎の人だ。


 「ヨウ様、プラムさんのことは私にもよくわからないので気にしない方がいいですよ。」


 「まあひどい。」


 「しかしヨウ様にこちらの友達が出来るのは良いことですね。あなた達はここに出入りできるよう結界を設定しておきましょう。」


 なかなか寛容な判断だな。なんだかんだ言って信用しているのだろう。それとも悪巧み出来ないと思っているのだろうか。




 それからしばらく話して2人は帰っていった。カイエルがいきなり、いわゆる眠った状態になったのには驚いたけど根本的な性格は変わってないように思えた。今日はいい出会いが出来たのではないだろうか。

 しかしアルの機嫌は直っていない。アルにとって余程楽しみだったのだろうか、今も少し拗ねた表情をしている。


 「アル。」


 ふと思いたち、俺はアルを呼ぶ。こちらを振り向くアルを抱きしめ、耳元で囁く。


 「機嫌直してくれ。」


 直った。


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