04話_初めての街
続きを一緒に書こうと思ったけど、思ってたより長くなったので分割します。
累計PV500ピッタシの時に投稿です
狩りをするようになって1週間程経った。最近は解体にも慣れてきて、少しくらいのことでは吐き気を催したり顔が青くなったりということはなくなっていた。
自分でもビックリする程適応してきているな。やはり食べ物のため、というのが大きいのだろうか。そんなことを考えていた朝食後、アルから提案があった。
「そろそろ街に行きましょうか。」
聞くところによると、街にはギルドという魔物退治専門の組織があり、そこに登録することで各地に出没している魔物の情報が聞けるのだそうだ。アルも登録はしているらしいが、一緒に行動するなら登録してしまった方が楽らしい。ちなみに成果や毛皮などの採取物によって報酬が出るらしい。
「これからは魔物退治ということだな。」
少し気を引き締める。同じグロでも大きさや形でダメージも違ってくるだろう。
「そうですね。でも楽にしていて下さい。あまり張り詰め過ぎると疲れちゃいますから。それに私がいますからね、絶対に大丈夫です。」
アルはエヘン、と胸を張る。こんなに可愛らしい仕草だが、その存在がとてもデカく感じられる。
「これから行くのは王都です。ここから一番近い街でもあります。名前はキシリアと言って、人間の街では一番大きな所です。少し準備をして来ますので待っていて下さいね。」
そう言うと部屋の中へ戻っていく。さすがに俺の創った服で街に行くわけにはいかないだろう。そう・・・だよな?
よかった。普通に鎧を着ている。
アルが今着ているのは胸の上から腰までを覆うブレストプレートとショルダーガード、ガントレットとサバトンが全て純白で構成されている。装飾こそ少ないが、それぞれが素人目にもわかるくらい滑らかで、とても力強い雰囲気を醸し出している。名刀とかそんなものを見た時のような畏怖さえ感じる程である。とても良い装備なのだろう。
スカート部分は白銀のように見えるが、布のように軽く動いている。ただし厚さはそこそこあり、金属では到底成し得ない動きをしているが、アルがそんなもの無意味に着るとも思えないし、あれは一体何で出来ているのだろうか。
鎧の下には青く動きやすそうな服を着ており、全体的なアクセントとなっている。
腰にはこれまた白い剣を下げており、全体的に見て凛々しい騎士のように見える。
「おお、かっこいいな!」
「にゅふふっ、そうですかぁ?」
俺が素直に思ったことを言うと、アルは溶けるようなだらしのない顔になって照れ出す。可愛いけど台なしだ。
「で、王都に行くんだったか。 人間の街では一番大きいってことは他の種族の街もあるのか?」
「そうです。ただ他の種族の街はさほど大きくもなく、自分たちで勝手に暮らしているという感じなんであまりおもしろくありません。やはり個が強いとそうなってしまうのでしょうかね。」
「そんなもんか。それでどう行くんだ? やっぱテレポートで行くのか?」
「いえ、今回は歩いて行きましょう。普通は歩いての移動になるのでこうしたのも経験ですね。あまり時間は掛かりませんが。」
以前アルが言っていたように、人間の魔法文明が廃れているのが表れているのか。ま、どいつもこいつもテレポートが使える世界なんて踏み入れたくもないわな。
「わかった。それじゃ行くとするか。」
俺が言うと、アルは自分の腕と俺の腕を絡めてくる。状況的には嬉しいのだろうが、歩きにくいのとブレストプレートが腕にあたって少々痛い。
アルはふと何かに気づくと俺の腕を離した。
「やっぱり、これ外したほうがいいですかね?」
そう言ってブレストプレートを指さす。
「外したら胸の感触が味わえますよ。」
「いや、いいから! そんな気を使わなくていいからね!?」
アルが何だか拗ねたような顔つきになる。否定しなければ良かったのだろうか。どちらにしよ腕を絡めたままでは歩きにくいので妥協案を出す。
「それじゃあ手をつないでいこう。それならいいだろう?」
俺が手を取ると、アルは少しはにかみ「仕方ないですねぇ」なんて言いながら隣にピッタリくっついてくる。これじゃあ腕を絡めるのと同じような気が・・・まあいいや。とりあえずこのまま王都を目指す。
2時間の間特に何もないまま歩いていると、向こうの方にでかい壁が見えた。周りにいる人と比較して高さは20mくらいだろうか。そういえばこっちに来てから初めて人間を見るな。
壁は見渡す限り続いており、端があるのか、どのような形になっているのかもわからない。よくもまぁこんなもの作ったものだ。壁の上には兵士の様な影がチラホラと見える所から、上に登って見張りが出来るようになっているのだろう。
そして何より特徴的なのは、一面鈍色で覆われているということだ。
「あれは、鉄板でも打ち込んであるのか?」
俺が聞くと、アルは「そのとおりです」と言い、教えてくれる。
「たまにですが、壁を破壊しようとする魔獣が出るらしいです。私はまだ見たことがないのですけどね。その魔獣から守るためには木や石じゃあ全く通じないらしいです。現状でもそこそこ時間があれば壊されるらしいですよ。なのでその前に追い払えるかどうかがキモでしょうね。」
こんな壁を壊すなんて大したものだな、などと考えつつ壁を目指すと、壁の一点に向かって馬車やら人やらが並んでいるのが目に付く。おそらく検問でも行なっているのだろう。俺とアルはその並んでいる人達の横を進んでいく。
「ってアル、並ばなくていいのか?」
「私は顔パスです。」
そこまではっきり言われたら何も言えん。俺たちはどんどん門へ近づいていき、検問を受けている人たちを横目に街の中へと入っていく。ああ、でも門番さんが呆然としている。それでも止めないのは顔パス故か。あれ、でもそれなら何で呆然としているのだろうか?
まあいい、ほっとこう。街に入るとまず目についたのは・・・空き地。壁の街側50m程が全て空き地となっている。
「なあアル、何でこんなに空き地があるんだ?」
「この空き地は魔物が入ってきた時に戦場となるのです。もちろん直ぐに足止めしないと意味は無いのですが、魔獣相手に街で戦うよりはこういった空き地で戦ったほうが何かと被害が少なくて済むので常に何もない空間が維持されています。街の中にも幾つか戦場用に空白地帯が用意されているんですよ。」
「そうなのか。こんなあからさまな空き地があったら勝手に建物とか建てられそうな感じがするけどな。」
「そんなことをしたら問答無用で取り壊されますよ。土地は十分にあるのですから、わざわざ争いごとを起こしてまで何かしようなんて人は滅多にいません。」
「たまにいるのか。」
「何事にも例外はつきものですよ。」
それもそうかと納得しつつ歩みを進める。建物に囲まれるところに入ると雰囲気が全然違ってくる。建物は基本的に木造で、土台に石が使われている程度。ただ、奥に行くほど石造りの建物は増えているようだった。一番壁側の家には尖った木で出来た柵が備え付けられている。
彼方に霞んで見える大きな建物は城だろうか。遠目でよくわからないが周りの建物よりもはるかに大きそうだしそういった類のものだろう。そしてもう1つ目立つのは青い建物。2つの三角形の頂点をちょっと重ねたような記号が壁についており、神官らしき人達が回りにいるので教会の類だろうか。
「壁側の建物に木造が多いのは何か意味があるのか?」
「先程も言ったように、魔物がこっち側に入ってくることがあるのですよ。その際石造りだと、一部が崩れただけで全部が崩れるなんて自体を引き起こしかねないのです。ですから壁側は基本的に木造のつくりとなっています。」
「なるほど、考えられているんだな。」
もちろん土地があってこそ出来ることだろうが。
周りを見てみると色々な人がいる。色とりどりの髪の毛を生やしていたり、耳まで覆うヘンテコな帽子をかぶっていたり、色々な鎧を着ていたり、動物の耳と尻尾が生えている人もいる。あれが獣人だろうか。
子供が保護者もなしにはしゃいでいるのを見ると、治安は良い方なのだろう。あちこちに屋台や露天商が出ていて非常に活気があるように見える。
「あそこですよ。」
と、アルが示した先には灰色の石造りの大きな建物。建物の形は四角く、特に装飾もない無骨なものである。ただ、道に出ている分だけで幅30m程はあり、他の建物と比べて1周り大きい。そして入り口にかかっている看板には網に入れられた蛇のような絵が描かれている。
「蛇使いでもいるのか?」
足を止めて聞く。
「いえ、あの絵はギルドの創設に関わるものです。そこら辺の話は今度人形劇があるのでそれを見た後でお話しましょう。」
「人形劇?」
「ええ。魔法を使って1人で沢山の人形を操るらしいですよ。」
なるほど、それは面白そうだ。
「それでは行きましょう。」
俺とアルはギルドの中に入っていった。
建物はかなり奥行きがあった。30m程奥に受付が見え、入り口からまっすぐ続く道を除いて手前にはテーブルや椅子が並べられ、鎧を着たゴツイ人たちがざわめいていた。通りすがる人に声をかけている人は、仲間でも探しているのだろうか。やはりというか、女性の比率は少ない。いるとしても結構筋肉質な人しか目につかない。アルのような存在は稀なのだろう。
俺はそんな中をアルに手を引かれて歩いて行く。というかもうほとんど腕を絡めている。歩くうちに、こっちを見る人が急に黙りこむのがわかった。その沈黙が伝播するように、直ぐにギルド内が静かになっていった。
何かあったんだろうか。アルが可愛いから、というわけでもなさそうだ。
受付までたどり着いた俺達は、1人の男に声を掛けられる。
「おう、リリーティア嬢じゃねぇか!! 一体だれだい、そいつは?」
でかい声をかけてきたのは作業服のような服を着た2m程もあるムッキムキの人。あまりにも筋肉がありすぎて服がピッチピチである。前腕の太さが俺の太ももくらいあるよ。どうすればこんなに筋肉を付けられるのだろうか。
そして特徴的なのが、見事にハゲわたっているその頭。光の具合によっては後光が差しそうである。
そんなことを考えている俺の様子に気づいたのか、ムッキムキの人はニヤリと笑いながら不機嫌そうな声で俺に声をかけてくる。
「オウオウ! 坊主、俺の頭に何か付いてるか!?」
なんという自虐ネタ。なるほど、この人はこうやって初対面の人とコミュニケーションを取っているのだろう。俺はその意を汲み、「いいえ、何も付いていませんよ。付いているはずのものもね。」と言おうとしたら、ムッキムキの人の首筋に白い剣が添えられた。
「何ヨウ様を脅しているのですか・・・?」
剣の主はもちろんアルである。こちらからもはっきりと冷たい雰囲気が伝わるほどの目でムッキムキの人を見据えている。その目はいささか黒ずんでいるようにも見える。そんな目で見られる本人の心境たるや、もう冷や汗ダッラダラに流して慌てている。
「い、いいいいいいいやいやいや、おおお、俺は決して、決しておどどおどおど脅そうなんなn・・・、」
全然舌が回っていない。両手を上げ必死に弁明するも、アルには全く通用していないようだ。仕方がないので助け舟を出すことにする。
「アル、とりあえず剣を下げて。この人は別に俺を脅そうとしていたわけじゃあないよ。むしろ気を使ってくれていたんだから、アルが起こる理由なんて全くないんだよ。」
「むぅ・・・そうですか。」
アルはしぶしぶといった感じで剣を鞘に収めた。何だか怒られた子供のような表情をしているのを見て、強く言ったつもりもないけど言い過ぎたかな、なんて考えを持ってしまう。
「まぁ、アルが俺を守ろうとしてくれたことは嬉しいよ。ありがとう。」
そう言ってアルの頭をなでると、アルは目を細めて気持ちよさそうにする。どうやら機嫌は直ったようだ。
「ふぅ・・・助かったぜ坊主。俺はマスゲ、ここの管理をしている者だ。マッスルなハゲでマスゲだぜ!!」
この人の親は一体何を考えていたのだろうか。それともこれもジョークの一貫なのだろうか。
「そ、そうですか。俺はヨウヘイです。今日は登録に来ました。」
ちなみにこっちでは日本語と同じ文字が使われているらしいが、名前は漢字で書かないらしい。なんでも変に気取っていると思われるとか。
「なんだそれを早く言え。それならここに名前を書いてこの水晶に触れ。」
マスゲさんが取り出したのは何の変哲もない紙と羽ペン、そして頭ほどもある水晶である。
「この水晶はな、ここのギルド創設者が残したマジックアイテムで査定の鏡っつーんだがこいつを触った奴の強さがギルドの裏でカードに反映されるってーわけだ。ここは実力主義だからな、強いやつほど優遇されるぞ。リリーティア嬢がSSSなんて出した時には故障しちまったもんかと思って焦ったもんだ。」
ガハハ、と豪快に笑うマスゲさん。今は笑っていられるが、当時は相当焦っただろう。話を聞く限りじゃあもうこんなもの作れそうにないしな。
それにしてもこの水晶は俺のスキャンを応用させたようなものだろうか。俺は名前を書いて水晶に触る。すると名前を書いた紙が水晶の中に吸い込まれていく。
「これでいいぞ。カードが出来るまで少し時間がかかるからな、ここの規則やら何やら話しとくか。」
とりあえずやっていいことと悪いことくらいは聞いといた方がいいかな。
「大丈夫ですよ、私が説明しておきますから。それにちょっとやそっとのことなら私がどうにかしますし。」
と、何やら物騒なことを言い出すアル。
「そ・・・そうだな。まあリリーティア嬢が言うんなら間違いないな。」
そこで納得するのか、マスゲさんよ。アルもアルで、一体何をすればここまで人を黙らせる事ができるのだろうか。
「いやーしかしリリーティア嬢が男を連れてくるとは思ってもみなかったな!」
マスゲさんが嬉しそうな顔をして言う。
「そうなんですか?」
「おうよ。なんせリリーティア嬢はここで登録してからずっと1人で行動してたからな。まあ、ついてける奴がいないってのもあるんだが。魔物退治だけやってりゃそれこそ沢山の人から感謝されるってもんだが、リリーティア嬢はそれだけじゃあなく国の色んな問題に力づくで切り込んでいったんだぜ! そいつがもたらす変革の速さたるや尋常なもんじゃあなかったな。1人で革命起こしてたようなもんだ。今じゃあ色んな人から紅風姫なんて呼ばれて憧れられたり恐られたりしているんだぜ。共通して言えるのは、誰もリリーティア嬢に逆らわないっつーことだ。」
アルは風の魔法が得意とか言ってたな。だから紅風姫か。それにしてもアルは俺が思っている以上にすごいやつのようだ。
「そのリリーティア嬢が男連れてデレデレしてるなんてなったら周りの奴ら固まって当然だろう?」
なるほど、周りの反応はそこから来ていたのか。アルは今も俺の腕に組み付いている。
と、そこまで話したところで裏手から女性の職員らしき人がやって来た。
「おう、カードが出来たか!! 名前と強さ位しか書いてないから確認させてもらうぞ?」
どうぞ、と言うまでもなくカードに目を落とすマスゲさん。その表情が一転して真剣なものになる。
「Sだと・・・? ヨウヘイ、お前さんなにもんだ?」
Sか。こっちに来た時にスキャンしたらAだったからいつの間にか変わっていたのかな。
「見た通りですよ?」
マスゲさんは困った顔をしたが、直ぐに気を取り直す。周りからは「やはりな・・・」とか「リリーティア嬢の連れなだけはあるか」とか「ククク、奴に勝とうなんぞ1000年早いわ」なんて聞こえてくるがほっとこう。
「そうか、まあリリーティア嬢の事もあるし絶対無いとは言い切れないな。ランクの説明だけしておくと、最低がEでそっからAまで上がっていってS,SS,SSSといく。SSSが最高だな。Eと言ってもひょろい大人やガキや、言っちまえば虫けらでも同じEだ。逆もまた然りってな。だからこの2つの力はある意味わかりにくいんだな。確かなのはEはザコで、SSSなんて相手にしようなんて思うなってことだ。今ギルドに登録している奴らでは、お前さんらを除いては最高がAだから期待させてもらうぞ?」
「がんばってみますよ。」
俺はカードを受け取って言う。いくら力が強くたって向き不向きがあるのだ。でも俺は自分のために頑張らなくてはいけないので素質がどうとか言ってはいられないのだが。
そういえば、スキャンと一致するかどうか確かめてみるか。
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玖珂 要平
種族:人間
属性:無
強さ:Sランク
HP :346
MP :198
ATK:188
DEF:223(+1500)
MGK:154
SPL:211
精霊とイチャついている異世界人。彼が男を見せる日は何時になるのか。
称号:
カオスドラゴンの守護
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解説変わってるし・・・。まあ、それはいいとしてこの称号ってなんだろう。後でアルに聞いてみるか。
「せっかくだから何か仕事受けていくか? 依頼は俺に聞いてくれりゃあ適当なものを幾つか見せてやるぜ!」
「そうだな、どうしようかアル?」
「もうお昼時なのでご飯食べてからにしましょう。その後にまた来ましょう。」
「それじゃあそうしようか。マスゲさん、また来ます。」
「おうよ! 待ってるぜ!!」
俺達はギルドを後にした。