表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/24

03話_これからするべきこと

 目を覚ますと見慣れた天井だった。俺はここだどこだかわかっている。生まれた時から住んでいる家なので当然だ。そしてこれから起こることもわかるし、これが夢だということもわかっている。

 俺はいつもの様に寝たふりをして時が過ぎるのを待つ。するとドアが開き、近寄ってくる影1つ。


 「ヨウちゃん、起きなさい!!」


 幼馴染の侑梨である。なんでも巫女をしているらしく朝早くに修行を始め、修行が終わったその足で家に来て朝食を作って起こしてくれるというなんともありがたい奴だ。本人は幽霊とか妖怪とかを倒すバトル巫女だー、なんてふざけた口調で言っていた。


 「むぅ・・・むむ、」


 いつものごとく寝ぼけたふりをする。昔からこうだ。2人にとってこれはお決まりの行動となっている、というより俺が続けていた。こうしてじゃれあっているのが心地よかったのだ。


 「起きなさい!!」


 ベシッ!


 「うぐぁっ!!」


 顔面にチョップを入れられて、俺は顔をさすりながら身を起こす。


 「あー・・・おはよ。」


 「ほら、シャンとしなさい、朝ごはん出来てるからね!」


 こっちを見ながら笑う侑梨に安堵感を覚える。肩くらいに揃えた黒い髪に、何だか自信に満ちた表情。もう学校の制服に着替えているようだ。つい昨日の出来事だというのに遠い過去のように思えて、思わずすがりつきたくなってしまう。

 侑梨が部屋を出ていく。夢の中だから引き止めることは簡単だが、それをすることはない。夢の中であって少しでも日常に身を置いていたかった俺は、弱い人間だな、と思う。


 侑梨に恋愛感情を抱いたことがあった。しかし本人にその気は全く無いようだし、侑梨が巫女だということも含めて全く手応えがないらしいとわかった俺は、早々に諦めた。

 下手に今の関係を下手に弄るよりも、ずっとこのままでいられたほうが幸せなのだろうと思っていた。しかし今の俺の状況を鑑みて、少し後悔する。こうなる前にもっと近づきたかった。一方で、これで良かったのだろうと思う。今侑梨は一緒にいないわけだし、受け入れてくれていたら悲しませることになっていただろう。どれもただの言い訳に過ぎないが。


 俺はベッドから起きだして、部屋の扉の外に出る。




 ・

 ・

 ・




 「ヨウ様、起きてください。」


 アルの声が聞こえ、もう朝なのかとわかる。昨日は日が落ちる前に眠ったから、かなり長い時間眠っていたのだろう。


 「ヨウ様ー、起きてますかー?」


 起きてますよ、と目を開けるとアルの顔が直ぐ側にある。俺は少々気まずくなって起きようとするが、アルが肩を抑えていて起き上がれない。えと・・・これは?


 「んにゅふふふふー、起きないとチューしちゃいますよー?」


 「い、今起きング」





 やっと起き上がれた。アルより長く寝ていた時点でこうなることは決まっていたのかもしれない。


 「アル、いきなりこういうのはビックリするから、な?」


 嫌なわけではない。むしろバッチコイ! である。

 しかしそうは言っても何か不安になってしまう。ひょっとしたらアルは俺に気を使ってこんなことをしているのではないか。ならば引き際を与えるのが当然である。


 「えっと・・・、ご迷惑でしたか?」


 アルが悲しそうな顔をする。そんな顔をされるともう諌めることすら出来なくなってしまう。ほとほと俺は甘いやつだと思う。


 「いや、そんなことはないよ。今回はちょっとビックリしただけだから。ほら、俺達会ったばっかりだから、こういうの来ると思わなくてさ。」


 アルは少しだけ考えた後こちらを向いた。


 「なら、予めわかっていれば問題ありませんよね。これからは今日みたいに起こします。これはもう決定事項です!」


 俺の意図は伝わったはずだと思うがな。・・・なんだろう、自惚れるつもりはないが惚れられているのかな? 原因は全くわからんが。

 そしてそういうアルの顔は耳まで真っ赤になっている。恥ずかしいなら無理することもないだろうに。


 「とりあえず、朝ごはんが出来ているので来てください。」


 朝ごはんか。そういえば昨日は一食しか摂っていなかったっけ。しかも暗くなる前に寝たもんだからめちゃくちゃ腹が減っている。


 「わかった。ありがとうね。」


 俺はそう言うと、アルと一緒に部屋を出た。




 「さて、これからのことについてですが」


 朝食後、アルは話を切り出した。ちなみに朝食は野菜のスープとパン。どちらも旨かったが、特にパンは柔らかく、ほのかな甘味があって元の世界でも食べたことのないくらい旨かった。腹が減っていたのもあって食いまくっていた俺を、アルがニコニコしながら見ていたのでちょっと恥ずかしかったな。


 「ヨウ様には自身を鍛えてもらおうと思います。」


 「ふむ、鍛えるのは構わないけど一体どういった理由で?」


 ここらへんでは大した身の危険が無い位強いと言っていたので、そんなに急に鍛えようなんて言うこともないと思うのだが。


 「それがですね、ヨウ様の存在はこの世界において非常に不安定な状態なのです。」


 「不安定ってどういうこと?」


 「ヨウ様は元々この世界の存在ではありません。なのでヨウ様を異物として排除しようとする力が働いているのです。今はまだそんなに強い力ではありませんが、このままではヨウ様がこの世界とは別の世界に飛ばされてしまう可能性があるのです。」


 それは困る。元の世界に戻れるというのならともかく、また別の世界に行くというのは勘弁して欲しい。むしろそっちの可能性のほうが高いだろう。


 「ですので、鍛えてもらいます。この世界で色々活動して、この世界に馴染めば飛ばされるなどという心配はなくなるはずです。」


 「なるほど、そういった理由なら何もいうことはない。自分のことだしね、迷惑をかけてすまない。」


 「いえいえ、いいんですよ。ヨウ様がいなくなるなんてイヤですしね。」


 「ありがとう。それで、具体的には何をすればいいのかな?」


 「とりあえずヨウ様にはグロ耐性をつけてもらいます。」


 え、グロ耐性?


 「この世界で活動するということは、戦いは避けられません。魔物はともかく、人とも戦わなければいけません。その時に可哀想とか、気持ち悪いとか、命を無駄に散らしたくないとか言ってたらその隙を付いて噛み付かれてしまいます。ですから戦いとなったら相手を躊躇なく殺せるよう、鍛えてもらいます。」


 なかなか厳しい事を言う。が、まったくもって反論の余地はない。相手が殺す気でかかってくるのならこちらも殺す気でかからねばならない。下手に手加減したり、相手を生かしたりすると反撃の機会を作ってしまうだけだろう。


 「いいですか? 殺すとなったら確実に仕留められるようになってください。逆に殺されそうになったら、どのような手段を用いてでも相手を殺してください。その心構えが無ければ死ぬ確率を増やしてしまうだけです。私としてもヨウ様にこの様な事はさせたくありませんし、出来れば安全な場所でのんびりと過ごして欲しいのですが・・・」


 そう言ってアルは俺の手をとって俯いてしまった。その手が微かに震えているの感じて、俺はこの先起こるであろうことに対して気を引き締めた。


 「かまわないよ。俺の問題なんだから、俺が頑張らなくっちゃいけないんだ。それにこの世界でずっとのんびり過ごせると思うほど馬鹿でもないつもりだよ。」


 「ありがとうございます。危険はありますが、私が側にいるので安心してくださいね。ヨウ様の命は私が全霊を持って保証します。」







 そんなわけで俺は今、家を少し離れた森の中にいる。ウサギでも狩って昼飯の足しにしつつグロ耐性をつけようということだ。

 ただ、結構時間が余っているということで魔法を教わることになった。


 「魔法というのは魔力を媒介として、世界に蔓延する現象や法則に介入したり、イメージを実現する力のことを言います。例えば、です。」


 そう言ってアルは2つの石を拾って見せる。


 「この2つの石を同時に落とします。」


 アルの手から2つの石が落ちる。当然のように2つの石はほぼ同時に地面へ到達する。


 「魔法を使わなければこの通りです。次に、魔力を用いて石にかかっている重力に干渉します。」


 もう一度2つの石を拾い、手を離す。すると片方の石はその場に留まったままで、もう片方の石はめちゃくちゃな勢いで落下して地面にめり込む。


 「これが重力に干渉した結果です。片方の石は重力加速度を取り除き、もう片方は増幅しました。つまり、世界の法則に介入した結果です。イメージを実現するのは、ヨウ様も体験したテレポート等が当てはまります。これは体内で魔力を一定の規則に従って練ることで、世界の法則をある程度破壊する力構成する必要があります。」


 テレポートというのは家に来た時に体験したあれだろう。


 「そして魔法を使うと魔力を消費します。魔力の消費量は魔法を使う人がその魔法が引き起こす現象についてどれだけ理解しているか、もしくはどれだけ世界の法則に則っているかによって決まります。」


 「つまり今の重力に干渉する魔法は、この世界に存在する法則を利用しているだけだから消費が少ない、というわけなのか?」


 「その通りです。ただ、あまり干渉を強めると消費量は多くなりますし、重力というものの理解によっても消費量は変わります。そしてテレポートのような魔法ですが、これは法則そのものを無視しているので消費量は多くなります。これも、どれだけ明確にイメージ出来ているかによって変わりますが。」


 なるほど、無理のあることや曖昧なことををしようとすればするほど消費量が多くなるということだな。


 「なぜこのように消費量が違ってくるか、これは魔法によって生じる世界の歪みを魔力によって正すため、と言われていますが正確な所はわかりません。」


 「そっか、まあ詳しいことがわからなくても使えるんなら問題ないか。」


 「それと、魔法は人間の間ではあまり広まっていないのが現状です。」


 「どういうこと? 魔法は人間に向いていないってこと?」


 「いえ、昔は結構優秀な魔法文明を築いていたのですが、一度人間が絶滅しかかった事がありまして、その時に魔法に関するノウハウが失われてしまったようです。」


 「絶滅って・・・、結構なことが起こったみたいだね。」


 「ええ、ですから魔法をあまり人に教えないようにして下さい。魔法に憧れている人は結構いますので。」


 たしかに魔法が使える、くらいならともかく教えてくれる、なんて噂が立ったらとても面倒くさい事になりそうだな。


 「わかった。注意するよ。」





 「さて使い方ですが、基本的にイメージです。自分が起こそうとしている現象のイメージと魔力を混ぜるようにしてから対象にぶつけて下さい。」


 随分大雑把だな。まあ、それで出来ると言うならやってみよう。

 俺は足元の石を拾い、重力加速度がなくなるようイメージする。増幅しないのは、手加減がわからないうちにやると痛い目を見そうだからだ。

 イメージと魔力を練る感じで石に伝えていく。すると石の重みがなくなり、手を離すとそのまま浮いていた。

 こんな簡単でいいのだろうか。


 「お見事です、ヨウ様。魔力を感じることが出来ているとはいえ、まさか1発で出来るとは思いませんでした。」


 「そんなにすごいことなのか、これ?」


 「もちろんです。普通の人にとってはイメージと魔力を練るなんてことは相当難易度の高いことです。もっとも、魔力を感じることの出来る人自体少ないのですが。それでは次に氷を出してみて下さい。」


 氷か。学校で教わったことを基にしていけば出来るのかな? 目の前に氷ができるようイメージと魔力を練る。すると拳大の氷が目の前に現れ、地面に落ちた。


 「それでは、今度はそれをあの木に向かって飛ばしてみて下さい。」


 そう言ってアルが指さした先には高さ20m程の木がある。氷は出せたけど、飛ばすってどういうイメージだろうか。風に乗せるだけじゃあ弱すぎるし、重力の方向を変えるイメージでも作ってみるか?

 俺はそのイメージを持ったまま氷を作る。すると氷は前方にちょっと移動した後落ちてしまった。

 考えてみれば当然のことで、木にぶつけるにはここから木まで道を作らなければいけない。しかしそんなことをやっていたら時間が掛かるし、動く相手にはまずぶつけられない。魔力の消費も多くなるだろう。


 「これは結構難しいな。」


 「落ち着いて考えれば大丈夫ですよ。ヨウ様の思い描く飛ぶ物をイメージしてみて下さい。」


 飛ぶ物・・・ね。あの木にぶつけるとしたらボールを投げたり蹴ったり、でもそれなら石でも投げてりゃいいからあとは・・・銃とか。

 そう思いたち、俺はスキルで銃を作ってみる。ワルサーP38、日本でも有名な部類に入る拳銃ではなかろうか。弾に硬い氷をイメージして、推進力は空気を爆発させることによって生み出す。木に狙いをつけて引き金を引くとガオンッ!! と大きな音を立てて木に氷弾がめり込み、銃は灰となって散る。


 「どうだ!?」


 うまく言った事に嬉しく思いアルの方をみると、呆然とした表情をしていた。が、直ぐに気を取り直したようだ。


 「すごいですね。このような使い方は初めて見ました。今のを創るスキルも含めて、ヨウ様にしか出来ない使い方でしょうね。」


 「ああ、今のは銃といってな、俺の世界の主要武器だ。」


 「なるほど。こんな使い方もあるんですか。工夫次第では色々なことが出来そうですね。」


 それからアルの指示を受けて練習を続けていき、弾をスキルで作成してその中に魔法の力を込められるようになった。氷弾が着弾した木が丸々凍ったのには驚いた。曰く、魔力の使いすぎらしい。




 魔法の練習を終えた後、俺達は森の中に分け入っていく。予定通りウサギを狩るためである。ウサギを狩るのには投げナイフを使う。血を見れないようでは今回の目的と外れてしまうからだ。


 「いました、こっちです。」


 早速アルが見つけたようだ。俺も索敵を展開しているが、全くわからない。それだけ広い範囲のことがわかるのはさすがだ。

 しばらく足音を殺しながら進んでいくと、確かにウサギがいた。こっちのウサギは向こうと何ら変わらず・・・あ、牙が生えてる。


 「こっちのウサギには牙が生えているんだな。」


 「あの牙は木の皮を齧るためのものですね。肉食というわけではありませんが、外敵と戦う時にもつかうみたいです。」


 逃げるだけじゃやってけないってことかな。こっちの動物は存外たくましいらしい。ちなみに魔獣と動物との区別は、積極的に人を襲うか襲わないか、もしくは強い力を持っているかどうかで決まるらしい。要するに生物学的には何ら根拠のある区分ではないわけだ。


 「それでは、お願いします。」


 言われて少し前に出る。体勢を低くして、ウサギに気付かれないようゆっくりと間合いを詰める。ウサギが俺の索敵範囲に引っかかると、俺とウサギの位置関係がはっきりとわかるようになる。

 投げナイフを手の中に創りだし、間に進路を妨げる物がないのを確認すると、投げナイフを思い切り投げつける。投げナイフはウサギの首に当たり、声も出させずに息の根を止める。

 投げナイフは崩れ、うさぎの首から血が滴り落ちてくる。ああ、体がまだピクピク動いてるし。


 「お見事です。」


 アルが近寄ってくる。かなり満足気な表情だ。


 「俺も、ここまでうまく当たるとは思わなかったな。」


 ナイフなんて投げた事がないのに、これである。あまりの出来の良さに自分でもビックリだ。


 「それでは解体に取り掛かりましょう。早く血抜きをしてしまわないと悪くなってしまいますからね。」




 牙が生えているとはいえ、見た目ウサギのものを解体するのはとても気が滅入る。アルの指示に従い、皮を剥ぐために腹に切れ込みを入れるとまだ柔らかい肉が露出して湯気が立つ。


 「う・・・ぐぬぬ・・・・・・」


 切れ込みを入れた所から一気に皮を剥ぐ時に感じる、肉と皮が分離する感触が俺の精神に直接響いてくるようである。

 肉を解体する時に出てきた内臓の匂いが俺の精神に直接纏わりつくようである。


 「ヨ・・・ヨウ様、大丈夫ですか。顔が真っ青ですよ?」


 「大丈夫・・・ダイジョウブ・・・俺はまだいける。」


 かなり強がってはいるが、こんなことで弱音を吐くほど俺は女々しくないつもりである。


 その日のお昼はなんとか美味しくいただけました。








 さて、家に戻った俺は今窮地に立たされている。アルが服用の素材を色々と用意してきたのだ。


 「どんなものが出来るんですかね、ワクワクします。」


 アルが目を輝かせながら言う。自分の思い描いたものは創られないだろう、と事前に言ってはいるが、昨日作ったゴスロリ服にたいそうご満悦のようで、これから何が創られるのかを期待してる。

 俺も創ると言ったからには全力でやらせてもらいますよ。早速やってみようか。



 俺はキングベヒーモスの皮を手に取った。

 巫女服が出来た。

 アルは喜んだ。


 俺はトライデントシャークの皮を手に取った。

 スク水が出来た。

 アルは顔を赤らめた。


 俺は虹色の糸を手に取った。

 ウェディングドレスが出来た。

 アルは狂喜乱舞を取得した。


 ・

 ・

 ・


 くっ、やはりまともなものは出来ないか。予想はしていたが、こうもコスプレのような物ばかり出来るとは・・・。

 大体9割がそうだ。残りはなんとかまともに見えるが、俺の想像したものとはかけ離れているのは言うまでもない。


 「ヨウ様、ヨウ様、これ、これ着ていいですか!?」


 ウェディングドレスを手に取りつつアルが興奮しながら聞いてくる。

 もう好きにしてくれ・・・。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ