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02話_拾ったのか拾われたのか

ヒロイン登場です

それにしても話の流れが飛び飛びに見えます。

どうすればいいのか・・・

 森を抜けた先は草原だった。ちょうど膝位の高さの草がはるか向こうまで続いている。非常に清々しい景色である。空を見あげれば、透き通るような青空にうろこ雲がずっと向こうの方まで続いている。とても気持ちのいい場所である。まるで森を抜けたことを祝福しているかのようだ。なんでこんな所にこんな陰湿な森があるのか。

 景色はいいが、道らしきものはない。ここをまた歩いて行くのかと思うとかなり憂鬱になってきた。それでも森を出た気持ち良さを満喫するために休める所を探そうとしたら、すぐ側に血まみれで倒れている人が・・・


 「っちょおおおぉぉぉっ!?」


 慌てて駆け寄った。と言っても5m程の距離だが。

 そこにいたのは長い赤髪の15,6歳程の女の子。白いシンプルな、ワンピースのような服を着ている。仰向けに倒れており、全身に切ったような傷や穿ったような傷があるため、ワンピース自体は殆ど赤黒く染まっている。


 「おいっ、生きてるか!?」


 そう言ってその子の側にしゃがみ込み、頭を左手で持ち上げる。いや、そうじゃなくてまずは脈とか呼吸とか確認しないと。

 まずは脈を調べるために首に指を当てようとした時、その子の目がかすかに開いた。

 どうやら生きているようだが顔色がものすごく悪く、死人と見間違えるほどでに青白い。俺はすぐさま右手にエリクサーを作り出し、口で蓋を開ける。


 「・・・ゃ・、・・・・・ぃ・・・」


 何かしゃべっているが全く言葉になっていないので何言っているのかわからない。そもそも言葉が通じるかどうかも疑問だが。


 「無理するな。とりあえずこれを飲め!」


 そう言ってエリクサー入の瓶を口元に当て、中身を流し込む。すると、飲んだ様子も無いのに顔色がみるみる良くなってくる。体中にあった傷も消えて行く。ものすごい効果だな、これ。死なない限りはなんでも治りそうだ。


 回復した女の子は驚いた様子で目を見開き、その赤いクリクリした瞳で俺の顔をまじまじと見つめている。様子を伺っていた俺も見つめる形となり、目を逸らすことも出来ずにしばらく固まっていた。

 だめだ、気まずい。このままずっと見つめ合っているわけにもいかないので現状をどうにかしようとして声をかける。


 「えっと・・・、大丈夫か?」


 もうちょっとマシなことを言えないものだろうか。何か他にいいセリフなかったかな?

 そんなことを考えていると、女の子の目から涙が溢れだしてきた。


 「えっ! ちょっと・・・ほんとに大丈夫か?」


 マシなセリフは思いつかなかった。俺のバカ。

 女の子はとうとう俺の胸にすがりついて泣きだしてしまった。考えてみれば無理もない、死にかけていたのだからよほど怖い目にあったのだろう。俺は辺りを警戒しながらも女の子の頭を撫でて泣かせるがままにした。





 「お見苦しい所を見せてしまって申し訳ありません・・・」


 女の子は落ち着きを取り戻すと、俺の目の前に正座して項垂れてしまった。言葉は通じるようである。よかった。しかしこのままというわけにはいかない。目の前で落ち込んでいる女の子を何もせずに見ているなんざ男がすたるというものである。別に男らしいことなど出来ないが。


 「とりあえず正座なんてしなくていいから。脚痛むでしょ?」


 俺がそう言うと、女の子は「申し訳ありません・・・」ともう一度言って立ち上がる。身長は俺の顎ぐらいまでだろうか。と言うことは、155cm位か? 赤い長い髪は腰のあたりまで伸びており、血がくっついているため今はボサボサだが、本来はきっと柔らかい質感をしているだろうと予測できる。色白でとても可愛い子だが、血まみれの現状が全て台無しにしている。


 「ちょっと、待っててね。」


 俺はそう言うとアイテムボックスから毛皮を取り出す。女の子が驚いた顔をしたが気にしない。

 これで服を創ってあげようと思うのだ。血まみれでボロボロの服のまんまというのはかわいそうだし、見たところ荷物を持っている様子もないので替えの服など無いだろうから。それに何かプレゼントしてあげたら落ち込んでる空気も少しは払拭されるではないだろうか。されるといいな。

 早速創ってみる。イメージとしては今女の子が着ている服の元の状態だ。何か勝手にデザインを決めるより着ている服と同じにした方がセンス的に確実だろう。そして一瞬で出来上がる。ゴスロリ服が。


 ・・・何故?


 そう、ゴスロリ服。黒を基調とした白黒でフリルは控えめである。はっきし言ってこんなデザイン欠片も考えていない。この出来上がりにそこはかとなく神のいたずら心を感じるのは気のせいだろうか。

 ともかくこれは失敗だ。こんなもの渡したら変な趣味の人と思われてしまうかもしれん。毛皮はまだあるし創り直そうと思った時、女の子の目線に気づいた。とてもキラキラしている。そして何かを期待しているような目で見ている。

 いや、これ失敗だからね? そんなに期待しないで。


 「わぁぁ、可愛い服ですね。」


 ぐっ、そんな目で見られたら・・・、そんな声で言われたら・・・。


 「え・・・っと、そんな血まみれの服じゃあなんだからこれに着替えて、その後ちょっと話しを聞かせてくれるかな?」


 言ってしまった。次創った時にまともな服が出来るとは限らないが、もう一回くらい試してみたほうが良かったのではなかろうか。

 服を差し出すと、女の子はとてもいい笑顔でそれを受け取る。着替えるだろうからある程度距離をおいて明後日の方向を向く。

 しばらく待っていると、「どうぞ」とすぐ側で声を掛けられたので振り向く。グッジョブ!! 神はいい仕事をした。あ、いや、俺にそんな趣味はないぞ。ない・・・はずだ。でも、これはこれで・・・


 「あ、あのっ」


 俺がどれだけ葛藤していたかわからないが、声をかけて正気に戻される。危なかった。もう少しで果てしない道に足を踏み入れるところだった。


 「助けていただいてありがとうございます。私、アルト=リリーティアといいます。」


 そう言ってアルトさんは頭を下げる。腰を90°曲げたせいで、長い髪がポロポロと垂れてくる。言葉は通じても名前は横文字のようだ。


 「頭を上げてください、アルトさん。俺は玖珂要平です。えと、名前は先か後かどっちですか?」


 そう言って、迂闊だったかと後悔した。普通の人から見れば何故そのようなことを聞くのかと疑問に思うだろう。不審者と思われても何らおかしくはない質問である。しかし、そうはならなかった。


 「名前が先ですよ。異世界の人。」


 なぜそこまでバレたし。俺が驚いていると、アルトさんは腕を組んで胸を張りフフンと鼻を鳴らす。


 「私ほどの者ともなればその位わかります。それと、アルでいいですよ、要平さん。それと敬語も結構です。」


 にこやかな口調で言うアルは、どうやら只者ではないらしい。例えば俺が元の世界で異世界の人を見たとしても、気が付かないか外人がいるな、位にしか思わないだろう。


 「そっか、なら俺にも敬語は必要ないよ。でもそんな凄そうな人が、どうしてこんな所で死にかけていたんだ?」


 これが疑問だった。なんせ近くに誰もいないし、アルを害する要因が見当たらない。ひょっとしたら何か得体の知れないものでもあるんじゃあないかと気が気でないのである。聞き方はまずかったかもしれないが。

 その質問に対してアルは気まずそうな顔をしながら言った。


 「えと、ですね。それは、気を抜いていたというか、油断していたというか・・・」


 どんどんと言葉尻が下がっていく。何か言い難いことでもあるのだろうか。ま、そこら辺を無理に聞くこともあるまい。


 「じゃあ、アルを害した原因はどこに? まさか襲ってきたりしないよね?」


 「それは大丈夫です。さっき追い払われていましたから。追い払ったのは私の協力者です。戻ってくることもないと思いますので、とりあえず場所を変えませんか?」


 それもそうだ。いつまでもこんな所で喋っていては日が暮れてしまう。どこか安全な場所に連れて行ってくれるなら素直に従うべきだろう。実は彼女が悪人で・・・っていうのも考えられないでもないが、なんとなく、それはないと思う。そう思う感覚が何なのかはよくわからないが、少なくともこんな可愛い子が悪人とは思えない。敬語に関しては華麗にスルーされているが。


 「そうだね。それじゃあ案内頼めるかな?」


 「お任せください。」


 そう言ってアルは俺の手を取る。





 すると目の前の景色が変わった。


 「あれ・・・?」


 俺は辺りを見回す。ここは森の中、と言っても最初の森とは違い木はまばらだ。大体10m感覚位で木が生えており、落葉した枯葉が少しさびしい雰囲気を出している。

 アルは手を取ったままである。そしてその後ろには周りの景色とは不釣り合いなくらいでかいログハウスのような家がある。日本の家10件くらい入るような、俺から見るとかなり大きい家である。


 「着きましたよ。」


 アルが微笑みながら言う。着いたって言ってもいつの間にこんな所に?


 「なあ、ここはどこだ?」


 未だ頭をキョロキョロさせながら聞く。


 「私の家です。先ほどの所からは2000km程離れているでしょうか。」


 2000kmとな。しかも単位が一緒っぽいし、どうなっているのだろう。それとも言い方がたまたま一緒なだけで実質は違うのだろうか。そんな俺の心境を察してか、アルが言う。


 「色々聞きたいこととかあるでしょうけど、とりあえず家の中にどうぞ。お疲れでしょう?」


 たしかに疲れている。体はそれほどでもないが、精神的に参った。こうも訳の分からない事がいっぺんに起こるとさすがにもうついていけないな。一休みしたい。


 「ああ、そうだな。おじゃまします。」


 今までの疲れを実感した俺は、やっと休めるという安堵からため息を漏らした。




 家の中は靴を脱ぐタイプだった。脱いだほうが落ち着くのでよかった。居間に通されソファーに座った後、アルは紅茶を入れてくれた。そして体を洗ってくるといったので俺はしばらく待つことにする。たしかに服以外は血まみれだったので仕方ないだろう。

 入れてくれた紅茶を口に含むと柑橘系のスッとする香りと微かな甘さが広がる。とてもうまい。考えてみれば起きてからエリクサー以外は何も口にしていなかった。そのエリクサーにしたって飲んでいる感じはせず、喉を通る前に消えていく感じなので飲み物としては使えない。


 やっと落ちつけた。力を抜いて背もたれに寄りかかり、改めて周りを見てみる。目新しいものはカーペットに用いられている何かとても白く、大きな毛皮くらいだろうか。壁には風景画と柱時計。時計は元の世界そのまんまの外見をしている。針の動く速さも同じくらいに見える。窓は壁の一面にあるがさすがにガラスがあるわけではない。そこそこ大きな窓だが受光量がそれほど多くないのは見ればわかる。ならば部屋が暗いかというとそうでもなく、天井全体がやさしく光っているので暗いなどという印象は全く持ち得ない。

 ソファーも机も、紅茶のカップも元の世界で探せば見つかりそうなものである。デザインとしてはシンプルだが丁寧に作られているのが俺でもわかるくらい素晴らしいものだ。

 落ち着いた雰囲気に安心感を持っていると、左手のドアからアルがやってきた。


 「おまたせしました。」


 アルは俺の正面に腰掛ける。腰まで届く赤い髪は先程とは違いサラサラになっていて、アルが腰掛けるだけで体の横を滑っていく。顔もすっきりして、可愛らしさが増して色気まで出ている感じがする。服は、先程のゴスロリ服。自分としては黒歴史となりうるので別の服にして欲しいのだが、本人が気に入っているのなら咎める気にはなれない。第一、咎める真っ当な理由が思いつかない。


 「さて、何から話しましょうか?」


 アルが首を捻って考える。かわええ。

 それはともかく、話の流れというのがあるので、ここは俺の話からするべきだろう。


 「それじゃあ、俺がこっちに来てからの話をするのでそっからいきましょう。」


 「わかりました。それではお願いします。」


 そうして俺は話し始めた。こっちの世界に来た時の状況や知り得た知識。能力のことは話していいものか迷ったが、信用して全部話すことにした。隠し事は苦手である。

 森の中でナイトウルフと戦ったことやどういった行動をしていたか、後は突如聞こえた大きな声の事も話した。最後にアルを助けた時のことを話す。


 アルは話を聞いた後、5分程考えこんでから口を開いた。その間俺は黙したままである。


 「話は大体わかりました。優秀な能力をもらったようですね。ナイトウルフなんかはその機動性からいって普通の人間1人では対処出来ない魔物なのですが、聞いた様子ならここらへんで大した身の危険は無いといっていいでしょう。」


 俺はそれを聞いてホッとする。正直、対処しきれない魔物にいきなり襲われたらどうしようかと思っていたのだ。地理もわからず、どこに何が出るのかもわからない状態がずっと続いていたらそのうち身動きが取れなくなるんじゃあないかと。


 「能力についてですが、スキルと呼ばれるものですね。人間は固有魔法と言っていますが、スキルは魔力を使用しないので魔法とは根本的に違います。

 要平さんの持っている中では身体能力強化とアイテムボックスが有名ですね。

 身体能力強化は騎士団や自警団のトップクラスなら大抵持っています、というか必須条件です。アイテムボックスは数が少ないですが、持っている人は商人をやっていることが多いですね。」


 魔法ではないのか。なんとなくそんな感じはしていたが。

 しかしさっきから話を聞く中でふと疑問に思うことがある。


 「なあ、さっきから[人間は~]と言っているけど、アルは違うのか?」


 「ふふ、スキャンしてみればわかるかもしれませんよ。」


 正直人に向かってスキャンするのはいかがなものかと思っていた。元の世界では個人情報がどうのこうのと厳しい世界だったからな。下手するとブタ箱まっしぐらだから慎重にもなる。


 「いいのか?」


 「大丈夫ですよ。誰のを見るにも了承を得る必要はありませんし、見ても誰もわからないでしょう。」


 つまりはそういう世界なのだろう。それならばとアルをスキャンしてみる。


*----------------------------

  アルト=リリーティア

  種族:龍の精霊

  属性:風

  強さ:SSSランク


  HP :1718

  MP :2230

  ATK:1292

  DEF:1511

  MGK:2783

  SPL:1377


  唯一人間の中で暮らしている龍の精霊。精霊の中でも強い力を持ち、人の世の平定に尽力している。あまりにも活躍しているために一部貴族等から疎まれているが、本人が強い上に怒ると何十体もの龍を召喚するため人間で逆らえるものはいない。


 *----------------------------


 ・・・パネェ。なんだこのステータス。平均300でドラゴン倒せるんじゃなかったっけか?


 「いかがですか?」


 「えと・・・、はんぱなく強いことはわかった。それで、龍の精霊っていうのは何かな? 自分のイメージじゃあ精霊っていうのは自然を象徴するようなものなんだけど。」


 そう言うとアルはニッコリと微笑む。


 「ほんとにわかったみたいですね。確かに要平さんの言ったような精霊もいますが空気のようなものなので気にしなくて結構です。私の場合は、龍という種族を象徴する存在だと思ってください。私も含めて全部で5人います。

 精霊というのは、力を持った知的生命体が種として存在が安定した時に現れるといいます。龍や魔族なんかはは強いので精霊が存在しますが、人間や獣人あたりでは出ることはありませんね。」


 「ふむ、そういうものなのか。」


 理屈はよくわからないが、そういう存在だと受け取っておけば問題無いだろう。


 「それでさ、アルはドラゴンを倒せるのか?」


 「余裕です。」


 フフン、と自慢げに鼻を鳴らす。人は見かけによらないというけど、これ程かけ離れているのは初めて見るな。


 「それと念のため言っておきますが、龍とドラゴンは全く別の存在です。人と猿くらい違います。時々勘違いする人がいるので念のため。ま、どちらも遭遇する機会は極端に少ないでしょうから気にしなくても大丈夫だとは思いますが。」


 「そっか。それと、人の世界で活躍しているみたいだけど。」


 「ええ、お恥ずかしい話ですが色々していますね。話せば長くなるのでまた後日ということで。」


 俺は頷いた。少々話がそれてしまったのでここらで修正する必要があるだろう。


 「スキャンで見えたことはこれくらいだな。それじゃあ話を戻して、俺が森で聞いた大きな声に何か心当たりはない?」


 「それが私の協力者でしょう。ちなみに龍です。私が攻撃されたのを察知して来てくれたのでしょうね。あとでお礼を言っておかないと。」


 あれは襲撃者を追い払うための声だったのか。追い払ったということは一先ず安心していいのかな? とりあえず今すぐ襲ってきそうなのはいないわけだ。


 「それじゃあ、2つ聞きたい事があるんだけどいいかな?」


 「もちろんですよ。」


 アルは快く頷いてくれた。


 「まずは、俺をこの世界に連れてきた神様のことを知りたいんだけど。」


 「おそらく創造神のことですね。この神についてはわかっていることがあまりないのです。

  と言いますのも、創造神が世界を創ったあたりのことしかちゃんとした記録がないのです。」


 つまり世界が創造された時の記録が残っているわけか。それはそれですごいな。


 「世界を想像した後、創造神は行方知れずということになっています。なのでどのような姿をしているか、どのような力があるのか、果てはどのような名前なのかすらわかっていません。なので今世界には色々な宗教がありますが、どれも偶像崇拝でしかありません。」


 宗教家が聞いたら大いに憤慨しそうな内容だな。この話が本当なら信仰を集めるために活動しようとしたのも頷ける。正体を明かさないのはどうかと思うが。


 「なるほど。しかし何故そう言い切れるんだ? 何も伝わっていないなら何が正しいかなんてわからないだろうに。」


 「ええ。しかしこれは創造神最初に創った生命体である魔王からの情報です。」


 魔王なんているのか? 何この世界。やっぱりかなり危ないんじゃあないか。


 「魔王・・・と言っても、俺の中では善人のイメージはないんだがな。」


 「そちらの魔王がどんなものかわかりませんが、こちらの魔王は世界の管理者といった立ち位置です。ま、世界に干渉することは滅多にありませんが、そこら辺からの情報が少し漏れていたりするんです。意図的に漏らしている情報もあったりするようですが、良くて雑学に使われる程度ですね。」


 なるほど、魔王は信用に値する存在のようだ。少なくともアルはそう思っているのだろう。ここらへんの認識は時間が経たないと馴染むものでもないだろう。


 「それと創造神ですが、異界の神と交流があるという噂があります。これは噂ですので確かな情報ではないのですが、その交流の影響で異世界の言葉や概念が入り込んでいるらしいです。」


 「それは俺とアルが普通に話せたりすることの原因なのか?」


 「おそらくそうです。噂が本当なら創造神と要平さんの世界の神様は交流があるのでしょうね。」


 なんということだろう。それが本当なら元の世界のファンタジーはこの世界の情報が入ってきたがゆえ、という解釈も出来る。ホント、とんでもないことになってきたものだ。


 「そっか、でも神様のことはもうほっとこう。どうせ何も出来なさそうだし。それともう1つなんだけど。」


 これが一番重要な問題である。帰れないとわかった以上避けては通れない問題。


 「どっか働けるとこないかな? ぶっちゃけ行く場所がどこもなくて・・・」


 人はいるらしいので野生生活は送らなくて済みそうだ。しかし、屋根の下で眠るにしても飯を食うにしても働いて稼ぐ必要がある。元の世界の概念が入り込んでいるのなら、貨幣くらいは流通していてもいいだろう。

 当面は食い扶持を稼がなくてはならない。落ち着いたらこの世界を見て回るのも悪くないかもしれないとは思っているが、それは生活基盤を安定させてからの話だ。


 「なら、ここに住めばいいですよ。」


 と、アルが言う。これはさすがに予想外だった。


 「1人暮らしだったもので、ちょうどいいですね。」


 「ちょっ・・・と待って。さすがにそこまで世話になるわけにもいかないよ。色々教えてくれただけでもすごい助かったわけだし、どっか街に案内してくれれば大丈夫だと思う。それに1人暮らしの女の子の家に転がり込むってのは、色々まずくない?」


 アルはむぅっと言う表情をした。何かまずかっただろうか。


 「そんなことを気にしていてはダメです。それに、ただお世話になるというのが気の進まない話だというならば、してほしいことがあります。それならば対等な条件となるでしょう?」


 なるほど、そのしてほしいこと如何によっては俺も気が楽になる・・・って、こんな考えが出ること自体、結局自分の事しか考えていない証拠なんじゃないだろうか。たしかに遠慮するべきような状況だが、あまり遠慮したらむしろアルに気を使わせる気がする。

 アルは歓迎してくれるようだし、ここはなんでもするという気概を持ってお世話になった方がお互い気が楽なのかもしれない。


 「わかった、それでいこう。それで何をして欲しいんだ?」


 アルは一旦立ち上がり、俺の隣に座ると手を取って言う。


 「私と契約してください。」


 契約? ふむ、なんのことだろう。別に命を取るようなことでもないだろうから断わるつもりなどないが一体何の契約なんだろう。


 「契約って、具体的にどういうこと?」


 「私と守護契約を結んでもらいます。これをすれば私は要平さんを守りますし、要平さんは本来相当な訓練が必要な魔法が使えるようになります。もちろん要平さんがこの世界に馴染むようお手伝いさせていただきますし、日常のお世話もさせていただきます。どうです、お得でしょう?」


 「そ・・・そうか。そこまでやってもらうっていうのは何だか申し訳ないな。で、俺は何をすればいいんだ?」


 ここまでやってくれるというのはありがたいが普通に考えればその対価は相当なものとなるだろう。腕の1本や2本ぐらいは・・・とういう覚悟でいた方がいいのかもしれない。

 しかし、アルの答えは意外なもので、


 「特に何も。」


 であった。


 「契約ってそうゆうことじゃないよね!? 今のだとそっちから見たら譲渡だよね!? こっちから見たら搾取って感じでイメージ悪いんだけど!!?」


 「ああ、なるほど。それもそうですね。」


 今気づいたとばかりの顔をしてポン、と手を打つ。一体どこまで本気で言ってるんだ、この子は?


 「私としては全く問題ないんですけど、そうですね・・・、それなら服を創ってくれませんか? 材料は私が用意しますので。」


 「服を?」


 はい、と言ってアルは着ている服を摘む。


 「こんな可愛い服売ってないんですよ。」


 俺の中の何かが警告を発する。黒歴史が増えるぞと不気味な声をあげる。それは俺でさえ感じたことのない心の深淵から届いているような、曖昧ではあるが確信に満ちた響きである。

 これはきつそうだ。しかしなんでもすると覚悟した手前、こんな所で挫けるわけにはいかない。男ならば、たとえ辛い道だとわかっていても進まなければならないことがあるのだ。それに俺が辛いと思うだけでアルが喜んでくれるのならそれでいいじゃないか。


 「わ・・・わかった。お望みとあらばいくらでも創ろう。」


 「ありがとうございます、要平さん!!」


 ああ、笑顔が眩しい。眩しすぎて今まで悩んでいたことなど全て吹っ飛んでしまいそうだ。この笑顔と俺の悩みの原因が一緒ではあるが。


 「それでは早速契約を済ましちゃいましょう。」


 アルが両手で俺の顔を固定する。そしてそのまま近づいてきて・・・


 「えっ、ちょっ、ちょムグ」


 アルが俺の口に吸い付いてきた。かなり動揺したがこの状況って嬉し恥ずかしという生ぬるい状況でもなくいや冷静に考えれば俺は冷静に考えられていないわけであり自分でも何考えてるかわからないままアルの柔らかい唇を意識した辺りで顔がすごく熱くなってくると今更ながら体が硬直しだしてちょっと一回離して話を聞いてみたたほうがいいかななんて考えたかもしれないけど抵抗する気はさらさらなくてむしろもっとこうしていたいわけだけどなされるがままの俺にはこの状況を一体どうしろというツッコミすら与えてくれる人もいないわけだがそんな考えも舌を入れられたあたりからどうでもよくなってきて・・・








 何かが体を巡っていのがわかり正気を取り戻した。アルのキスは未だ続いていて顔が耳まで赤くなっているのが自覚できるがさすがにこの異変に気づかないほど鈍感でもない自覚はある。

 体中に脈をうつこともなく流れる何かがある。心臓のあたりから体中を巡りまた戻る。温かいような冷たいような重いような軽いような変化しているようなしていないようななんとも不思議な感じがする。

 そして理解した。ああ、これが魔力というものなのだと。これを使って何かできる気がした。これを使っても何も出来ないような気がした。

 アルの力を感じた。おそらく、アルが自分の力を流してこの力を知覚させたのだろう。

 しかしこうするなら事前に言ってほしかったものである。


 「んっ・・・・・ちゅ・・・むぅ・・」


 アルにキスはまだ続いている。そう考えるとまた頭が混乱しそうになる。この力の流れる感じにも慣れてきたし自分の力も感じるようになってきたのでそろそろ終わるだろう。



 完全に自分の力のみが巡っているのがわかる。これ以上やる必要もなさそうだ。もうそろそろ終わるだろう。



 「はむっ・・・・ふ・・・ちゅっ・・・・・」


 あの・・・アルさん?



 それから10分程経ってようやくアルが離れた。2人とも口の周りがベトベトになっている。俺は袖でよだれを拭いてから聞いた。


 「えっと、契約って、これでいいのかな?」


 同じくよだれを吹き終わったアルが答える。


 「ええ。もうすっかりたんの・・・じゃなくて契約は完璧に完了しました。」


 何か別の意見が混ざっていたような気がするが、まあいいか。


 「いきなりですみません。こういうの初めてだったので・・・その、ご迷惑でしたか?」


 「いやいやそんなことないよ。むしろごちそうさゴホンゴホン、気にしないでくれ。」


 「そうですか、よかったです。」


 そう言って微笑むアル。バレた。今の本音は絶対にバレた。


 「これからよろしくお願いしますね、ご主人様。」


 「ちょっと待て、なんだその呼び方は。」


 「契約したから、あなたは私のご主人様です。」


 さも当然のように言う。ああ、本気で頭が痛くなってきた。


 「ご主人様ってのはやめてくれないかな。慣れそうにない。」


 「そうですか。それではヨウ様と呼ぶことにします。」


 「できれば様ってのも」


 「外せません。」


 さいですか。


 「それではとりあえず体を洗ってきてください。食事の用意をしますので。」


 「あ、ああ。すまないな。」


 もうなんでもいいや。


 言われて向かった先は風呂だった。てっきり水浴びくらいかと思っていたらお湯が出たのでびっくりした。ボタンを押して出るこのお湯は、魔法で出しているのだそうだ。便利だな。

 ちなみにトイレも水洗だった。この流れゆく先は一体どこに繋がっているのだろうか。



 肉が出て苦労した食事を終え、俺は部屋へと案内された。


 「この部屋を使ってください。何か必要な物があれば言ってくださいね。すぐに取り揃えますから。」


 部屋は10畳位の広さで窓際にベッドがあり、机と椅子、タンスとクローゼットまでついている。正直俺にはもったいないと思える部屋だ。


 「いや、十分だよ、ありがとう。」


 アルは「何かあったら呼んでくださいね」と残して隣の部屋に入っていった。そこがアルの部屋なのだろう。それを見届けると俺はベッドに横たわる。


 疲れた。今日は色んな事がありすぎた。

 それにしても何故アルはこんなにも俺のことを気にかけてくれるのだろう。アルはそのことをいう機会があったにも関わらず言わなかったように思う。ならば追求するのはよそう。気にならないわけではないが、俺はもうアルを全面的に信用することにした。ここまで気遣ってくれる意志を無碍にはできないし、側にいるとなんだか安心できる存在だ。妙な軋轢は生みたくない。


 そんなことを考えながら、まだ明るい時間にも関わらず俺の意識は落ちていった。


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