表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

01話_グロ耐性など無い

早速の感想ありがとうございます。

このまま続けられたらいいなと思います。

 鳥居を抜けた先はとても深い森だった。とても濃い緑の匂いがする。それも森林浴とかそんなこと言っているレベルではなく、ここまで来るとむしろ緑臭いといった感じだ。上を見上げても木の葉しか見えない程木が密集しており、辺りは暗い。しかしそのおかげで足元には草が生えておらず、湿ってはいるがわりかし歩きやすい。

 それにしても寒い。今が昼なのか夜なのかはわからないが、光の届かない所というのはかなり冷え込む。

 さっき光って見えていたのは鳥居が光っていたのだろう。でなければこんな暗いところの景色をはっきりと見れるわけがない。後ろを見ると鳥居は消えていた。いや、こちらから見えないだけかもしれないが、少し探ってみても何もない。もう戻れないというのは確かなようだ。


 とりあえずどの方向に進めばいいかと考えた時、一匹の猫が走り去っていくのが見えた。はっきりとは見えなかったが、多分家猫の類だろう。それがこんな所にいるということは、ひょっとしたら近くに家でもあるのかもしれないと思い、猫の走り去っていった方角に向かって歩き出す。

 ふと、今持っている刀の切れ味はどの程度のものだろうかと思う。

 せっかく思いついたのだから、目印をつける意味合いも含めて側にあった木を思い切り切りつける。すると僅かな手応えを残した後刀が灰に変わり崩れ落ちる。その後に、切りつけた所を境として木が崩れ落ちる。

 威力高すぎないかこれ? 一度で消えてしまうというデメリットなど無視できる位すごい。これが身体強化の賜物なのか武器の威力なのかは判然としないが。


 木が切れることはわかったので、後はナイフを創っては木を傷つけ、また創っては傷つけを繰り返し進んでいった。このアイテム創造という力に回数制限があるのかどうかはわからないが、こんな深い森の中、目印もなしに進んでいけば迷うこと間違いないのでこまめにつけていく。

 まあ、後戻りしても深い森の中という事実に変わりはないが。


 1時間程まっすぐ歩いただろうか。いや、方向がわからないのでまっすぐ歩けているはずもないのだが、とりあえずまっすぐだろうと思う方向に歩いてきた。ナイフが創れなくなるなんてことにはなっていないが、前方に何か動くものが見えた気がして足を止めた。

 目を凝らしてよく見てみると、なにやら黒いものが蠢いている。


 ・・・まいったな。ここにはあまり危険な生き物はいないと思っていたんだけどな。


 もちろんそんなことは楽観論に過ぎなことはわかってはいるが、いままで鳥や虫の声ぐらいしか聞こえていなかったので油断していたのは確かだろう。向こう側もこちらが気づいたことに気づいたらしく、少しずつこちらに寄ってくる。


 見えたのは黒く大きな4足歩行の何か。体高1.5m位だろうか。全身の黒い毛皮は体の後方に流れており、細い頭と光る黄色い目をこちらに向けている。足も尻尾も細く、その長い尻尾を器用に体の周りに浮かせている。薄く開けた口から鋭い牙と真っ赤な舌が見える。

 俺がそのように見ている間にもそいつはゆっくりと、無駄のない動きでこちら見据えて向かってくる。まるで、お前が逃げても簡単に追いつてみせる、とでも言っているかのように思える。

 事実、俺はこいつから逃げられないだろう。こんな密集した木の中を走れる自身はないし、向こうのほうが明らかに足が早そうだ。


 普通なら逃げようが立ち向かおうがこんなものに対抗でき用はずもないのだが、俺にはさほどの脅威に感じなかった。強大な獣を前にしているよりもむしろ巨大なぬいぐるみを見ている感じになっている。だからこそ、ここまで落ち着いていられるのだろうが。


 そこまで考えて、スキャンすればいいのではないかと思いついた。スキャンは相手に対して使えなければ全く意味のない力だろうからちょっと試してみよう。



*----------------------------

  ナイトウルフ

  種族:狼

  属性:無

  強さ:Bランク


  HP :80

  MP :21

  ATK:74

  DEF:155

  MGK:9

  SPL:315


  深い森の中で自在に動き回れる細い体と俊敏な動きにより獲物を狩る。さまざまな障害物をもろともしないその動きから逃げ切ることはほぼ不可能といえる。

  基本的に単独行動をしているが、血の匂いにつられてあっというまに移動してくるので注意が必要である。


 *----------------------------



 どうやら本当に逃げられないらしい。ここで倒しても後から寄ってきそうなので気絶とかさせて平和的に解決したいところだが、俺にそんな技能があるわけもないので倒した後にさっさと逃げることにしよう。生き物を自分の手で殺すなんてことは気が引けるが仕方がない。


 ナイトウルフは、俺との距離が20m程まで詰まると足を止めた。どうするのか見ていると、突然地面が爆ぜたような音を立て、ナイトウルフが俺の右前方の木に向かって跳んだ。跳んだ勢いで器用に木の幹に着地し、木が軋む。木が軋んだ反動を利用して俺の目の前を横切るようにして跳ぶ。と、ここで尻尾を俺の側にあった木に尻尾の先を引っ掛け、そこを支点にして回転して俺に迫る。そして右前足を俺の左から首元に向かって打ちつけようとする。

 恐るべき急加速、急制動だが俺はそれを若干スロー再生のような感じで見ることができた。俺は打ち付けられる右前足に対し、右足を少し開いて腰を落とし、左手を顔の横側に裏拳のように出してナイトウルフの右前足に打ちつける。


 ボフンッ!!


 という大きな音がしてナイトウルフの右前足も、回転していた体も完全に止まった。さすがに多少重い手応えを感じたが、気にすることなく右手の中に刀を創ってナイトウルフの首に向かって切り上げる。

 ナイトウルフの首が飛び、刀が灰となって散る。飛んだ首の断面は全体的に赤く見え、中央には骨だろうか、何か白いものが見える。そしてその周りにある数本の管のような断面を見て・・・


 「グ・・・グロッ!!」


 思わず飛び退いた直後に首から赤い血が噴き出る。辺りを満たす鉄の錆びたような匂いに胸がむかついてくる。ふと目線を逸らすと、先程飛んだ首が地面に落ちており、力なく開いた口からは血と舌が垂れていた。そしてその目はまるで俺を見ているかのようにこちらに向いている。

 やばい、吐きそうになってきた。歯を食いしばって耐えようとするが、胃液がどんどん上がってきているのを感じる。何か酔い止めのようなものは・・・と思い、アイテムボックスに入れていたエリクサーを試しに飲んでみる。


 「・・・ふぅ、効くなぁ」


 吐き気が一気に無くなった。怪我でも直すのに使おうかと考えていたが、思わぬ使い道があったものだ。ただ、吐き気が無くなったからといって死体が消えるわけでもないし、殺した嫌悪感が消えたわけでもない。この世界にいるとこういった事に慣れていかなければならないのだろうか。

 死体を見ないようにしながらこの後どうしようか考え、採取の能力を使えば死体がなくなるんじゃなかろうかと思いついた。少なくとも死体がそのまんま転がっている状況を打破することはできるだろう。


 俺は、綺麗に殺したばかりのためかピクピクと痙攣しているナイトウルフの死体をなるべく見ないように手をかざし、採取するよう念じた。するとアイテムボックスに毛皮、牙、爪が幾つか入っていくのを感じた。OK、これで大丈夫なはずだ。まだ血の匂いは消えていないが。

 視線を移すと毛皮、牙、爪が綺麗に剥がれた状態で肉も血管もそのままの状態でいるナイトウルフの体と顔が・・・



 吐いた。



 いくらなんでもこれは酷い。素直に解体したほうがグロが少ないように思えるほど酷い。採取の能力は確かに便利だが、何もかも処置してくれるわけではないらしい。

 エリクサーで体調を整えた俺は、足早にその場を後にした。死体の処理は他の魔物がやってくれるだろう。何せ食べやすいように肉がむき出しになっているのだから。俺も食料を持っていないが、今はとても何か食べる気になれないし、肉を取っておこうという気にもなれなかった。



 しばらく歩いていると体が冷えてくるのを感じた。少し汗ばんでいるらしい。早足で歩いてきたのもあるし、先程の死体を見てから落ち着いていないというのもあるだろう。

 そういえば毛皮を手に入れたのだから上着を創ればいい。せっかくの命だから有効活用しなければもったいないしな。それならば肉を食え、という話ではあるが、しばらくは見るのも嫌だ。ほんと、ゴメンナサイ。

 そもそも寝間着のままだったのだ。何故か靴は履いていたが。今思えば木から何か出来たのではないかとも思うが、それはさておこう。


 アイテムボックスからかなりでかい毛皮を取り出して、ジャケットを思い浮かべながら創り出す。すると真っ黒のジャケットとズボンが出来た。ズボンは毛皮が余ったおまけかもしれないし、自分が無意識のうちに欲していたのかもしれない。後で創ろうとは思っていたから。

 ジャケットは完全な真っ黒というわけではなく、ナイトウルフを記号化したような絵が左胸に青く刻印されている。完全に黒いとセンス的にいかがなものかと思ったので少しだけ助かった。全部黒いと怪しすぎるからな。

 出来た服を着てみるとかなり暖かい。本物の毛皮なんぞ元学生たる身分の自分は着たことがないのでわからないが、元の世界で作られているものもこんな感じなのだろうか。


 ついでに牙を使ってアクセサリーを創ってみる。能力強化、なんて創りたかったが無理そうなので索敵できるキーホルダーを創ってみた。キーホルダーなんて使い道があるかどうかわからないが。

 効果を試してみると、索敵範囲の30m以内に何かが大量にいるのを感じて慌ててしまった。いつの間に囲まれていたのだろうか。辺りを見回しても何も見えない。

 恐る恐る索敵の引っかかった所を調べてみると、なんのことはない、虫が引っかかっていたのだ。ほぅ、と安堵の息を漏らすと共に、このままではゾワゾワして気持ちが悪いので虫を索敵から除外できないかと考えたら、何かがいるという感じが全て消えてしまった。どうやら虫を索敵から除外できたようだ。


 創った服は頑丈そうだし、これで多少は安心かな。思えば今まで随分と無防備に進んでいたものだ。危険な場所だとわかってはいたつもりだが、サバイバル経験もキャンプの経験さえも無い俺では必要なことに何も気が付かなかった。今でも何か足りないものがあるかもしれないが、特に思いつくことはない。考えながら進んでみるか。


 と、その時


 『グオオオオオォォォォァァァァ!!!!!!』


 「うわっひゃぁ!!」


 ものすごい声が聞こえて思わずおかしな声を出してしまった。

 どのぐらいすごいかというと、目の前に雷が落ちたんじゃあないかというくらいすごい。声の衝撃か、木の葉が激しい音を立てながらざわめき、枝の軋む音が聞こえる。

 それからしばらく立ち止まっていたが、何かが来たり暴れたりしている様子は内容だ。声が響きすぎて果たしてどっからあんな声が聞こえたのかはわからないので、慎重に先に進むことにした。


 それから随分と歩いたがまだ森を抜けることは出来ない。起伏もなければ何か変わった目印があるわけでもない森の中を延々と歩き続けるのは本当に疲れる。ナイフを採取した牙で創り、木に目印を付け続けてはいるがここまで来て意味があるのかどうかは正直疑問である。ただ、何かやっていないとやるせないのも確かだ。

 血の匂いでも付いていたのだろうか、ナイトウルフも何回か現れた。索敵が出来るようになったおかげで不意打ちは食らっていないが、エリクサーは必需品である。これがなければ今頃胃の中の物を全部ぶちまけている。あまり吐き過ぎると血を吐くらしい。気をつけよう。

 そして今も後ろから存在を感じる。今までと違って動きが遅いなと思いながら振り向くと、やはりナイトウルフがいたがそのまま去っていった。


 はて、今までは本当に木の存在をまるで気にしないほどの速さで突っ込んで来たのだが。

 気にしないことにして更に進むと、正面に光が見えるようになってきた。

 明るいところに出たのは何時間ぶりだろう。先程ナイトウルフが去っていったのは、おそらく明るいところが苦手なためであろう。


 俺は早く森を抜けたくて、若干早足になりながら進んでいく。

 木の密度が減り、下草が生え、風を感じるようになった頃、俺は森を抜けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ