エピローグ
目を覚ますと、アルに謝られた。
「ん、アル・・・どうした?」
自分でははっきり目が覚めたつもりだったけど、大して覚めていないらしい。泣いて謝るアルの頭を撫でつつ、どうしてこんなことになっているのか考える。
・・・そういえば俺に話せていないことがあるって言ってたっけ。多分それ関係なんだろうけれど、謝られてばかりじゃあ何だかよくわからない。けどまあ、アルが落ち着くまで待とう。
「2人とも、我らは帰らせてもらうぞ。」
そう言ってカイエルとプラムさんは帰っていった。とは言っても来た時のことを知らないんだけど。
2人が帰った後、アルが語り始めた。日本で起こったこと、こっちに来てからやったこと。俺だったら言うのを躊躇うようなことを色々と教えてくれた。
「ごめんなさい・・・全部私が悪かったの・・・。ごめんなさい・・・・・・でもお願い。嫌いにならないで・・・。」
何だか悪い方向へと考えが進んでいるようだ。まずはこの勘違いを正さなくちゃあいけないな。
「アル落ち着いて、顔を上げて。」
ピクリ、と反応してアルが顔を上げる。俺はアルがなるべく落ち着くように微笑みかける。
「アル・・・侑梨かな? いや、今はアルでいいか。話を聞いて、驚いたよ。でも、驚いただけで別にアルを責めるような気持ちはないから。」
「ふぇ・・・え・・・?」
呆けた顔もまたかわいいな。何か追加で言ってからかいたいような気もするけど、とりあえず我慢だ。
「アルの話を疑うつもりはないから、俺は本当に一度死んだんだろうと思う。だけど俺は今ここにこうして生きているし、死んだなんて言われても全く実感が沸かないんだ。俺としてはむしろ、いきなり別の世界に来たり侑梨がアルになってたりの方が驚いたよ。」
アルとしては本当のことを言った途端に死んだ時のことを思い出す、なんて考えていたのかもしれないけど、そんな様子は全くない。俺の記憶は、家で寝て覚めたらこっちにいた、ということだけだ。
「こっちでの生活は楽しいよ。そりゃあ色々と辛いこともあったけど、それ以上にこっちに来れて良かったって思えるようなことがあるんだ。だから、ワガママだと言って謝らないでほしい。」
「うぅ・・・そうかもしれませんけど・・・。」
辛い目とかそういうんじゃなくて、ただ日常を壊したことに対して謝っていたんだろうと思う。だけどそこは、アルがつきっきりでサポートしてくれた。だからそんなことでいちいち怒るつもりなんて無い。
「それと恋愛ごっこ、だなんて言って欲しくなかったな。俺はアルのことが好きだよ。本気で好きだし、俺も好かれてると思ってた。でも、それは違うのか?」
「そ・・・そんなことありません。私はヨウ様が・・・ヨウちゃんが大好き!! ずっと一緒にいたいって思ってる!! だから、だから私は・・・・・・うぐっ、ひぐっ」
やばい、泣かせちゃった。ちょっときつい言い方だったかな。
「ご、ごめん、アル。ちょっと言い過ぎたかも。なんだかからかってみたくなっちゃってさ、うん。」
俺はアルを抱きしめてなだめる。いつもより小さく感じるこの体を、包み込むように抱きしめる。こんな小さな体でがんばってきたんだな、そう思うと愛しさがこみ上げてくる。
これから俺とアルの関係は一体どうなっていくのだろうか。しゃくりあげているアルを抱きしめながら窓の外を見る。寒空の中を1つの影が飛んでいた。あれは・・・龍かな? 見たことないけど、何だか人のような感じもする。遠くてちょっと良く見えないな。でも龍か・・・今度アルへのお礼も兼ねて会いに行ってみようかな。
「フハハハハハ、こんな所におったか!!」
カイエルが叫びながら剣を携えて突っ込んでいく。カイエルが突っ込んでいった先にはクリスタルゴーレムと言う、全身が水晶で出来た綺麗な人型の巨体が待ち構えていた。
俺とアルはギルドの依頼で倒しに来たわけだが、そこでカイエルとプラムさんに出くわした。
ゴーレムというのは魔法が繁栄していた時代の古代遺産らしく、魔導核と呼ばれる核を用いて無機物を動かす技術のことらしい。今では作ることが出来ず、時々こうして出てくるのは時を経て暴走したものなのだとか。魔導核を使わずに模倣しようとする試みもあるようだが、成果は芳しくないらしい。
ゴーレムを倒す時は当然、魔導核を狙わないと何時まで経っても再生する。要するに魔導核さえ壊されなければゴーレムはいつまでも戦えるので、普通はいかに魔導核を見つけるかが戦いのキーとなる。
だけどこのゴーレムは、中まで丸見えである。魔導核もちょうど心臓に当たる位置に入っているのがわかる。どうやってあんな所に入れたのかはわからないが、位置を特定させてもなお有用なほど頑丈なものだと言えるのだろう。
「うおりゃぁぁぁぁぁ!!」
カイエルがゴーレムに跳びかかり、肩口あたりに斬りつける。
パキィン
軽い音を立てて剣が折れた。ま、当然の結果と言えるかもしれないが。
カイエルは剣が折れたのも気にせず、ゴーレムを蹴って距離をとる。クルクルと空中で何回転もして、ついでにひねりも加えつつ華麗に着地する。この世界で体操競技があるのかはわからないが、鎧をつけたままこんな動きが出来るのは見事としか言い様がない。
「今の動きは凄いですね。」
アルが思わず絶賛する。そして俺は10点のボードを創って掲げる。
「ヨウヘイさん、なんですかそれは?」
プラムさんが聞いてくる。そりゃあこんなことされたってよくわからんだろう。
「気にしないで下さい。単なるノリですから。」
「そう・・・ですか。」
ボードを処分しつつ適当なことを言っておく。あまり納得もしていないようだから後で色々突っ込まれるかもしれないな。
「フハハハハ、やるではないか!! 面白い、剣がなくとも貴様なんぞ破壊してやるわ!!」
「落ち着けカイエル、殴って壊せるわけ無いだろう。とりあえずこれを使え。」
俺はカイエルに巨大なハンマーを渡す。こういったものを壊す時ってハンマーの方が似合っていると思うんだ。
「うむ、すまぬなヨウヘイ。使わせてもらうぞ。」
カイエルはハンマーを手に取り再び駆け出す。ゴーレムの方はと言うと、こちらを攻撃しようとしているらしいが足が遅くてこっちのペースについて来れてない。ゴーレムって元々は土木作業用に作られていたらしいんだけど、暴走したら立派な殺戮兵器だ。だから次第に拠点防衛用に用いられるようになってきたらしい。
これくらい遅ければ落とし穴でも掘って埋めるなんて出来そうだけど、ゴーレム自身で穴を掘って地上に出てくるので破壊するしかないらしい。そのうえ重心が極端に下の方にあるので転ばすのも難しいとか。
「ぬうおおおぉぉぉぉ!!」
ドガァッ!!
カイエルがさっきと同じく肩口にハンマーを叩きつけると、今度はゴーレムの腕が見事に外れる。
「フハハハハハ、覚悟ぉぉぉぉ!!!」
叫びながらゴーレムの各部分を叩きまくってバラバラにすると、カイエルは満足したように一息ついた。
「いやいや、トドメ刺せてないからね。」
各部分をバラバラにしただけなので、肝心の魔導核には何のダメージも入っていない。見るとクリスタルが集まりつつあるのが見えるので、ほっとけばそのうち復活するのだろう。
俺は魔導核を刀で突き刺すと、ゴーレムは完全に機能を停止した。後は魔導核を回収してギルドに持っていけば終了である。
「フハハハハハハハ、終わったようだな!! では帰るとするか!!!」
俺が魔導核を回収するのを見届けて、ハンマーを明後日の方向に突き出しながらカイエルが叫ぶ。
「そうですね。クリスタルは後で兵に回収させるとして、とりあえず帰りましょう。それと城はそっちではありませんよ。」
プラムさんが言う。俺達としてはクリスタルは必要ないので、国のために使ってくれれば、ということで話をつけてある。
「ヨウちゃん、私達も帰ろ。」
アルが腕にしがみつきながら言う。俺達はギルドに行かにゃあならんだろうが。
「・・・まぁいいや。帰ろっか。」
別に今日でなくても構わないのだから。
カイエルとプラムさんと別れて、アルと一緒にさして時間もかからない家路についた。
なんだか予定より長くなってしまいましたが、これにて本編終了です。今まで見てくださった方々、どうもありがとうございます。
後は裏話を幾つか投稿してこの話は終了します。