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17話_謝罪

~~side カイエル


 余はお茶を飲んでいた。この香りは・・・なんと言ったかのう? なんにせよなかなか良い香りである。

 プラムにはここをあまり動くなと言われておる・・・確か。そのプラムはというと、今はヨウヘイの所におる。2人して何をしておるのか、何やら色恋の匂いでも・・・いや、それは無さそうであるな。

 そういえばヨウヘイは何故こっちに来ていないのか。寝ていたような気がするが、はてさて、よく思い出せぬ。

 菓子をつまんで食べる。これは美味い菓子であるな。なんだかもっと沢山あったような気がするが、いつの間にこんなに減ってしまったのか。はて、余はどのくらい食べたかのう。


 ゴンゴンッ!!


 なにやら扉を叩く音が聞こえた。ふむ、今は誰もいないようだし余が出よう。なぁに、どんな輩が来たとしても万事上手く対応して見せようではないか。

 余は扉まで歩いて行き、開け放つ。


 「何者であるか!?」


 しかしそこには誰もおらなんだ。はて、不思議な事もあるものだのう。だがしかし、余は気づいたぞ。何やら妙なものが転がっていることに。その物体は白く大きな板のようなもので、その側には血まみれのリリーティア嬢が倒れて・・・


 「プラム!! プラムよ早く来てくれ!!」


 余はリリーティア嬢に駆け寄りつつ叫ぶ。信じられん、まるで信じられん。あのリリーティア嬢が血まみれで倒れ伏すなど、一体どういった状況なのか、ちっとも頭が整理出来ん。


 「カイエル様、いかがなされ・・・リリーティア様!?」


 プラムがリリーティア嬢に駆け寄って状態を見る。


 「プラムよ・・・リリーティア嬢は無事なのか? 一体どうしてこのようなことになってしまったのか・・・。」


 「カイエル様、リリーティア様は無事です。おそらくエリクサーとやらで治したのでしょう。そしてこれはまさか・・・。」


 プラムが白くでかい板のようなものを見る。そう、なにやら言い知れぬ畏怖を感じさせるこれは重要なものだったはずである。少しずつ頭の中が整理されてきておる。


 「カイエル様、今直ぐこれを持って王城の薬師の所へ・・・いえ、念のため手紙を書いておきましょう。私が手紙を書いた後、これを持って王城の薬師の所へ行って下さい。そして死の呪いを解く薬を作るよう指示を出して下さい。」


 プラムはそう言うと家の中へ駆け込んでいった。手紙を書いているのだろう。その間余は頭の中を整理する。まずここで起きたことを考えると・・・プラムがリリーティア嬢と話をしていたな。そして確か・・・死の呪いを解く薬の件、余がザウムの街で書き留めていたあれをプラムが調査してその結果を報告していたな。ジグラタルの鱗が無いので完成しないと・・・。

 改めて、白い板のようなものを見る。これはまさか・・・いや、状況を鑑みるにそれしかあるまい。

 リリーティア嬢は、なんというものを持って来たのだろうか。こんなものは人の力を超え、化物の力を超えてもなお手に入れられない物だと思っていた。震える手で触ってみる。なんとも滑らかで、底が感じられぬ程重厚で、恐ろしい。

 余はかつて無いほどに動揺していた。無理もないことではあると思う。近づくことすら許されぬ程の力を持った存在の一部が、人類を滅ぼしかけた力の片鱗が今、ここにあるのだ。


 「カイエル様、手紙を書きましたので直ぐに出発して下さい。」


 早いな、さすがプラムだ。

 手紙を受け取り、ジグラタルの鱗を持つ。大きさの割には、醸し出す存在感の割には圧倒的に軽い。


 「では行ってくるぞ。」


 余は城に向けて走りだした。


 城に向かっている途中で思う。なぜヨウヘイはあのような状態になってしまったのだろうか。

 死の呪いなんぞ魔王か死の王しか使えないという話である。死の呪いというのは魂に直接魔法をかけ、運命を操作する類の魔法だと聞いたことがある。魂を扱うなどという神のような力を持つものというだけでも限られてくるのにそれに魔法をかけることが出来る者なんてその2柱しかいないという話である。

 しかしそのどちらかが掛けたなどということはありえない。世に伝わる話の通りであるならばだが、命に関わる問題については双方とも迷っているような思考が見受けられる。ヨウヘイは異世界の人間という特殊な位置にいるため目を付けられていてもおかしくはないが、邪魔なら直接どうにかすれば良いのだ。このようなまわりくどいことはするまい。

 ヨウヘイのいた世界には魔法がないと聞いているので、元の世界で掛けられたという線も消えるだろう。ならばあのような状態になってしまった切欠、要するに一度死んだ身であるならば、理屈はともかく納得は行く。


 この事をリリーティア嬢は知っていたようである。取り乱していた事は否めないが、さすがに死の呪いであるということを即座に受け入れるというのは無理がある。

 2人は本当はどういう関係なのであろうか? 思考をそこまで巡らせると王都が見えてきた。




 余は検問も気にせず街に入る。これはまあ、いつものことなので誰も気にするまい。あえて違いを言うのならば、プラムがいないといった所か。

 余は城を目指して突っ走る。地面が土なので道が大きく抉れるが気にするまい、これもいつもの事である。なんでも余の抉った地面を修繕して儲けている輩がいるというから世の中わからんものである。

 余は城の中を突っ走る。皆慣れているもので、余の存在を確認した途端道を譲る。城の一角にある研究棟へとたどり着くと、扉を叩きもせずに開け放つ。


 「マルゾフ、マルゾフはおるか!!?」


 余が叫ぶと1人の男が出て来た。


 「カイエル様、いかがなされましたか?」


 「おぉ、マルゾフよ、ジグラタルの鱗を持って来たぞ! さあ、薬を作るのだ!!」


 「え、えぇ!? まさか、いやしかしひょっとしてそれが・・・いや、そんなまさか」


 ガンッ!!


 「さっさとせぬか!!」


 マルゾフを殴って一喝入れる。


 「わ、わかりました。カイエル様、鱗をこっちに持ってきて下さい。」


 余は研究棟の一室に案内された。そしてそこで何やら頑丈そうなヤスリと皿を渡される。


 「王子、このヤスリで鱗を削って下さい。このヤスリはオリハルコン製なので確実に削れるでしょうが、力が必要そうなので。私は別の準備をしてきます。」


 「うむ、任されよう。」


 余は鱗を机の上に置き、削りやすい位置に持って行く。ヤスリを当て、その下に皿を置いて意識を集中させる。


 「ぬおおおおおぉぉぉりゃあああああああああああああ!!!!」


 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ


 ・・・・・・削れんっ!!

 派手な音を立ててはいるが鱗には傷一つついておらん。

 更に削っていく。削れていないのに削っていくというのもおかしな表現だが削っていく。そしてやっと僅かに、ほんの僅かに引っかき傷のような削り跡が出来た。ふと皿を見ると、何やら明らかに削った以上の粉が入っておる。もしやと思いヤスリを見ると・・・削れておる。鱗よりもヤスリの方が明らかに大きく削れておる。


 「なんということだろうか・・・。」


 オリハルコンは形を変えるだけで苦労する類の金属である。世界一硬いと言われるこの金属を使ったヤスリは、一体どれほどの労苦を費やして作られたものかわかったものではない。むしろオリハルコンでヤスリを作るなど狂気の沙汰である。しかしそれをもってしてもこの結果。


 「一体どうすれば良いものか・・・。」


 これでは鱗が削れても埋もれてしまうではないか。


 「カイエル様、鱗は削れましたかな?」


 「マルゾフよ、ほんの僅かに削れはしたが先にヤスリの方が駄目になってしまいそうだ。」


 ヤスリを見せると、マルゾフは大きく目を見開いて驚いた。


 「これ程までとは・・・そのヤスリは人類の魔法文明の最盛期に作られた古代遺産なのですが、それをもってしても碌に削れないのですね。いやはや、ジグラタルとはなんとも恐ろしいですな。」


 珍妙な古代遺産もあったものである。


 「しかしまあ、僅かでも削れているのならば問題はないでしょう。鱗はあくまで触媒なのでわずかでもあればよいらしいです。オリハルコンは、溶けることはないのでそのまま使いましょう。」


 余は薬学に詳しいわけではないのでわからんが、マルゾフが大丈夫だと言うのなら信じることにしよう。


 「そうか、では頼んだぞ。あまり時間があるとも思えんので早急にな。」


 「かしこまりました。」


 こうして余は薬を手に入れた。その薬は向こう側が透けて見える程透明で、しかしどことなく心落ち着かせるような色合いをしておった。





 薬を飲ませると、ヨウヘイの顔色が見る間に落ち着いていく。目を覚ましていたリリーティア嬢も含めて皆ホッとする。これで最悪の事態は避けられたわけであるな。この達成感を、余はいつしかすっかり忘れてしまっていたようである。

 リリーティア嬢が手を握っていると、ヨウヘイが目を覚ます。余は当初、リリーティア嬢がこのように献身的な方であるとは思ってもいなかった。父上と共謀し、各地で力を振るっていた姿しか見ていなかったからやもしれぬ。ヨウヘイとリリーティア嬢にどういった繋がりがあるのかは未だよくわからぬが、何だかこちらの方が自然なように見える。


 「ヨウ様・・・?」


 「ん、アル・・・どうした?」


 まだ少し寝ぼけているのであろうか? しかしこれで万事解決であるな。やはり友が助かるのは嬉しいことである。


 「ごめんなさい・・・」


 ・・・なんと!? 一体何を謝る必要があろうというのか?


 「ごめんなさい・・・私が・・・私は・・・・・・」


 涙声になってしまっている。ううむ、一体どういう事だろうか? ヨウヘイとリリーティア嬢しか知り得ないことなのだろうか?


 「カイエル様、今日はお暇しましょう。」


 「うむ、そうであるな。2人とも、我らは帰らせてもらうぞ。」


 我らはリリーティア嬢宅を後にした。何が起こっていたのか気にならんではないが、あまり個人的な都合に突っ込むわけにもいかん。今はヨウヘイが助かった、それだけでよい。今ので2人の関係がこじれるようならば、我らが取り持てば良いのだ。

 余はふと、視線をディアナの墓へ向けた。以前置かれていた剣はそこにない。あの剣の醸し出す力強さからすれば見ずともそこにあるかどうかはわかるが。・・・ディアナよ、お主とヨウヘイとの違いとは一体何だったのであろうな。



~~side アルト


 ヨウちゃんの魂が安定した。ホント、今までやって来たことは何だったんだろうって思うくらい。でも、これでやっと本当の事を言える。私がやったこと全部言って謝らなくちゃいけない。

 ヨウちゃん、起きたばかりでごめんなさい。でも、私の懺悔をどうか聞いてやって下さい。

 私は今まで何も言うことが出来なかった。でも私にはいっぱい謝らなくちゃいけないことがあるの。ヨウちゃんがこっちの世界に来たのは、私のせいなのだから。


 ごめんなさい。私が調子に乗っていたせいで、あなたを死なせてしまいました。

 ごめんなさい。あなたが色々つらい目にあったのは、私のワガママのせいなんです。

 ごめんなさい。あなたの立場を利用して恋愛ごっこをしていた私を、許してください。


~~side out


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