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14話_人形劇の終演

 王都の中をアルと手をつないで歩いていた。別に何か目的があるわけでもなく、ただなんとなく歩いていた。たまにはこういうのもいいだろうし、それに今は積極的に動こうとも思えなかった。

 思えばこっちへ来て1ヶ月程か。この僅かな期間に色々あったものだ。おそらく一生分の経験を詰めたんじゃあないかってくらい濃厚だったような気がするな。今のペースで色々あると詰め込まれすぎて破裂しちゃうんじゃなかろうか、なんて下らないことを考えてみる。

 もうこのままダラダラしながら過ごしてみようか、アルも別に反対はしないだろう、なんて思ってしまったがこんなしみったれた思考はさっさと放棄しなければならない。でないとその原因を過去に押し付けるようなどうしようもない根性になってしまいかねない。


 横を歩いているアルに顔を向けると、笑顔を返してくれた。なんだかこれだけで頑張っていけそうな気がする。単純だとは思ったが、それで構わないだろう。そう思いつつ、軽く微笑み返す。

 頑張る動機なんてこれでいいのだろう。辛いことがあっても、隣にいてくれる人がいる。それだけで挫けちゃいけないんだと思える。それだけで、なんだか力が湧いてくる気がする。


 過去は振り返っても囚われてはいけない。昔の俺なら、前を向こうともせずに囚われていたかもしれない。でも今はアルが隣にいるから、手を引いて導いてくれるから、迷わず進もうと思える。でもいつか、俺が手を引けるくらい強くならなくっちゃ、なんて考える。強くなって、アルが何かしら抱えている悩みを解消してやりたいと思う。


 前の方を見ると何やら人だかりが出来ていた。特にイベントがあるなんて聞いてないから大道芸人か何かがいるのかもしれない。俺とアルは群衆に混じってその中心を見てみると、人形がパレードを行なっているのが見えた。

 沢山の兵隊の人形が行進し、あるいは踊りったり剣を鳴らして人々の注目を集める。音楽こそ無いが、人形たちがさも生きているように動き回るさまには思わず振り向かずにはいられないだろう。

 この人形は、おそらく人形劇で使っていたやつだな。てっきり劇場でしかやらないと思っていたけど、こうして表に出てなにかやることもあるんだな。その楽しげなパレードを見ていると、衛兵さん達がやってきた。


 「おい、なんだこれは? このようなことを行うなど聞いていないぞ?」


 「確かにな。人形師はどこだ? おいお前ら、ちょっとどけ!」


 衛兵さんが人形師を探して群衆をかき分ける。俺とアルも、道を開ける流れに逆らわずに道の端の方にどく。


 「ったく、許可が必要なのを知らないはずもなかろうに。」


 「とりあえず人形を回収するぞ、通行の邪魔だ。そのうち人形師も出てくるだろう。」


 どうやら人形を回収すれば、取り返そうとする人形師が出てくるという算段らしい。ああ、もったいない。もうちょっと見ていたかったな。

 衛兵さんが人形を回収しようと身を屈めると、人形はその手をスルリと抜けて衛兵さんの頭をぶん殴った。


 「ガッ!?」


 相当痛かったのだろうか、頭を押さえる衛兵さん。そしてそのまま人形達が衛兵さん達を取り囲んだ。


 「なっ、なんだ!?」


 「落ち着け! これは明らかに敵対行為だ。全部潰すぞ!!」


 衛兵さん達が構えるが、明らかに多勢に無勢である。人形達は少なくとも衛兵さんの頭を殴って痛がらせる程度の力はあるのだから、あんなに沢山相手にしてはまず勝ち目はないだろう。

 相手が小さいだけに相当攻めづらそうだ。人形達の包囲網はジリジリと縮まり、衛兵さん達も徐々に1ヶ所に固まっていく。どうやら加勢をした方が良さそうだ。


 「アル、加勢しよう。このままじゃどうなるかわからない。」


 「仕方ないですね。私がやりましょう。」


 アルがそう言うと、人形達の足元が陥没し、人形達もバキバキと音を立てながら倒れる。これは空気圧を高めて上から押さえつけているのだと聞いた。ここらへんの細かい調整は俺じゃあ無理だな。


 「大して丈夫じゃありませんね。一体何がやりたかったのでしょうか。」


 アルが前へ出て人形を拾い上げると、今更ながらアルの存在に気づいた群衆がざわめき始める。


 「リ、リリーティア様、ご協力感謝します!!」


 衛兵さんが敬礼をして感謝を述べる。


 「構いませんよ。人形師は・・・ここら辺にはいないようですね。」


 人形劇には何度か行ってるからアルが人形師の気配を知っていてもおかしくはない。そのアルがいないと言っているのだから、相当離れた所から人形を操っていたということになるのかな。

 だけどそんなことを出来る人がこの世界にいるかというと、俺の短いこの世界での経験から言わせてもらうと否としか言いようがない。人形劇の時だって、顔を隠した人形師が見える範囲にいた位なんだから。


 「ヨウ様、ここはお任せして他へ行きましょう。ひょっとしたらまた同じようなことが起こっているかもしれません。」


 「ああ、そうだな。」


 確かに何が目的かわからない以上、ここだけと考えるのは軽率だしな。アルが話しかけたこともあってか俺への注目が凄いことになっているし、さっさとここから離れるとするか。




 元いた道から離れることしばらく、今度はそこそこの騒ぎになっていた。衛兵さん達が戦っているのだろうか、飛び交う怒号、逃げる人々、ドカドカと何かが爆発するような音も聞こえる。


 「こいつは本格的にやばそうだな。アル、行こう。」


 俺が駆け出すと、群衆の合間から一体の騎士の人形が飛びかかってきた。その人形は既に剣を抜いており、人形とは思えない程のスピードで斬りかかってくる。俺は刀を創り、その一撃を冷静に受け止める。

 ガキン、という音と軽い手応えを感じ



 ・


 ・


 ・




 今日の講演もうまくいったのう。やはり騎士の出てくる話は受けやすいか。それが活躍するとなれば尚更じゃ。

 儂は騎士の人形を手にとって眺める。今回の話では激しい動きがあったからほつれていないかどうか確認せねばならぬ。


 人形の手入れをしながら次に作る新作を構想する。次は魔王と死の王の関係についての話にするつもりじゃ。死の王を生み出した魔王と、全ての母と同義と言われる死の王が見つめる、命に関する葛藤を描いたものじゃ。この話は未だ一般的には伝わっておらぬので、死の王と言えば世界を滅ぼそうとした悪役と捉えられることが多い。しかしこれから作る劇によって少しでも認識が改まればいいのじゃが。子供にはちと退屈かもしれんがのう。


 儂は2つの人形を手に取る。魔王と死の王、その姿を記述した文書は発見できなかったから一方的な想像になってしまうが、なるべくやさしい姿にしたつもりじゃ。決して悪い者ではなく、ただ迷っているだけの者に悪者の姿は似合わん。できればどのような姿か知りたいものじゃがのう。


 コンコン


 誰か来たようじゃな。もうすぐ夕方になろうという時間だというのに珍しい。時々来る、講演を依頼する者達ならばもっと早めに来るはずじゃ。


 「今、開けるぞい。」


 ドアを開けるとラディウス卿がおった。儂の古くからの友人じゃが、中年に差し掛かる頃になるとお互いめっきり会う機会がなくなっていたので懐かしいのう。


 「久しいのうラディウス卿や。一体何年ぶりくらいかのう?」


 「ふふ、数えるのも面倒だわ。久しいな、イェードよ。」


 儂はラディウス卿に席を薦めてからお茶を入れる。柑橘系の香りのするこの紅茶は、かの紅風姫も愛飲するという縁起物じゃ。あの方の話もいつか劇にしてみたいのう。あの方自体に人気がある上に最近起こった劇的な事件の主人公じゃ。それにうまく行けば本人に話を聞けるかもしれんから今までにない人気が出ることじゃろうて。

 儂がお茶を持って行くと、ラディウス卿は人形を眺めておった。


 「久々に見ると圧巻だな。昔より確実に増えているが、一体どの位あるのだ?」


 「1000を超えた辺りから数えるのはやめてもうた。もう古くて使わん物もあるが、どうにも愛着が湧いて捨てられん。おかげで人形を置くために家が圧迫されて困っておるよ。」


 儂の家は正に人形に埋め尽くされておる。そこそこ広い家を持っておるつもりじゃが、儂が使えるのは最低限の空間のみ。生活するための人形が生活空間を圧迫するなどなんとも皮肉な話じゃが、こやつらに囲まれておらんと落ち着かんのも確かじゃ。


 「最近はお前の劇も見に行けていないからな、腕が落ちてやいまいかと少々心配だよ。」


 ぬかしおるわ。儂の腕は落ちるどころか更に磨きがかかっておる。踊り子の人形を踊らせて見せてやったら驚いて目を見開きおったわ。


 「すばらしい。このような素晴らしい踊りは本物の人間でも踊ることは出来んな。」


 そう言うと手を叩いて喝采しおった。久々に見たというのならば驚くのも無理はあるまい。昔の儂は踊らせることは出来ても、一目で人形とわかる動きしか出来んかったからのう。


 「いや、すばらしい。イェードよ、この技術を国のために生かそうとは思わんか?」


 「どういうことじゃ? 国のため、というのなら嫌はないが一体どう役に立てるというのじゃ?」


 「何、簡単なことだ。お前のその人形を操る技術を使ってゴーレムを動かして欲しいのだ。周辺国が徐々に強くなりつつある今、必要なのは他の国には真似の出来ない圧倒的な力なのだ。お互い老い先短い歳であるゆえ、最近不穏な動きを見せつつある隣国に早々に攻め入って貰わねばならんがな。」


 「・・・ラディウス卿よ、帰るのじゃ。儂は、儂の人形師としての腕を人殺しのために使いたくはない。儂の腕は人々を喜ばせるために使うのじゃ。それに隣国に攻め入るなど、あの王が許すはずもないじゃろう。お主、一体何を考えておるんじゃ?」


 「あくまでも国のため、と言っておこう。最近ロックゴーレムを作ってみたのだがどうにも鈍重すぎて使い物にならんかったよ。何も無理して攻め入って貰おうとも思っておらんから、攻めて動かす際のコツなどを教えてはもらえんかね?」


 「戦いのために使うというのなら、返事は同じじゃよ。帰るがいい。昔のよしみじゃ、今の話は聞かんかったことにしてやるわい。」


 儂がそこまで言うと、ラディウス卿は剣を抜いてきおった。


 「このことは私だけでなく他の国の連中も考えるだろう。お前のような技術を他国に持ち込ませるわけにはいかんのだ。イェードよ、色良い返事が貰えないというのなら、技術の流出を防ぐためにお前を切らねばならん。」


 「くどいわ!! 儂が戦いのために、ましてや攻め込むために協力するなどありはせん!!」


 「そうか・・・残念だ。」


 ラディウス卿が剣を振るった。その後に見えたのは回転する部屋と首のなくなった体。ああ、あれは儂の・・・



 ・


 ・


 ・



 な、何だ今のは!?

 気がつくと俺の両脇には先ほど見た魔王と死の王の人形が、手に光を抱えながら突っ込んできて・・・


 ズガァッ!


 その2体の人形は吹き飛ばされた。俺は慌てて剣を交えていた騎士の人形を叩き落とし、首をさする。首を飛ばされた光景を見た瞬間、本気で自分が死んだかと思った。よかった、首は繋がってるな。


 「ヨウ様・・・?」


 アルが話しかけてくる。魔王と死の王の人形を吹き飛ばしたのは、当然ながらアルだ。


 「ああ、悪い。少し変なものを見てね。」


 「変なもの、ですか?」


 アルが聞きたそうな顔をしているが、また違う所から騒ぎの音が聞こえ出す。ここだって未だ人形達が暴れている。


 「アル、説明は後でするよ。今はとにかく騒ぎを収めよう。」


 「わかりました、急ぎましょう。」


 俺とアルは再び人形達の制圧に踏み出した。




 先程の場所を納めて次の所へ向かったらカイエルとプラムさんがいた。さすがにこれだけ騒ぎになっていれば気づくよな。


 「フハハハハハ、どうしたそんなものかぁ!!」


 カイエルが叫びながらでかい蛇の人形をなます切りにしていた。あれは確かジグラタルだったっけ。

 こっちはこっちで大丈夫そうだな、なんて思って見ていたら、唐突に人形達の動きが止まった。動きの止まった人形はパタパタと倒れてそれっきり何も反応しなくなる。

 なんだろう、今のが司令塔だったのかな? いや、そんなのがこんなわかりやすい所に来るはずもないか。


 「まあいいや。アル、さっきの話をプラムさんも交えて話したいから行こう。」


 俺が先程の話をすると、プラムさんは考え込み、アルは怪訝な顔をした。


 「ラディウス卿ですか、確かにそのような人はいますがゴーレムを作っていたなどという情報は入っていませんね。」


 たしかにそんな情報を聞いていたなら警戒ぐらいするかもしれないしな。


 「しかし先程ですが、人形師が殺されていたという報告が入っています。ヨウヘイさんの言われた通り首をはねられて、です。人形師もいないのにどうやって人形を動かしていたのか疑問に思っていたのですが、一度ラディウス卿を訪ねてみる必要がありそうですね。」


 「うむ、なにやら大変そうであるのう。してプラムよ、次は何を斬ればいいのだ?」


 「もう斬らなくて結構ですよ。次はちょっと人を訪ねましょう。」




 俺達はラディウス卿の邸宅へとやって来た。


 「プラムさん、こんなにいきなり押しかけて大丈夫なんですか?」


 「大丈夫ですよ。少なくともラディウス卿と人形師が旧友だということはわかっていますから、最近人形師の周りで何かなかったかと聞くだけでも面会の動機にはなります。まさか旧友が死んだのに協力しない、なんていかにも怪しいことはしないでしょうからね。」


 なるほど、とりあえず様子見ということだな。何か怪しいことがあれば誰かしら看破するだろう。一番楽なのはカイエルの察知が発動してくれることだが。

 プラムさんが門番に事情を話すと、簡単に門を開けてくれた上に敬礼までされていた。いくらカイエル付きのメイドとは言え、こうも簡単に入れるようになるなんてプラムさんって一体何者なんだろうか?


 ラディウス卿は書斎にいるらしい。外の騒動には気づいており、用心のために外出を控えていたと、執事さんが案内しながら教えてくれた。あまり飾り気はないが、それでも十分威厳を感じさせる廊下を進むことしばし、書斎の前にたどり着いた。


 コンコン


 執事さんがドアを叩く。


 「ラディウス様、お客様でございます。」


 しばし待つが、返事がない。


 「ヨウ様、なんだか血の臭いがします。」


 アルはそう言うとドアノブに手を掛ける。執事さんは、別に止めようとしていないな。まあ血の臭いがするなんて言われちゃあ止めるはずもないか。


 ドアには鍵がかかっておらず、簡単に空いた。部屋の中を覗きこむと、人がうつ伏せに倒れており・・・


 「ラディウス様!!?」


 執事さんが駆け寄る。ただ俺にもアルにもわかっていた。彼は既に事切れている。


 「ああ、なぜこのようなことに・・・」


 執事さんが嘆きつつ、彼の顔を見ようとしたのだろうか、ラディウス卿の体を仰向けに変える。するとラディウス卿は驚いたような、恐怖しているような表情をしており、剣持った沢山の小さな人形が彼の体を貫いていた。


 「こ、これは一体・・・?」


 執事さんが驚いているが、俺の見た光景と照らし合わせると思わずつぶやきが漏れていた。


 「人形の、復讐・・・?」


 外で騒動を起こして注目を集めた後、その死角をついてラディウス卿を殺害、といったところだろうか。さっき人形が突然動かなくなったのは、復讐を遂げた為?

 結局その後人形は動かず、人形師は殺されており、ラディウス卿も死んでいた。何があったかの調査は続けるらしいが俺とアルに出来ることはそれ以上なく、何ともすっきりしない幕切れとなった。

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