ゾンビが僕を噛まない理由
ゾンビが徘徊する町の中心。そこに僕は立っていた。
もちろんゾンビが周りにいないわけではない。今この瞬間にも僕の目の前を歩いているほどだ。
ではなぜ僕は噛まれないのか。それは僕自身が聞きたいくらいである。
「なあ」
そんな時後ろから誰かが話しかけてきた。振り向いて見るとそれは元友人、現ゾンビである男であった。
こいつらゾンビはなんと生意気なことにしゃべるのである。
「なんだよ。ゾンビがなれなれしく話しかけるな。アーアーいってりゃいいだろ?」
「馬鹿言うな。最近のゾンビはしゃべってなんぼだろ。アーアー唸ってるだけじゃこの世界、生きてけねーよ」
「いやお前もう死んでんじゃねーか!」
「ああ、そういやそうだな」
口を開け笑うゾンビ。まさかゾンビに突っ込みを入れる日が来るとは思ってもみなかった。
「まあ、ゾンビ業界じゃ、しゃべるのはもちろん、俺みたいなイケメンになったら恋愛までできちまうんだぜ」
「恋愛までしちゃうの!?もう人間と変わりねえじゃねーか!」
「人間の時はブスだった奴が可愛くなっててビビったよ」
「ゾンビになって可愛くなったのか!?ゾンビになる間になにがあったんだよ!」
「さあ?まあ突然変異みたいな感じじゃね?」
「突然変異ってお前な……」
そんな適当な理由でブスが美人に変わるものなのか。まあ、ゾンビなんて無茶苦茶なものが生み出されてる時点で普通なんて考えるべきではないのだろうが。
「つーか、お前らそのうち子供とかも作り出しそうだな。恋愛とか普通にしてるし」
「まあ、そうなるかもな。否定できないのが世の末って感じだな」
「いや、否定できても世は末だぞ」
「流石、ゾンビ相手にもお前のツッコミは全く揺るがないな」
「ゾンビがしゃべりかけてくるからだろ。それより聞きたいことがあるんだ」
「ん?なんだよ俺の妹のメールアドレスは教えないぞ」
「聞いてねーよ!というかお前に妹なんていなかっただろうが!」
「ゾンビになればみんな家族だろ」
「どんな大家族だよ!地球全域で家族作ってんじゃねえよ!」
しかもそれでは僕だけハブられてることになる。
「それより話がそれてる。聞きたいことがあるんだよ」
「ん?なんだよ俺の妹のメールアドレスは教えないぞ」
「話がループしてる!?お前はRPGに出てくるNPCかよ!」
「あれ?話したっけ悪い悪い。脳みそも腐ってるから物忘れが激しいんだよ」
「ああ、そうなのか何かゴメン」
「いや、別にいいって……」
何やら気まずい空気が僕たちの間に流れる。しかし、僕はあることに気付いた。
「お前、脳みそ腐って物忘れ激しいとかいいつつ僕のことはっきりと覚えてんじゃねーか!」
「あ?ばれた?」
「『ばれた?』じゃねーよ!さっきの気まずさ何だったんだよ!」
「まあ、よかったじゃん?ホントに物忘れ激しかったらこうして話すこともできないわけだし」
「それはそうだけど……ってそれよりまた話がそれてんだよ!僕はお前に聞きたいことがあるんだよ!」
「ん?なんだよ俺の妹のメールアドレスは教えないぞ」
「だからなんでループするんだよ!いい加減にしろよお前!さっきからわざと話題そらそうとしてるだろ!」
「そ、そんなことねーよ……」
明らかに歯切れの悪い返事。やはり何か隠しているのだろう。さっきからやたらと質問をさせようとしないのもこれが理由なのか。
「僕たちの仲だろ?隠し事なんかするなよ」
「う……わかったよ」
「それじゃあ聞かせてくれ。何でゾンビは僕のことを襲ってこないんだ?」
「やっぱりそれが聞きたい事なのか……」
「ああ」
「一つだけ先に言わせておいてくれ俺はお前のことを友達だと思ってるから本当のことを言うんだぞ」
「わかってるさ。どんな理由であろうと僕は受け入れるつもりだ」
「そうか……なら言わせてもらうよ……」
僕は唾液を飲み込んだ。ついに僕の周りにゾンビが近寄らない理由が明らかになるのだ。
そして、友人の口が開かれた。
「ハッキリ言ってお前の体臭が凄まじいんだ」
「は?」
「だからお前の体臭がその……凄まじいんだって。正直今この距離が近づける限界なんだよ」
「いや、ちょっと待てよ……冗談キツイぞ?」
「いや、だからキツイのはお前の体臭であって……ちょっと待てってそれ以上近づくな!」
僕が近づこうと一歩進むと彼も同じように一歩退いた。考えてみれば人類がゾンビになる前から僕は人とこの距離以下で会話したことがなかったのだ。そうか僕は臭かったのか。
「あ、いや、でもお前は俺の友達であることは変わりないわけだし……」
「だったら仲間にしてくれよ!僕をゾンビにしてくれよ!僕だけ仲間はずれなんて水くさいじゃないか!」
「お、落ち着けよ!とりあえず落ちついてっ……!」
言葉半ばで彼はそのばに倒れてしまった。僕がここまで彼に近づいたのは初めてのことかもしれない。もしかして僕の体臭のせいなのか。僕はそんなに臭いのか。
再び孤独な身となってしまった僕は考える。もしかするとこの体臭でゾンビが倒せるんじゃないのか?どうせ孤独なら、ゾンビを全部倒してヒーローになるのもいいかもしれない。
「僕がこの世界を救って見せる!」
そんなクサイ台詞を口にし、僕は全くもって無害なゾンビを退治しに向かうのだった。
まずはお読みいただきありがとうございました。
ゾンビが人間を怖がるという訳の分からない作品に仕上がった今作。ホラーを書こうと思ったのに何故かこんなことになってしまいました。
今どきのゾンビは走ったりもするし中には武器を持つものもいるくらいなんでいっそのことしゃべってはと思って書き上げました。
それにしても相変わらずの遅筆です。まあ、やる気がでないのが一番悪いことなんですが。もう少し淡々と作品をあげたいです。
とにもかくにもこうして作品を仕上げられるのは読者様のおかげです。ありがとうございます。