無力な英雄(ヒーロー)
ダンボールを片手に通勤、通学ラッシュでにぎわっている大通りをフラフラと歩く
(次の仕事、どっかに転がってねぇかな・・・)と思いながら公園のベンチにドカッと座り込む。 目の前には迎えのバスを待っている幼稚園児がじゃれあっている。 後ろのとおりには会社に遅れないように早足で歩いているサラリーマン
「俺、なにやってるんだろ・・・」
無意識のうちに昔、ヒーローのときに使っていた腕時計型変身道具 ウォッチをいじっていた。
「なぁ! 昨日のアレ! みたか!?」
「みたみた! レインボーレンジャーだろ!? かっこよかったなぁ!」
子供同士の無邪気な声が耳に届く。
(俺みたいな人間になるなよ)
心の中でつぶやいてベンチから立ち上がろうとしたと同時に後ろからビルが崩れる音がした。
そしてあちらこちらから悲鳴や血の匂い。
「誰か助けてくれ! 悪の組織が攻めてきた!」
誰かが叫ぶ その声も悲鳴にかき消されていった
「誰か! 誰かああ!」
「わあああああああああ!」
俺の前をどんどん人が走り去っていく。
(俺もにげねぇとな)
俺はダンボールをインドの人のように頭に乗っけて器用に人ごみを避けて走っていく。
逃げる集団の最前列を走っていく俺が目にしたもの それは絶対に思い出したくない光景だった。
人がカラスについばまれたゴミ袋のようにバラバラにされて転がっている そしてまだ形が残っている死体にたかって食らっている複数の黒い人型の化け物 悪の組織の一つ、プレデターの戦闘員であった。
俺は路地裏に逃げようとした。
「お母さん どこ~?」
と言う子供の声を聞いて足を止めた。
(あーあ また俺の悪い癖が出ちまったな)
俺はダンボールを投げ捨て走り出す。 そして数秒後、背中に痛みが走った。
(俺、ヒーロー辞めたはずなのに何やってるんだろ・・・)
俺は心の中でぼやいた
俺は無意識のうちに目の前の子供を抱きしめて守っていた。
「坊主、悪いやつ倒したらすぐにお母さんを探してやる。 それまであっちに隠れてろ。 すぐにヒーローが助けに来てくれるぞ」
俺は満面の笑みで子供に話しかける。 子供は素直に従い、俺の後ろの路地に逃げ、顔を少しだけ覗かせていた
「少しだけ、お仕事させてもらいますかな」
俺はウォッチの出っ張りを押し、右手を前に突き出した。




