第25話 「シューッ……」なんの音です!? ああ、正門を自動ドア(オートロック付き)にしてみた
翌朝。エド村の朝は昨日と同じく、凄まじい大騒ぎによって幕を開けた。
「ふぉおおお!」
「なんだべこりゃあああ!!」
正門のまわりに村人たちが総出で集まり、文字通りお祭り騒ぎのような人だかりを形成していた。
俺もアクシラたちを連れて広場へ向かう。
「いや~~どんな感じに仕上がってるかなぁ」
「ふふ、ブラン様。こういう時が一番楽しそうですね」
「ああ、それは否定しない」
アクシラが再度クスりと微笑んだ。
だって、この瞬間が一番のワクワクだからな。
「おおぉ……」
俺たちの目の前に現れたのは、昨日までのボロい門とは似ても似つかない圧倒的な風格を誇る生まれ変わった正門だった。 外観は木製ベースに鉄で補強を入れた引き戸タイプの門だ。
城門が引き戸ってのはかなり斬新ではあるが、それには理由がある。
「もの凄く頑丈そうな門ですぜ、領主様! それに前の門より二回りはでけぇ!」
戦士部隊長のガンチが、分厚い門を見上げて筋肉を震わせながら感嘆の声をあげている。さらにその頑丈さを確かめようと、ガンチがすたすたと門の数十センチ手前まで近づき、手を触れようとしたその時だった。
シューーーッ……
かすかな風の音のような滑らかな機械音が響く。
「へぇ?? な、なんの音だ……って、うおあああ!? 門が、門があいたぁあああ!?」
ガンチが腰を抜かさんばかりに飛び退いた。 数人がかりで押さなければビクともしないはずの、数トンはあろうかという巨大な門扉が、誰の手も借りずに、まるで空気のように滑らかに左へとスライドして開いたのだ。
慌ててガンチがドタドタと数歩後ろへ下がると―――
シューーーッ……
ガチャン、と重厚な音を立てて今度は完璧に門が閉まった。
「こ、今度はしまったぁあああ!? 誰も触ってねぇのに! 勝手に動きやがったぁあ!!」
ガンチの大絶叫に、周囲の村人たちも一斉に大騒ぎし始めた。
「ブランさまぁ~~誰が門をあけたんですか? 門の中に小人さんでも隠れてるんですか?」
リナが不思議そうに門の隙間を覗き込もうとする。
「いや、誰もあけてないし、中に誰もいないぞ」
「「「「「…………」」」」」
俺の言葉を聞いた瞬間、広場にいた全員の動きがピタリと止まり静まり返った。そして、次の瞬間―――
「ふはぁああ~~! あ、あくまの仕業だぁ~! 門が呪われてるべぇ!」
「何かの祟りだど~~門が人を食べようとしてるんだ!」
案の定、領民たちが大パニックを起こして右往左往し始めた。中には地面にひれ伏して許しを請う者までいる始末だ。おいおい、相変わらずリアクションが新鮮で素晴らしいな。
エルフのホトナたちは「門にまで精霊を宿らせたのか!?」とかいいはじめてるし。
だが、すべて不正解だ。
「ちがうちがう、悪魔の仕業でも呪いでもない。これは自動センサーという仕組みで、人が近づいたのを感知して勝手に門が開閉しているだけなんだよ」
「……ぶ、ブラン様。つまり、この門は自力で動いている。ということでしょうか?」
「そうだ、アクシラ。正確には魔力を動力源として歯車を動かしているんだ。小人さんたちの技術の粋を集めた魔導開閉装置だな」
「そのせんさーというのは、具体的にどのような仕組みなのですか?」
「ああ、扉の上についているこの小さな魔力レンズの前に一定の距離まで人が近づくと、レンズがそれを察知して扉を開けろという信号を送るんだよ」
そう、ようは自動ドアである。
俺は手元にあった小人さん特製の取扱マニュアルをさっとめくりながら、全体像を領民たちにも分かるように噛み砕いて説明した。
まあ、大半の住民は「ほぇ~~」という顔だけど。
そんななか、アクシラがハッと目を見開いて俺を見た。すぐに別の重大な問題点に気づいたようだ。さすがに頭の回転が速い。
「あの……ブラン様、それは確かに信じられないほど素晴らしい魔法技術ですが……だとしたら、もし村を襲撃してきた敵の兵士や、魔物が門の前に近づいた場合も、この門は親切に開いて敵を迎え入れてしまうのではないでしょうか?」
「ふっふっふ、さすがはアクシラ。そこに気づくとは優秀だ。だが心配はいらない。この門はうちの領民以外が近づいても、反応しない仕様になっているんだ」
「領民以外には、開かない……なぜ、門にそのような区別ができるのですか?」
「顔認証という技術を使っているからさ」
「小人さんが、みんなの顔をパシャパシャと光らせていただろ? あれで、エド村に住む領民一人一人の顔の形や特徴をすべてこの門に記録したんだ。つまり、門自体が「お前はエド村の住人だな」と顔を見て判断しているのさ」
これが、昨日あの小人さんが手当たり次第にフラッシュを焚いていた理由だ。あの小人さんが持っていたのは領民の生体データを登録するためのカメラだったわけだ。
「顔をおぼえている……門が??」
「そうだ、ってアクシラ?」
「も、もんが、おぼえる???」
頭をかかえた公爵令嬢は、「ぷ、ぷしゅ~~」という可愛らしい幻聴が聞こえてきそうなほど、頭から目に見えない煙を吐き出しながらその場にへたり込んでしまった。
アクシラは、そのあまりにもこの世界の常識から逸脱したオーバーテクノロジーを必死に脳内で処理しようとした結果、ついに脳内キャパシティを超えてしまったらしい。
うん、さすがにこの中世ファンタジー世界の人間に、現代のデジタル生体認証技術を理解しろというのが無茶な話だったな。
まずは便利さを感じてもらえればそれでいい。
「ちなみに夜間や戦闘時等の緊急時などは、門の詰所にあるこのレバーを引くだけで、内外からの認証を一切受け付けない完全ロックモードに切り替えることができる。そうなれば、どれだけ顔を近づけようが、大軍で押し寄せようが、絶対に自由には開けられない強固な壁となる仕組みだ」
つまり、敵に対する防衛力を発揮する正門としての役目を完璧に果たしつつも、平時における領民たちの日常の動きや、将来的な来訪者たちの往来をスムーズにする。
これぞ、前世のマンション技術と異世界事情が融合したオートロック自動ドア正門である。
「これなら、頑丈さと便利さが両立できているだろ? 今後の村の発展や交易にもバッチリ対応できるはずだ。どう思う、アクシラ?」
俺が声をかけると、アクシラはまだ頭を少しフラつかせながらも、驚愕と期待の入り混じった眼差しで俺を見上げてきた。
「は、はい……ブラン様はやはり私の想像を遥かに超えた、どこまでも凄いお方です……」
まだ圧倒され気味ではあるが、どうやらこのオーバースペックな門を気に入ってくれたみたいだ。
ムフフ、こいつは使えばつかうほど快適さがわかってくる。じっくりとその利便性に溺れるのを待つとしよう。
さて、次は外壁だな。
俺は数日をかけて正門に続く村を囲う左右の外壁も順次改修していった。開拓団時代に作られたボロかった木製の防壁だった。それが土木小人さんたちの手によって、頑丈なコンクリート壁へと見事に生まれ変わっていった。
「ご主人様、高いです!」
一緒に連れてきていたロネが、完成した外壁の上に新設された通路からぴょこぴょこと手を振りながら下を見下ろしている。
今回の改修のついでに俺は外壁の耐久性を上げるだけでなく、壁自体の幅を大人が歩けるほどに太く分厚くデザインした。そしてその壁の最上部に、村をぐるりと一周できるような防衛用の通路を作ったのだ。
これで歩兵銃部隊が、外壁のどの位置からでも、身を隠しながら外の敵へ向けて射撃を行うことが可能となった。かつてのボロボロだった正門や外壁たちは、立派な防衛要塞へと進化したわけだ。
「ご主人様、シュルトさんたちが手を振ってますです!」
「ああ、今日の88ミリ高射砲の訓練が終わったんだな」
ちなみに88ミリ高射砲は外壁の外にある地表に設置してある。
壁の上に上げようかとも考えたが、重すぎて無理だった。昇降用エレベーターを設置するか、もしくはあらたな88ミリを外壁の上で作成するかしないと難しそうだ。
が、それはまだ先の話。
本当は、より防衛網を強固にするために88ミリ高射砲をもう一門追加で作りたかったのだが、いかんせん村中から集めた鉄くずを使ってしまい材料が足りなかった。
材料かぁ……
やはり材料となる資源がなければ色々作ることができん。資源をどこからか調達してこんといかんな……。完全無欠の快適領地経営への道は、まだまだ遠そうだ。
訓練で消費してしまった88ミリ高射砲の砲弾備蓄も、小人さんたちにお願いしてちょくちょく補充している。こちらは魔石ストックがある程度あるので、弾不足にはならないだろう。
「はい、みなさんお弁当もってきたです!」
「おお、ロネちゃんすまねぇ」
「毎日お疲れ様です! ロネも応援しているです!」
「「「うっひょ~~ロネちゃんの弁当うまそう~~」」」
外壁の下に降りた俺たち。ロネが労いの言葉をかけながら持って来たお弁当をシュルトたちに配り始めた。
「くはぁ~~なかなかうまくいかねぇ」
みると片隅でシュルトがため息をつきならがら、肩を落とす。
どうしたんだ?と声をかけると。
「領主様、レッドボアを砲撃した時はなんとかなりやしたが、こいつはちと時間がかかりそうでさぁ」
話を聞くに、88ミリの砲弾のひとつである時限信管に難儀しているようだ。
対空砲として使用するならば、目標に当たって炸裂する着発信管ではなく、時刻が来れば自動で起爆するタイマー式の時限信管を使用することになる。
高高度の目標に直接当てるのはかなり難しいからだ。
だが、このタイマーの設定がむずかしい。
はるか彼方の目標に対して、正確な距離を確認して砲弾が爆発するタイミングをドンピシャで合わせないといけない。
本来なら、これは相当な訓練期間が必要なのだが。
う~む、ワイバーンもそんな悠長に待ってくれるとは限らない。
この難易度の高い砲弾をなんとかできれば……んん?
「よしシュルト、数日待ってくれ。それまで目標への砲撃訓練はみっちりやっておいてくれ」
「了解でさぁ、領主さま」
そして―――
領地の要塞化がひとまず形になった、まさに数日後のことだった。
正門の防壁通路に立っていた見張りの領民から、村中に響き渡るような切迫した叫び声が轟いた。
「りょ、領主様ぁぁぁーーー!! 空から、もの凄ぇ数の魔物の群れがこっちに向かって飛んできてるべぇえええ!!」
きたか……
出来る限りの準備はした。
さあこいワイバーンども、この辺境ラスラールエド村の恐ろしさを教えてやる。
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