一章
読書をしつつ手慰みに神力の結晶を作る。
俺の習慣だ。
またか…。
痛みがある訳では無いが酷い違和感。
絹に滑らす手指が荒れて引っかかる。そんな感覚。
最近失敗が多い。
いや、失敗ではないが。何というかよく分からない事になっている。
俺の神力は黒い。厳密に言えば深い紫だ。
神力から漏れ出る力が神気。
漏れ出る神気を纏め、圧縮し、固めた物が結晶。
基本的に当人の神力と同じ色となる、ハズだ。
神格の高い御柱。特に始祖の御柱は顕現する神力を幾つか兼ねる場合がある。
その場合等は複数の神気が混ざる事もあるが…。
俺の場合は黒ないしは紫の結晶になる。度々今回の様に透明な中に黒や銀の針状の別結晶が出る。
どういう事だ?
分解も既に行った。
他者の神気が混じっている訳ではない。
では何だ、俺の神力が変異しているとでも言うのか?
唐突の警告、脳内に直接響く、霊的な高周波。
鼓膜を震わせる類の物ではない。
頭上で鐘を鳴らされる様な衝撃と煩わしさが脳を直接揺さぶる。
全神経が逆立ち、「身の安全を確保し、事態を観測せよ」と、神の理が悲鳴を上げている。
誰だ““十拳剣””を抜いたのは!!
剣の神としての至高の憧れであり、そして――かつての俺が俺となる前を終わらせた「俺の出自(死因)」そのものの気配。
周辺の気配を探る。
かなり遠いな…やはり、スサノオか。何を考えているのだあの御神は。
急ぎ向かうと途中にタケミカヅチが目にはいる。
誰よりも大きいので、嫌でも視界に飛び込んで来る。
炎のように立ち上がった髪を持つ、逞しき武神。
実際は雷神なのだが、いつまで炎の意匠に拘るつもりなのだろうか。
俺より脚の遅い大男を手伝ってやろうかと思った、その時だった。
―不意に氷を飲み込んだ感覚―
心臓の奥まで一気に凍りつく。
寒気でも、吐き気でもない。この世から「熱」そのものが消失したかのような絶望的な喪失感。
強烈な違和感から解放された直後、物凄く嫌な予感が胸を埋め尽くした。
先程まで晴れていた空が、今にも泣き出しそうだ。




