第六幕 ― 制度が変わる瞬間
沈黙が続いていた。
王子の宣言の後。
王妃の改訂案の後。
誰も声を上げない。
それは反対ではない。
思考だった。
評議会の席に並ぶ者たちが、互いを見る。
粛清派は視線を交わすが、声が出ない。
王権の絶対を守るための論理は、
すでに王子自身によって解体された。
「採決を」
王妃が告げる。
簡潔に。
感情を乗せない。
挙手が上がる。
一人。
また一人。
やがて、半数を超える。
穏健派。
軍部の一部。
そして——
沈黙していた中立の貴族たち。
多数。
否決の声は上がらない。
粛清派は、座ったまま。
孤立していることを理解する。
「制度改訂案、承認」
王妃の声が、広間に落ちる。
続けて、もう一つ。
「王子並びにリリアナへの拘束令、即時撤回」
老侯爵が目を閉じる。
抵抗は、終わった。
次の瞬間。
鐘が鳴る。
高く、澄んだ音。
城下へ届く鐘。
かつては異常事態を告げた鐘。
だが今は違う。
公布の鐘。
変革を告げる鐘。
その音が、大謁見の間の天井へ昇り、
石壁を震わせ、
外へと広がっていく。
——恋は確定しない。
——婚約は発表されない。
——将来は保証されない。
物語は、甘い約束で閉じない。
だが。
制度は変わった。
それは不可逆。
紙に記され、
鐘に刻まれ、
人々の前で承認された。
王座は、まだ空。
黄金は変わらない。
象徴はそこにある。
だが。
王子は座らない。
王妃も座らない。
二人は玉座の前に立つ。
一段下。
同じ高さで。
王権は、形を変える。
絶対から責任へ。
神聖から倫理へ。
視線が横へ移る。
レディアナとリリアナ。
並んでいる。
中央ではない。
だが、前にいる。
手はつながない。
寄り添わない。
けれど離れない。
自立したまま、隣に立つ。
新しい関係性。
新しい配置。
新しい王政。
鐘の余韻が、長く尾を引く。
画面奥に王座。
その手前に王子。
横に王妃。
少し離れて、並ぶ二人。
誰も玉座に触れない。
触れなくても、始まる。
音が消える。
静寂。
暗転。
——「新王政、施行。」




