最終章:新しい王政 第一幕 ― 帰還と緊張
王城・大謁見の間。
高い天井に、旗が重く垂れている。
赤と金の紋章は変わらない。
だが空気は、これまでと違っていた。
ざわめきは小さい。
誰も声を荒げない。
それがかえって緊張を濃くする。
粛清派が左に並ぶ。
老侯爵を中心に、冷えた視線。
穏健派は右。
互いに目を合わせない。
軍部は中央後方。
鎧の擦れる音が、わずかに響く。
王子とリリアナの逃亡は、すでに公然の事実だった。
拘束令は出たまま。
正式撤回はされていない。
つまり——
この場に王子が姿を現せば、それ自体が制度違反。
その緊張が、床石の一枚一枚にまで染み込んでいる。
正面奥。
王座は空。
豪奢な玉座は、誰も座らないまま沈黙している。
王は病床にあるとも、
政治的に退いたとも言われている。
真実は語られない。
ただ一つ確かなのは、
今、この国に“決定者”がいないということ。
そのとき。
側扉が開く。
視線が一斉に向く。
王妃が現れる。
深い色の衣。
王冠はつけていない。
ゆっくりと中央へ進む。
階段を上がる。
王座の前まで。
そして——
座らない。
玉座の手前、一段下に立つ。
それだけで、ざわめきが広がる。
異例だった。
王が不在のとき、王妃が座ることは前例がある。
だが彼女は座らない。
象徴の位置を拒む。
代わりに、立つ。
自らの足で。
その姿勢が、言葉より先に宣言している。
今日は儀式ではない。
今日は継承でもない。
今日は——
変更だ。
大謁見の間の空気が、さらに張り詰める。
誰もまだ発言しない。
だが全員が理解している。
何かが、決まる。
王座は空のまま。
王妃は立ったまま。
そしてこの静止が、嵐の前の均衡であることを、
誰もが知っている。




