第二幕 ― 王子の役目宣言
風が、割れたステンドグラスを鳴らす。
その音に背を押されるように、王子は一歩前へ出た。
祭壇の前。
かつて王家が膝をついた場所。
祈りと誓いが交わされた場所。
だが今、そこに神像はない。
空白の台座だけが、静かに月光を受けている。
王子はその前に立つ。
まるで儀式の再演のように。
誰も見ていない。
記録も残らない。
それでも彼は、まっすぐ前を向く。
そして言った。
「君を守るのが、僕の役目だった」
声は静かだった。
だが礼拝堂の石壁がそれを反響させる。
守る。
その言葉は柔らかい。
温度を持つ。
だが、彼が強調したのはそこではない。
役目。
その語だけが、冷たく響く。
愛ではない。
感情ではない。
義務。
制度の中で与えられた立場。
王族としての責任。
彼はずっと、それで立ってきた。
守ることで、自分を正当化してきた。
弱い者を守る。
秩序を守る。
国家を守る。
それが王族の存在理由だと信じて疑わなかった。
守ることは、疑われない。
だが今。
彼は制度の外にいる。
王城の命令系統から外れ、
評議会の枠から外れ、
公的な権限も持たない。
ただの一人の青年として、廃礼拝堂に立っている。
それでもなお——
守ると言えるのか。
役目だと言えるのか。
役目とは、誰が与えるのか。
国家か。
血筋か。
それとも、自分自身か。
言葉にした瞬間、彼は気づいている。
その根拠が揺らいでいることに。
守るという行為は、
正しさの証明だった。
だが今は、正しさがない。
彼の声は、わずかに低くなる。
「それが……僕の在り方だった」
だった。
過去形。
それは、本人も気づかぬ揺らぎ。
祭壇は答えない。
神は不在。
月光だけが、彼の足元を照らす。
守る。
役目。
その二つの言葉が、礼拝堂の空洞に沈んでいく。
そして初めて、王子は問われる側に立つ。
守るとは何か。
役目とは何か。
制度の外に立ったとき、
それはまだ意味を持つのか。




