第六幕:余韻
——カン、と乾いた音が響く。
時間を告げる鐘。
それは救済の合図のはずだった。
物語を締め、観客に拍手を促す終幕の音。
だが今日、その音はあまりにも場違いだった。
舞台中央。
手を取り合ったままの二人。
裁かれなかった悪役令嬢。
罪を引き受けたヒロイン。
宣告しなかった王子役。
鐘の余韻が天井に吸い込まれる。
誰も動かない。
やがて、機械的に緞帳が下り始める。
赤い布が、ゆっくりと現実を遮る。
それでも。
拍手は起こらない。
ぽつり。
どこかで控えめな音が鳴る。
だが続かない。
拍手はまばらに散り、空気に溶ける。
代わりに、ざわめきが広がる。
「今のは……」
「台本通りではないはずだ」
「王子殿下は——」
視線が前方へ集まる。
最前列。
貴族席が揺れる。
扇子が止まり、
囁きが鋭くなる。
「これは許容できるのか」
「断罪を拒むとは」
「象徴が崩れた」
動揺が波紋のように広がる。
秩序は保たれている。
誰も立ち上がらない。
誰も声を荒げない。
だが、確実に揺れている。
その中心。
セヴランが静かに王子を見る。
問いは言葉にしない。
だが視線は明確だ。
——これは、どう処理なさいますか。
王子はしばらく、緞帳を見つめていた。
赤い布。
その向こうで、何が起きたのか。
それを知るのは、ここにいる全員だ。
やがて、王子は低く呟く。
「……これは、劇か?」
その声は小さい。
だが、確かに響いた。
問いは、空中に残る。
劇だったのか。
事故だったのか。
それとも。
予告だったのか。
誰も答えない。
答えられない。
祝祭のはずの文化祭は、
静かな余韻を抱えたまま続いていく。
だが、もう元には戻らない。
断罪は行われなかった。
制度は止まった。
そして今。
問いだけが、残された。




