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悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


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終幕カット

回廊に満ちていた緊張は、ゆるやかにほどけていった。


ひそやかな囁き声が広がり、貴族子女たちはそれぞれの取り巻きを伴って去っていく。


「さすがレディアナ様」

「王子殿下のお姿、やはり凛々しいわ」


興奮と安堵が入り混じった声が、石壁に反響し、やがて遠ざかる。


赤い絨毯の上に残るのは、踏みしめられた余韻だけ。


 


王子はゆっくりと息を吐いた。


視線を巡らせ、事態が収束したことを確認する。


悪役令嬢は形式を守り、

ヒロインは守られ、

自分は調停を果たした。


非の打ち所のない始まりだ。


口元に、かすかな満足が浮かぶ。


――これならば、大丈夫だ。


制度は正しく機能している。


彼はその確信を胸に、回廊を後にした。


 


一方、レディアナは一礼だけ残し、踵を返す。


赤いドレスの裾が、静かに揺れる。


背筋は変わらず真っ直ぐ。


歩幅も一定。


誰の目にも、動揺は見えない。


だが。


ほんの一瞬。


胸の奥に触れた、名もなき感覚。


視線。


逸らさなかった少女。


(……些末なことですわ)


思考で切り捨てる。


違和など、制度の中には存在しない。


役割は果たした。

それで十分。


彼女は振り返らない。


赤は、光の中へ溶けていく。


 


そして――


回廊の中央に、ひとり残された少女。


リリアナ・エヴァレット。


ざわめきの余波だけが、まだ耳に残っている。


胸に手を当てる。


鼓動が、速い。


怖かったはずだ。


圧倒されたはずだ。


それなのに。


唇が、かすかに震える。


視線は、すでに遠ざかる赤を追っている。


(……もっと)


 


何を、とは言葉にならない。


もっと、向けられたい。


もっと、見られたい。


もっと、試されたい。


胸の奥で芽吹いた感情は、まだ名前を持たない。


ただ、熱だけがある。


 


回廊の光が傾き、足元に長い影を落とす。


群衆は散った。


王子は満足し、

悪役令嬢は去り、

制度は整った。


 


けれど。


 


物語の歯車は、ほんのわずかに噛み合っていない。


 


リリアナは、ゆっくりと目を閉じる。


鼓動を確かめるように、胸を押さえながら。


(もっと)


 


その願いが、静かに夜へ溶けていく。


 


――第一章、終。

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