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悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


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第二幕:ヒロイン指定 ― 波紋

評価官長の杖が、再び床を打った。


乾いた音が大講堂に広がる。


「最後に――ヒロインを指名する」


一瞬、空気が揺らぐ。


悪役令嬢までが順当に決まった今、

残る一枠は、この物語の中心だ。


誰もが、有力貴族の名を思い浮かべていた。


名門の娘。

血統に瑕のない令嬢。

王子と釣り合う家格を持つ存在。


評価官長は、ためらいなく告げる。


「ヒロイン:リリアナ・エヴァレット」


 


ざわめきが走った。


それは賞賛ではない。

確認でもない。


戸惑い。


――エヴァレット?


聞き慣れない名。


やがて誰かが小声で言う。


「平民出身だ」


ざわめきは、波紋のように広がる。


赤い絨毯の中央、列の後方。

淡い色の簡素なドレスを着た少女が、ゆっくりと顔を上げた。


リリアナ・エヴァレット。


彼女は一歩、前へ出る。


その動きはぎこちない。

だが、震えてはいない。


 


その瞬間――


視線が三方向へ分かれる。


 


レディアナ。


王子。


リリアナ。


 


■ レディアナ


わずかに、瞳が細められる。


(平民……)


予想外ではある。


だが、問題ではない。


王妃選定演習課程は血統のみで決まるものではない。

才覚、徳、そして物語性。


むしろ困難な出自の方が、試練としてはふさわしい。


(構いませんわ)


感情は揺れない。


ただ、計算が始まる。


牽制の強度。

世論の動向。

王子の反応。


役割遂行モードへ、静かに移行する。


彼女の中で、すでに構図は組み上がりつつあった。


 


■ 王子


王子は、息をわずかに吸う。


平民。


それは、この演習において最も不安定な立場。


貴族社会の圧力。

嫉妬。

形式。


守られなければ、容易く押し潰される。


(守るべき存在だ)


責任感が強まる。


彼は調停者だ。


弱き側に立ち、均衡を保つ。


それが正しい。


それが、王の資質。


視線は自然とリリアナへ向かう。


 


だが――


 


■ リリアナ


リリアナは、王子を見ていなかった。


彼女の視線は、ただ一人へ向いている。


赤いドレス。


背筋を伸ばし、完璧な姿勢で立つ少女。


レディアナ・フォン・グランヴィル。


冷たい光を宿す瞳。


微動だにしない気高さ。


 


(あの人)


 


胸が、どくりと鳴る。


恐怖ではない。


憧れとも、少し違う。


圧倒される感覚。

押し潰されそうな存在感。


なのに――目が離せない。


喉の奥が熱い。


指先がかすかに震える。


 


(綺麗)


 


言葉にならない感情が、胸の奥で弾ける。


選ばれたことよりも。

王子よりも。


あの赤が、気になる。


 


評価官長が形式的な祝辞を続ける間も、

リリアナの視線は動かない。


レディアナも、それに気づく。


一瞬だけ、二人の目が交わる。


 


そこには怯えはない。


逃げる気配もない。


 


ただ、真っ直ぐな視線。


 


レディアナの胸に、微かな違和が走る。


(……?)


 


王子は、その光景を別の意味で解釈する。


平民の少女が、悪役令嬢に見据えられている。


顔は紅潮し、瞳は潤んでいる。


緊張で立ち尽くしているのだと。


 


(やはり、守らねば)


 


三者三様の理解。


だが、事実はまだ誰にも分からない。


 


こうして、物語の中心が定まった。


王子という軸。

悪役令嬢という圧。

ヒロインという象徴。


 


だがその内側で、

ただ一人だけ、違う鼓動が鳴り始めていた。

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