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悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


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【第五場面】セヴランの危機感

学園本館・管理棟。


装飾の少ない執務室に、夜の静けさが沈んでいる。


分厚い机。

整然と並ぶ報告書。

封蝋の押された文書束。


その中央に、新聞部の紙面が置かれていた。


 


評価官セヴランは椅子に深く腰掛け、ゆっくりとページをめくる。


視線は鋭い。


感情は表に出ない。


 


——薔薇庭園に咲く倒錯の美。


 


彼は見出しではなく、行間を読む。


 


座席配置の分析。

規則違反の不存在。

優雅な圧力。

崩れない被害者。


 


記事は正確だった。


誇張はない。


だが——


 


「……厄介だ」


 


低い呟きが、静かな室内に落ちる。


 


制度とは、対立を管理する仕組みだ。


悪役令嬢という役割。

ヒロインという役割。

王子という調停軸。


 


衝突は予定内。

緊張は必要悪。


 


だが今、起きているのは別種の現象。


 


制度内の異常が、娯楽化している。


 


セヴランは指で一文をなぞる。


「完成された構図」


 


構図。


本来ならば、警戒されるべき歪み。


それが“美”として称賛されている。


 


さらに問題なのは——


観測者が増殖していること。


 


記事は出来事を固定する。


解釈を与える。


思想を拡散する。


 


対立は、もはや当事者だけのものではない。


学園全体が、観測し、評価し、消費している。


 


「管理された対立が、逸脱へ向かう兆候。」


 


静かな結論。


 


制度は均衡の上に成り立つ。


悪役が悪役として機能し、

ヒロインが傷つき、

王子が調停する。


 


だが。


もしヒロインが崩れないなら?


もし悪役が目的を達成しないなら?


もし観測が刺激を増幅させるなら?


 


それは、予定外の変化。


 


セヴランは机上の規則書を開く。


条文を確認する。


 


侮辱なし。

暴力なし。

規律違反なし。


 


「……処罰不能」


 


低く吐き出す。


 


危険はある。


だが、違反はない。


 


制度は、違反にしか反応できない。


思想や空気の歪みには、手を出せない。


 


彼は新聞を折りたたむ。


灯火がその影を長く引き延ばす。


 


娯楽化された対立は、やがて刺激を求める。


より強い揺さぶり。


より鮮明な崩壊。


 


その先にあるのは——逸脱。


 


だが今は、まだ静かだ。


まだ、線は越えていない。


 


「……観測を続けるしかないか」


 


窓の外、薔薇庭園が月光に白く浮かぶ。


 


美しく整えられた均衡。


 


だがセヴランだけが知っている。


均衡とは、最も壊れやすい形であることを。

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