第7話:金剛の守護者、大海を知らず
魔法のゼクス、剣術のシオンに続き、ミラが「力仕事なら、この者が一番ですわ」と連れてきたのは、岩石のような筋肉を鎧のように纏った、大柄な巨漢だった。
名を、ゴルド。
魔王軍四天王が一角、別名『金剛の守護者』。
魔王軍最高の防御力を誇る剛腕の戦士であり、その肉体はドラゴンの一撃すら無傷で跳ね返し、たった一人で堅牢な城門を粉砕する「動く要塞」である。
俺様口調で豪快に笑う彼は、魔王軍における「絶対的な壁」として恐れられていた。
「ガハハ! 俺様が来たからには安心しろ! 坊主、まずは俺様の体に打ち込んでみろ。身体強化ってのは、こうやるんだ!」
ゴルドは仁王立ちになり、丸太のような腕を組んだ。カイルは、アルドから「練習用」として渡されていた、少し銀色に光る無骨な剣を構える。
「……いいんですか? この剣、結構重いし鋭いですよ」
「構わん! 俺様の筋肉は、並の鉄などバターのように弾くわ! ……ぬんっ!」
ゴルドが気合を込めると、その肉体は黄金色に輝き、金剛石以上の硬度へと変貌した。
カイルは意を決して、全力の一撃をゴルドの腹部に叩き込む。
――キィィィィィンッ!
鋭い金属音が響く。
だが、切られたはずのゴルドは無傷。
逆に、カイルが持っていた剣が、飴細工のように「ぐにゃり」と曲がってしまった。
「ガハハ! 見たか坊主、これが『守り』の極致だ! ……ん? だが待て、今の剣、少し手応えが……」
ゴルドは冷や汗を流した。
今のカイルの一撃、もし自分が本気で強化していなければ、危うく皮膚を裂かれていた。
何より、あの曲がった剣……「練習用」と言っていたが、希少金属ミスリルの中でも最高純度の代物ではないか。
調子に乗ったゴルドは、その動揺を隠すように、傍らで見守っていたアルドを指差した。
「おい! 貴様もやってみろ! 遠慮はいらん、シオンが言っていた『薪割り』とやらの力、俺様が正面から受け止めてやる!」
「えっ、でも、危ないですよ。ゴルドさんは先生なんだし……」
「ガハハ、心配無用だ! 俺様を誰だと思っている!」
アルドは困ったように眉を下げたが、ゴルドがあまりに自信満々なので、「じゃあ、少しだけ……」と歩み寄った。
「それじゃあ……失礼します。……よっ」
アルドは、武器すら持たなかった。
ただ、軽く。
本当に軽く、挨拶でもするかのようにゴルドの肩を指先で「押した」。
――ドォォォォォンッ!!
次の瞬間、爆音と共にゴルドの姿が消えた。
あまりの衝撃波に、周囲の木々がなぎ倒される。 「……あ」
アルドが指を差した先。数百メートル離れた裏山のミスリル鉱山に、人間一人分の穴が空いていた。
アルドたちが駆け寄ると、鉱山の硬い岩盤に頭から深々と突っ込み、足だけを出してピクピクと痙攣しているゴルドの姿があった。
「ゴ、ゴルドさん! 大丈夫ですか! すみません、ちょっと力が入りすぎちゃったみたいで……!」
アルドが慌ててゴルドの足を掴み、スポンと大根を抜くように引き抜く。
引きずり出されたゴルドは、目は回っているわ、鼻血は出ているわ、全身の「金剛の強化」が粉々に粉砕されているわで、散々な有様だった。
「……あ、あ……あ……」
ゴルドは震える指先で、自分を軽々と抱え上げるアルドを見上げた。
((……物理の法則が……俺様の存在意義が……粉々だ……。なんだ今の……指先から大陸一個分の質量が飛んできたぞ……))
「あの、本当に大丈夫ですか?……あ、お詫びにこれ、畑で取れたトマトです。食べますか?」
「……た、食べる……。……アルド様、あんた……あんたこそが、俺様の目指すべき『本物の壁』だ……!世界は広いなぁ!こんな強いやつがいたなんて!!」
ゴルドは涙を流しながら、アルドの強さに完敗を認めた。
それを見ていたゼクスとシオンは、遠くで深く溜息をつく。
「……また一人、犠牲者が増えたでござるな」
「クク……。だから言ったでしょう。あの御前では、我々の常識など無意味だと」
境界の村に、また一人「アルド信者」が増えた。
そしてカイルは、曲がったミスリル剣を見つめながら、「お兄さんの『少し』は、山を貫くんだな……」と新たな真理に辿り着くのだった。
もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の励みになります! よろしくお願いいたします




