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後方腕組み師匠面(ししょうづら)しているだけの俺が、実は世界最強の剣聖だった件  作者: 街角のコータロー
2章 北限の聖域

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【幕間:魔剣と、対の妖刀】

龍皇との激闘が残した傷跡は、何も大地や肉体だけではなかった。


 アイゼンベルク辺境伯邸の一角、手入れの行き届いた道場。


シオンは、半ばから無残に折れ、輝きを失った己の愛刀を見つめ、静かに溜息をついた。


「某の未熟ゆえ……。すまぬ、友よ」


 その様子を、物陰から心配そうにカイルが見つめていた。


カイルにとって、シオンは剣の師であり、憧れであり、そして胸を焦がす「特別な女性」だ。


彼女が落ち込んでいる姿は、自分のこと以上に胸が痛む。


 そこへ、カツカツと小気味よい靴音を響かせてミラが現れた。


「シオン、名残惜しいのは分かりますが、いつまでも折れた剣を見つめていても仕方がありませんわ。ワタクシの宝物庫を開放しますから、好きなものを持っていきなさい。……アルド様のお側に仕える者が、なまくらを差しているわけにはいきませんもの」


「ミラ様……。かたじけない。ならばお言葉に甘えさせていただきます」


「先生! 俺も、俺も一緒に探しますよ!」


 勢いよく飛び出してきたカイルに、シオンは少し驚いたように瞬きをした後、柔らかく微笑んだ。


「……カイル。左様か、ならば一緒に探してくれるか? 勇者の目に適う品があるかもしれぬしな」


「は、はいっ!」


 シオンに頼りにされた。ただそれだけで、カイルの心臓はうるさいほどに鳴り響く。


 邸の地下深く、厳重な結界に守られたミラの宝物庫。


そこには神代の金貨から伝説の防具まで、目が眩むほどの秘宝が積み上がっていた。


 三人は並び立つ剣の山を物色するが、シオンの「某の剣筋は、師匠であるアルド様の流麗さを模したもの」という拘りに合うものは中々見つからない。


「……どれも素晴らしいが、何かが違うのだ」


 奥へ、さらに奥へと進むにつれ、カイルの腰にある『黒曜』が、意志を持つかのように淡く脈打ち始めた。


「……黒曜? お前、何か見つけたのか?」


 黒曜に導かれるように、三人は宝物庫の最深部、埃を被った古い祭壇のような場所へと辿り着いた。


そこには、一振りの「刀」が、まるで封印されているかのように鎮座していた。


 シオンが慎重にその鞘を手に取り、抜く。


 現れた刀身は、黒曜と同じく、光を吸い込むような真っ黒な鋼。


だが、黒曜が静謐な闇だとするならば、この刀はどこか不気味で、妖しい紫の燐光を纏っていた。


「黒曜と、共鳴している……?」


 カイルの剣とシオンの刀が、互いを呼び合うように低く震える。


その尋常ならざる気配に、ミラも首を傾げた。


「あまりに古くからあるものらしく、ワタクシも詳細は分かりませんわ。……仕方ありません、先代……お父様に聞きに行きましょうか」


 邸の離れ、静かに隠居生活を送る先代魔王(アイゼンベルク辺境伯)は、差し出された黒い刀を見るなり、その赤い瞳を鋭く細めた。


「……ほう。まさか、それが日の目を見るとはな」


「お父様、この刀の正体をご存知なのですか?」


 先代はゆっくりと茶を啜り、重い口を開いた。


「それは『黒曜』を打った鍛冶師が、その余材をもって、ついとして打ち上げた妖刀『薄墨うすずみ』だ。例えて言うのであれば、黒曜が『護るため』の勇者の剣ならば、薄墨は『断つため』の影の刃。二つが揃った時、運命は共鳴し、持ち主たちのえにしをも縛り付けると言い伝えられている」


「縁を、縛る……」


 シオンがその言葉の意味を考え込む傍らで、カイルの顔は瞬く間に林檎のように真っ赤に染まった。


「縁を縛るって……それって、ええっと……」


「先代様、感謝いたします。この『薄墨』、某の魂に馴染む気がいたします。……これからは、この刃でミラ様とマスターを、そしてこの家をお守りしましょう」


 シオンは迷いのない瞳で刀を鞘に収めた。


彼女にとって、この刀を選んだ理由は「黒曜と対だから」ではなく、あくまで「使いやすさとアルドへの忠義」であった。


 宝物庫を後にし、夕暮れの廊下を歩く二人。


 前を行くシオンの背中を見つめながら、カイルは自分の腰の黒曜にそっと触れた。


「(対の剣……ってことは、実質、先生とお揃いだよな……。なんだか、ドキドキするなぁ)」


 そんなカイルの淡い恋心など露知らず、シオンは「カイル、さっそく明日からこの刀の鳴らし込みを手伝ってくれ」と、どこまでも「先生」としての声をかける。


 二振りの黒き刃が、これからどのような運命を切り拓くのか。


 勇者の恋路は、その妖刀の切れ味と同じくらい、前途多難で、けれど眩い光を秘めていた。



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